朝ベランダに出たら「カー、カー」と澄んだ声。夕方、川沿いを歩いていたら今度は「ガアー、ガアー」と濁った声。同じカラスなのに、どうしてこんなに声が違うのだろう——そう思ったことはありませんか。
結論から言うと、その2つは別の種類のカラスです。日本の市街地で一年中鳴いているカラスはハシブトガラスとハシボソガラスの2種で、声が濁るかどうかで、姿を見なくても区別できます。さらに、同じ1羽のカラスが状況に応じて10種類以上の音声パターンを使い分けることも確認されています。つまりカラスの鳴き声の種類には、「種による違い」と「同じ個体の使い分け」という2つの軸があるのです。
この記事では、まず声だけで2種を聞き分ける方法を押さえ、次に冬にだけ日本へ渡ってくる3種の声、そして警戒・威嚇・仲間への呼びかけといった鳴き分けの意味まで整理します。繁殖期に「カッカッ」と鋭く鳴かれたときの安全な対処も、公的機関の見解に沿ってまとめました。読み終わるころには、窓の外の声が「どの種類の、どんな場面の声か」まで見当がつくようになります。
この記事でわかること
・澄んだ「カー」と濁った「ガアー」で2種を聞き分ける具体的な手順
・冬にだけ声が増える3種(ミヤマガラス・コクマルガラス・ワタリガラス)の特徴
・警戒・威嚇・呼びかけという鳴き分けの整理と、「鳴いた回数」の話をどこまで信じてよいか
・繁殖期(3月下旬〜7月上旬)に鳴かれたときの、公的機関の見解に沿った対処
カラスの鳴き声の種類は、2つの軸で整理するとすっきりする

まず「濁るか、濁らないか」で種類が決まる
カラスの声を聞き分ける最初の分岐点は、声が濁っているかどうかです。日本野鳥の会は、ハシブトガラスを「『カー、カー』と澄んだ声で鳴く」、ハシボソガラスを「『ガアー、ガアー』と濁った声で鳴く」と説明しています。この一点だけで、市街地で出会うカラスのほとんどは種類が絞り込めます。
なぜ声質が違うのかというと、発声器官の大きさが関係しています。ハシブトガラスはハシボソガラスと比較して全体的に低音で、これは発声器官が大きいことが理由とされています。体格も、日本野鳥の会の記載では全長56.5cmと50cmで、ハシブトガラスのほうが大きい種です。楽器と同じで、共鳴する箱が大きいほど低く通る音になる、とイメージすると腑に落ちます。
実際の判別は、耳を澄ませて「声の輪郭がはっきりしているか」を聞くのがコツです。ハシブトガラスの声は音の粒が明瞭で、駅前の雑踏やエアコン室外機の音があっても輪郭が残ります。一方ハシボソガラスの「ガアー」は、しわがれた紙をこするような質感が混じり、遠くなるほどぼやけます。
注意したいのは、この判別を1声だけで決めないことです。カラスは連続して鳴くので、3〜4声聞いてから判断すると精度が上がります。1声目がたまたま風で歪んで聞こえることは珍しくありません。
同じ1羽が使い分ける、10種類以上の音声パターン
種類の違いとは別に、1羽のカラスが場面ごとに声を変えるという事実があります。カラス研究をもとにした対策製品を開発する株式会社CrowLabは、カラスが状況に応じて10種類以上の音声パターンを使い分けることが確認されていると説明しています。同社のコラムでは、警戒コール・威嚇コール・コンタクトコールという3つのカテゴリが紹介されています。
この使い分けが成立するのは、カラスが群れの社会で暮らしているからです。単独で生きる鳥なら「自分がここにいる」と伝える声だけで足りますが、群れの中では「危ないぞ」「近寄るな」「こっちだ」を別々に伝える必要があります。声の種類が増えるのは、社会が複雑なことの裏返しだと考えるとわかりやすいでしょう。
身近な例で言えば、電線の上で仲間と向き合いながら間隔をあけて鳴く声と、人が近づいた瞬間に短く鋭く鳴く声は、明らかに質が違います。前者は緊張感がなく、後者は音が詰まって速くなります。録音アプリで記録して波形を見なくても、テンポの違いだけで気づけます。
ここで押さえておきたいのは、「10種類以上」という数は種の数ではないという点です。カラスの鳴き声の種類を調べていると、種の話と鳴き分けの話が混ざった説明に出会うことがあります。この記事では前半で種の違い、後半で鳴き分けの意味と分けて扱います。
日本のカラス科は11種、街で鳴いているのは実質2種
日本野鳥の会によると、日本では11種のカラス科の鳥が確認されており、うち6種がカラス属です。同会が挙げているのはハシブトガラス、ハシボソガラス、ミヤマガラス、コクマルガラス、ワタリガラス、カケス、ルリカケス、オナガ、カササギ、ホシガラスです。カケスやオナガも、分類上はカラスの仲間ということになります。
ただし、市街地で年間を通して見られるのはハシボソガラスとハシブトガラスの2種です。残りは冬鳥だったり、生息地が限られていたりします。だからこそ、まず2種を確実に聞き分けられるようにするのが近道になります。
見分けの練習をするなら、通勤路や散歩コースなど、同じ場所で毎日聞くのがおすすめです。同じ環境で聞き比べると、声の質の差が相対的にわかります。都市部の駅前ならハシブトガラスが多く、河川敷や畑の脇ならハシボソガラスが多い、という環境の偏りも手がかりになります。
豆知識として、カケスは「ジェーッ」としわがれた声で鳴き、他の鳥の声をまねることでも知られます。カラス科の声は「カー」だけではない、と知っておくと、山や公園で聞こえた奇妙な声の正体に見当がつきます。
澄んだ「カー」と濁った「ガアー」——2種を声だけで当てる
ハシブトガラスの声はなぜ低く、遠くまで届くのか
ハシブトガラスの声は「カー」あるいは「アー」と濁らないのが基本です。キヤノンのバードブランチプロジェクトの野鳥写真図鑑では、カラス科としては珍しく声が濁らない種として紹介されています。低音で澄んでいるため、ビルの谷間でも反響しながら遠くまで届きます。
この声質は、この鳥がもともと森の鳥であることと関係しています。同図鑑はハシブトガラスを「元来森林性」で、コンクリートジャングルも森に見立てて適応していると説明しています。木々が茂って見通しが利かない環境では、低くよく通る声のほうが仲間に届きます。都市が林立するビルの「森」になったことで、この鳥は声の性能をそのまま持ち込めたわけです。
観察の手がかりとしては、鳴くときの姿勢も使えます。日本野鳥の会東京の識別コラムによれば、ハシブトガラスはやや前かがみになって鳴きます。電線の上で頭を少し下げ、体を水平に近づけながら「カー」と発するシルエットは、慣れると遠目でもわかります。
豆知識をひとつ。同図鑑には、ハシブトガラスの幼鳥は「ウンアー」と甘い声を出すとあります。5月から6月にかけて、妙に間の抜けた鼻声が聞こえたら、巣立ったばかりの若鳥がいる可能性が高いということです。
| 分類 | スズメ目カラス科カラス属(ハシブトガラス) |
| 全長 | 全長56.5cm(日本野鳥の会) |
| 見られる季節 | 1月〜12月(留鳥として小笠原諸島を除く全国に生息) |
| 生息環境 | 元来森林性。コンクリートジャングルも森に見立てて適応している |
| 鳴き声 | 「カー、カー」と澄んだ声。「カー」とか「アー」と声が濁らない |
| よく見られる場所 | 都市部のごみ置き場、電柱、ビルの屋上、公園の高木 |

ハシボソガラスは、お辞儀をしながら「ガアー」と鳴く
ハシボソガラスの声は濁ります。キヤノンのバードブランチプロジェクトは「鳴き声は濁る(ハシブトの声は、通常は濁らない)」と明記しています。そして声よりも決定的な手がかりが、鳴くときの動作です。同図鑑には、鳴くときは「お辞儀をするような動作を伴」うとあります。
この動作が生まれるのは、体全体を使って声を押し出しているからです。日本野鳥の会東京の解説では、胸を膨らませて頭を上下しながら鳴くと表現されています。「ガアー」の1声ごとに、体が前に沈んで戻る。この上下動が声とぴったり同期するので、逆光でシルエットしか見えなくても種類がわかります。
実際に探すなら、河川敷や畑の脇の電線を見てください。同図鑑によれば、ハシボソガラスは農地や河原のような開けた環境を好み、ハシブトをよく見る山地や林内、都市部では少ない種です。日本での分布も、ユーラシア大陸に広く分布する一方、日本では九州より北にしかいません。
注意点として、東京23区の中心部ではこの種に出会う機会が減っています。キヤノンの図鑑にも、東京の都市部ではハシブトが増え、ハシボソガラスは珍しくなってしまったという記述があります。「うちの近所では『ガアー』を聞かない」という人は、少し郊外の川沿いまで足を延ばすと出会えます。
| 分類 | スズメ目カラス科カラス属(ハシボソガラス) |
| 全長 | 全長50cm(日本野鳥の会) |
| 見られる季節 | 1月〜12月(北海道から九州までの平地から低山の留鳥) |
| 生息環境 | 農地や河原のような開けた環境を好む |
| 鳴き声 | 「ガアー、ガアー」と濁った声。お辞儀をするような動作を伴う |
| よく見られる場所 | 河川敷、畑の脇の電線、草地、郊外の開けた場所 |
姿が見えなくても当てられる、3ステップの聞き分け
声だけで判定するときは、順番を決めておくと迷いません。まず声質、次にテンポ、最後に環境。この3つを順に当てはめれば、ほとんどのケースで答えが出ます。
声質は前述のとおり、濁るか濁らないか。テンポは、ハシブトガラスが等間隔で伸ばし気味に鳴くのに対し、ハシボソガラスは詰まった声を短く連ねる傾向があります。環境は、自分が今いる場所が都市寄りか農地・河川寄りかを思い出すだけです。3つのうち2つが同じ方向を指せば、その種と考えて実用上は困りません。
具体例を挙げます。マンションのベランダで、低く通る「カー」が等間隔で4声。周囲はビルと幹線道路。この時点で3つともハシブトガラスを指しているので、姿を確認するまでもありません。逆に、田んぼの用水路沿いで「ガアー」がしわがれて3声、電線の鳥が上下に動いていれば、ハシボソガラスです。
注意点は、判定を急がないことです。特にビルの反射音は声質をゆがめます。反響の多い場所では、声が伸びて聞こえるので濁りが隠れがちです。開けた場所でもう一度聞き直すか、姿を探すほうが確実です。
失敗パターン①:濁った声を聞いて即座に「ハシボソ」と決めつける
最も多い取り違えが、これです。「ガラララ」という濁った声を聞いてハシボソガラスと記録したのに、写真を見返したらくちばしが太くて額が出っぱっていた——という食い違いが起こります。
原因は、ハシブトガラスも警戒したときには濁った声を出すからです。日本野鳥の会東京の識別コラムには、警戒時ではハシブトも「ガラララ・・・」とやや濁った声で鳴くことがあると書かれています。つまり「濁っている=ハシボソ」は、平常時にのみ成り立つ判定基準なのです。
対策は2つあります。ひとつは、濁った声を聞いたときに「その場に警戒の理由があるか」を確認すること。人が近づいた直後、ネコやトビが現れた直後なら、警戒声の可能性を疑います。もうひとつは、鳴くときの体の動きを見ることです。お辞儀のような上下動を伴うならハシボソガラス、前かがみのまま体があまり動かないならハシブトガラスです。
豆知識として、警戒声は連続して短く、間隔が不規則になりやすいという特徴があります。平常時の「ガアー、ガアー」は間隔がそろい、警戒時の「ガララララ」は詰まって速い。リズムまで含めて聞くと、取り違えはぐっと減ります。
耳で迷ったら、くちばし・額・歩き方で答え合わせ

くちばしの太さと湾曲は、名前そのものが答え
ハシブトガラスとハシボソガラスという名前は、そのままくちばし(嘴)の太い・細いを指しています。キヤノンのバードブランチプロジェクトのコラムは「くちばしが太く、先の方に向けて大きく湾曲しているのがハシブト、くちばしが細く、カーブがややなだらかなのがハシボソ」と説明しています。
この差が生まれる理由は食性にあります。ハシボソガラスは雑食ですが、昆虫類、鳥類の卵や雛、小動物、動物の死骸、果実、種子などを食べ、ハシブトガラスよりも比較的植物質を好む傾向があるとされます。細いくちばしは、地面の種子や小さな虫をつまむのに向いています。
観察のコツは、真横から見ることです。正面や斜めからだと太さの差がわかりにくく、逆光だと輪郭も潰れます。電線に止まっている個体を、道路の反対側から真横に見上げる位置に移動する。それだけで判定率が上がります。
やりがちな失敗は、若鳥で判断してしまうことです。若い個体はくちばしがまだ発達しきっていないことがあり、太さの印象が中間になります。迷ったら額の形と合わせて見ましょう。
額の出っぱりは、シルエットで一発でわかる
額の形は、遠くからでも使える手がかりです。同コラムは「ハシブトは額が丸く、ちょっと出ているのが特徴です。一方、ハシボソは額がなだらかです」と述べています。日本野鳥の会も、ハシブトガラスを額が出っぱっていると、ハシボソガラスを額のでっぱりは少ないと説明しています。
なぜシルエットで有効かというと、額のラインは羽の色や光の当たり方に左右されないからです。カラスは全身が黒いので、逆光では模様も質感も消えます。しかし輪郭線は残る。だから、夕方の空を背景にした電線の鳥でも、額の傾斜だけは読み取れます。
具体的には、くちばしの付け根から頭のてっぺんまでを1本の線として見てください。その線が付け根の直後でぐいと立ち上がるならハシブトガラス、なだらかな坂のまま登っていくならハシボソガラスです。慣れると1秒で判断できます。
注意したいのは、風の強い日です。頭の羽が逆立つと、ハシボソガラスでも額が出て見えることがあります。風の日は無理をせず、くちばしや歩き方など別の手がかりに切り替えるのが賢明です。
地面での歩き方は、跳ねるか歩くかで分かれる
地面に降りているカラスなら、移動の仕方が決定的な手がかりになります。ハシブトガラスはホッピング、つまり両足をそろえて跳ねるような移動をよくします。対してハシボソガラスは通常、ウォーキング(足を交互に出す)で歩きます。
この違いも生息環境と結びついています。もともと森林性のハシブトガラスは、枝から枝へ跳び移る動きが基本です。一方、広い農地や草地で採餌するハシボソガラスは、長い距離を地面で歩き回る必要があります。歩き方は、その鳥がどこで暮らしてきたかの記録なのです。
公園の芝生やごみ集積所の周りで観察すると、この差はすぐに確認できます。跳ねながら近づいてくる個体と、鳩のようにすたすた歩く個体が同じ空間にいることもあります。距離があっても動きは見えるので、双眼鏡がなくても使える手がかりです。
豆知識として、ハシボソガラスは知能の高さを示す行動でも知られます。信号停車中の車のタイヤの前にクルミや貝などを置いて割る行動が報告されています。歩き回る暮らしの中で、道路という環境まで道具にしてしまったわけです。
【野鳥の教科書調べ】2種の違いを1枚に整理する
ここまでの手がかりを、公的機関・研究機関の記載をもとに1枚の表にまとめました。声で迷ったときは、この表の上から順に当てはめていくと結論が出ます。
| 比較項目 | ハシブトガラス | ハシボソガラス |
|---|---|---|
| 鳴き声 | 「カー、カー」と澄んだ声 | 「ガアー、ガアー」と濁った声 |
| 鳴くときの動作 | やや前かがみ、体はあまり動かない | お辞儀をするような上下動を伴う |
| 全長 | 56.5cm | 50cm |
| くちばし | 太く、先に向けて大きく湾曲 | 細く、湾曲はゆるやか |
| 額の形 | 丸く出っぱって見える | でっぱりが少なくなだらか |
| 地面での移動 | ホッピング(跳ねる)が多い | ウォーキング(歩く) |
| よく見る環境 | 都市部・林内・山地 | 農地・河原・草地 |
| 繁殖の記録 | 1巣あたり約4個、抱卵約3週間 | 4月頃に3〜5個、抱卵約20日 |
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冬にだけ声が増える3種——渡ってくるカラスたち
ミヤマガラス:大群で降りてくる、細いくちばしの冬鳥
冬に「今日はカラスがやけに多いな」と感じたら、ミヤマガラスかもしれません。全長47cm、翼開長90cmで、越冬のため飛来する冬鳥です。かつては本州西部と九州に限定されていましたが、現在はほぼ全国に飛来するようになりました。
この種を見分ける決め手は、くちばしの付け根です。嘴は細く、成鳥では基部の皮膚が剥き出しになり白く見えます。黒一色の顔の中で、くちばしの根元だけが白っぽく浮かぶ。この特徴は遠目でも意外と目立ちます。なお、幼鳥には嘴の基部に羽毛が生えているため、この白さは出ません。
探すなら、収穫後の田んぼや畑がねらい目です。大規模な群れを形成する性質があり、地面一面が黒くなるほどの数が降りることもあります。留鳥の2種は基本的にこうした密度の群れをつくらないので、群れの大きさそのものが手がかりになります。
注意点として、群れの中に別種が混じることがあります。コクマルガラスと混群をつくることもあるため、大群を見つけたら「全部が同じ種とは限らない」という目で1羽ずつ確認する価値があります。
コクマルガラス:全長33cm、キジバトほどの小さなカラス
カラスにしては小さすぎる、と感じる鳥がいたらコクマルガラスの可能性があります。全長33cmで、キジバトほどの大きさです。ハシブトガラスの56.5cmと並ぶと、体格差ははっきりわかります。
この種には暗色型と淡色型の二形があります。暗色型は他のカラスと同様黒いのですが、淡色型は首から腹にかけて白いのが特徴です。群れの中に白黒のツートンカラーの鳥が混じっていれば、それは淡色型のコクマルガラスです。この見た目のインパクトから、探鳥会で歓声が上がる鳥でもあります。
出会える場所は限られます。冬鳥として九州以北に渡来し、南西諸島では少なく、近年は本州北部や北海道南部でも見られるようになりました。前述のとおりミヤマガラスの群れに少数が交じっていることがあるので、ミヤマガラスの群れを見つけたら小さい個体を探すのが効率的です。
頻度の目安として、京都府では非常に稀で、記録は1月・2月・11月・12月に集中しています。地域によって出会いやすさが大きく違うので、初めから期待しすぎず、ミヤマガラス観察のおまけとして探すくらいがちょうどよい鳥です。
ワタリガラス:「カポンカポン」と鳴く、北海道の冬の主役
日本で聞ける最も変わったカラスの声が、ワタリガラスです。北海道小清水町の「花と野鳥図鑑」は、この鳥の声を「甲高いよく通る声で、クワックワッや、コーコー、ガララガララ、カポンカポンなどとバリエーション豊かに鳴きます」と説明しています。「カポンカポン」という表現が示すとおり、木を叩くような、水滴が落ちるような独特の響きです。
声のバリエーションが豊かなのは、この種がカラスの仲間の中でも大型で、発声器官が大きいことと無関係ではないでしょう。全長63cmで、ハシブトガラスよりやや大きい鳥です。同じ「カー」でも、体格が違えば出せる音域の幅が変わります。
会いに行くなら、北海道の北部・東部です。渡来時期は秋から春まで。小清水町の図鑑では浜小清水、止別海岸およびその沖合で観察でき、止別川河口付近に群れが滞在することがあると記載されています。流氷の季節の海岸線は、この鳥を探すのに適した環境です。
注意点として、本州で「カポンという声を聞いた」場合は、ハシブトガラスの変わった鳴き方である可能性のほうが高くなります。前述のとおり1羽のカラスは10種類以上の音声パターンを使い分けるので、珍しい声=珍しい種とは限りません。分布から考えるのが基本です。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
渡来する3種(ミヤマガラス・コクマルガラス・ワタリガラス)を対象とした目安です。ワタリガラスの渡来時期は秋から春まで、コクマルガラスは京都府では1月・2月・11月・12月に記録があります。地域によって時期はずれます。
鳴き声の意味は「回数」ではなく「場面」で読む
警戒・威嚇・呼びかけ——3つのカテゴリで整理する
鳴き分けを理解する出発点として、CrowLabのコラムが挙げる警戒コール・威嚇コール・コンタクトコールという3分類が使いやすい枠組みです。同社は国立大学で16年間カラス研究を行った研究者が率い、カラスの音声コミュニケーションの研究成果を製品に応用しています。
この3つが必要になる理由は、伝えたい相手と目的が違うからです。警戒は仲間に危険を知らせるため、威嚇は相手そのものを遠ざけるため、コンタクトは仲間と位置を確認し合うため。目的が違えば、届けたい距離も、聞き手に起こしてほしい反応も変わります。だから音の質が変わるのです。
身近な場面に当てはめると、こう読めます。ごみ集積所で人が来た瞬間に短く鋭く鳴くのは、仲間への警戒。巣に近づいた人の頭上でくちばしを鳴らしながら鋭く鳴くのは威嚇。夕方、離れた場所の仲間と交互に「カー」を返し合っているのはコンタクト。場面と組み合わせれば、素人でも見当がつきます。
注意点として、種によって声は違います。同コラムも「カラスは種により鳴き声が異なりますが、ここではハシブトガラスの鳴き声を紹介します」と断っています。ハシブトガラスの警戒声の印象を、そのままハシボソガラスに当てはめることはできません。
実は、「何回鳴いたか」の意味づけは科学的に確定していない
ネット上では「3回鳴いたら仲間を呼んでいる」「4回なら警戒」といった解説をよく見かけます。しかし、この対応関係は科学的に確定した知見ではありません。鳴き声の回数と具体的な意味の対応については、学術的に決定的なエビデンスが十分に蓄積されているとは言い切れない、というのが現状の整理です。
意外と知られていないのは、研究の現場ではむしろ「同じ意味の声でも状況によって変わる」ことのほうが重視されている点です。CrowLabは、同じ警戒の音声でも条件によって異なるため、場所や環境に合わせて複数の警戒音声を組み合わせて使うと説明しています。つまり、カラスの音声は回数という単純な符号ではなく、環境に応じて変わる連続的なものだということです。
実践的には、回数を数えるより「そのとき何が起きたか」を記録するほうが得るものが多くなります。声の直後にカラスが飛び立ったのか、集まってきたのか、その場に留まったのか。行動とセットで観察すれば、自分の観察場所での傾向が見えてきます。
注意しておきたいのは、回数の話を頭から否定する必要もないという点です。「まだ確定していない」と「間違い」は別のことです。読み物として楽しみつつ、人に伝えるときは「そう言われることもある」と留保をつける。それが誠実な向き合い方だと考えています。
声のトーンより先に、周囲を見るクセをつける
鳴き声の意味を読み解くうえで、最も実用的なのは「カラスが何を見て鳴いているか」を探すことです。カラスの視線の先には、たいてい理由があります。
これが有効なのは、カラスの警戒対象が人間にも見えるものだからです。ネコ、猛禽、他のカラスの群れ、そして人。声のニュアンスを聞き分ける耳は経験を要しますが、視線の先を追うだけなら初日からできます。カラスが一斉に同じ方向を向いて鳴いていたら、その方向に何かがいます。
具体的には、電線の上のカラスが体を斜めに傾け、頭だけ動かして一点を見ながら鳴いていたら、その延長線上を探してみてください。屋根の上のネコや、上空を旋回するトビが見つかることがあります。声と対象がセットで確認できると、その声の意味が自分の中に蓄積されます。
豆知識として、複数のカラスが1羽の猛禽を追い回す「モビング」という行動があります。このとき出る声は、平常時とは明らかに違う切迫したものです。空を舞う猛禽とカラスの追いかけっこは、声の意味を学ぶ格好の教材になります。
朝と夕方に声が増えるのはなぜ? ねぐらから読み解く1日
日の出前に出発し、日没後に帰る——1日のリズム
カラスの声が朝と夕方に集中するのは、この鳥の1日の行動パターンが決まっているからです。カラスは日の出前にねぐらを出て餌を探し、日中は水浴びや日光浴をして過ごし、夕方にはねぐらの周辺に帰ってきて、日没後にねぐらの中へと入ります。
この移動のタイミングで声が増えるのは、群れが一緒に動くためです。ばらばらに出発しては群れが分断されるので、位置を確認し合う声が必要になります。前述のコンタクトコールが最も活発になるのが、この出発と帰還の時間帯だと考えると納得がいきます。
観察するなら、自宅から見える方角と時刻を記録するのが第一歩です。「朝は西から東へ、夕方は逆」といった規則性が見えたら、その延長線上のどこかにねぐらがあります。ねぐらは森林や神社などの大きな木が多くある場所で、都内では大きな公園などで集団ねぐらが確認されています。
注意点として、ねぐらの近くでは、たくさんのカラスが集まるために鳴き声や糞による被害があると日本野鳥の会も指摘しています。ねぐらを見つけても近づきすぎず、離れた場所から出入りを眺めるのが、鳥にも自分にも負担の少ない観察方法です。
夕方、電線に集まって騒ぐのは「就塒前集合」
夕方に電線や鉄塔がカラスで埋まり、辺りが騒がしくなる光景を見たことはありませんか。あれは就塒前集合(しゅうじぜんしゅうごう)と呼ばれる行動です。夕方頃に電線や建物の屋上、鉄塔などに群れで集まるこの行動は、ねぐらの安全確認が目的といわれています。
安全確認が必要なのは、ねぐらが無防備な場所だからです。夜間、多数の個体が同じ木で眠るということは、捕食者に見つかれば被害が大きくなるということでもあります。入る前に周囲の様子をうかがう時間を取るのは、理にかなった行動です。
この時間帯は、鳴き声のバリエーションを聞く絶好の機会でもあります。位置を知らせる声、他個体を押しのけるときの声、飛び立つ合図のような声が短時間に集中します。日没の30分前くらいから、決まった場所で耳を澄ませてみてください。
注意したいのは、この集合が住宅地の真上で起こると生活への影響が出ることです。糞や騒音の問題につながるため、集合場所の直下に洗濯物や車を置かない、といった実務的な対応も必要になります。
失敗パターン②:夜中の鳴き声を「異常事態」と受け取ってしまう
深夜に「カー」と鳴かれて眠れず、何か悪いことの前触れではないかと不安になった——という相談は少なくありません。しかし、慌てて業者に連絡する前に、確認すべきことがあります。
原因は、カラスの起床時間が人間の感覚とずれていることです。カラスは夜行性ではありませんが、午前0時ごろに起きて活動を始める個体もいるとされ、その活動開始が人間にとってはまだ夜、というパターンがあります。加えて、鳴く時間帯はその場所に住む人の生活スタイルに左右され、人が生ごみを出す時間帯に合わせて起床するようになるとも説明されています。街灯やコンビニの照明が明るい場所では、この傾向が強まります。
対策は2段階です。まず、鳴いている時刻と方角を数日分メモして、ねぐらや就塒前集合の場所が近くにないか確かめます。次に、自宅周辺で夜間に生ごみが出しっぱなしになっていないかを確認します。餌の時間が固定されると、それに合わせて起きる個体が出るためです。
豆知識として、集団ねぐらは季節によって場所が変わることがあります。「去年は静かだったのに今年はうるさい」という変化は、ねぐらの移動で説明がつく場合があります。自治体の環境部門に相談すると、地域のねぐら情報を持っていることもあります。
繁殖期の鋭い声は警告サイン|3月下旬〜7月上旬の付き合い方
威嚇の声が増えるのは、ヒナを守っているから
春から初夏にかけて、カラスの態度が変わったと感じることがあります。これは繁殖期に入ったサインです。東京都環境局は「カラスは繁殖期(およそ3月下旬から7月上旬ごろ)になると、巣をつくり、卵を産んでヒナを育てます」と説明しています。日本野鳥の会も、繁殖期は3月〜7月としています。
この時期に人が威嚇される理由ははっきりしています。東京都環境局は、巣やヒナの近くを人が通るときに、カラスはヒナを守るため、人を威嚇したり攻撃することがあると述べています。八王子市も、親鳥が卵を産むと縄張り意識が強くなり、威嚇は繁殖期の一時的行動だと説明しています。
具体的な危険サインは、頭上の低い枝や電線から鋭い声を繰り返される、木の上でくちばしを鳴らされる、といったものです。声が聞こえたら、まず上を見て巣がないか確認してください。特に注意が必要なのが巣立ちの時期で、日本野鳥の会は巣立ち時期を5月下旬から6月中旬頃としています。
攻撃の仕方にも特徴があります。東京都環境局によれば、カラスは後ろから人の頭をめがけて飛んできます。背後からなので気づきにくく、驚いて転倒するほうが危険なこともあります。声が聞こえた時点で進路を変えるのが、最も確実な対処です。
全ての野生鳥獣は、鳥獣保護管理法により、許可なく捕獲したり処分したりすることは禁じられています(東京都環境局)。巣についても、八王子市は卵やヒナがいる場合の巣の撤去は禁止されており、民有地でも卵やヒナが無い場合に限り撤去できると案内しています。うるさいから、怖いからという理由で自己判断で手を出すことはできません。巣が問題になっている場合は、まずお住まいの自治体の環境部門に相談してください。
地面のヒナを見つけたら、まず離れる
5月から6月にかけて、地面にカラスの若い個体がうずくまっていることがあります。このとき最初にすべきことは、拾い上げることではなく、その場から離れることです。
理由は2つあります。ひとつは、それが事故ではなく通常の過程であること。東京都環境局は、巣立ったばかりのヒナは、まだうまく飛ぶことができず、地面に落ちてしまうことがよくあると説明しています。親鳥は近くで見守っており、人が離れれば世話を続けます。もうひとつは安全上の理由で、ヒナに近づく人こそが親鳥の攻撃対象になりやすいからです。
具体的な行動としては、ヒナから離れた場所へ移動し、周囲の人にも近づかないよう伝えることです。犬の散歩ルートなら迂回する、子どもがいるなら手を引いて距離を取る。道路上など明らかに危険な位置にいる場合は、自分で移動させようとせず自治体の担当窓口に連絡してください。
注意すべき点として、ヒナの保護や巣の扱いは鳥獣保護管理法が関わる領域です。判断に迷ったときは、自己流で処理せず自治体の見解を確認する。それが結果的に鳥にとっても人にとっても安全です。
シーン別:通勤路・子どもの通学路・ベランダでの対処
同じ「威嚇されている」状況でも、立場によって取るべき対応は変わります。自分の状況に近いものを選んでください。
毎日同じ道を通る人は、繁殖期の2か月間だけ迂回路を確保するのが現実的です。八王子市が挙げる対処法は、近づかないこと、帽子や傘で頭を守ること、生ごみ管理の徹底、樹木の剪定による営巣予防です。迂回できない場合は、帽子や傘で頭部を守りながら通過します。
子どもの通学路にあたる場合は、個人で対応せず学校や自治体に共有するのが先です。子どもは背が低く、走って逃げようとして転ぶリスクがあります。「その木の下では走らない、傘をさして歩く」という具体的な行動を伝えるほうが、「気をつけて」より効果があります。
ベランダや庭で困っている場合は、餌になるものを断つのが基本です。生ごみを前夜から出さない、ペットフードを外に置いたままにしない、収穫前の果実にネットをかける。都会のカラスは針金ハンガーを巧みに使い巣を作ることもあり、一つの巣に何十本もの針金ハンガーが使われていることがあるため、ベランダのハンガーを出しっぱなしにしないことも営巣予防になります。
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巣の撤去は、法律と管理者の確認から
巣そのものを何とかしたい場合、順番を間違えないことが重要です。最初に確認すべきは、その巣がある樹木や電柱の管理者が誰かということです。
なぜかというと、東京都環境局は個別の被害対策について、基本的に巣のある樹や電柱の管理者が行うことになると説明しているからです。自宅の庭木なら自分、街路樹なら道路管理者、電柱なら電力会社や通信会社が窓口になります。管理者を飛ばして作業すると、別のトラブルにつながります。
そのうえで、時期の確認です。八王子市の案内では、民有地でも卵やヒナが無い場合に限り撤去でき、卵やヒナがいる場合の巣の撤去は禁止されています。巣を見つけた段階で中を確認する必要がありますが、高所作業は危険なので無理はしないでください。
予防に目を向けるほうが結果的に楽です。八王子市も樹木の剪定による営巣予防を挙げています。繁殖期が終わった夏から冬のうちに、営巣されやすい枝ぶりを整えておく。巣ができてから慌てるより、この順番のほうが選択肢が多く残ります。
庭の木に鳥を呼びたい人にとっては、営巣場所をどう用意するかも表裏一体のテーマです。

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まとめ:声の濁りと場面、2つの視点で聞き分ける
カラスの鳴き声の種類を整理すると、話は2階建てになっていることがわかります。1階が「種による違い」で、澄んだ「カー、カー」はハシブトガラス、濁った「ガアー、ガアー」はハシボソガラス。日本野鳥の会によれば日本では11種のカラス科の鳥が確認されていますが、市街地で年間を通して聞こえるのはこの2種です。冬には全長47cmのミヤマガラス、33cmのコクマルガラス、そして北海道で「カポンカポン」と鳴く63cmのワタリガラスが加わります。
2階が「同じ個体の使い分け」です。カラスは状況に応じて10種類以上の音声パターンを使い分けることが確認されており、警戒コール・威嚇コール・コンタクトコールという整理が理解の助けになります。一方で、鳴いた回数と意味の対応については、学術的に決定的なエビデンスが十分に蓄積されているとは言い切れません。回数を数えるより、そのとき何が起きたかを記録するほうが、自分の観察には役立ちます。
そして、繁殖期のおよそ3月下旬から7月上旬は、声の意味が生活に直結します。鋭い声が続いたら上を見て巣を探し、道を変える。地面のヒナには近づかない。巣の扱いは鳥獣保護管理法が関わるため、自治体に確認する。この3つを覚えておけば、春先の不安はかなり減ります。
最初の一歩としておすすめしたいのは、明日の朝、いつも聞こえるカラスの声が濁っているかどうかを、3声だけ意識して聞いてみることです。それだけで、これまで「カラス」とひとくくりだった音が、種名を持った声に変わります。
※本記事は日本野鳥の会、東京都環境局、八王子市、キヤノン バードブランチプロジェクト、北海道小清水町「花と野鳥図鑑」、株式会社CrowLabの公開情報をもとに作成しています。分布・時期は地域や年によって変動します。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
参考:日本野鳥の会「カラスとその仲間について」/東京都環境局「カラスに関するQ&A」/キヤノン バードブランチプロジェクト「ハシボソガラス」/北海道小清水町「花と野鳥図鑑・ワタリガラス」

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