公園のベンチに座っていると、いつの間にか足元にハトが集まってくる。ベランダの手すりに毎朝同じ個体がとまっている。そんなとき「何か食べさせたほうがいいのかな」と思ったことがあるかもしれません。パンの耳、お菓子のくず、家にある米。手元にあるもので何とかしてあげたくなる気持ちは、鳥を見ていれば自然にわいてきます。
ただ、結論から先にお伝えします。ハトの餌は本来、植物の種や木の実、穀類、豆類です。そしてハトは、それらを自力で採って生きていける鳥です。人が与える必要はなく、むしろ与えることで栄養状態が向上し、年に複数回繁殖して数が増えます。増えた先に待っているのは、フン害や鳴き声の苦情、そして駆除という結末です。東京都の資料では、被害が深刻化すると「やむを得ずハトを駆除せざるを得なくなり、ハトにとっては大変不幸な結果となります」と説明されています。
この記事では、ハトが本来どんなものを食べている鳥なのか、街で見かける2種類のハトはどう違うのか、人が餌を与えると具体的に何が起きるのかを、環境省や自治体、鳥類の調査団体の資料をもとに整理します。あわせて、餌やりが条例で規制されるケース、フンに触れる前に知っておきたいこと、ベランダに巣ができたときの正しい対応までまとめました。
この記事でわかること
・ハトが本来食べているもの(種・木の実・穀類・豆類)と、街のハトで食性が変わってきた理由
・ドバトとキジバトの見分け方と、暮らし方の違い
・餌を与えると年に複数回繁殖し、フン害から駆除へつながる流れ
・公共の場所での給餌が条例違反になり、過料5,000円が科されうるケース
・フン掃除の手順と、ベランダの巣を撤去してよい条件
ハトの餌は本来「種・木の実・穀類」|野生では自力で足りている

主食は植物の種と穀類、そして豆類
ハトが自然界で食べているものは、植物の種、木の実、穀類、豆類です。東京都の資料でも「ハトは本来、植物の種や木の実、穀類、豆類などを食べる生き物です」と説明されています。公園で人からパンをもらっている姿があまりに日常的なので忘れがちですが、あれはハト本来の食事風景ではありません。
種子を主食にするのは、ハトのくちばしと体のつくりに理由があります。ハトは地面を歩きながら落ちている種をついばむ採食スタイルで、木の枝先でぶら下がって虫を探すシジュウカラのような芸当はしません。キジバトは「地上でピョコピョコと歩きながら種子を拾って採餌し、警戒心はそれほど強くなく、都市部では人間に慣れているものも多いです」と記録されています。地面に落ちた種を拾い集めるのが、この鳥のもっとも得意な食べ方です。
野外で観察するときは、ハトが何をついばんでいるかを双眼鏡で追ってみると違いがはっきりします。芝生の上で首を上下させているハトは、たいてい雑草の種を拾っています。ドバトは種籾や穀類を食害することもあり、農地では嫌われる存在です。「餌をあげないと食べるものがない」のではなく、私たちが気づいていないだけで、彼らの食卓は足元に広がっています。
雑食性で、虫も食べている
種子中心とはいえ、ハトは完全な草食ではありません。門真市の資料では「ハトは雑食で、木の実や草の葉、虫などを食べます」と説明されています。植物の芽や葉、そして昆虫のような動物質も食べる、幅の広い食性を持っています。
この雑食性が意味するのは、季節によって食べるものを切り替えられるということです。種が少ない時期には草の葉や芽、虫に頼ることができます。だからこそハトは北海道から沖縄まで、環境の違う土地で通年生活できているわけです。特定の餌がなくなったら生きられない、という繊細な鳥ではありません。
庭でハトを見ていると、草むしりのあとや花壇を掘り返した直後に降りてくることがあります。これは土が動いて種や小さな虫が地表に出てきたためで、人が餌を置かなくても採食のチャンスは日常的に発生しています。餌台に穀類を盛るより、庭の一角の草を刈らずに残しておくほうが、鳥の本来の食べ方に近い環境になります。
「お腹をすかせているのでは」は思い込みのことが多い
農研機構や自治体の資料に共通しているのは、野生のハトは自力で生きていけるだけの栄養を自然界から採取できる、という点です。人が手を貸さなければ飢えてしまう、という状況は基本的に起きていません。人に寄ってくるのは空腹の証拠ではなく、人のいる場所で食べ物が手に入ると学習した結果です。
逆に、人を怖がらずに近寄ってくるハトが増えている場所ほど、給餌が習慣化しているサインです。観察者としては、寄ってきた個体をよく見て「翼の色が違う個体が何羽いるか」「足環がついていないか」を記録するほうが、餌を出すよりずっと面白い時間になります。
街のドバトだけ、食べるものが変わってきた
ここで押さえておきたいのが、街のドバトの食性は自然のままではない、という点です。鳥類の調査資料では、ドバトは主に植物の種や穀類、豆類を食べる草食性傾向があるものの、人に近い場所に生息するようになったことから、人間が与えるエサや地面に落ちているお菓子のくずを食べるなど、食性も変化していると記録されています。
つまり、駅前でスナック菓子のかけらをついばんでいるドバトは、人の生活に合わせて食べ方を変えた結果そこにいます。もともとそういう鳥だったわけではありません。人が与えるものが増えるほど、この変化は加速します。
与える側から見れば「少しあげただけ」でも、ハトの側では「ここに来れば食べ物がある」という学習が積み上がります。1人が1回でも、同じ場所に何十人もが繰り返せば、その場所は餌場として定着します。街のハトの食性が変わってきた背景には、この積み重ねがあります。

ホームセンターの園芸コーナーに並ぶ「野鳥用ミックスシード」の袋を手に取って、そのままレジに向かうか迷ったことはありませんか。袋を庭に置けば鳥が来る、というほど話…
街で見かけるハトは2種類|ドバトとキジバトは暮らし方から違う
ドバトは「野生に戻った家禽」だった
駅前や公園、橋の下で群れているのがドバト(カワラバト)です。この鳥のいちばん意外な点は、もともと人が飼っていた鳥だということです。鳥類の調査資料では「人間に家禽化された野生のカワラバトが再野生化したもので、平安時代以降に記述があり、江戸時代には確実に輸入されたことがわかっています」と説明されています。
飼い鳥の血を引いているため、見た目の個体差が大きいのが特徴です。「翼に二本の黒い線がある個体、全体が黒色、白色、赤褐色の個体や、これらが混在したパターンが見られます」と記録されており、同じ群れの中に真っ白な個体と真っ黒な個体が混ざっていることも珍しくありません。野生種であれば同種はほぼ同じ色合いになるので、この色のばらつきこそがドバトの出自を物語っています。
分布は北極と南極を除く世界中で、日本国内では北海道から沖縄まで広く見られます。寿命は野生で約10年、飼育下では約20年ほどとされ、飼育下のギネス記録では44歳という個体もいます。「その辺にいる鳥」に見えて、意外なほど長く生きる鳥です。
キジバトは「デデッポッポー」で見分ける野生種
もう1種、住宅地でよく見かけるのがキジバトです。こちらは正真正銘の野生種で、群れを作らず1〜2羽でいることが多いのが特徴です。全長は約33cm、体重は230gほど。全体的に茶褐色で、頭部はやや青灰色を帯び、背中には黒い斑点があります。首の両側に黒と白の縞模様(首輪)があり、尾は長めで先端が白い、という組み合わせを覚えておくと迷いません。
名前の由来は、背中のウロコ模様がメスのキジに似ていることからきています。声も分かりやすく、「デデッポッポー」という特徴的な声でさえずり、朝夕によく鳴き、繁殖期には盛んに鳴きます。早朝に聞こえるあの声の主は、ほぼキジバトだと思ってかまいません。
| 全長 | 約33cm |
| 体重 | 230g |
| 見られる季節 | 一年中(北海道から沖縄まで分布する留鳥) |
| 生息環境 | 樹林、都市部の公園や住宅地 |
| 鳴き声 | デデッポッポー(朝夕によく鳴く) |
| よく見られる場所 | 地上を歩きながら種子を拾っている場所 |
東北地方北部のキジバトは冬に暖地へ越冬し、秋には群れで移動します。春にはペアで縄張りを形成して樹上に営巣するため、季節によって見え方が変わる鳥でもあります。群れているキジバトを見たら、それは移動の季節かもしれません。
2種を並べて見るとわかる、暮らし方の差
ドバトとキジバトは、色や大きさだけでなく、群れ方も巣の場所も食べ方も違います。街で「ハト」とひとくくりにされがちな2種を、確認できている情報だけで並べると次のようになります。
| 比較項目 | ドバト(カワラバト) | キジバト |
|---|---|---|
| 見た目 | 翼に二本の黒い線、黒色・白色・赤褐色など個体差が大きい | 茶褐色、首に黒と白の縞、背に黒い斑点、尾の先が白い |
| 出自 | 家禽化されたカワラバトの再野生化 | 野生種 |
| 群れ方 | 通年、群れで生活し集団で行動 | 1〜2羽でいることが多く、ペアで行動 |
| 巣を作る場所 | コンクリートの建造物や橋げた | 樹上に小枝で浅いお盆形の巣 |
| 繁殖 | ピジョンミルクにより年間を通じて繁殖可能 | 年間を通じた繁殖活動、ピークは3月から10月 |
| 主に食べているもの | 種籾や穀類のほか、人が与えるエサや落ちているお菓子のくず | 植物の種や果実、芽、昆虫 |
※野鳥の教科書調べ。バードリサーチのドバト解説および図鑑資料で確認できた項目のみを掲載しています。
表にすると、給餌の話が主にドバトの問題であることが見えてきます。群れで暮らし、建造物で集団繁殖し、人の食べ物にも口をつける。この3つがそろっているため、餌場ができると一気に数が集まります。単独やペアで行動するキジバトとは、増え方のスケールが違うのです。
パンやお菓子を与えると、そのあと何が起きるのか

まず「味」を覚え、人に寄ってくるようになる
給餌の最初の変化は、ハトの行動に表れます。東京都は「人がハト等に餌をやると、楽にエサをもらうことに慣れてしまい、人の食べ物の味を覚えます」と説明しています。自分で種を探すより、人のそばで待つほうが早い。ハトはそれを学習します。
そして、その先があります。東京都の資料では、人にエサをねだるようになったり、ときには人に襲いかかってくることもある、と説明されています。ベンチで弁当を広げただけで足元に集まってくる公園を見たことがあるなら、それはすでに学習が完了している場所です。
ここで見落とされやすいのが、餌を与えた人と被害を受ける人が別だという点です。餌をあげた人は数分でその場を離れますが、集まる習慣を身につけたハトは残ります。近くのベランダや店先で困るのは、餌をあげていない人のほうです。
栄養状態が上がると、年に複数回繁殖する
行動の次に変わるのが繁殖です。東京都の資料では、栄養状態が向上すると、ハトは年に複数回繁殖すると説明されています。門真市も、無責任な給餌により栄養過剰で繁殖が増加し、個体数が急増すると注意を促しています。
ここがハトという鳥のやっかいなところです。多くの小鳥は、繁殖できる季節が虫の発生時期などに縛られます。しかしハトは後述するピジョンミルクという仕組みを持っているため、餌さえ足りていれば季節を選ばずに繁殖できます。人が餌を与えることは、この制限を外す行為に等しいのです。
「毎日ではなく週に1回だけ」でも、群れにとっては安定した食料供給になります。1羽あたりに換算すればわずかでも、群れ全体の栄養状態を底上げするには十分です。数が増えてから減らすのは、増やすよりはるかに難しくなります。
【失敗例】ベランダで少しだけあげた結果、フンが止まらなくなった
よくある失敗パターンが、マンションのベランダで数回だけ米やパンくずを置いた、というケースです。数日後には同じ個体が朝夕に来るようになり、やがて手すりや室外機の上が休憩場所として定着します。ハトは同じ場所に繰り返し戻る習性があるため、餌がなくなっても通ってきます。
そこから始まるのがフン害です。門真市の資料では、無責任な給餌によって鳴き声などの被害や、周辺道路・民家などにおいてフン害が発生し、蓄積したフンから悪臭や害虫が発生する可能性もあると説明されています。ベランダに落ちたフンは乾いて固着し、洗濯物の下や排水口まわりにも広がります。
対策は「餌を置かない」だけでは足りません。すでに休憩場所として認識されている場合は、とまれる場所をなくす、洗濯物を干す時間帯にベランダを空けたままにしない、といった物理的な対応が必要になります。餌を出すのは一瞬ですが、覚えた場所を忘れさせるには時間がかかります。
被害が深刻化した先にあるのは、駆除という結末
給餌の話でもっとも重いのがこの点です。東京都の資料には「被害が深刻化すると、やむを得ずハトを駆除せざるを得なくなり、ハトにとっては大変不幸な結果となります」と書かれています。餌をあげる行為は、その場では優しさに見えて、最終的にハトを追い詰める側に回ってしまいます。
また、日本野鳥の会は、餌を与える行為も、カラスやハトのように人の生活と軋轢が生じている生物では控える必要がある、という見解を示しています。野鳥を大切にする立場だからこそ、増やしすぎない、という考え方です。
鳥を好きな人ほど、この順序を覚えておく価値があります。給餌 → 集中 → 繁殖増 → 苦情 → 駆除。この流れの最初の一手を打たないことが、いちばん確実なハトの守り方です。

庭先やベランダにやってきたカラスに、パンの耳をひとかけら。あるいは通勤路の公園で、毎朝おにぎりを置いていく人を見かけた。どちらの側に立っていても、頭をよぎるのは…
なぜハトだけが増える?ピジョンミルクという仕組み
親鳥がミルクを分泌する、鳥としては珍しい育て方
ハトが季節を問わず繁殖できる理由が、ピジョンミルクです。これは親鳥が食べたものを分解消化し、素嚢から分泌した粥状のもので、ヒナはこれを与えられて育ちます。虫や種をそのまま運ぶのではなく、親の体内で加工した栄養をヒナに渡す仕組みです。
この方式の強みは、外の食べ物の種類にヒナの成長が左右されにくいことです。多くの小鳥は繁殖期に大量の虫を必要とし、虫が発生する季節にしか子育てできません。ハトはピジョンミルクにより育雛するため、年間を通じた繁殖が可能になっています。
ドバトが一夫一妻を基本としながら、集団で建造物に営巣し通年で繁殖する背景には、この生理的な仕組みがあります。餌が安定して手に入る場所ほど、繁殖の回数が増えていくわけです。
抱卵16日、巣立ちまで28〜35日という回転の速さ
ドバトの繁殖サイクルを数字で見ると、増え方の速さが理解できます。卵は約16日で孵化し、孵化から28〜35日で巣立ちます。キジバトの場合は1クラッチ2卵で、孵化期間は約14日です。ひと組のペアが1回の子育てに費やす期間は、それほど長くありません。
短いサイクルを、季節に縛られず何度も回せる。これがハトの個体数が急増しうる理由です。餌場が安定すれば、同じペアが年に何度も子育てを繰り返します。「気づいたら屋上に何十羽もいた」という事態は、こうして起こります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ |
◎=繁殖のピーク時期(3月から10月) ○=年間を通じた繁殖活動があるため、この時期も繁殖することがある。ドバトはピジョンミルクにより年間を通じた繁殖が可能です。
巣立ち率は30〜92%と、調査地でまるで違う
興味深いのが、ドバトの巣立ち率が調査地により30〜92%と大きく変動している点です。同じ種でも、場所によって育つヒナの割合が3倍近く違うことになります。この幅こそが、環境の影響の大きさを示しています。
巣立ち率が高い場所は、食べ物が安定していて外敵が少ない場所です。人の給餌がある場所は、その条件に近づきます。つまり餌やりは、繁殖回数を増やすだけでなく、生まれたヒナが育つ確率まで押し上げてしまう可能性があります。
数字の幅が大きいということは、裏を返せば「人の側の行動しだいで変わる余地がある」ということでもあります。餌場をなくすことは、駆除より穏やかで、しかも効果が続く方法です。
実は、都市部のドバトは減ってきている
意外と知られていないのですが、都市部のドバトの個体数は減少傾向にあります。要因として挙げられているのが、寺社での給餌自粛や愛玩鳩飼育の減少、そしてオオタカやハヤブサなどの捕食者による影響です。「街のハトは増える一方」というイメージとは、実際の傾向が逆になっています。
注目したいのは、減少の要因の筆頭に給餌自粛が挙がっていることです。人が餌を出すのをやめた分だけ、ドバトの数は自然に落ち着いてきた。これは給餌と個体数の関係を、都市全体のスケールで裏づけている話でもあります。
同時に、都市にオオタカやハヤブサが戻ってきたことも影響しています。ビル街でハヤブサがドバトを狩る光景は、いまや珍しくありません。街の鳥の数は、餌をやる人と捕食者の両方によって決まっている。そう考えると、駅前のハトの群れも違って見えてきます。
餌やりは違法になる?条例と「公共の場所」の線引き
大田区は条例で給餌を規制、指導に従わないと過料5,000円
ハトへの餌やりを直接規制する条例は、実際に存在します。大田区ハト・カラスへの給餌による被害防止条例は令和4年4月1日(2022年4月1日)に施行され、公共の場所での給餌行為が禁止されました。対象は野生のドバト、ハシブトガラス、ハシボソガラスです。
罰則もあります。給餌による被害を公共の場所に生じさせた場合、指導に従わないと過料5,000円が科される可能性があります。いきなり過料ではなく、まず指導が入り、それに従わない場合に科される段階的な仕組みです。詳しくは大田区の条例ページで確認できます。
大阪府の門真市でも、「美しいまちづくり条例」で無秩序な給餌を規制しています。こうした条例は全国一律ではなく自治体ごとに定められているため、住んでいる地域の条例を確認するのがいちばん確実です。「うちの区にはないから大丈夫」と決めつけず、まず自治体サイトを見てみてください。
自宅の庭とベランダなら好きにしていい、とも言い切れない
条例が対象にしているのは公共の場所での給餌ですが、自宅の敷地内なら問題がないかというと、そう単純ではありません。給餌によって集まったハトのフンや鳴き声は、隣家や道路にも及びます。門真市の資料でも、被害は周辺道路・民家などにおいて発生すると説明されています。
集合住宅のベランダは、多くの場合、共用部分として扱われます。管理規約で野鳥への給餌や物の設置が制限されているケースもあり、条例の有無とは別に管理組合との問題になります。ベランダで餌を出す前に、規約を一度読んでおくと後々の面倒がありません。
読者のタイプ別に整理すると、次のような線引きになります。公園や駅前など公共の場所で与えたい人は、条例の対象になりうるためやめておく。戸建ての庭で鳥を呼びたい人は、ハトではなく小鳥向けの環境づくりに切り替える。集合住宅のベランダの人は、給餌よりもとまり場をなくす対策を優先する。同じ「鳥が好き」でも、住まいによって取れる行動は変わります。
ハトへの給餌をめぐる線引きは「場所」と「被害の有無」で決まります。大田区の条例は公共の場所での給餌を禁止し、被害を生じさせて指導に従わない場合に過料5,000円が科される可能性があります。自宅であっても、フンや鳴き声が周辺に及べば近隣トラブルの原因になります。まずは自分の自治体の条例と、集合住宅なら管理規約を確認するところから始めてください。
日本野鳥の会は「軋轢が生じている生物では控える」
野鳥保護の立場からの見解も知っておきたいところです。日本野鳥の会は、餌を与える行為も、カラスやハトのように人の生活と軋轢が生じている生物では控える必要がある、としています。あわせて、観察が野生生物や周囲の自然に悪影響を及ぼす場合もある、とも指摘しています。
ここで大事なのは、野鳥全般の給餌が否定されているのではない、という点です。人との軋轢がすでに生じている種、つまりハトやカラスについては控える、という条件付きの見解です。庭でシジュウカラやメジロを迎える話と、駅前のドバトに餌をまく話は、同じ「餌やり」でも位置づけが違います。
もうひとつ見落とされがちなのが、生態系への影響です。給餌された種類の野鳥だけ数が増えることで、生態系のバランスが崩れると指摘されています。ハトを増やすことは、ほかの鳥の居場所を狭めることにもつながります。

ベランダの手すりにスズメが並んでいるのを見て、思わずご飯粒を置きたくなる。庭に来るシジュウカラのために、ヒマワリの種を買ってこようか迷っている。近所の公園で毎朝…
フンに触れる前に知っておきたいこと
乾いたフンがもっとも危険な理由
ハトのフンには60種類以上の病原菌・ウイルスが存在するとされています。そして注意したいのは、新しいフンより乾燥したフンのほうが危険だという点です。乾いたフンは細かい粒子となって空中に飛び散り、吸入や傷口・口から感染する可能性があると説明されています。
この性質が、掃除の方法を決めます。乾いたフンを箒で掃く、あるいは高圧の水で一気に吹き飛ばす。どちらも粒子を空中に舞い上げる行為で、避けたい方法です。ベランダや屋上のように風が抜ける場所では、なおさら広がりやすくなります。
また、クリプトコックス症の原因となる真菌の胞子は、土壌で2年以上生存するとされています。フンを取り除いたあとの土や地面に、しばらく残る可能性があるということです。掃除して終わり、ではなく、その後もその場所に素手で触れない意識が必要になります。
【失敗例】乾いたフンをほうきで掃き、粉が舞い上がった
実際に起きやすい失敗が、久しぶりにベランダに出て、こびりついた白いフンを乾いたまま掃き集めてしまうケースです。マスクも手袋もなし、洗濯物は近くに干したまま。この状態は、乾燥した粒子をもっとも吸い込みやすい条件がそろっています。
対策はシンプルで、乾いたまま掃かないことです。世田谷区の案内でも、撤去時は必ず手袋やマスクを着用し、衛生対策を講じることが重要だと説明されています。掃除の前に洗濯物を室内へ入れ、窓を閉め、必要な装備をつけてから取りかかる。この順番を守るだけで、吸い込むリスクは下げられます。
資料が挙げている病気と、注意したい人
フンに関連して挙げられている病気には、いくつかの種類があります。オウム病はハトの30〜70%が保持しているとされ、感染すると肺炎症状がでるとされています。サルモネラ食中毒については、ハトの約20%がこの菌を保有しているという記載があります。
もっとも重篤とされているのがクリプトコックス症です。免疫機能が低下した人に感染しやすく、特にHIV感染症の患者さんは発症しやすいとされ、髄膜炎や死亡に至る可能性もあると説明されています。ほかに、妊婦さんが感染すると流産したり胎児に危険が及ぶ可能性があるトキソプラズマ症、結膜炎やインフルエンザに似た症状を起こすニューカッスル病、乾燥した糞と羽毛の抗原を吸入することで発熱・咳・呼吸困難が起こる鳥関連過敏性肺炎が挙げられています。鳥インフルエンザについては、人間が感染した事例も報告されています。
注意したい層として挙げられているのは、子供や高齢者、そして体の抵抗力が弱い人(妊婦、糖尿病患者、悪性腫瘍患者、ステロイド投与を受けている患者、HIV感染症の患者)です。家族にあてはまる人がいる場合は、フンの掃除を自分で抱え込まず、業者に依頼する判断も選択肢になります。
ベランダに巣ができたら|撤去してよい場合と違反になる場合
卵やヒナがある巣は、撤去すると法律違反になる
ハトが巣を作ってしまったとき、真っ先に確認すべきなのが「中に卵やヒナがいるか」です。鳥獣保護管理法は、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、生物の多様性の確保、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを目的とした法律です。この法律のもとで、野生鳥獣及び鳥類の卵は、狩猟により捕獲する場合を除いて、原則としてその捕獲、殺傷又は採取が禁止されています。
したがって、ハトの巣にヒナや卵がある場合、その巣を撤去することは鳥獣保護法に違反します。世田谷区の案内でも「ヒナや卵が存在する際は、巣立ってから巣を取り除いてください」と説明されています。困っている状況でも、まず巣立ちを待つのが法律上の正解です。
罰則も定められています。許可なくハトを捕獲・殺傷したり、卵を採取したりした場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。「自分の家のベランダだから」という理由では例外になりません。
卵やヒナのいる巣を、自己判断で撤去しないでください。鳥獣保護管理法により、野生鳥獣および鳥類の卵は原則として捕獲・殺傷・採取が禁止されています。許可なく行った場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。巣を見つけたら、まず中身を確認し、卵やヒナがいる場合は巣立ちを待つか、自治体の担当窓口に相談してください。
空の巣なら、撤去しても違反にならない
一方で、すべての巣が撤去できないわけではありません。世田谷区の案内では「ハトの巣にヒナや卵が全くなく、空っぽの状態であれば巣を撤去しても法律違反とはなりません」と明記されています。まだ卵が産まれていない段階の巣材だけの状態や、巣立ったあとの巣が該当します。
実際の対応としては、巣作りが始まった早い段階で気づけるかどうかが分かれ目になります。ドバトはコンクリートの建造物や橋げたで繁殖する鳥なので、ベランダの室外機の裏や物置の隙間は好条件の場所です。小枝が数本置かれている段階で気づけば、卵が産まれる前に対処できます。
撤去のときも衛生面の配慮は必要です。巣にはフンが混ざっており、ハトの糞から様々な病原菌が検出されるとされています。前章の手順と同じく、手袋とマスクを着用し、乾いたまま扱わないようにしてください。
判断に迷ったら、自治体と専門業者に相談する
被害が続いている場合、許可を得る道もあります。生態系や農林水産業に対して鳥獣による被害等が生じている場合や、学術研究上の必要性が認められる場合には、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けて、鳥獣又は鳥類の卵を捕獲等することが認められています。個人が勝手に判断するのではなく、許可という手続きを通す仕組みになっています。
相談先としては、まず住んでいる自治体の窓口があります。自治体によってはカラスの巣は区が撤去対応を行うことがあり、対応範囲は地域ごとに異なります。東京都内であれば、東京都ペストコントロール協会が都内の業者紹介を行っており、平日に電話で受け付けています。
状況別に整理すると、巣材だけの段階なら自分で片づける、卵やヒナがいるなら巣立ちを待って撤去する、被害が深刻なら自治体に相談して手続きを確認する、高所や大量のフンを伴う場合は専門業者に依頼する、という4つの選択肢になります。どのケースでも、素手で触らないという点だけは共通しています。
まとめ:ハトの餌と、これからのつきあい方
ハトの餌をめぐる話は、「あげるか、あげないか」の二択に見えて、実際には鳥の生き方の理解につながっています。ピジョンミルクで通年繁殖できるという特性、抱卵約16日・巣立ちまで28〜35日という回転の速さ、そして給餌自粛が進んだ都市部でドバトが減ってきたという事実。この3つを知ると、餌を出さないことが放置ではなく、ひとつの積極的な選択だとわかります。
最初の一歩としておすすめしたいのは、餌を出す代わりに「見分ける」ことです。今日ベランダや公園で見かけたハトが、群れているドバトなのか、首に黒と白の縞がある全長約33cmのキジバトなのか。翼に二本の黒い線があるか、尾の先が白いか。この見分けができるようになると、同じ景色の中で見えるものが増えていきます。「デデッポッポー」という声が聞こえたら、それはキジバトが近くにいる合図です。
そして、もしすでにベランダにハトが通ってきているなら、餌を断つだけでなく、とまれる場所をなくすところまでセットで進めてください。巣材が置かれ始めた段階が、いちばん穏やかに解決できるタイミングです。
※条例の内容や自治体の対応窓口は変更されることがあります。最新情報は各自治体の公式サイトでご確認ください。

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