秋にせっかく巣箱をかけたのに、春になっても入口に鳥の姿がない。双眼鏡を持って窓辺で待っていても、シジュウカラは巣箱の脇を素通りしていく——巣箱をかけた人のほとんどが、一度は通る道です。
先に結論をお伝えします。巣箱に鳥が来ないのは、ほとんどの場合「失敗」ではなく「条件がひとつだけ噛み合っていない」状態です。日本野鳥の会の研究誌『Strix』に載った調査では、山形県から熊本県までのゴルフコースに設置された巣箱2,276個を調べたところ、まったく使われていなかったのは11.7%(266個)にとどまりました。裏を返せば、条件さえ整えば9割近くの巣箱には何かが入ります。
この記事では、鳥が来ない原因を「高さ」「入口の直径」「場所」「時期」「庭の環境」の5系統に分解し、公的機関と研究論文の数値をもとに、どこを何cm動かせばいいのかを具体的に示します。今かかっている巣箱を外して作り直す必要はありません。多くの場合、直すのは1か所か2か所です。
・巣箱2,276個の調査で「不使用」は11.7%だけ。来ないのは少数派
・シジュウカラ類が選んだのは地上170〜230cm、スズメは140〜170cm
・入口の直径はシジュウカラ・スズメ用で2.7〜3.0cm。大きすぎると敵が入る
・巣箱を利用する種の密度が最大に達するのは架設から2〜3年目
巣箱に鳥が来ないとき、まず疑うのは「7つの条件」

使われていない巣箱は2,276個中266個|あなたの巣箱は少数派かもしれない
まず落ち着いていただきたいのが、「鳥が来ない巣箱」は実はかなりの少数派だという事実です。日本鳥類研究会の峯岸典雄氏が『Strix』Vol.14(1996年)に発表した調査では、山形県から熊本県までの17のゴルフコースに設置されていた巣箱3,221個のうち、穴の直径が約3.0cmのもの2,276個を対象に使用状況が調べられました。
結果は、シジュウカラ類が35.2%(801個)、スズメが38.6%(879個)、不使用が11.7%(266個)。残りの14.5%(330個)は、シジュウカラ類とスズメ以外の鳥類、ハチ類、アリ類、ゴキブリ類、ムササビなどが使っていました。つまり8割以上の巣箱には鳥が入り、虫や小動物まで含めれば9割近くが「誰かの住まい」になっていたわけです。
この数字が教えてくれるのは、巣箱という仕掛け自体の打率は決して低くない、ということです。あなたの巣箱に鳥が来ていないなら、それは巣箱が悪いのではなく、11.7%側に入ってしまう条件がどこかに紛れ込んでいる可能性が高い。原因を特定して直せば、多数派の側に移れます。
ひとつ注意しておくと、この調査はゴルフコースという、まとまった樹林と芝地が隣接する環境で行われたものです。住宅街の庭はこれより条件が厳しくなります。数字はそのまま自分の庭に当てはめるのではなく、「原因は必ずどこかにある」という前提として受け取ってください。
かけた年に入らないのは想定内|密度が最大になるのは2〜3年目
次に多い誤解が、「1シーズン待って入らなかったから、この場所はダメだ」という判断です。結論から言うと、この判断は早すぎます。巣箱をかけてから、それを利用する鳥の密度が最大に達するまでには2〜3年かかることが、長期の試験でわかっているからです。
根拠になっているのは、ドイツ・フランクフルト近郊で行われた大規模な試験です。25haの試験林にさまざまな巣箱を1,060個かけ、そのほかに巣ポケット125個、営巣ボサ12個、人工ボサ3個などを設置。隣接する18haを設備のない対照区としました。その結果、試験区では樹洞に営巣する8種が著しく増えています。
数字を追うと変化の速さがわかります。シジュウカラは当初6つがいだったものが、実験1年目に78つがい、2年目103つがい、3年目163つがいへ。マダラヒタキは3つがいから193、301、244つがい。スズメも2つがいから40、49、57つがいへと増えました。1年目でも増えてはいるものの、頭打ちになるのは2〜3年目です。
庭に1個かけただけの巣箱でも、考え方は同じです。鳥は新しい構造物を警戒しますし、そもそもその年に近所でつがいになれる個体がいるとは限りません。豆知識として覚えておくと気が楽になるのが、シジュウカラ類は秋から冬にかけて巣箱をねぐらとして使うことがある、という点。春に営巣していなくても、冬の朝夕に出入りしていれば「下見済み」のサインです。
原因は「サイズ・高さ・場所・時期」の4系統に分けて潰す
やみくもに巣箱を作り直す前に、原因を4系統に切り分けます。①サイズ(入口の直径、床から穴までの深さ)、②高さ(地上何cmか)、③場所(周囲の枝、向き、人通り、揺れ)、④時期(かけた月、掃除の有無)。この4つのうち、どれかひとつでも外れていると鳥は入りません。
なぜ切り分けが必要かというと、原因ごとに直し方の手間がまったく違うからです。高さと向きは巣箱を外して付け直すだけで済みますが、入口の直径が大きすぎる場合は板ごと交換になります。手間の軽い②③から順に検証していくのが効率的です。
具体的な進め方としては、まずメジャーを持って巣箱の下に立ち、地面から入口の中心までの高さを実測してください。次に入口の直径を測る。この2つだけで、原因の半分以上は見つかります。目測は当てになりません。「2mくらいのつもりだった」場所が実測150cmだった、というのは巣箱かけでよくあるずれです。
注意点として、複数の条件を一度に変えるのは避けてください。高さも向きも穴も同時に変えてしまうと、翌年入った(あるいは入らなかった)ときに、何が効いたのかがわからなくなります。1シーズンに変えるのは1〜2か所までにして、記録をノートに残しておくと、翌年以降の判断が速くなります。
高さを50cm変えるだけで、来る鳥が入れ替わる
シジュウカラ類が選んだのは地上170〜230cm
高さは、巣箱の成否をもっとも大きく左右する条件です。前述の『Strix』Vol.14の調査では、シジュウカラ類は170〜200cmの高さに取り付けた巣箱の使用率が突出して高く、200〜230cmも期待値を上回りました。論文はここから「シジュウカラ類を主体に誘致する場合、170から230cmの高さに巣箱を多くとりつける方がのぞましい」と結論づけています。
この高さが選ばれる理由は、はっきりとは解明されていません。論文自身も「なぜ巣箱のとりつけ高さの違いにより、使い方が異なるのかは不明である」と述べており、さらに調査が必要だとしています。断定できないところを断定しないのが、この分野の誠実な扱い方です。
実際に測るときは、地面から入口の中心までを測ってください。170〜230cmは、身長160cmの人が手を伸ばして届くか届かないかの高さです。脚立なしで作業できる範囲に収まるので、掃除や点検の面でも扱いやすい高さと言えます。
ただし、公的機関の案内とは少しずれがあります。東京都環境局の「巣箱教室」ではシジュウカラ・スズメ用の設置高さを「3m前後」としており、日本野鳥の会も「地上から3m程度まで、できれば2〜3m程度」と案内しています。安全面と防犯面を考えると高めが望ましく、鳥の選好だけを見ると低めが有利、という関係です。庭の状況に合わせて、2m前後を落としどころにするのが現実的でしょう。

スズメが選ぶのは140〜170cm|同じ庭で両方は狙えない
同じ調査でスズメの使用状況を見ると、選好する高さがはっきり違います。スズメは140〜170cmに取り付けた巣箱の使用率が最も高く、260cmより高い位置も期待値を上回りました。シジュウカラ類の170〜230cmとは、重なりつつも中心がずれています。
おもしろいのはここからです。両種がほぼ同じ割合で混在する地域では、スズメが140〜170cmを使い、その高さではシジュウカラ類の使用がなくなりました。かわりにシジュウカラ類は260〜380cmを多く利用しています。一方、どちらか一方しかいない地域では、両種とも特定の高さを選好していませんでした。
つまり、高さの好みは種そのものに刻まれた性質ではなく、相手がいるかどうかで変わる相対的なものだということです。論文も「シジュウカラ類やスズメの巣の高さの選好性は、繁殖成功率との関係でなく、シジュウカラ類とスズメの種間関係により生じている可能性がある」と述べています。
庭で応用するなら、まず「うちの周りにスズメは多いか」を確かめてください。電線や瓦屋根にスズメが群れている住宅街なら、150cm前後の低い巣箱はスズメに取られやすい。シジュウカラを呼びたいなら、あえて2m以上に上げてスズメと高さをずらすのがひとつの手です。逆に、スズメを近くで見たいなら低めに下げる。狙う鳥を先に決めるのが先決です。
鳥が好む高さと、ヒナが巣立ちやすい高さは別物
意外と知られていないのですが、鳥が選ぶ高さと、実際にヒナが無事に巣立つ高さは一致していません。同じ調査で巣立ち成功率を高さ帯ごとに見ると、シジュウカラ類は410〜430cmがもっとも高く、以下380〜410cm、350〜380cm、120〜140cmの順。逆に320〜350cmは低いという結果でした。
スズメはまた違う傾向で、120〜140cmの巣立ち成功率がもっとも高く、次いで380〜410cm、140〜170cmの順。410〜430cmは低くなっています。両種とも、好んで選ぶ高さと、成功しやすい高さがずれているわけです。
この「ずれ」をどう扱うかですが、庭に巣箱をかける立場では、まず入ってもらわないと話が始まりません。4m超の高さは脚立作業が必要で、掃除も点検も現実的ではないでしょう。ですから優先すべきは選好高さ、つまりシジュウカラなら170〜230cmです。巣立ち率の差は、後述する捕食者対策で埋めるほうが手堅い。
ここで独自にまとめたのが次の表です。数値は上記の調査結果をもとに整理しています。
| 地上高 | シジュウカラ類の使用 | スズメの使用 | 庭での扱いやすさ |
|---|---|---|---|
| 120〜140cm | 選好されない | 巣立ち率が高い帯 | いたずら・猫の被害を受けやすい |
| 140〜170cm | 混在地では使用が消える | 使用率が最も高い | 脚立なしで作業できる |
| 170〜230cm | 使用率が最も高い帯 | 期待値どまり | 庭で狙うならここ |
| 260〜380cm | 混在地で多く利用 | 期待値より高い帯を含む | 脚立が必要・掃除が負担 |
| 380〜430cm | 巣立ち成功率が高い帯 | 410cm超は巣立ち率が低い | 一般家庭では非現実的 |
※野鳥の教科書調べ(『Strix』Vol.14掲載の調査結果をもとに整理)
【失敗パターン1】目の高さにかけて、そのまま1年待った
ありがちな失敗の1つ目が、作業しやすさを優先して目線の高さ(およそ150cm前後)にかけ、そのまま1シーズン放置してしまうケースです。原因は単純で、脚立を出すのが面倒だから。掛けるときも掃除するときも楽なので、つい低くなります。
ところがこの高さは、シジュウカラを狙う場合には不利な帯です。スズメが多い住宅街では、140〜170cmはスズメの選好帯とほぼ重なり、シジュウカラ類の使用が消えることが調査で示されています。「シジュウカラが来ない」と悩んでいる巣箱を測ってみたら、実は150cmだった、というのはよくある話です。
対策は、20〜50cm上げること。それだけで170〜230cmの帯に入ります。付け直すときは、幹の同じ面のまま高さだけを変えるのがコツです。向きも同時に変えると、翌年の結果から原因を読み取れなくなります。
あわせて気をつけたいのが、地面からの高さを「巣箱の底」で測ってしまうミス。基準は入口の中心です。高さ18〜23cmの巣箱なら、底で測るか入口で測るかで20cm近く変わります。この20cmが、選好帯に入るかどうかの分かれ目になることもあります。
入口の直径が0.5cm違うと、審査に落ちる

シジュウカラ・スズメ用は2.7〜3.0cm、ムクドリ用は4.0〜6.0cm
高さの次に効くのが、入口の直径です。東京都環境局の「巣箱教室」が示す標準寸法では、シジュウカラ・スズメ用の出入り口直径は2.7〜3.0cm。ムクドリ用は4.0〜6.0cmとされています。この差はわずか1cm強ですが、入る鳥はまったく別になります。
なぜこれほど厳密なのかというと、入口の直径は「入れる鳥を決める」だけでなく「入れない鳥を決める」機能を持っているからです。『Strix』8号の総説は、巣箱の入口について「その種が出入りでき、しかもそれより大きい種が出入りできないような大きさに入口をあけてやる必要がある」とはっきり述べています。
市販の巣箱を買った場合も、必ず実測してください。「シジュウカラ用」と書かれていても穴が3.5cmあれば、スズメやムクドリに横取りされる可能性が出てきます。定規を穴に当てて、上下と左右の2方向を測る。木は経年で反るので、買ったときの表示と現状が違うこともあります。
豆知識として、巣箱の他の寸法もセットで押さえておくと判断が速くなります。シジュウカラ・スズメ用は高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm。ムクドリ用は高さ28〜40cm、奥行き・幅15〜18cmです。手元の巣箱がムクドリ用のサイズなのに穴だけ小さい、といったちぐはぐな箱は、内部が広すぎて小鳥には落ち着きません。

穴が大きすぎる巣箱は「敵に開いた扉」になる
入口が大きすぎる巣箱に鳥が入らない理由は、単に「大きい鳥に取られるから」だけではありません。親鳥自身が、卵とヒナを守れないと判断して避けていると考えられます。
穴が大きければ、カラスはくちばしと頭を突っ込めますし、ネコは前足を差し入れられます。ヘビは体の太さより少し大きい隙間があれば通れます。巣箱の入口は、親鳥にとっては「玄関」であると同時に「防衛線」です。防衛線が広すぎる物件は、内見の段階で見送られます。
見分け方はシンプルで、自分の親指を穴に入れてみることです。成人の親指の付け根が余裕で通るようなら、シジュウカラ用としては大きすぎます。2.7〜3.0cmは、大人の人差し指と中指を揃えて入れると引っかかる程度の大きさです。
やりがちな失敗が、「大は小を兼ねる」と考えて穴を大きめに開けてしまうこと。あるいは、リスやネズミにかじられて穴が広がったのに気づかず、そのまま翌年もかけ続けるケースです。秋の点検のときに、穴の直径を毎年測り直してください。広がっていたら、内側から金属板や当て木を張って径を戻す方法があります。
見落とされがちな「床から穴までの高さ15cm」
寸法の話でもっとも見落とされるのが、床から出入り口までの高さです。東京都環境局の資料では、シジュウカラ・スズメ用で15cmくらい、ムクドリ用で18〜23cmと指定されています。ここが浅い巣箱は、鳥に選ばれにくくなります。
理由は明快で、深さが浅いとヒナが外から見えてしまうからです。『Strix』8号も「巣穴の入口から底までの深さは、対象とする種に巣箱を利用させるためには重要である」と指摘しています。上から覗き込むカラスにとって、浅い巣箱は中身が丸見えの箱にすぎません。
手持ちの巣箱を確認するなら、割り箸を穴から差し込んで底に当て、指で押さえた位置に印をつけて引き抜き、長さを測ります。15cm前後あれば合格。10cmを切っているようなら、床板を底に一枚足して深さを稼ぐより、箱ごと作り直したほうが早いこともあります。
注意点として、深くすればするほど良いわけでもありません。深すぎると巣立ち前のヒナが穴まで登れなくなります。目安の15cmは、防御と巣立ちやすさの折り合いがついた数字だと考えてください。あわせて、底板には水抜き穴を小さく開けておくと、雨が入っても排水されます。
場所選びの「あと1歩」が鳥をためらわせている
入口の前に枝があると、ヘビ・ネコ・カラスの足場になる
寸法も高さも合っているのに入らない場合、次に疑うのは巣箱の「まわり」です。東京都環境局の資料は、鳥が嫌がる例として「出入り口付近の枝は、小鳥の敵(ヘビ・猫・カラス)の足場になってしまいます」と図解つきで示しています。
親鳥の視点で考えると理由がわかります。入口の目の前に太い横枝があれば、そこに猫が座って待ち伏せできる。カラスは枝に止まって入口を覗き込める。ヘビは枝を伝って直接入口に到達できます。巣箱そのものが良くても、周囲に足場がある物件は選ばれません。
確認方法は、巣箱の入口の前に立って周囲を見渡すこと。手前2mほどの範囲に、体重を支えられる太さの枝があれば要注意です。日本野鳥の会も「ネコやヘビに襲われないように、近くに太い横枝がある場所などは避けたほうが良い」と案内しています。前方が明るく見通しのよい面を選ぶのが基本です。
枝を切りたくない場合の対策もあります。『Strix』8号は捕食者対策として、滑りやすい塩ビ製パイプの杭を立てる、木の幹に円盤状に有刺鉄線を張り巡らす、笠状のものを取り付けるといった方法を挙げています。庭木の場合は、幹に金属板を巻いて猫が登れないようにするだけでも効果が期待できます。
巣箱の入口の前に止まり木を付け足すのは避けてください。鳥は止まり木がなくても入口の縁につかまって出入りできます。一方で止まり木は、カラスやネコにとって格好の足場になります。市販品に止まり木が付いている場合は、外してから設置するほうが安全です。
入口は少し下向きに|雨と西日を同時に避ける
入口の角度と向きも、入居率を左右します。日本野鳥の会は「出入り口を地面に対して垂直か少し下に向けて雨が入らないようにする」と案内しており、キヤノンのバードブランチプロジェクトも「入口をやや下に向けるのがポイント」としています。
下向きにする理由は雨対策です。入口が上を向いていると、雨が直接巣材に落ちて中が濡れます。濡れた巣材は乾きにくく、ヒナの体温を奪います。巣箱を幹に固定するときに、上端を少し手前に、下端を幹側に寄せて前傾させると、入口がわずかに下を向きます。
向きについては、北から東を向ける案内が一般的です。夕日が差し込む西向きや、風が強く吹きつける面は避けます。日本の住宅地では西日が入る面は夏に高温になりやすく、卵やヒナへの負担が大きくなります。庭で迷ったら、午後に日陰になる面を選んでください。
あわせて、ひさし(屋根の張り出し)にも注意点があります。東京都環境局の資料によれば、ひさしは光や風雨を防ぐ役割がある一方、長すぎると鳥の出入りのジャマになり、箱に直角だと風雨避けの役割を果たさないとされています。屋根は前方にやや傾けて、適度な張り出しにするのが正解です。
人の通り道から少し離すだけで、警戒心がゆるむ
意外に効くのが、人との距離です。『Strix』8号は「人通りが多い場所では、巣箱は道から少し離れた場所にかけたほうが鳥も安心して利用すると思われる」と述べています。玄関先やアプローチ沿いの木は、人の出入りが多く、鳥が落ち着けません。
親鳥は、抱卵中と育雛中に1日何十回も巣箱を出入りします。そのたびに人が通れば、そのつど中断が入ります。中断が多いほど、餌を運ぶ回数は減り、ヒナの成長が遅れます。鳥はそれを本能的に避けるので、人通りの多い場所の巣箱は敬遠されるわけです。
庭での配置を考えるなら、洗濯物を干す動線、駐車スペース、門扉の周辺は外してください。おすすめは、庭の奥まった一角や、窓から見えるけれど人が近づかない位置です。観察したい気持ちはわかりますが、双眼鏡があれば10m離れていても十分に見えます。
豆知識として、鳥は「毎日決まった時間に決まった動きをする人」には慣れやすい傾向があります。毎朝同じ時間に洗濯物を干す程度なら、シーズンを重ねるうちに気にしなくなることもあります。問題になるのは、不規則で予測できない接近です。
【失敗パターン2】枝に紐で吊るして、風で回っていた
ありがちな失敗の2つ目が、巣箱を枝から紐で吊るしてしまうケースです。木に傷をつけたくない、手軽に取り付けたい、という理由で選ばれがちですが、これは入居率を大きく下げます。
原因は「揺れ」です。吊り下げた巣箱は、風のたびに揺れ、回ります。入口の向きが変われば、雨も西日も入ります。何より、揺れる場所に営巣する小鳥はほとんどいません。自然の樹洞は絶対に揺れないからです。親鳥は安定していない場所を巣として認識しません。
対策は、幹または太い枝に密着させて固定すること。東京都環境局の資料は固定材としてシュロ縄を挙げており、巣箱の背に背板や添え木を取り付けると、木にかけたときに巣箱が安定するとしています。上下2か所を締めるのが基本です。
注意点として、針金やロープを幹に直接強く巻きつけると、木の成長を妨げ、数年で食い込みます。シュロ縄など自然素材を使い、年に一度の点検時に締め直すのが木にも巣箱にも優しいやり方です。設置後に手で巣箱を軽く押してみて、びくともしなければ合格です。
春にかけた人が、翌年まで待たされる理由
留鳥は秋にかける|冬のねぐらとして下見される
時期のミスは、1年まるごと無駄にします。巣箱をかけるのは秋から冬。これは日本野鳥の会、東京都環境局、バードブランチプロジェクトのいずれもが共通して示している基本です。
理由は鳥の下見にあります。日本野鳥の会は「巣箱を利用する野鳥が巣作りを始める春よりも前に設置すると、利用する可能性が高くなる」と説明しています。シジュウカラの繁殖開始は3月〜5月ごろ。その時期に新品の巣箱が突然現れても、鳥にとっては未知の構造物でしかありません。
秋にかけておけば、冬のあいだに鳥は巣箱の存在に慣れます。さらにシジュウカラ類には、巣箱を冬のねぐらとして使う習性があります。寒い夜を巣箱で過ごした個体が、春にそのまま営巣する。これが「秋にかける」の実利です。
やりがちな失敗が、春先にホームセンターで巣箱を見かけて買い、その週末にかけてしまうこと。悪いことではありませんが、その年に入る確率は下がります。もし春にかけたなら、外さずにそのまま秋を越させてください。翌シーズンが本番です。
夏鳥用は秋に外し、渡来直前にかけ直す
一方で、すべての巣箱を秋にかけっぱなしにするのが正解ではありません。『Strix』8号は「夏鳥用の巣箱は秋にはずして渡来直前にかけ直したほうが、巣箱もいたまないし他の種類が使うこともないので都合がよい」としています。
夏鳥とは、春に日本へ渡ってきて繁殖し、秋に南へ帰る鳥のこと。巣箱を使う夏鳥にはブッポウソウやコムクドリなどがいます。これらを狙う場合、冬のあいだ巣箱をかけておくと、先に留鳥やほかの生きものが入ってしまい、渡ってきたときには埋まっている、ということが起こります。
庭でシジュウカラやスズメを狙う一般的なケースでは、この心配は不要です。どちらも留鳥なので、秋にかけて年間を通してかけっぱなしで問題ありません。狙う鳥が留鳥か夏鳥かで、管理の仕方が変わると覚えておいてください。
注意点として、巣箱を外している期間が長いと、鳥にとっての「そこにあるもの」という認識が薄れます。夏鳥用の場合も、渡来直前に確実にかけ直すスケジュールを組んでおくことが前提です。カレンダーに予定を入れておくと確実です。
秋の掃除をサボると、翌年の入居審査に落ちる
去年は入ったのに今年は来ない、というケースでもっとも多い原因が掃除忘れです。バードブランチプロジェクトは「翌年の秋には必ず中の巣材を取り出し、掃除・補修をして架け替える」と明記しています。
古い巣材を放置すると、巣箱の内部にダニやノミなどの寄生虫が残ります。前年の繁殖で持ち込まれた寄生虫は、巣材の中で越冬します。翌春にやってきた親鳥がそれを察知すれば、当然その巣箱は避けられます。また、古巣が積み重なると内部の深さが浅くなり、床から穴までの15cmが確保できなくなります。
掃除の手順は、繁殖期が完全に終わった秋に、巣箱を外して中の巣材をすべて取り出し、内部を乾かすこと。『Strix』8号は「巣箱は秋のうちにきれいに洗浄したほうがよく」「可能なら消毒したほうがよい」としています。作業の際は手袋を着け、終わったら手を洗ってください。
巣箱に鳥が来ない庭に共通する「景色」がある
実は、樹洞の多い立派な森ほど巣箱は使われない
ここで、直感に反する話をひとつ。木が豊かで自然が残っている場所ほど、巣箱の効果は下がります。『Strix』8号の総説は「巣箱の架設は、営巣場所となる天然の樹洞が多くあるようなよく発達した林内で行なってもたいした効果は期待できなく、二次林や未発達な林を対象にして行なったほうがよいだろう」と結論づけています。
理屈はシンプルで、老木が多い森には天然の樹洞がたくさんあるからです。鳥にとって樹洞は本来の巣であり、人工の箱よりも条件が良い。選択肢が豊富な場所で、わざわざ木の箱を選ぶ理由がありません。
逆に言えば、樹洞がない場所こそ巣箱が効きます。若い木ばかりの新興住宅地、剪定の行き届いた公園、伐採後に植えられた二次林。こうした場所では、巣箱が唯一の営巣場所になり得ます。同じ総説は「繁殖していない場所でも巣箱をかけることによって、飛来し繁殖を始めることもある」とも述べています。
自分の庭を見渡してみてください。太い老木がなく、剪定された庭木ばかりなら、それは弱点ではなく強みです。巣箱が刺さる条件がそろっています。逆に、隣に鎮守の森や古い雑木林があるなら、そちらに鳥が流れている可能性を疑ってください。
なわばり1つに3〜4個まで|庭に2個並べても2組は来ない
「1個で来ないなら2個かければいい」と考えて、同じ木や隣り合う木に複数かける人がいます。これは効果が薄い打ち手です。小鳥の多くは繁殖期になわばりを持つため、ひとつのなわばりの中に複数あっても使われません。
『Strix』8号は具体的な目安を示しています。「製作した巣箱の数が限られていて、かける場所に余裕があるなら、できるだけ分散させたほうがよい」「広いなわばりをもつ種では、ひとつのなわばりの中にせいぜい3〜4個の割合でかけたほうがよい」。集団で繁殖できる種なら密集させても効果はありますが、シジュウカラのようになわばりを持つ種では分散が原則です。
実践するなら、庭に2個かけるより、庭に1個・少し離れた場所に1個のほうが効率的です。1個目と2個目のあいだに建物や生垣など視界を遮るものが入ると、鳥からは別の場所として認識されやすくなります。
やりがちな失敗が、「入らないからもう1個」を毎年繰り返して、狭い庭に巣箱が5個も6個も並んでしまうこと。数を増やしても入居率は上がらず、掃除の手間だけが増えます。増やす前に、既存の1個の高さ・穴・向きを直すほうが確実です。
戸建て・ベランダ・里山|住まいのタイプ別の打ち手
庭の条件は人によって違うので、タイプ別に整理します。戸建てで庭木がある場合は、この記事の標準どおりに進めてください。幹の直径が10cm以上ある木を選び、入口の中心を地上170〜230cmに。前方が開けていて、午後に日陰になる面が理想です。
マンションのベランダの場合は、正直に言って難易度が上がります。地上高が3階以上あると、シジュウカラ類の選好帯からは大きく外れます。また、ベランダは人の生活動線そのもので、洗濯物の出し入れが1日に何度も発生します。壁面への固定も規約上できないことが多い。この場合は巣箱ではなく、冬季限定の餌台から始めるほうが野鳥との距離は縮まります。
里山や別荘地の場合は、天然樹洞との競合を意識してください。老木が多いエリアでは、あえて樹洞の少ない若い林の縁に配置するほうが結果が出ます。また、鳥の密度が高いぶん、なわばりの分散ルール(3〜4個まで)も守りやすくなります。
いずれのタイプでも共通するのが、シーズンの途中で場所を動かさないことです。営巣が始まってから移動させると、繁殖は失敗します。動かすのは秋の掃除のタイミングだけ、と決めておいてください。
巣箱の前に足りないのは、水場と隠れられる低木
巣箱だけを完璧にしても、庭全体が鳥にとって使えない場所なら意味がありません。鳥が繁殖地を選ぶ基準は「巣がある」だけでなく、「餌が近くにある」「水が飲める」「隠れられる」の3点がそろっているかです。
特に軽視されがちなのが水場です。浅い皿に水を張って地面から少し高い位置に置くだけで、水浴びと飲水の場になります。深さは2〜3cmで十分。鳥は深い水を嫌います。水は毎日替えて、皿は定期的に洗ってください。
隠れ場所も重要です。巣箱の周囲に低木や生垣があると、親鳥は一度そこに降りてから巣箱に入る、という二段構えの動きができます。捕食者に見つかりにくくなるため、開けた芝生だけの庭より安心して使えます。ただし、前述のとおり入口の真正面2mに枝を張り出させないこと。
餌については、日本野鳥の会系の解説では、野鳥に親しむための給餌は自然界に食物が乏しくなる冬季に限り、餌の量も過剰にならないよう制限することが基本とされています。食べ残しや糞はこまめに掃除し、餌が傷まないよう清潔に管理してください。カラスやハトのように人の生活と軋轢が生じている生物、生態系に影響を与えている移入種、水質悪化が指摘されている場所などでは、給餌を控える必要があります。

| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ○ |
◎=巣箱に動きが出る時期(3〜5月は繁殖開始、10〜11月は掃除とかけ直しの適期) ○=冬のねぐら利用や下見が見られる △=繁殖期が終わり、動きが少ない
待っているあいだに、やってはいけないこと
中を覗くのは最小限に|親鳥が巣を放棄することがある
巣箱に鳥が入った気配があると、中を見たくなります。しかし、抱卵初期に人が繰り返し近づくと、親鳥が巣を放棄することがあります。せっかく入居してくれた巣箱を、自分の手で空き家に戻してしまうのは避けたいところです。
親鳥がもっとも神経質になるのは、卵を産んでから温め始めるまでの時期です。この段階では、まだヒナへの投資が少ないため、危険を感じれば巣を捨てて別の場所でやり直す選択をします。逆に、ヒナが孵ってからは放棄しにくくなりますが、今度は餌運びの中断が成長に響きます。
観察の仕方としては、双眼鏡で遠くから見るのが基本です。親鳥がくちばしに虫をくわえて巣箱に入る、糞のかたまりをくわえて出てくる、といった動きは10m離れていても十分に見分けられます。窓の内側からなら、鳥はほとんど気にしません。
どうしても中を確認したい場合は、繁殖が完全に終わった秋の掃除のときにしてください。開閉式の巣箱は掃除のためのものであって、繁殖中に覗くためのものではありません。この線引きだけは守ってください。
卵やヒナに手を出すと、鳥獣保護管理法に触れる
巣箱を扱ううえで、法律の線引きは知っておく必要があります。環境省の「野生鳥獣の違法捕獲の防止」によれば、許可または狩猟者登録がない場合、鳥獣の捕獲は原則として禁止されています。違反した場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。
鳥獣の捕獲等や鳥類の卵の採取等は、狩猟による場合を除いて原則禁止であり、捕獲には環境大臣または都道府県知事の許可が必要です。東京都はペット目的での捕獲・飼養を許可していません。つまり、巣箱の中の卵を持ち出したり、ヒナを取り出して育てようとしたりする行為は、法の枠の外にあります。
巣立ち前後のヒナが地面にいるのを見つけた場合も、拾わないのが原則です。多くの場合、近くに親鳥がいて世話を続けています。どうしても心配なときは、自分で判断せず、お住まいの都道府県の鳥獣行政担当窓口に相談してください。判断は行政の指示に従うのが確実です。
巣箱にかかわる作業のタイミングも、この考え方に沿って決まります。繁殖中の巣箱を移動させたり、中の巣を取り除いたりするのは避け、作業は繁殖期が終わった秋に行う。この原則を守っていれば、法律の面でも鳥の面でも問題は起きません。
スズメやハチが先に入っても、勝手に取り出さない
「シジュウカラを呼びたかったのにスズメが入ってしまった」という相談はよくあります。気持ちはわかりますが、入居済みの巣を繁殖期に撤去する判断は、自分で下さないでください。スズメも野鳥であり、その巣と卵は法の対象です。
前述の調査でも、対象になった巣箱2,276個のうち14.5%(330個)は、シジュウカラ類とスズメ以外の鳥類、ハチ類、アリ類、ゴキブリ類、ムササビなどが使っていました。巣箱は、かけた人の想定どおりの入居者だけを迎える設備ではありません。
シジュウカラを狙いたいなら、翌シーズンに向けて条件で選別するのが正しい手順です。具体的には、入口の直径を2.7〜3.0cmの下限側に寄せる、高さを170〜230cmに上げてスズメの選好帯(140〜170cm)から外す、という2つ。入口の大きさで入れる種を絞るのは、『Strix』8号が示す基本の考え方でもあります。
スズメバチなど危険な生きものが営巣した場合は、話が別です。自分で対処せず、お住まいの自治体の相談窓口や専門の駆除業者に連絡してください。巣箱は高い位置にあることが多く、脚立の上での作業は転落の危険も伴います。無理をしないことが大前提です。
まとめ|巣箱に鳥が来ないときの直し方
巣箱に鳥が来ない原因は、たいてい派手なものではありません。20cm低かった、穴が0.5cm大きかった、入口の前に枝が1本あった。その程度のずれが積み重なって、鳥に「ここではない」と判断されているだけです。最初の一歩として、今日はメジャーを1本持って庭に出て、入口の中心の地上高だけ測ってみてください。170cmを切っていたら、それが答えかもしれません。
そして、直したあとは2〜3シーズン待つつもりで構えてください。ドイツの試験林のデータが示すとおり、巣箱を利用する鳥の密度が上がりきるには年単位の時間がかかります。秋に掃除して、冬に静かに待って、春に耳を澄ます。この1年のサイクルを2回か3回まわしたころ、入口から顔を出すシジュウカラに出会えるはずです。
※本記事の数値は環境省・東京都環境局・日本野鳥の会の公開資料および研究誌『Strix』掲載論文に基づいています。法令の運用や自治体の対応は変わることがあるため、実際の対応は環境省やお住まいの自治体の最新情報をご確認ください。

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