軒下にツバメの巣ができた。ヒナの声が聞こえてくる。そうなると、つい「何か食べさせてあげたほうがいいのでは」と思ってしまいますよね。パンくずを置いてみた、ごはん粒をまいてみた——けれど、まったく減らないまま乾いていった。そんな経験をした人は少なくないはずです。
結論から言うと、ツバメへの餌やりは、ほかの野鳥のように「置けば来る」形にはなりません。ツバメが食べているのは空を飛んでいる虫だけで、地面や餌台に置かれたものを拾う習性そのものを持っていないからです。落ちたヒナに人が餌を与えることも、東京都環境局が「自然で自立するよう育てるのは極めて困難です」と説明しているとおり、善意が裏目に出やすい行為とされています。
では、私たちにできることは何もないのか。そんなことはありません。バードリサーチが銀座で記録した親鳥の餌運びのデータ、日本野鳥の会が延べ10,586巣を集計した全国調査、そして自治体が示す巣とフンへの対応——公的な情報をたどっていくと、「餌をあげる」のではない、もっと効く手助けの形が見えてきます。この記事では、ツバメの体のつくりから法律の線引き、巣を守る具体策までを一気に整理します。
・ツバメは飛んでいる虫だけを食べるため、餌台や置き餌は届かない
・親鳥は3日間で283回もヒナに虫を運んでいた(バードリサーチの銀座での記録)
・落ちたヒナに人が餌を与えるのは、公的機関が推奨していない対応
・人ができる最大の手助けは、虫が育つ環境とフン受けの設置
ツバメの餌やりが「届かない」3つの理由

パンくずもヒマワリの種も、ツバメの視界には入らない
ツバメに餌をあげたいなら、まず知っておきたいのが「置いた餌は認識されない」という事実です。ツバメ観察全国ネットワークによれば、ツバメは主に飛翔性昆虫、つまり空を飛ぶ虫を食物にしています。地面をつつく、枝にとまって実をかじる、餌台の種をくわえる——こうした採餌行動が、そもそも生活のなかに存在しません。
理由は狩りのスタイルにあります。ツバメは飛びながら口を開け、空中を舞う小さな虫をすくい取るように捕まえます。獲物を探す目線は常に空にあり、地面に置かれた白いパンくずは「食べ物の候補」として処理されないのです。庭に餌を置いてカラスやスズメだけが集まった、という結果になりやすいのはこのためです。
見分けの目安として、電線にとまったツバメが何をしているか観察してみてください。休んでいるときも顔は空を向き、虫の群れが通ると一直線に飛び出していきます。地面に降りる姿を見かけるのは、巣材の泥を集めるときがほとんどです。逆に言えば、地面に降りているツバメを見たら巣づくりの季節だというサインになります。
注意したいのは、「食べないなら置いておいても害はない」と考えてしまうこと。残された餌はカラスやネズミを呼び寄せ、結果として巣を襲う捕食者を庭に招くことになります。ツバメのためを思った置き餌が、ツバメの危険を増やす形になりかねません。

庭やベランダに小さな台を置いて、そこに小鳥が降りてくる——想像すると気持ちが弾みますよね。ホームセンターやネット通販でも野鳥の餌台は手軽に手に入りますし、板を切…
全長約17cm・体重18.6gの体は「飛ぶ虫」に合わせて作られている
ツバメが置き餌を食べないのは好みの問題ではなく、体のつくりの問題です。ツバメ観察全国ネットワークが公開している計測値では、全長は約172mm(146〜185mm)、体重は18.6g(15.6〜24.0g)。手のひらに乗る大きさでありながら、翼と尾は飛行に特化した比率になっています。
とくに象徴的なのが尾羽です。オスの尾長は89.6mm(77〜110mm)、メスは77.3mm(68〜92mm)と記録されており、オスのほうが明確に長くなります。深く切れ込んだ尾は空中で細かく舵を切るための装備で、ひらひらと不規則に飛ぶ虫を追いかけるのに向いています。同じ大きさの小鳥でも、地上採餌型の鳥はここまで尾を伸ばしません。
くちばしも同様です。嘴峰長は8mm(7〜9mm)と短い一方、口を開けたときの幅は広く、飛びながら虫をすくう網のような形になります。種を割る、実をついばむといった作業には向かない構造です。庭にヒマワリの種をまいてもツバメが素通りするのは、道具が合っていないからだと考えると納得しやすいはずです。
豆知識として、オスとメスの見分けはこの尾の長さと体色でつきます。ツバメ観察全国ネットワークは「オス(左)はメス(右)に比べて、尾羽が長く、身体の赤色も濃い色合いをしています」と説明しています。巣の出入りを眺めていると、尾の長いほうと短いほうが交代で来ているのが見えてきます。
餌台に来る鳥と来ない鳥は、くちばしで分かれる
「うちの餌台にはスズメもヒヨドリも来るのに、ツバメだけ来ない」——この疑問の答えも、くちばしと採餌方法の違いにあります。餌台を利用するのは、種子や果実を食べる鳥、つまり静止した食べ物を扱える鳥です。空中の虫を主食にするツバメは、そのグループに入りません。
日本で普通に見られるツバメの仲間は、ツバメ、コシアカツバメ、イワツバメ、リュウキュウツバメ、ショウドウツバメの5種類とされ、さらにアマツバメの仲間のヒメアマツバメが加わります。いずれも飛行しながらの採餌が中心で、どの種も餌台には集まりません。「ツバメ用の餌」という商品が見当たらないのは、需要がないというより、成り立たないからです。
具体的な見分け方としては、飛び方を見るのがいちばん早い方法です。餌台に来る鳥は短く飛んでとまるを繰り返しますが、ツバメの仲間は滑るように長く飛び続け、地面すれすれを横切ることもあります。雨の前に低く飛ぶと言われるのは、湿度で虫が低い位置を飛ぶためだと説明されることが多い現象です。
やりがちな失敗は、「虫を買ってきて置けばいいのでは」と考えることです。ミルワームなどの生き餌を皿に置いても、動きが空中の虫とはまったく異なるため、ツバメが認識する可能性は低いままです。しかも後述するとおり、人が野鳥に餌を与える行為そのものに、自治体は慎重な姿勢を示しています。
親鳥は3日で283回運んでいた|銀座の観察が示した食事の量
オス128回・メス155回という差の意味
人が手助けしなくても、親鳥がどれだけの量を運んでいるのか。それを実測したのが、バードリサーチニュース2023年8月号に掲載された神山和夫氏の報告です。松屋銀座の人工巣を対象に、2022年7月11〜13日の3日間、生後15日齢のヒナへの餌運びを動画で記録しました。撮影は5mほど離れた位置から行われています。
結果は3日間で283回。内訳はオスが128回、メスが155回で、メスのほうが多く運んでいました。1日あたりに直すと、両親合わせて90回を超える往復を続けていた計算になります。人が数回パンくずを置いたところで、この供給量に貢献できないことがよく分かる数字です。
興味深いのは行動の質の違いです。同報告では、メスは給餌後に長い時間巣に留まり、ヒナを見つめていたと記録されています。単純な運搬量だけでなく、巣にいる時間の使い方にも差があることになります。巣を見上げる機会があれば、「入ってすぐ出ていく個体」と「しばらく留まる個体」を見比べてみてください。
注意点として、この数字は都心のビル街という特殊な環境での1事例です。周囲の緑地量や天候によって餌運びの回数は変わるため、「どのツバメも283回」と読み替えることはできません。それでも、人の給餌が入り込む余地がないほど親鳥が働いているという事実は共通しています。
運ばれていた虫の正体はハエ・ハチ・羽アリ
親鳥が何を運んでいるのかも、この銀座の記録で明らかになりました。報告によれば、午前中はハエ、ハチ、羽アリ、チョウ、クサカゲロウなど多様な虫が運ばれ、昼以降はミツバチが増加していました。ミツバチは給餌回数の約25%を占めています。
さらに細かい話として、識別できたミツバチ61匹はすべてオスバチだったと記録されています。働きバチではなく、巣の外を飛び回るオスバチが選択的に捕らえられていたことになります。近くに養蜂場があった立地条件も影響したと考えられますが、ツバメが「その場で最も捕りやすい飛ぶ虫」を柔軟に選んでいる様子がうかがえます。
サイズについては、体長が1〜2cmのものが比較的多かったとされています。人がイメージする「鳥の餌」よりずっと小さく、そして生きて飛んでいる状態のものです。この条件を人が用意することは現実的ではありません。
知っておくと得する視点として、ツバメが庭に来ているなら、その庭の周辺には飛ぶ虫が一定量いるということです。虫が嫌われがちな存在であることは確かですが、ツバメを呼ぶ条件と虫がいる条件は表裏一体になっています。
川沿いと雑木林で献立が変わる
ツバメの食事は場所によって中身が入れ替わります。ツバメ観察全国ネットワークは、川の近くではカゲロウとトビケラが餌の大半を占め、雑木林の近くではハチ、ハエ、チョウの仲間が多かったという調査結果を紹介しています。同じ種類の鳥でも、周辺環境によって献立表がまったく違うわけです。
この柔軟さこそ、ツバメが人里で暮らせている理由です。特定の虫に依存していれば、その虫が減った時点で子育てが破綻します。飛ぶ虫であれば何でも対象にできるからこそ、田んぼの町でも商店街でも巣を構えられます。
虫の大きさにも記録があります。石川県での調査では体長4〜15mmほどの個体が多かったとされ、運び方も工夫されています。ハエやハチくらいの大きな虫は1匹だけくちばしにくわえて運び、小さな虫はくちばしに何匹も加えたり、口の奥に入れてノドを膨らませて持ち帰るのだそうです。巣に戻る親鳥ののどが膨らんで見えたら、小さな虫をまとめて運んでいる最中です。
注意したいのは、「川が近いから安心」と考えないことです。護岸工事や水質の変化でカゲロウやトビケラが減れば、その地域のツバメの餌は目に見えないところで細っていきます。餌の量は水辺や田んぼの状態と直結しています。
巣から落ちたヒナに、餌をあげてはいけない理由

くちばしの縁が黄色いヒナは「巣立ちビナ」かもしれない
地面にヒナがいたとき、最初にすべきなのは餌の用意ではなく、そのヒナがどの段階なのかを見極めることです。東京都環境局は「巣立ちしたばかりのヒナ(=巣立ちビナ)はうまく飛べません」と説明し、親鳥は必ずヒナのもとへ戻って世話をすると案内しています。飛べていない=助けが必要、ではないということです。
見分けの手がかりになるのが体の特徴です。ツバメ観察全国ネットワークによれば、巣立ち直後のヒナは「身体の色が薄く、尾羽が短く、くちばしの縁が黄色をしている」ため、成鳥と区別できます。羽が生えそろっていて自力で移動できるなら、それは巣立ちの過程にいる健康なヒナである可能性が高くなります。
このとき人がすべき行動として、東京都環境局はネコが近くにいる場合は「近くの木の枝先など、ネコが近寄れないところに移しましょう」、それ以外は「そのままにしてそっと離れましょう」と示しています。日本野鳥の会も、その場を去るか、ヒナを近くの茂みの中に移す対応を案内しています。
やりがちな失敗は、心配のあまりその場に留まって見守り続けることです。人がそばにいる限り親鳥は警戒して近づけず、結果としてヒナが餌をもらえない時間が延びます。守りたいなら離れる、というのがこの場面での正解です。
東京都環境局は「許可なく野鳥を飼うことは法律で禁止されています」と明記しています。また神奈川県は、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律により、ツバメ及びツバメの卵の捕獲や採取は禁止されていると説明しています。ケガをしている、希少種であるなど、そのままにしておけないと判断される場合は、自分で保護する前に自治体などに相談してください。
人が教えられないこと、それは飛び方と餌の取り方
「一時的に預かって、大きくなったら放せばいい」という考えも、公的機関は勧めていません。東京都環境局は「私たちはヒナに飛び方やエサの取り方、何が自分にとって危険なのかを教えられません」と述べ、自然で自立するよう育てるのは極めて困難だと説明しています。
理由は、ツバメの学習の仕組みにあります。日本野鳥の会は、巣立ち後に親鳥と過ごすわずかな期間に「何が食べ物で、何が危険か」などを学習するため、人間によって育てられたヒナが自然の中で生きていけるとは限らないと指摘しています。空中で虫を捕るという高度な技術は、親鳥について飛ぶことでしか身につきません。
具体的に考えてみると、人が用意できるのはせいぜい皿の上の動かない餌です。それで体は大きくなっても、飛ぶ虫を追う練習の機会はゼロのまま。放したその日から自力で食べられない個体を作ってしまうことになります。命を助けたつもりが、生きられない体をつくる結果になりかねません。
豆知識として、日本野鳥の会は(公財)日本鳥類保護連盟、NPO法人野生動物救護獣医師協会と協力して「野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーン」を実施し、毎年約10万枚以上のポスターを制作しています。4〜7月には問い合わせが多数寄せられるとのことで、同じ悩みを抱える人は毎年大勢いるということです。
許可なく飼うと1年以下の懲役または100万円以下の罰金
気持ちの問題だけでなく、法律の線引きも知っておく必要があります。日本野鳥の会は、都道府県知事の許可なく卵やヒナのいる巣を壊すことは違法で、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に当たると説明しています。神奈川県も同じ罰則を示しています。
根拠となるのは鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律、いわゆる鳥獣保護管理法です。神奈川県は、この法律によりツバメ及びツバメの卵の捕獲や採取は禁止されており、例外的に県の許可を受ければその捕獲や採取を行うことが認められると案内しています。許可の申請先は自治体によって異なります。
実際の場面に当てはめると、「落ちていたヒナを家に連れ帰って育てる」は捕獲・飼養に当たる可能性があります。善意かどうかは法律の判断に影響しません。だからこそ、自己判断で保護するのではなく、先に自治体へ連絡する順番が推奨されています。
注意点として、罰則の存在は「ツバメに関わってはいけない」という意味ではありません。神奈川県は、人為的な要因で負傷した場合等を除き、触れずに見守っていただくようお願いしています。見守ることは自由であり、むしろ推奨されている関わり方です。
迷ったら自治体へ|相談してよい場面の線引き
すべてを放置すればいいわけでもありません。日本野鳥の会は、ケガをしているものや、希少種など、そのままにしておけないと判断される場合は、自治体などに相談してくださいと案内しています。判断に迷う状況では、連絡すること自体が正しい対応になります。
相談先は自治体ごとに設定されています。東京都であれば、23区内は自然環境部計画課、多摩地区は多摩環境事務所自然環境課が窓口として案内されています。神奈川県では、捕獲許可の申請先が横浜市・川崎市とその他地域とで分かれています。お住まいの自治体名と「鳥獣保護」で検索すると担当課にたどり着けます。
具体的に伝えるとよいのは、見つけた場所、ヒナの羽の生えぐあい、明らかな出血や傷の有無、周囲に親鳥らしき個体がいるかどうかの4点です。写真があれば状況の共有が早くなります。判断は担当者に委ね、指示があるまで触らないでおくのが安全です。
やりがちな失敗は、動物病院やペットショップにそのまま持ち込むことです。野鳥は愛玩動物ではなく法律上の扱いが異なるため、受け入れ先が限られます。まず自治体、という順番を覚えておいてください。
よかれと思った給餌が招く3つのトラブル
失敗パターン①「毎日あげたら来なくなった」
野鳥への給餌が生む問題として、自治体はまず依存を挙げています。香川県環境森林部みどり保全課は「野鳥は餌付けを学ぶことで人間に依存し、自ら餌を探すことをしなくなります」と説明しています。人が用意した餌に慣れると、自分で探す行動が減っていくという指摘です。
さらに同課は、本能を阻害してしまう上に、本来野鳥のエサとなるはずだった生物の異常繁殖などを引き起こし、自然のバランスが崩れて生態系の大きな問題へと繋がる、とも述べています。1羽への親切のつもりが、その場所の虫と鳥のバランスを動かしてしまう可能性があるわけです。
庭で起こりやすい流れはこうです。餌を置くとスズメやハトが集まり、数が増える。フンが増えて掃除が追いつかなくなり、途中でやめる。すると集まっていた鳥は別の場所へ移り、結果として庭には何も残らない——「毎日あげていたのに来なくなった」という声の背景には、この途中終了があります。始める前にやめ方を決められないなら、始めないほうが穏当です。
ツバメに関して言えば、そもそも置き餌が届かないため、この失敗はツバメ以外の鳥に対して起こります。ツバメを助けたくて置いた餌が、ツバメの巣を狙うカラスを呼ぶ——この順番だけは避けたいところです。
| 比較項目 | パン・ごはん粒 | ヒマワリの種・穀物 | 生き餌(ミルワーム等) |
|---|---|---|---|
| ツバメの口に入るか | 入らない(飛ぶ虫のみ) | 入らない(種は割れない) | 皿の上では認識されにくい |
| 実際に起きること | 残って腐る・カラスが来る | スズメやハトが集まる | 他の生き物が先に食べる |
| 周囲への影響 | フン・鳴き声の増加 | 人への依存が進む | 捕食者を巣の近くに呼ぶ |
| 代わりにできること | フン受けを設置する | 殺虫剤の使用を控える | 巣の下にヒモやネットを張る |
※公的機関の公開情報をもとに野鳥の教科書調べで整理
人の食べ物に含まれる有害な物質
もう一つの理由が、餌の中身そのものです。香川県は、人間の食べ物に含まれる有害な物質により野鳥が病気になる可能性があると指摘しています。人にとって問題のない加工食品でも、体重18.6gの小鳥にとっては話が変わります。
塩分や油脂が典型例です。人のパンや惣菜には調味が施されており、そのまま小鳥が食べる前提では作られていません。体の小ささを考えれば、同じ量でも体内に占める割合はまったく異なります。「少しなら大丈夫だろう」という感覚が通用しない世界です。
具体的な判断基準としては、「野鳥がその土地で自然に得られないものは与えない」と決めておくと迷いません。ツバメの場合、それは飛んでいる虫だけです。この線引きなら、目の前に来た鳥がどの種類でも同じ答えを出せます。
注意点として、カビにも気をつける必要があります。屋外に置いた穀物やパンは湿気を吸ってすぐ傷みます。管理しきれないものを置きっぱなしにすることが、鳥の健康リスクにつながる場面もあります。
フンと鳴き声が近所トラブルに変わるとき
給餌の影響は鳥だけでなく、人の側にも返ってきます。香川県は人間への被害として、給餌場所周辺での鳴き声やフンの増加、ゴミ集積所が荒らされる被害、屋外での食事中に食べ物を狙われる被害を挙げています。集合住宅や商店街では、この点が現実的な問題になります。
ツバメの巣がある家では、給餌をしていなくてもフンの問題は発生します。ただし発生源が巣の真下に限られるため、対策は打ちやすい部類です。そこに置き餌が加わって鳥の種類と数が増えると、掃除の範囲が一気に広がってしまいます。
具体的な場面として、隣家の車や自転車にフンが落ちるケースは苦情に直結します。巣を守りたいなら、まず自宅の敷地内でフンを受け止める仕組みを作るのが先です。「ツバメを守るために近隣と揉める」状態は、ツバメにとっても良い結果になりません。
知っておきたいのは、日本野鳥の会がフィールドマナー「や・さ・し・い・き・も・ち」のなかで「き:気をつけよう、写真、給餌、人への迷惑」と示していることです。給餌と人への迷惑が同じ一文に並んでいるのは、両者が結びつきやすいことの表れだと読めます。
ツバメへの餌やりは「虫がいる環境を残すこと」
田んぼと水辺を守ることが、そのまま餌になる
ツバメに直接餌を渡せないなら、餌そのものを増やす側に回るという手があります。日本野鳥の会は「ツバメをまもろう」のなかで、田んぼや水辺環境を大事にすることを、ツバメのためにできることとして挙げています。エサとなる虫の生息環境を維持するという発想です。
根拠は食性にあります。川の近くではカゲロウとトビケラが餌の大半を占めるという調査結果があるとおり、水辺で育つ虫はツバメの主要な食料源です。水辺が減れば虫が減り、虫が減れば親鳥の餌運びの効率が落ち、巣立つヒナの数が減る——この連鎖は目に見えにくい形で進みます。
個人でできる具体策としては、庭やベランダに小さな水場を置く、雨水がたまる場所をすべて埋めてしまわない、といった小さな選択があります。地域の田んぼの保全活動に参加するのも、遠回りに見えて効く手助けです。餌台を1つ置くより、水辺が1つ残るほうがツバメには効きます。
注意点として、水をためる場合は蚊の発生に配慮が必要です。目的は虫を増やすことでも、人の生活環境を損なう形にすると続きません。水を入れ替える、流れをつくるなど、管理できる範囲で行うのが現実的です。
庭でできるのは「殺虫剤を減らす」「草地を少し残す」
もっと身近な行動もあります。庭で使う殺虫剤や除草剤の量を見直すことです。飛ぶ虫が育つには、幼虫が育つ草地や湿った土が必要になります。庭を隅々まで整えるほど、ツバメの食卓は小さくなっていきます。
理由はシンプルで、ツバメが運ぶ虫は体長4〜15mmほどの小さな個体が中心だからです。ハエ、ハチ、羽アリ、チョウ、クサカゲロウといった顔ぶれは、どれも身近な草地や水辺から発生します。害虫として一括りにされる虫の一部は、そのままツバメのヒナの食料です。
具体的には、庭の一角だけ刈らずに残す、鉢植えの受け皿を毎回すべて乾かしきらない、といった加減で十分です。庭全体を野原にする必要はありません。ツバメは空を飛び回って餌を集めるため、周辺一帯に少しずつ虫がいる状態が効いてきます。
豆知識として、ツバメがよく飛ぶ時間帯を観察していると、その庭の虫の多さが分かります。夕方に何度も同じコースを旋回しているなら、そこに虫の群れがある証拠です。虫の存在を確認する手段として、ツバメの飛行ルートは使えます。

庭先で「ピーヨ!」と甲高い声がして、見上げると灰色の鳥が枝を揺らしている。気づけばナンテンの赤い実が減っていて、ベランダに干していたミカンにもつつかれた跡がある…
実は、人がいなくなった土地でもツバメは減っている
ツバメが減った原因は都市化だけ、と考えられがちですが、日本野鳥の会の全国調査はそれと逆の現象も示しています。同会が延べ5,351人の参加を得て10,586巣を集計した2013〜2020年の調査では、人口が減少した地域、特に山間地域でツバメの営巣数が減少する傾向が観察されました。
報告では、人がいなくなることで捕食圧が高まる可能性があると説明されています。ツバメが人家の軒下に巣をかけるのは、人の気配がカラスやヘビを遠ざける効果を持つからです。人がいなくなれば、その盾も同時に失われます。
数字にも差が出ています。8年間の巣立ちヒナ数は全国平均で約4羽、市街地では3.8羽、市街地以外では4.2羽でした。市街地は餌が少なく厳しい一方、人がまったくいない環境にも別の厳しさがある——単純な都市対田舎の構図では説明できないということです。
ここから見えてくるのは、「人が住み続けて、巣を壊さずに見守る」こと自体が保全になっているという事実です。日本野鳥の会がツバメの子育てを見守る人を増やすことを挙げているのは、この意味においてです。餌を配らなくても、住んで見守るだけで役割を果たせます。
巣を見つけたら|フン受けとカラス対策で守れること
失敗パターン②:フン受けを早く付けすぎて巣を捨てられる
巣ができたときに最初に効くのがフン受けです。日本野鳥の会は、段ボール箱に新聞紙を敷く方法や、粘着テープで固定する方法を紹介しています。そして設置のタイミングについて、ヒナが孵化してからが適切だと示しています。
この「孵化してから」が重要です。産卵前や抱卵中は親鳥が神経質になっている時期で、巣の周囲が変化すると巣を放棄することがあります。日本野鳥の会のフィールドマナーにも「ち:近づかないで、野鳥の巣」があり、子育ての季節、親鳥はとくに神経質になるものが多く、危険を感じたり、巣のまわりのようすが変化すると、巣を捨ててしまうことがあると説明されています。
実際に起きやすいのが、巣を見つけた翌日に脚立を出してフン受けを取り付け、その後親鳥が戻らなくなるという流れです。善意でも、タイミングを外すと子育てそのものを終わらせてしまいます。まず数日そっとしておき、ヒナの声が聞こえてから動くのが安全な順番です。
注意点として、設置作業は短時間で終わらせ、脚立や人の姿を巣の正面に長く置かないようにします。作業のあとはしばらく近づかず、親鳥が出入りを再開するかを離れた場所から確認してください。
カラスとヘビ対策はヒモとネットで
ツバメの子育てが失敗する最大の要因は、餌不足ではなく捕食です。日本野鳥の会の2013〜2020年の集計では、カラス・ヘビなどの捕食が約35%、巣の落下・雛の転落が22%、人による巣の撤去が約9%という内訳が示されています。餌をあげることより、捕食者を近づけないことのほうが効きます。
対策として同会が挙げているのは、巣の下にツバメが通過できる隙間を空けてヒモを張ったり、ネットを張ったりする方法です。カラスは翼を広げて接近するため、障害物があると近づきにくくなります。ツバメは小回りが利くので、隙間さえあれば出入りできます。
具体的な設置イメージは、巣の下方に数十cm離してヒモを何本か水平に渡す形です。ツバメの飛行経路をふさがないことが条件なので、巣の真正面ではなく下側に張るのが基本になります。設置後は親鳥が問題なく出入りできているかを離れて確認してください。
注意したいのは、ネットの目が粗すぎると鳥が絡まる事故につながる点です。また、内訳の2番目にある巣の落下・雛の転落は22%を占めており、古い巣が崩れかけている場合は下に受け皿を用意しておくと転落時の衝撃を減らせます。
巣立ち後なら、巣は許可なく外せる
「一度巣ができたら永久に触れない」と誤解されがちですが、そうではありません。神奈川県は「巣立ち後であれば、許可なく巣を取り外すことは可能」と明記しています。禁止されているのは、卵やヒナがいる巣を壊すことです。
根拠は鳥獣保護管理法の保護対象の考え方にあります。卵・ヒナのいる巣を許可なく壊せば1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になり得ますが、中身がなくなった巣は状況が変わります。判断に迷う場合は自治体に確認するのが確実です。
具体的な場面としては、玄関の真上に巣ができて出入りに支障があるケースが典型です。この場合も、子育てが終わるまで待ってから外すという順番であれば、法律上の問題を避けられます。ヒナの声が完全に聞こえなくなり、親鳥の出入りが止まってから確認してください。
知っておきたいのは、巣を残す選択もあるということです。撤去せずに置いておけば翌年また使われる可能性があります。フン受けを付けたまま冬を越し、翌シーズンに備えるという付き合い方もできます。
観察のマナーは「や・さ・し・い・き・も・ち」で覚える
巣を見守る側の心構えとして、日本野鳥の会はフィールドマナーを7つの言葉で示しています。「や:野外活動、無理なく楽しく」「さ:採集は控えて、自然はそのままに」「し:静かに、そーっと」「い:一本道、道からはずれないで」「き:気をつけよう、写真、給餌、人への迷惑」「も:持って帰ろう、思い出とゴミ」「ち:近づかないで、野鳥の巣」の7項目です。
ツバメの巣に関わる場面で効くのは「し」「き」「ち」の3つでしょう。静かに、写真や給餌に気をつけ、巣に近づかない。この3点を守るだけで、親鳥が巣を捨てるリスクを大きく下げられます。
具体例として、スマートフォンで巣を撮影するときはフラッシュを使わず、短時間で切り上げます。毎日決まった時間に長く見上げる行動も、親鳥にとっては警戒対象です。窓越しや離れた位置からの観察に切り替えると、双方にとって負担が減ります。
あわせて衛生面にも触れておきます。環境省は、野鳥など野生動物の排泄物等に触れた後には手洗いとうがいをしていれば過度に心配する必要はないとし、死亡した野鳥には素手で触らず、使い捨て手袋などをはめてビニール袋に入れ、各市町村のごみ分別収集方法に従って処分するよう案内しています。フン受けの新聞紙を交換するときも、この手順に沿えば問題ありません。

庭の木に巣箱をかけたのに、二年たっても誰も入ってくれない。ホームセンターで買った巣箱をベランダに置いてみたけれど、鳥が近づく気配すらない。巣箱を用意した人の多く…
見守りカレンダー|2月の九州から秋の旅立ちまで
2月に九州、3月に関東、4月に北海道へ
ツバメがいつ来るかは、住んでいる地域で1〜2か月ずれます。ツバメ観察全国ネットワークによれば、2月に九州へ飛来が始まり、3月に関東へ到達し、4月には北海道までやってきます。「そろそろかな」と空を見上げる時期は、地域によって変えるのが正解です。
この時間差は渡りの距離によるものです。南から北へ順に進むため、九州で初認が報告される頃、北海道はまだ雪の中ということも珍しくありません。初めて見た日を毎年記録しておくと、その土地の目安が自分のデータとして蓄積されます。
観察のコツは、飛来直後は電線や川沿いに集まりやすい点を押さえておくことです。まだ巣づくりに入る前の時期は、餌の多い水辺で体力を回復させています。地面に降りて泥を集める姿が見え始めたら、巣づくりのシーズンに入った合図です。
注意点として、初認の時期は年によって前後します。数日から1〜2週間のずれは普通に起こるため、去年と同じ日に来なかったからといって心配する必要はありません。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | △ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
※飛来は2月に九州、3月に関東、4月に北海道と地域差があります(ツバメ観察全国ネットワーク)。繁殖期は4〜7月(神奈川県)
抱卵13〜14日、巣立ちまで17〜22日|見守りは1か月ほど
巣ができてから空になるまでの期間も、あらかじめ知っておくと構えやすくなります。神奈川県によれば、繁殖期間は4〜7月、抱卵期間は13〜14日、ヒナは17〜22日で巣立ちます。全体として、長くとも期間はおおよそ一ヶ月程とされています。
この日数が分かっていると、フン受けの設置タイミングも判断しやすくなります。抱卵中は動かず、ヒナの声が聞こえてから設置し、そこから3週間ほどで巣立ちを迎える——という段取りです。玄関前の巣に困っている場合も、終わりが見える期間だと分かれば対応しやすくなります。
具体的な観察ポイントは、親鳥の動きの変化です。抱卵中は巣にじっとしている時間が長く、孵化すると出入りが急に増えます。銀座の記録では生後15日齢のヒナに3日間で283回の餌運びがありました。出入りが慌ただしくなったら、巣の中にヒナがいるサインです。
注意点として、日数はあくまで目安であり、天候や餌の状況で前後します。予定より遅いからといって巣をのぞき込むのは避けてください。日本野鳥の会のフィールドマナーが示すとおり、この時期の親鳥は環境の変化に敏感です。
夫婦で同じ日に旅立つ|0.6gの装置が明かした渡り
子育てが終わると、ツバメは南へ渡ります。ツバメ観察全国ネットワークが紹介するスペインの研究例では、秋の渡りは9月中旬に行われ、2012年9月9日に出発した記録が残っています。日本のツバメも、夏の終わりから秋にかけて姿を消していきます。
この渡りの詳細を明らかにしたのが、ジオロケーターという重さ0.6gの追跡装置です。数分間隔で照度を記録することで日の出と日没の時間が分かり、それを基に緯度経度を計算できる仕組みだと説明されています。体重18.6gの鳥に載せられる軽さだからこそ実現した調査です。
そこから分かった事実が印象的です。同一夫婦のツバメでは、出発日が同日、越冬地への到着日が一日差、春の出発日が同日、繁殖地への到着日が一日差だったと報告されています。数千kmの旅を、ペアがほぼ同じスケジュールでこなしていたことになります。
豆知識として、秋に姿が見えなくなっても巣をすぐ壊す必要はありません。神奈川県が示すとおり巣立ち後であれば許可なく取り外せますが、残しておけば翌シーズンに再び使われる可能性があります。旅立ちを見送ったら、フン受けを外して来年を待つ、という選択肢もあります。
まとめ|餌をあげない、という手助けの形
ツバメへの餌やりを考えたときの答えは、「あげない」ことでした。けれどそれは何もしないという意味ではありません。日本野鳥の会が2013〜2020年に10,586巣を集計した結果では、子育て失敗の要因はカラス・ヘビなどの捕食が約35%、巣の落下・雛の転落が22%、人による巣の撤去が約9%。餌不足ではなく、巣そのものを守れるかどうかが分かれ目になっています。巣立ちヒナ数の平均は全国で約4羽、市街地では3.8羽、市街地以外では4.2羽で、都市部の子育てが厳しいことも数字に表れています。最初の一歩としておすすめしたいのは、ヒナの声が聞こえたら巣の下に段ボール箱と新聞紙でフン受けを作ることです。それだけで近隣トラブルを避けながら、巣立ちまでの3週間を見守れます。
※法律の運用や相談窓口、各団体の案内内容は変わることがあります。最新情報は環境省・お住まいの自治体・日本野鳥の会「ツバメをまもろう」の公式ページでご確認ください。

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