春先、家の軒下や駅のホームで「チュピチュピチュピジー」とにぎやかな声が響きはじめると、ツバメが帰ってきた合図です。ただ、その声を「ツバメの声」とひとくくりにして通り過ぎてしまう人がほとんどではないでしょうか。じつはあの声、状況ごとに使い分けられた別々のメッセージが混ざっています。
結論から言うと、ツバメの声は大きく6つのタイプに分けて聞くことができます。NPO法人バードリサーチが運営する「ツバメ観察全国ネットワーク」は、さえずり鳴き・ジージー鳴き・チャカ鳴き・チュイ鳴き・ジャージャー鳴き・ツピー鳴きという6つの呼び方で整理しています。この6つを頭に入れておくと、姿が見えなくても「今この巣で何が起きているか」が声だけでわかるようになります。
この記事では、6タイプの声をひとつずつ、どんな場面でどんな音として聞こえるかまで分解します。そのうえで、まぎらわしいスズメやコシアカツバメとの聞き分け、声が聞こえる季節と時間帯、そして「うるさい」と感じたときに巣へ手を出す前に知っておくべき法律の線引きまでをまとめました。読み終わるころには、通勤路の軒下から聞こえる声が、まったく違う情報量を持って耳に入ってくるはずです。
この記事でわかること
・ツバメの声を6タイプに分けて聞き分ける方法と、それぞれが意味する行動
・「ツピー、ツピー」という警戒声が聞こえたときに何が起きているか
・スズメ・コシアカツバメなど、まぎらわしい声との具体的な違い
・声が聞こえる季節と時間帯、ねぐら入りという年に一度の見どころ
・声がうるさいと感じたとき、巣に手を出す前に確認すべき法律の線引き
ツバメの鳴き声は6タイプに分かれる|まず全体像をつかむ

ツバメの声を「チュピチュピ」の一語で片づけてしまうと、観察の解像度がそこで止まります。ツバメ観察全国ネットワークは、ツバメの発する声をさえずり鳴き・ジージー鳴き・チャカ鳴き・チュイ鳴き・ジャージャー鳴き・ツピー鳴きの6つに分けて紹介しています。まずはこの6つの地図を頭に入れてから、個々の音に耳を向けていきましょう。
| 分類 | スズメ目ツバメ科 |
| 全長 | 全長17cm(翼開長32cm) |
| 見られる季節 | 春に飛来し、8月中旬から10月にかけて東南アジアへ渡る夏鳥 |
| 生息環境 | 北海道南部以南。人家や商店、駅など人の暮らしのそば |
| 鳴き声 | 「チュピッ」などと鳴き、さえずりは「土食って虫食ってしぶーい」と聞こえる(日本野鳥の会) |
| よく見られる場所 | 軒下・ガレージ・駅舎など、泥のおわん型の巣がかかる場所 |

電線の上で長々と歌うのが「さえずり鳴き」
ツバメの声としていちばん耳に残るのが、この「チュピチュピチュピジー」というさえずり鳴きです。細かい音が休みなく連続し、最後に「ジー」という濁った音がくっつくのが特徴で、これがツバメらしさの核心になっています。
なぜ長々と歌うのかというと、この声には2つの役割があるからです。ツバメ観察全国ネットワークによれば、さえずり鳴きはオスがメスを呼ぶため、あるいは他のオスへの警告として発せられます。つまり「ここは自分の場所だ」という宣言と「一緒に子育てしないか」という誘いを、ひとつの声で同時にこなしているわけです。
聞き分けのコツは、声が出ている位置です。さえずり鳴きは巣の近くの電線や手すりなど、見晴らしのきく高い場所からまとまった時間続けて発せられます。飛びながら短く鳴く声とは、持続時間がはっきり違います。3秒以上続いて最後が濁ったら、まずさえずり鳴きと考えてよいでしょう。
やりがちなのが、この声を聞いて「巣がある」と決めつけてしまうことです。さえずりはまだペアが決まっていない段階でも出ますし、巣づくりの場所を探している最中のオスも歌います。声が聞こえた真上に巣があるとは限らないので、数日かけて同じ場所で歌い続けるかどうかを確かめると精度が上がります。
「ジージー鳴き」はオスからの物件案内
さえずりに混ざって「じーい、じーい」と濁った音が目立つときがあります。これがジージー鳴きで、ツバメ観察全国ネットワークはこれを、オスがメスに巣場所を提示し「ここで一緒にヒナを育てようよ」と誘う場面の声として説明しています。
この声が興味深いのは、発せられる場所が限定されている点です。オスは自分が見つけた巣づくり候補地、あるいは前年から残る古い巣にとまって、そこでジージーと鳴きます。声そのものが「この場所を見てほしい」という指差しの役割を果たしているのです。
観察するなら、軒下の同じ一点にオスが繰り返し戻ってきて濁った声を出していないかを見てください。数日後にその場所へ泥が運び込まれはじめたら、案内が成功した証拠です。逆に、何日か鳴いたあとぱたりと来なくなる場所もあります。ツバメにとっての物件選びは、そのくらいシビアだということです。
知っておくと得をするのは、この段階でのわずかな環境の変化が結果を変えるという点です。候補地の真下に自転車を毎日置くようになった、夜間の照明を新しく付けた——そうした変化があると、鳴いていた場所が候補から外れることがあります。巣をかけてほしいなら、この時期は下の空間をなるべく触らないのが正解です。
短くはじける「チャカ鳴き」は交尾のサイン
ペアが成立したあと、短く弾けるような声が交わされる場面があります。ツバメ観察全国ネットワークが「チャカ鳴き」と呼ぶ、オスがメスを交尾に誘う鳴き声です。
この声が他と違うのは、圧倒的に短いことです。さえずり鳴きが数秒続くのに対し、チャカ鳴きは一瞬で終わり、しかも2羽が近い距離にいるときにしか出ません。声だけを頼りに探すと見逃しやすく、「2羽が並んでとまっている」という視覚情報とセットで初めて気づけるタイプの声です。
実際に見分けるには、電線に2羽が10cmほどの間隔で並んでいる場面を狙います。この距離で短い声が交わされていたら、ペアが成立していると判断してよいでしょう。単独のオスがさえずっている段階とは、明らかに行動の密度が変わります。
注意したいのは、この時期に巣の周辺で長く立ち止まらないことです。ペア形成から産卵までの期間は環境の変化に敏感で、人が下でカメラを構え続けると、せっかく決まりかけた場所を放棄することがあります。観察は道を歩く速度のまま、視線だけ向けるくらいがちょうどよい距離感です。
6タイプを知ると「音のカレンダー」が見えてくる
6つのタイプは、繁殖の進行と対応しています。さえずり鳴きとジージー鳴きは相手探しと巣選びの時期、チャカ鳴きはペア成立の時期、チュイ鳴きとジャージャー鳴きは子育ての時期、ツピー鳴きは全期間を通じた非常ベルという配置です。
この対応関係がわかると、声から時期が逆算できます。たとえば軒下から「ジャージャー」というかすれた大合唱が聞こえてきたら、その巣ではすでにヒナがかなり育っていて、巣立ちが近いと判断できます。神奈川県の案内によれば、ツバメの抱卵は13〜14日、ヒナの巣立ちは17〜22日程度です。声のタイプと日数を重ねれば、巣立ちの週まで見当がつきます。
逆に、5月に入っても軒下から聞こえるのがさえずりだけなら、その巣はまだ産卵に至っていない可能性が高いということです。声を「うるさいかどうか」ではなく「どの段階か」で聞くと、同じ音がまったく違う情報に変わります。
この記事の残りでは、この6タイプのうち特に判断に使える親子の声と警戒声を掘り下げ、そのあとで似た声との聞き分け、季節、トラブル対応へと進みます。
巣の中で交わされる親とヒナの合図
子育て期の巣は、外から見ればただ静かな泥のおわんです。けれど耳を澄ませると、親からヒナへ、ヒナから親へ、2方向の声が絶えず行き交っています。この2つを区別できるようになると、巣の中を覗き込まなくても中の様子がわかります。
「チュイッ」は目の見えないヒナへの食事の合図
孵化したばかりのヒナは、まだ目が開いていません。そこで親は巣に戻る直前に「チュイッ」と短く鳴きます。ツバメ観察全国ネットワークは、この声を、まだ目が見えないヒナに食事の到来を知らせるものとして説明しています。
なぜこの合図が必要かというと、ヒナは声を聞いて初めて口を開けるからです。目が見えない段階では、親が来たことを知る手段が音しかありません。親が声をかけ、ヒナが口を開け、そこへ餌が入る——この一連の流れが成立して初めて給餌が完了します。
見分け方のポイントは、声が「飛来とセット」で出ることです。軒下の巣を遠くから眺めていて、親が滑り込む直前に一瞬だけ短い声が入るなら、それがチュイ鳴きです。連続して歌うさえずりとは、長さがまるで違います。
この声が聞こえる時期は、孵化からせいぜい1週間ほどの短い期間です。ヒナの目が開いて親の姿が見えるようになると、声かけの必要性は薄れていきます。裏を返せば、チュイ鳴きが聞こえる巣は「孵化したばかり」だと判断できる、貴重な手がかりでもあります。
「ジャージャー」の大合唱は、大きい声から順に得をする
ヒナが育ってくると、巣から聞こえる声は一変します。ツバメ観察全国ネットワークが「ジャージャー鳴き」と呼ぶ、成長したヒナが食事をねだる声です。ここで押さえておきたいのは、音量が大きいヒナから順に給餌されるという点です。
つまりあの大合唱は、単なる空腹の表明ではなく、きょうだい同士の競争そのものです。声が大きいほど先に餌をもらえるなら、ヒナは全力で鳴くしかありません。巣が近所に響くほどにぎやかになるのは、ヒナが元気に育っている証拠でもあります。
観察に使うなら、声の変化に注目してください。孵化直後は弱々しい単発の音ですが、日を追うごとに厚みが増し、複数の声が重なって聞こえるようになります。声が一段と太くなり、巣の縁から羽ばたきの音が混ざりはじめたら、巣立ちは目前です。
親がヒナへ運ぶのは飛ぶ虫だけ
ジャージャー鳴きを聞いていると「何か食べさせてあげたい」と思う人がいます。しかしツバメの親が運ぶのは、飛んでいる虫です。地面に置いたパンや米が巣に運ばれることはありません。
この違いは体のつくりから来ています。ツバメは翼開長32cmの細長い翼で空中を旋回しながら、飛ぶ虫を口で捕らえる採餌スタイルに特化しています。地上でついばむ動作そのものが、この鳥の日常には組み込まれていません。
庭に何かを置くより、飛ぶ虫が集まる環境を残すほうがはるかに実効的です。水辺の草地や畑がある地域でツバメが多いのは、餌となる虫の量がそのまま子育ての成否につながるからです。
人の善意が空回りしやすいのがこの部分なので、給餌の詳しい話は別記事にまとめています。

軒下にツバメの巣ができた。ヒナの声が聞こえてくる。そうなると、つい「何か食べさせてあげたほうがいいのでは」と思ってしまいますよね。パンくずを置いてみた、ごはん粒…
「ツピー、ツピー」が聞こえたら空を見上げてほしい理由

6タイプの中で、聞こえたらすぐ反応してほしい声がひとつだけあります。「ツピー、ツピー」という警戒声です。この声が上がっているとき、その場では確実に何かが起きています。
天敵が近づいたときに出る非常ベル
ツバメ観察全国ネットワークによれば、ツピー鳴きは「ツピー、ツピー」と大声で鳴く警戒声で、カラスやネコなど天敵の接近時に発せられます。さえずりのような音楽性はなく、鋭く短い音が繰り返されるのが特徴です。
この声が特別なのは、音量と切迫感がまるで違うところです。さえずり鳴きが電線の上でくつろいだ姿勢から出るのに対し、ツピー鳴きは激しく飛び回りながら発せられます。声の質と飛び方がセットで変わるので、慣れなくても区別できます。
実際に聞こえたら、まず空と周囲を見てください。上空にカラスがいるか、塀の上にネコがいるか、あるいは巣の下に人が立ち止まっているか。原因はたいていその3つのどれかです。
注意点として、この声が続いているあいだ、親鳥は巣に戻れません。給餌が止まるということです。原因が自分であれば、その場を離れるだけで解決します。
近所のツバメまで集まってくる集団防衛
ツピー鳴きの効果は、その巣の中だけにとどまりません。ツバメ観察全国ネットワークは、この声に近隣のツバメも集まると説明しています。1つの巣の警報が、周辺の巣にも共有されるということです。
これは、ツバメが人家の近くに固まって営巣する種であることと表裏一体です。単独では大型のカラスに対抗できませんが、複数羽で飛び回れば追い払える可能性が出てきます。声はその集合をかける号令として機能しています。
観察していると、1羽が鳴きはじめてから数羽が集まるまではごく短時間です。空を見上げると、ツバメがカラスの周りをかすめるように飛ぶ光景が見られることがあります。ツバメの声から始まる一連の反応は、住宅街で観察できる数少ない集団行動のひとつです。
天敵側の代表であるカラスにも、状況ごとに使い分けられる声があります。両方を知っておくと、住宅街の空で何が起きているかがより正確に読めます。

朝ベランダに出たら「カー、カー」と澄んだ声。夕方、川沿いを歩いていたら今度は「ガアー、ガアー」と濁った声。同じカラスなのに、どうしてこんなに声が違うのだろう——…
【失敗例1】巣の真下で粘ってしまい、警戒声を出させ続ける
ツバメの巣を見つけて、写真を撮ろうと真下に三脚を立てて粘る——これが最も多い失敗です。原因は「静かにしていれば大丈夫」という思い込みにあります。ツバメが警戒するのは音ではなく、巣に近い位置に長時間とどまる存在そのものです。
この状態が続くと、親鳥は警戒声を上げながら旋回を続け、巣に戻れません。ヒナへの給餌が止まる時間が積み重なれば、成長に影響が出ます。
対策はシンプルで、巣から離れた場所から観察することです。双眼鏡があれば、道の反対側からでも巣の縁のヒナの動きは追えます。撮影したいなら、親が出入りする一瞬を待つのではなく、電線にとまって休んでいる場面を狙うほうが、鳥にも自分にも無理がありません。
警戒声が続いているあいだ、親鳥は巣に戻れず給餌が止まります。自分がその原因になっていないか、まず立ち位置を確認してください。また、巣の下や周辺に落ちた糞・羽に手で触れたあとは、石けんで手を洗う習慣をつけましょう。野鳥の巣に近づいたり触れたりする行為は、鳥獣保護管理法上の扱いにも関わります。判断に迷う場合は、お住まいの自治体の野生鳥獣担当窓口に相談してください。
「土食って虫食ってしぶーい」は本当にそう聞こえる?
ツバメの声を語るとき、必ず出てくるのが「土食って虫食ってしぶーい」という言い回しです。日本野鳥の会は、ツバメについて「チュピッなどと鳴き、さえずりは『土食って虫食ってしぶーい』と聞こえる」と紹介しています。この言葉遊びには、覚え方以上の意味があります。
聞きなしという、鳥の声を人の言葉に置き換える技法
鳥の鳴き声を人間の言葉に当てはめて覚える方法を「聞きなし」といいます。音の並びをそのまま記憶するのは難しくても、意味のある文にしてしまえば忘れにくい——それが聞きなしの狙いです。
この技法が有効なのは、人の記憶が意味に強く結びついているからです。「チュピチュピチュピジー」という音列は数日で薄れますが、「土食って虫食ってしぶーい」という文は一度覚えると抜けません。野鳥観察の入り口で聞きなしが重宝されるのは、この定着率の差によります。
使い方のコツは、リズムを合わせることです。「土食って」「虫食って」「しぶーい」の3拍が、さえずりの構造とゆるやかに対応しています。前半の細かい音の連続が「土食って虫食って」、最後の濁った音が「しぶーい」にあたります。
気をつけたいのは、聞きなしはあくまで覚えるための道具であって、鳴き声の正確な記述ではないという点です。文字どおりに一致することを期待すると、かえって混乱します。
この文句がツバメの生態を言い当てている理由
京都大学のサイトで紹介されているように、この聞きなしはツバメの生態、つまり泥で巣を作り虫を食べることを反映しています。単なる語呂合わせではなく、ツバメという鳥の要約になっているところが面白いのです。
実際、ツバメは人家や商店、駅などに泥でできたおわん型の巣をつくります。巣材の泥を口に含んで運び、餌としては飛ぶ虫を捕らえる。「土食って虫食って」という前半は、この2つの行動をそのまま並べたものです。
子どもと一緒に観察するなら、この対応を先に教えてしまうのが早道です。「泥を運んでいるでしょう、あれが土食ってだよ」と実物を見せながら説明すると、聞きなしと行動が一度に頭に入ります。
ちなみに、ツバメという名前の由来そのものにも古い言葉が残っています。名前の側から入るのも、記憶の助けになります。

軒下でチチッと鳴く姿を見上げながら、「そういえば、なんで燕(ツバメ)っていう名前なんだろう」と引っかかったことはありませんか。スズメやカラスのように鳴き声から来…
実は、そう聞こえなくてもまったく問題ない
意外と知られていないけれど、「どう聞いても土食って虫食ってしぶーいには聞こえない」という感想は、野鳥観察の世界ではごく普通のものです。そしてそれは、あなたの耳が悪いわけではありません。
聞きなしは、その言葉が作られた時代と地域の音韻感覚に強く依存しています。同じ鳥でも地方によって別の聞きなしが伝わっていることは珍しくなく、正解が1つに決まる性質のものではないのです。
そこでおすすめしたいのが、自分専用の聞きなしを作ってしまう方法です。ツバメのさえずりを聞いて、自分の耳に素直に浮かんだ言葉をメモしておく。他人に通じなくても、自分が翌年その声を思い出せれば目的は達成されています。
聞きなしは覚えるための道具であって、正解ではありません。日本野鳥の会が紹介する「土食って虫食ってしぶーい」を出発点にしつつ、そう聞こえなければ自分の言葉に置き換えて構いません。大事なのは、最後に濁った「ジー」が入るという音の構造を耳が覚えることです。
ツバメの鳴き声とまぎらわしい鳥を聞き分ける
住宅街で「今の声、ツバメ?」と迷う場面は必ず来ます。ここでは、身近でとくに混同しやすい相手を取り上げ、どこに耳を向ければ切り分けられるかを整理します。
スズメの「チュンチュン」との決定的な違い
いちばん多い取り違えが、スズメです。スズメの声は大きく2つあり、落ち着いているときは「チュンチュン」と澄んだ声、警戒や威嚇のときは「ジュージュー」と濁った声を使います。
ツバメとの違いは、音の「つながり方」に出ます。スズメの澄んだ声は一音ずつ区切れて聞こえますが、ツバメのさえずりは細かい音が切れ目なく連続し、最後に濁った音でしめくくられます。単発か、流れるような連続か——これが最初の分岐点です。
もうひとつ手がかりになるのが、声が出ている高さです。スズメは植え込みや地面近くでも鳴きますが、ツバメのさえずりは電線や軒先など、見晴らしのきく高い位置から降ってきます。声の来る方向を確かめるだけでも、判断はかなり絞り込めます。
ややこしいのは、スズメの警戒時の「ジュージュー」がツバメの「ジー」と似て聞こえる点です。ここは単独で判断せず、その前後に細かい連続音があったかどうかで見極めてください。
ツバメの仲間どうしは「濁り」で分かれる
日本で見られるツバメの仲間のうち、声で紛れやすいのはコシアカツバメです。全長18cm、翼開長32cmとツバメより一回り大きく、「ジュリリ ジュリリ チュー」「ジューイ、ジューイ」といった、ツバメと比べて濁った低い声で鳴きます。
姿での違いもはっきりしています。コシアカツバメは腰が橙赤色で、下面に明瞭な縦斑があります。一方、全長14cm・翼開長30cmのイワツバメは腰が白く、下面は白っぽくて明瞭な縦斑がありません。声で迷ったら腰の色を見るのが確実です。
このほか、全長12cm・翼開長28cmのショウドウツバメは「ジュジュジュ」など、全長13cm・翼開長28cmのヒメアマツバメは「チリリリィー」と鳴きます。ヒメアマツバメはツバメ科ではなくアマツバメ科で、そもそも別のグループの鳥です。南西諸島には全長13cm・翼開長30cmのリュウキュウツバメが周年生息しています。
姿での見分け方をまとめた記事もあわせて読むと、声と姿の両輪で判断できるようになります。

迷ったときに見るべき3点を表にした
声だけで判断しようとすると、どうしても行き詰まります。そこで、野鳥の教科書調べとして、混同しやすい3種を「声・大きさ・声の出どころ」の3点で並べました。
| 比較項目 | ツバメ | スズメ | コシアカツバメ |
|---|---|---|---|
| 見た目の特徴 | 額と喉が赤褐色 尾の切れ込みが深い |
頬に黒斑 丸みのある体型 |
腰が橙赤色 下面に明瞭な縦斑 |
| 鳴き声 | チュピチュピチュピジー 警戒時はツピー、ツピー |
チュンチュン 警戒時はジュージュー |
ジュリリ ジュリリ チュー 濁った低い声 |
| 大きさ | 全長17cm 翼開長32cm |
ツバメより小さく丸い | 全長18cm 翼開長32cm |
| よく見る場所 | 人家・商店・駅の軒下 電線の上 |
植え込み・地面・屋根 | 建物の壁面 とっくり型の巣 |
この表の使い方は、上から順に消していくのがコツです。まず声の連続性、次に体の大きさ、最後に声が出ている場所。3つのうち2つが一致すれば、判断の精度は実用に足ります。
声が聞こえる季節と時間帯は決まっている
ツバメの声は一年中聞けるものではありません。夏鳥であるツバメは、日本にいる期間そのものが限られています。いつ・どの時間帯に何が聞けるかを知っておくと、狙って聞きに行けるようになります。
春の飛来からさえずりの最盛期まで
ツバメは春に東南アジアや台湾から日本へ飛来します。分布は北海道南部以南で、日本で越冬するのはまれです。飛来直後の時期は、ペア探しと巣場所探しが同時進行するため、さえずり鳴きとジージー鳴きがもっとも活発になります。
この時期の声を狙うなら、朝の早い時間帯が有利です。鳥のさえずりは日の出前後に集中する傾向があり、通勤・通学の時間帯にはすでにピークを過ぎていることがあります。休日の朝、いつもより30分早く外に出るだけで、聞こえる声の量が変わります。
神奈川県の案内では、ツバメの繁殖期間は4〜7月とされています。この期間の前半がさえずりと巣づくり、後半が子育ての声という配分になります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | △ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
夏の夕方、数万羽が一斉に降りる「ねぐら入り」
繁殖を終えた夏の終わりには、日中の軒下では味わえない声の体験があります。日本野鳥の会は7月〜9月の期間に、全国各地でツバメのねぐら入り観察会を開催しています。
ねぐらができるのは、大きな川の河川敷や、遊水地などの湿地にあるヨシ原です。規模は小規模なもので数百羽、大規模なものでは5万〜10万羽に達します。ツバメたちはヨシの茎の先端や葉に器用にとまって休みます。
見どころは、日没直前の30分くらいの間です。この短い時間に数千、数万羽が舞い、集団ねぐらへといっせいに降りてゆきます。そして完全に日が暮れると、それまでの賑やかさがピタリとおさまります。この静けさへの落差こそが、ねぐら入りの醍醐味です。
初めて行くなら、日没時刻の1時間前には現地に着いておきたいところです。開始が日没直前の30分なので、暗くなってから到着すると何も見られないまま終わります。
あなたのタイプ別、声の聞きどころ
読者の状況によって、狙うべき声は変わります。通勤路の軒下で声を聞くだけの人は、まず「さえずりとジャージャー鳴きの違い」に絞ってください。この2つが分かれば、その巣の進行段階がわかり、毎日の通り道が定点観測に変わります。
自宅に巣がかかっている人は、チュイ鳴きとツピー鳴きに注目する価値があります。孵化の時期と、天敵が来ているタイミングという、家主だからこそ気づける情報が声に乗っているからです。
もう一歩踏み込みたい人は、夏の観察会でねぐら入りに行ってみてください。個体の声から群れの音へと、まったくスケールの違う体験になります。8月中旬から10月にかけてツバメは東南アジアへ渡っていくため、聞ける期間には区切りがあります。
声がうるさいと感じたとき、巣を落とす前に知ること
ヒナのジャージャー鳴きは、巣が寝室の窓のすぐ外にあれば負担になり得ます。ただ、その対処には法律上のはっきりした線引きがあります。ここを知らないまま手を出すと、思わぬ事態になります。
卵やヒナがいる巣に手を出せない理由
環境省は、鳥獣について、狩猟により捕獲する場合を除いて、原則としてその捕獲、殺傷又は採取が禁止されていると説明しています。ツバメもこの対象です。
長岡京市は、府や市町村の許可なく卵やヒナがいる野鳥の巣を撤去することは鳥獣保護管理法により禁止されており、違反した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金いずれかの刑罰が課される可能性があるとしています。神奈川県も、ツバメおよびツバメの卵の捕獲や採取は禁止されており、例外的に県の許可を受ければその捕獲や採取を行うことが認められる、と案内しています。
つまり「うるさいから落とす」という判断は、中に卵やヒナがいる限り取れません。生活被害があってどうしても撤去したい場合は、卵やヒナについての捕獲許可申請という正規の手続きが用意されています。
相談先は、お住まいの都道府県または市町村の野生鳥獣担当部門です。環境省によれば、捕獲の許可権者は都道府県知事で、多くの都道府県は捕獲許可権限の一部を市町村長に移譲しています。まず自治体の窓口に電話するのが最短ルートです。
巣立ち後なら撤去できる。ただし確認が必要
一方で、巣立ったあとの扱いは明確です。神奈川県は、巣立ち後であれば許可なく巣を取り外すことは可能としています。長岡京市も、鳥が巣立った後であれば撤去して問題ないとしたうえで、中に卵やヒナが残っていないか必ず確認するよう求めています。
ここで声の知識が効いてきます。ジャージャー鳴きが完全に止まり、親鳥の出入りも数日途絶えたなら、巣立ちが済んだ可能性が高いということです。逆に、静かでも親が出入りしているなら、抱卵中の可能性があります。
確認の手順としては、脚立などから巣の中を目視し、卵とヒナがないことを確かめてから外します。判断がつかない場合は、自治体の窓口に写真を添えて相談するのが安全です。
注意したいのは、ツバメは春から夏にかけて繁殖し、2回子育てすることもあるという点です。1回目の巣立ちが済んだからといってシーズンが終わったとは限らないので、時期が早い場合はとくに慎重に確認してください。
【失敗例2】糞を理由に、巣ごとどうにかしようとする
「声より糞が困る」という相談は多く、そして対処を誤りやすい部分です。よくある失敗は、糞の問題を巣そのものの問題とみなし、巣を撤去する方向で考えてしまうことです。原因は、糞対策と巣の存在が切り離せると気づいていない点にあります。
実際には、落ちてくる糞を受ける対策と、巣を残すことは両立します。巣の下に受け皿になるものを設置し、床面を保護すれば、掃除の手間は大きく減らせます。ツバメが日本にいるのは春から10月ごろまでで、糞が落ちる期間は限られています。
あわせて衛生面の配慮も加えてください。糞や羽に手で触れたあとは石けんで手を洗う、掃除の際は乾いた糞を舞い上げないよう軽く湿らせてから拭き取る、といった基本を守れば、日常の管理として無理のない範囲に収まります。
落ちたヒナを拾う前に、いったん止まる
巣立ちの時期になると、地面にヒナがいる場面に出くわすことがあります。ここで反射的に拾い上げるのは、多くの場合ヒナのためになりません。
神奈川県は、けがをしていたり弱っていたりするツバメを見つけた際は、人為的な要因で負傷した場合等を除き、触れずに見守るよう呼びかけています。巣立ち直後のヒナは飛ぶのが下手なだけで、近くで親が見守っていることがあるからです。
その場でできるのは、ネコや車から離れた場所に人が近づかないよう配慮し、距離を取って様子を見ることです。判断に迷う場合は、自治体の野生鳥獣担当窓口に連絡してください。
拾って持ち帰る行為は、鳥獣保護管理法上の捕獲にあたる可能性があります。善意であっても手続きの外に出てしまうため、まず相談する順番を守るのが安全です。
まとめ|声を6つに分けて聞けば、ツバメの今がわかる
ツバメの声は、ただのにぎやかな音ではありません。ツバメ観察全国ネットワークが整理した6タイプ——さえずり鳴き、ジージー鳴き、チャカ鳴き、チュイ鳴き、ジャージャー鳴き、ツピー鳴き——を頭に入れておけば、軒下の巣で今どの段階が進行しているかが、姿を見なくてもつかめます。さえずりが続いていればまだ相手探しや巣づくりの段階、チュイ鳴きが聞こえれば孵化したばかり、ジャージャーの大合唱になっていれば巣立ちが目前。抱卵13〜14日、巣立ち17〜22日程度という日数と重ねれば、次に何が起きるかまで見当がつきます。そして「ツピー、ツピー」が上がったときは、その場で何かが起きている合図です。自分が原因になっていないかを最初に確かめてください。
最初の一歩としておすすめしたいのは、通勤路や近所で1か所だけ「定点」を決めることです。毎日同じ軒下を通りながら、聞こえた声のタイプを日付とともにメモするだけで構いません。1週間も続ければ、声が変わっていく順番が体感でわかります。全長17cmの小さな鳥が、春から秋までのあいだに何を成し遂げているのか——その全体像が、耳から入ってくるようになります。
※法律や手続きの取り扱いは自治体によって運用が異なる場合があります。巣の扱いに迷ったときは、お住まいの都道府県・市町村の野生鳥獣担当窓口、または環境省の捕獲許可制度のページや日本野鳥の会のツバメ紹介ページ、ツバメ観察全国ネットワーク(NPO法人バードリサーチ)で最新の情報をご確認ください。

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