秋に架けた巣箱に、シジュウカラがやって来た。入口にとまって、首をかしげて中をのぞき込んでいる。そのまま入るかと思ったら、数秒で飛び去ってしまった——。庭に巣箱を架けた人が最初にぶつかるのが、この「下見だけして帰る」現象です。
結論から言うと、下見して去るのは正常な行動です。シジュウカラは巣箱を見つけたその日に入居を決めることはほとんどなく、秋から冬にかけて何度も往復しながら候補地を絞り込み、繁殖が始まる3月中旬以降にようやく巣材を運び入れます。万博記念公園で行われた巣箱調査では、70個の巣箱のうち繁殖が確認できたのは29個。つまり、架けた巣箱の6割近くは下見だけで終わっているという計算になります。
この記事では、下見という行動が何を意味しているのか、いつ・どんな順序で進むのか、そして「下見までは来るのに入らない」ときにどこを直せばいいのかを、東京都環境局の巣箱資料や公園の繁殖調査といった公的データをもとに整理します。読み終わるころには、庭で起きている数秒の出来事が、シジュウカラの入居審査のどの段階なのか判断できるようになるはずです。
・下見は秋〜冬に始まり、2〜3月に回数が増える長期の「入居審査」
・入らない原因の多くは出入り口の直径(2.7〜3.0cm)と設置高さ(3m前後)
・出入り口の前に枝があると、それだけで候補から外れる
・下見中に人が近づくと審査は中断される。距離を保つのが最大の対策
シジュウカラの巣箱下見とは?のぞき込むだけで入らない理由

数秒で飛び去るのが正常。下見は「入居審査」の第一段階
巣箱の入口にとまって中をのぞき、数秒で去っていく。この行動は失敗ではなく、シジュウカラが営巣場所を選ぶ通常の手順です。理由は、シジュウカラにとって巣穴選びが繁殖の成否を直接左右するからです。ヘビやネコに襲われる位置、雨が吹き込む向き、内部が狭すぎる箱を選んでしまえば、その年の子育てはやり直しがききません。
シジュウカラは全長15cm、翼開張22cm、体重11〜20gという小さな鳥です。この体格で天敵から卵とヒナを守るには、穴の位置と大きさを何度も確かめる必要があります。庭での見え方としては、まず1〜2m離れた枝にとまって巣箱を眺める、次に屋根にとまる、そして入口の縁にとまって内部をのぞく、という段階を踏むことが多いです。ここまでで飛び去っても、審査は続いています。
やりがちな失敗は、この時点で「気に入らなかったんだ」と判断して巣箱の位置を動かしてしまうことです。動かすと審査はゼロからやり直しになります。下見が観察できたということは、すでに候補リストに入っている証拠なので、そのまま動かさずに待つのが正解です。
秋から冬にかけて始まり、春まで続く長い検討期間
下見は繁殖直前に始まるのではなく、その半年近く前から始まります。東京都環境局の巣箱資料が「巣箱は秋~冬にかけましょう」と案内しているのは、この長い検討期間に間に合わせるためです。
理由は、シジュウカラの1年の過ごし方にあります。繁殖期は3月中旬から6月上旬頃で、それ以外の季節は2〜18羽程度の群れで行動し、他種と混群をつくって同じ範囲を移動しています。群れで動いている間に、その行動圏の中にある樹洞や隙間を把握しているわけです。春になって急に巣箱を架けても、その巣箱は「以前から知っている穴」のリストに入っていません。
庭での判断材料としては、冬のあいだに巣箱の周囲でシジュウカラの姿を見かけるかどうかが目安になります。姿を見かけているなら、その群れの行動圏に庭が入っているということです。豆知識として、冬に架け遅れた場合でも架けないよりは可能性が残ります。ただし初年度の入居率は下がると考えて、翌シーズンを本命に据えるほうが気持ちが楽です。
| 分類 | スズメ目シジュウカラ科シジュウカラ属(学名 Parus minor) |
| 全長 | 全長15cm前後/翼開張22cm/体重11〜20g |
| 見られる季節 | 一年中(繁殖期は3月中旬〜6月上旬頃) |
| 生息環境 | 小笠原諸島、大東諸島を除く日本全国で留鳥または漂鳥 |
| 食べもの | 昆虫やクモ、ミミズ、植物の種子や果実など |
| 営巣場所 | 樹洞やキツツキの古巣、石垣、巣箱や電柱の穴などの人工物 |
オスが案内し、メスが決める。ペアで来たら本気度は高い
2羽そろって巣箱に来ている場合、審査は終盤に近づいています。シジュウカラはペアで行動圏を持ち、繁殖場所の最終決定にはメスが深く関わります。庭で観察していると、1羽が入口のすぐ横の枝でさえずり続け、もう1羽が入口から中に入る、という役割分担が見えることがあります。
見分け方は胸から腹にかけて走る黒い縦線(ネクタイと呼ばれる部分)の幅です。黒の面積が広く太いほうがオス、細いほうがメスと判断できます。実際の観察記録でも、オスとメスの区別はこの黒の多さで行われています。中に入るのがメスであれば、産卵に向けた具体的な確認をしている可能性が高い場面です。
注意点として、この段階で巣箱の真下に立つと、ペアは離れた枝で待機したまま近づけなくなります。巣箱の観察記録では、オスのほうが警戒心が強く、撮影を意識して巣箱に入るルートを変える行動が見られたと報告されています。人の存在は確実に行動を変えると考えて、家の窓越しに見るくらいの距離を保ってください。
「下見」と「ねぐら利用」は別物。見分ける手がかりは時刻
巣箱に出入りしていても、繁殖のための下見とは限りません。シジュウカラは寒い時期に巣箱を夜のねぐらとして使うことがあり、これは営巣とはまったく別の行動です。区別できないまま「入った」と喜んで、春になっても巣材が入らず戸惑う人は少なくありません。
手がかりは時刻です。ねぐら利用なら、日没前後に入って翌朝の明るくなる時間帯に出ていきます。一方、繁殖の下見は日中、しかも短時間の出入りを繰り返すのが特徴です。日中に何度も出入りしているなら審査中、夕方に入ったきり出てこないならねぐらとして使われている、と読み分けられます。
豆知識として、ねぐらに使われている巣箱は繁殖にも選ばれやすい候補です。内部を毎晩確認しているようなものなので、雨漏りや隙間風の有無まで把握されています。冬にねぐら利用が確認できた巣箱は、春まで手を触れずにそのまま残しておくのが得策です。掃除をしたくなっても、シーズンの区切りまで我慢してください。
下見が始まる時期はいつ?月別に見る巣箱チェックのピーク
架けるのは秋から冬。春に架けるのでは遅い理由
巣箱を架けるベストタイミングは秋から冬です。東京都環境局の資料も「巣箱は秋~冬にかけましょう」と明記しています。キヤノンのバードブランチプロジェクトでも、繁殖が3月から5月ごろに始まるため設置はそれよりも前、秋から冬にかけて行うのが適していると説明されています。
理由は2つあります。1つは前述の通り、冬の群れ行動のなかで巣箱を認識してもらう必要があること。もう1つは、新しい木材のにおいや光沢が消えるまでに時間がかかることです。架けたばかりの巣箱は周囲の樹皮から浮いて見え、警戒対象になりやすい。数か月風雨にさらされて色が落ち着くと、周囲の景色になじみます。
庭での目安は、落葉樹の葉が落ちきる11月から12月です。葉が落ちれば枝ぶりが見通せるので、あとで説明する「出入り口の前の枝」の判断もしやすくなります。注意点は、寒くなってから慌てて架け替えると、すでにねぐら利用が始まっている巣箱を空にしてしまうことです。既存の巣箱がある庭では、掃除と架け替えは秋のうちに終わらせておきます。
2月から3月、のぞき込む回数が一気に増える
下見の回数がはっきり増えるのは2月から3月です。この時期になると、それまで群れで動いていたシジュウカラがペアに分かれ、行動圏を絞り込み始めます。巣箱への関心が高まるのはこのタイミングで、庭に立っていると1日に何度も同じ巣箱に来る個体を確認できます。
根拠は繁殖スケジュールの逆算です。繁殖期は3月中旬から6月上旬頃で、万博記念公園の調査では巣作りが3月下旬から4月上旬、メスが1週間かけて巣を作ると記録されています。3月下旬に巣作りを始めるためには、その1〜2か月前に場所が決まっていなければ間に合いません。
庭での見分け方としては、さえずりの変化が分かりやすい合図になります。冬のあいだの「ジュクジュク」という地鳴きから、「ツーピー ツーピー」という繰り返しのさえずりに変わったら、繁殖に向けた行動が始まっているサインです。注意点は、この時期に庭木の剪定を行うと、絞り込みの最中に候補地の風景を変えてしまうこと。剪定は前年の秋までに済ませておくのが理想です。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ◎ | ◎ | △ | △ | △ | △ | △ | △ | ○ | ○ | ○ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる/巣箱の下見行動が観察できる時期の目安(野鳥の教科書調べ)。4月以降は下見ではなく営巣・子育ての段階に入ります
3月中旬、巣材が運ばれ始めたら下見は終了
下見の終わりは、コケや毛が入口から運び込まれた瞬間です。ここから先は審査ではなく工事に変わります。赤外線カメラを使った巣箱内の観察記録では、3月16日に巣作りが始まり、5月8日に巣立つまでの54日間が記録されています。
巣材はコケ、毛糸、犬の毛などが使われ、メスが1週間かけて巣を作ります。庭で見分けるポイントは、くわえているものの見た目です。緑っぽい塊ならコケ、白や茶色のふわふわした繊維なら動物の毛。餌となる虫をくわえているときは真っ直ぐ飛び去るのに対し、巣材のときは巣箱に向かって一直線に運び込むので、動きの向きでも判別できます。
注意点は、巣材を運び始めた時点で観察の距離をさらに広げることです。この段階での中断は、巣そのものを放棄させる原因になります。豆知識として、巣材の運び込みは日の出後の数時間に集中する傾向があるため、朝の短時間だけ窓越しに眺めるのが負担の少ない観察方法です。
1シーズンの流れを1本の線でつかむ
下見から巣立ちまでの流れを時系列で押さえておくと、いま庭で起きていることの位置づけが分かります。秋から冬に下見開始、2〜3月に絞り込み、3月下旬から4月上旬に巣作り、4月中旬から産卵、そして5月に巣立ち。これが標準的な1本の線です。
この流れが分かっていると、判断を間違えにくくなります。たとえば4月に入って巣箱への出入りが止まったとき、下見が失敗したのではなく、抱卵に入ってメスが中に座り続けている可能性があります。万博記念公園の調査では抱卵日数は13〜14日間で、この間は外から見て動きがほとんどなくなります。
庭での確認方法は、巣箱ではなく周辺の枝を見ることです。抱卵中はオスがメスに給餌するため、虫をくわえたオスが巣箱の近くに現れます。注意点は、静かになったからといって中をのぞいて確認しないこと。営巣中の巣箱を開けることは、繁殖の放棄に直結します。判断は外から見える行動だけで行ってください。
下見に来たのに入らない4つの原因と、シーズン前にできる直し方

出入り口の直径が合っていない:基準は2.7〜3.0cm
下見までは来るのに入らない原因で最も多いのが、出入り口の直径です。東京都環境局の資料では、シジュウカラ・スズメ用の出入り口の直径は2.7〜3.0cmとされています。市販の巣箱や手作りの巣箱では28mm前後、つまり2.8cmに設定されることが多く、これが一つの目安になります。
理由は、穴の大きさが天敵とライバルの侵入可否を決めるからです。穴が大きければシジュウカラ自身は楽に入れますが、同時により大きな鳥も入れてしまいます。逆に小さすぎれば、巣材をくわえた状態や、太った状態での出入りが難しくなる。2.7〜3.0cmという幅は、この両方のバランスが取れる範囲として示されている数値です。
確認方法は簡単で、定規を当てて内側の直径を測るだけです。3.0cmを超えている場合は、内側から板を1枚あてがって穴を絞る方法があります。注意点は、穴のふちがささくれ立っていないか触って確かめること。ふちが荒れていると出入りのたびに羽を傷めるため、下見の段階で敬遠されます。

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設置の高さが足りない:地面から3m前後が目安
高さは天敵リスクに直結する項目です。東京都環境局の資料では、シジュウカラ・スズメの巣箱の設置高さは地面からの高さ3m前後、ムクドリの場合は4〜5mと示されています。キヤノンのバードブランチプロジェクトでは地面から2メートル以上の高所に架けるという表現が使われており、いずれにせよ人の目線より上が前提です。
理由は、地上からの接近を防ぐためです。ネコは垂直な幹を登れますし、ヘビも樹上に達します。それでも高さがあるほど到達までの時間が延び、親鳥が異変に気づく余裕が生まれます。低い位置の巣箱は、下見の段階で候補から外されやすくなります。
庭での判断は、脚立を使わないと手が届かない高さかどうかで見当がつきます。手を伸ばして届く高さなら低すぎます。注意点は、高くしすぎると年1回の掃除と架け替えができなくなること。作業できる範囲の上限を先に決めてから、設置場所を選ぶ順序にすると失敗しません。

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出入り口の前に枝がある:それは天敵の足場になる
高さと直径が合っていても、入口の前に太い枝があれば選ばれません。東京都環境局の資料は「出入り口付近の枝は、小鳥の敵(ヘビ・猫・カラス)の足場になってしまいます」と、鳥が嫌がる例としてはっきり挙げています。
理由は、枝があることでカラスが巣箱の正面に静止できてしまうからです。ホバリングし続ける必要がなければ、カラスは入口に嘴を差し込んで中を探ることができます。シジュウカラの下見は、この「敵が足場を得られるか」を確認する作業でもあります。
庭での見分け方は、巣箱の入口の正面から半径1歩ぶんくらいの空間に、体重を支えられる太さの枝がないかを確認することです。細い小枝は問題になりにくく、指ほどの太さがある枝が正面にあるかどうかが分かれ目になります。豆知識として、ひさし(屋根の張り出し)にも注意点があります。同資料では、ひさしは光や風雨を防ぐ一方で、長すぎると鳥の出入りのジャマになり、箱に直角だと風雨避けの役割を果たさないと指摘されています。
人の動線が近すぎる:洗濯物・玄関・駐車スペース
庭のなかでも、人が毎日通る場所の近くは避けられます。物干し竿の真上、玄関ドアの正面、車の乗り降りをする位置の頭上。こうした場所は、下見の段階で人の出入り頻度が高いと判断され、候補から外れます。
理由は、繁殖期の1日あたりの往復回数の多さです。万博記念公園の調査では、ヒナへの給餌は1時間に13.5回、ヒナ1羽当たりでは1時間に1.5回という頻度で行われています。この頻度で往復する経路上に人がいれば、そのつど給餌が中断されます。親鳥はその負荷を、下見の段階で見積もっています。
具体的な選び方としては、家の中の窓から見えるけれど、人が地上を歩かない位置を探すのが正解です。庭の奥、隣家との境界寄り、あるいは物置の裏手など。注意点として、犬を庭に放している場合は、その行動範囲の真上も避けます。豆知識ですが、道路に面した側より庭の内側のほうが、車や通行人の刺激が少なく選ばれやすくなります。
のぞき込みから読み解く「本気度」|観察でわかる4つのサイン
中に入って数十秒とどまったら、候補の上位に入っている
入口にとまるだけの段階と、体ごと中に入る段階では意味が違います。中に入って数十秒とどまるようになったら、その巣箱は候補の上位です。内部の広さ、床から入口までの距離、隙間風の有無を実際に確かめている段階だと考えられます。
根拠は巣箱の内部構造にあります。東京都環境局の資料では、シジュウカラ・スズメ用の巣箱は高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm、床から出入り口までの高さは15cmくらいとされています。この「床から入口まで15cm」という距離が、卵とヒナを外から見えない位置に置くための設計です。中に入ったシジュウカラは、まさにこの距離を体で測っています。
庭での見分け方は、出てくるときの様子です。すぐに飛び去らず、入口の縁でいったん止まって周囲を見回してから飛ぶなら、退出時の安全確認までしている証拠です。注意点は、この段階で巣箱の点検をしたくなっても手を触れないこと。人のにおいや振動が加わると、確認済みの条件が変わってしまいます。
コンコンと内側をつつく音が聞こえたら
巣箱から小さく連続した打音が聞こえたら、内部の状態を確かめる作業に入っています。シジュウカラは巣箱の内側を嘴でつつき、木の硬さや腐り具合、内壁のざらつきを調べます。この音は屋外でも数m離れれば聞こえる程度の大きさです。
理由は、内壁の質が巣立ちに関わるためです。ヒナは巣立ち前に内壁を足がかりにして入口までよじ登ります。内壁がつるつるに加工されていると登れず、巣立ちに失敗する原因になります。シジュウカラはこの足がかりの有無を、つつく感触で判断していると考えられます。
実際の対策としては、巣箱を選ぶ・作る段階で内側にニスや塗料を塗らないことです。外側の防腐処理は雨対策として意味がありますが、内側は無塗装のままにします。豆知識として、内壁に横方向の浅い切り込みを入れておくと足がかりになります。ただし切り込みが深すぎると巣材が引っかかるので、爪が引っかかる程度で十分です。
メスが単独で入り、オスが外で鳴き続ける
この組み合わせが見えたら、決定はかなり近づいています。オスが入口の近くの枝でさえずりながら周囲を警戒し、その間にメスが中を確かめる。役割が分かれているということは、単なる巡回ではなく、具体的な候補として検討されている状態です。
見分け方はやはり胸の黒い縦線の太さです。太いほうがオス、細いほうがメス。中に入るのが細いほうであれば、産卵する側が内部を確認していることになります。さえずりについては、オスが同じフレーズを一定のリズムで繰り返すのが特徴で、地鳴きとは明らかに調子が違います。
注意点は、この場面でカメラを構えて近づくことです。前述の観察記録でも、オスは警戒心が強く、撮影を意識して巣箱に入るルートを変える行動が見られたと報告されています。オスの警戒が強まればメスの確認作業も中断されます。撮影したい場合は、あらかじめ離れた位置に固定して、人は近づかない方法にしてください。
コケや毛を1本くわえてくる「予行演習」
本格的な巣作りの前に、巣材を1本だけくわえて来て、置いて帰るという行動が見られることがあります。これは審査から工事へ移る境目のサインです。ここまで来れば、その巣箱は選ばれたと考えてよい段階です。
根拠は、巣作りの規模です。万博記念公園の調査では、巣材はコケ、毛糸、犬の毛などで、メスが1週間かけて巣を作ると記録されています。1週間かけて運ぶ量の第一便が届いたということは、場所の決定が済んでいるということです。
庭での対応は、この時点から観察の距離を固定することです。今日は窓越し、明日は庭先、と距離を変えると親鳥は毎回警戒し直します。同じ場所から同じ時間帯に見るほうが慣れが早い。注意点として、巣材を人が用意して置いておくのは避けたほうが無難です。化学繊維や長い糸は絡まる危険があり、良かれと思った行為が事故につながります。
下見を邪魔しないための見守り方|やりがちな4つの失敗

失敗1:気になって毎日のぞき込んでしまう
最も多い失敗が、巣箱の下まで行って見上げる、あるいは開閉部を開けて中を確認することです。人が近くにいる時間が長いほど、下見は進みません。営巣が始まってからの点検は、繁殖放棄の直接の原因になります。
理由は、親鳥にとって人が捕食者と同じカテゴリの刺激だからです。巣箱の周囲で繰り返し大きな動くものが現れれば、その場所は「危険な穴」として評価が下がります。前述のように、警戒したオスは巣箱への進入ルートまで変えてしまいます。
代わりの方法は、家の窓を定位置にすることです。カーテンの隙間から双眼鏡で見れば、姿を見せずに出入りを数えられます。注意点として、窓を開けて身を乗り出すと結局は同じことになるので、ガラス越しのまま観察してください。豆知識として、出入りの回数だけを記録していくと、下見の段階から抱卵、育雛への移行が数字の変化として読み取れます。
失敗2:掃除のタイミングを間違えて、下見中の巣箱を空にする
もう一つの典型的な失敗が、掃除の時期です。冬の晴れた日に「そろそろきれいにしよう」と巣箱を開けると、ねぐらとして使い始めていた個体を追い出すことになり、下見の対象からも外れてしまいます。
正しい時期は秋です。キヤノンのバードブランチプロジェクトでは、翌年の秋には必ず中の巣材を取り出し、掃除・補修をして架け替えると案内されています。架けた巣箱は年に1度、必ず手入れするというのが基本の考え方です。放置したままの巣箱や傷んだ巣箱に野鳥が営巣すると、大型の鳥に狙われやすくなるとも指摘されています。
作業の手順としては、前シーズンの巣材を取り出し、板の割れや釘の緩みを直し、底板の水抜き穴が詰まっていないかを確認します。水抜き穴は直径3〜4mm程度の小さな穴で、東京都環境局の資料でも底板には水抜き穴を小さく開けると案内されています。注意点は、掃除のあとに設置位置を変えないこと。位置が変われば、前年の下見の記憶が生かせなくなります。
失敗3:巣箱のすぐ横に餌台を置いてしまう
巣箱と餌台を近づけると、巣箱の周囲に他の鳥が集まり、落ち着いて下見ができなくなります。餌台には複数種が集まるため、その真横に巣穴があれば競合と接触の機会が増えるからです。餌台を置くなら、巣箱から離れた位置にします。
給餌そのものについては、条件を踏まえることが前提です。日本野鳥の会は、自然界に食べ物が豊富な春夏の設置は避け、虫が少なくなる11〜3月が設置に向く時期としています。管理面では、残った餌は捨てて毎日新しい餌を用意し、掃除をして清潔な状態を保ち、ワンシーズンの設置が終わったら消毒をするのが望ましいとされています。
また、日本野鳥の会の案内では、管理が不十分な餌台に鳥を集めることは野鳥への感染のリスクを高めることにつながるとして、餌台を清潔に保ち定期的に消毒すること、近くで感染が見つかった際には給餌を自粛することが呼びかけられています。カラスやハトのように人の生活と軋轢が生じている生物、生態系に影響を与えている移入種、水質悪化が指摘されている場所などでは控える必要があるとも示されています。条件と管理をセットで考えるべき行為だと理解しておいてください。

庭やベランダに餌台を置いてみたものの、一羽も来ないまま数日が過ぎた。あるいは、これから置こうと思って調べ始めたら「餌付けはやめましょう」という自治体のページに行…
失敗4:ネコとカラスの対策を後回しにする
下見は安全性の審査でもあるため、天敵対策を後回しにすると評価が上がりません。ネコ、ヘビ、カラス。この3者への備えは、巣箱を架ける前の段階で組み込んでおく必要があります。
基本は前述の2点、つまり地面から3m前後の高さを確保することと、出入り口付近に足場になる枝を残さないことです。東京都環境局の資料が鳥が嫌がる例として枝を挙げているのは、この足場問題があるからです。加えて、巣箱の背には背板や添え木を取り付けると木にかけたときに安定するとされており、揺れの少なさも安心材料になります。
庭での具体策としては、幹に沿って伸びるツタや、隣家の塀から巣箱の高さに届く枝など、地面以外からの侵入経路を消していきます。注意点として、金属の忌避グッズを幹に巻く方法は、夏に高温になる素材だと樹木を傷めることがあります。豆知識ですが、庭にネコがよく来る場合は、餌台を置かないだけでも巣箱周辺に集まる鳥の数が減り、結果としてネコを引き寄せにくくなります。
鳥獣保護管理法により、許可なく野鳥を捕獲・殺傷すること、飼うことは禁止されています。違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。卵またはヒナを含めた野生鳥獣は、許可なく捕獲・殺傷することができません。営巣が始まった巣箱を開ける、中身を取り出すといった行為は、この規定に触れるおそれがあります。掃除や補修は、必ず繁殖が終わったあとの秋に行ってください。詳しくは東京都環境局「野生鳥獣との接し方について」をご確認ください。
シジュウカラ以外も巣箱を下見する|スズメ・ムクドリとの見分け方
スズメ:同じサイズの巣箱を使うライバル
下見に来ているのがシジュウカラとは限りません。東京都環境局の資料でも、シジュウカラとスズメは同じ枠でまとめられており、巣箱の高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm、出入り口の直径2.7〜3.0cmという同じ寸法が示されています。つまり、この寸法の巣箱はスズメも使えます。
理由は体格が近いことです。見分け方は頭の色で、シジュウカラは頭が黒く頬が白い。スズメは頭が茶色で、頬に黒い斑点があります。飛び方も違い、シジュウカラは枝から枝へ細かく移動するのに対し、スズメは地面に降りて跳ねるように移動する場面が多く見られます。
注意点は、どちらに来てほしいかで穴のサイズを微調整する考え方です。2.7〜3.0cmという範囲の下限に近づけるほど体格の大きい個体は入りにくくなります。豆知識として、スズメが入ったからといって失敗ではありません。スズメも巣箱を必要としている在来の鳥で、庭の巣箱が繁殖の助けになっているという点では同じです。
ムクドリ:寸法がまったく違うので巣箱で選別できる
ムクドリは巣箱に入る鳥ですが、必要とする寸法が大きく異なります。東京都環境局の資料では、ムクドリ用の巣箱は高さ28〜40cm、奥行き・幅15〜18cm、出入り口の直径4.0〜6.0cm、床から出入り口までの高さ18〜23cmとされ、設置高さも4〜5mです。
この差が意味するのは、シジュウカラ用の寸法を守っていればムクドリは入れないということです。出入り口の直径2.7〜3.0cmに対して、ムクドリが必要とするのは4.0〜6.0cm。この差は体格の差そのもので、穴を規格通りに作ることが選別装置として機能します。
見分け方は大きさと嘴の色です。ムクドリは全身が黒褐色で、嘴と脚がオレンジ色。群れで行動し、鳴き声も濁った大きな声で、シジュウカラの細い声とは明らかに違います。注意点として、大きな鳥が巣箱の周りに来ているのに入れずにいる場合、それは規格が正しく機能している状態です。慌てて穴を広げないでください。
ヤマガラ:同じ仲間で、同じサイズの巣箱を使う
ヤマガラもシジュウカラと同じシジュウカラ科の仲間で、同じくらいの大きさの巣箱を使うことが知られています。庭に架けた巣箱にヤマガラが下見に来ることもあり、その場合も対応は同じで、動かさずに見守ります。
見分け方は色です。シジュウカラが白と黒と灰色を基調にしているのに対し、ヤマガラは腹から脇にかけてオレンジがかった褐色をしています。頭の模様も、シジュウカラの「黒い頭に白い頬」に対して、ヤマガラは黒とクリーム色の組み合わせで、遠目にも色味の差ですぐ分かります。
環境の違いも手がかりです。ヤマガラは常緑広葉樹の多い環境で見られることが多く、住宅地の庭で見かける頻度はシジュウカラより低い傾向があります。注意点として、ヤマガラが来たからといって巣箱の仕様を変える必要はありません。豆知識ですが、どちらが入るかは年によって変わることがあり、同じ巣箱で違う鳥の子育てを見られる年もあります。
寸法で決まる「誰が入る巣箱か」を一覧で確認する
ここまでの数値を1つの表にまとめます。下見に来る鳥をある程度コントロールできるのは、この寸法設計があるからです。以下はすべて東京都環境局の巣箱資料に示された数値で、単位はcmです。
| 比較項目 | シジュウカラ | スズメ | ムクドリ |
|---|---|---|---|
| 巣箱の高さ | 18〜23cm | 18〜23cm | 28〜40cm |
| 奥行き・幅 | 12〜15cm | 12〜15cm | 15〜18cm |
| 出入り口の直径 | 2.7〜3.0cm | 2.7〜3.0cm | 4.0〜6.0cm |
| 出入り口までの高さ | 15cmくらい | 15cmくらい | 18〜23cm |
| 地面からの設置高さ | 3m前後 | 3m前後 | 4〜5m |
読み方のコツは、出入り口の直径の行だけを先に見ることです。ここが2.7〜3.0cmならシジュウカラとスズメ向け、4.0〜6.0cmならムクドリ向けと、ひと目で用途が分かれます。手持ちの巣箱がどちらの規格に近いかを測れば、いま下見に来ている鳥の候補も絞り込めます。
下見が実ったあとに起きること|産卵から巣立ちまでの50日間
4月中旬から産卵。1腹8〜10個が普通
巣が完成すると産卵が始まります。万博記念公園の調査では産卵は4月中旬からで、1腹卵数は4から12だが、8から10が普通と記録されています。1羽が10g台の鳥が、これだけの数の卵を産むわけです。
理由は、巣立ちまでに失われる個体が一定数出るためです。同じ調査では、7つの巣箱の平均で育雛数8.1羽に対し、巣立ち数は4.6羽、巣立ち率は49.6%でした。産卵数の多さは、この歩留まりを前提とした繁殖戦略と読めます。
庭からの見分け方は、出入りの様子です。産卵期は毎日1個ずつ産むため、メスが短時間だけ入って出ていく動きが数日続きます。注意点は、この時期に巣箱を開けて卵の数を数えないこと。卵を含む野生鳥獣は許可なく扱えず、法律上の問題があるうえ、放棄の原因にもなります。
抱卵は13〜14日。雨の日は抱卵時間が短くなる
産卵が終わると抱卵に入り、外から見える動きが一気に減ります。万博記念公園の調査では抱卵日数は13〜14日間で、孵化は数時間から1〜2日で全て終わると記録されています。図鑑データでは、雌のみが11〜12日間抱卵するという記述もあります。
興味深いのは、抱卵が天候に左右されるという点です。赤外線カメラによる巣箱内の観察では、抱卵時間と雨量、湿度、日射量の間には相関関係が見られ、雨の日には抱卵時間が短かったと報告されています。同じ観察では、雨天時は雛への給餌回数も減少したとされています。
庭での確認方法は、巣箱そのものではなく周辺です。抱卵中はオスがメスに給餌するため、虫をくわえたオスが巣箱の近くに現れます。注意点として、静かな期間が2週間ほど続いても異常ではありません。焦って中を確認する行為が、最も繁殖を壊しやすいタイミングでもあります。
孵化後は1時間に13.5回の給餌ラッシュ
孵化すると、親鳥の往復が突然増えます。万博記念公園の調査では、平均給餌回数は1時間に13.5回、ヒナ1羽当たりでは1時間に1.5回。庭にいれば、明らかに動きが変わったことに気づけます。
理由は成長速度です。同調査では巣立ちは孵化後18〜20日とされ、20日足らずで飛べる体まで育てる必要があります。赤外線カメラの観察では、給餌開始から5日目までは給餌回数が増加してその後減少し、親鳥が運ぶ虫のサイズは日数とともに大きくなったと記録されています。ヒナの口の大きさに合わせて餌を変えているわけです。
観察の見どころは、親鳥がくわえてくる虫の種類です。青虫、クモ、ガの幼虫など、庭の植物についている虫が運ばれていきます。注意点として、この時期に庭で殺虫剤を使うと、そのままヒナの食べものが減ります。豆知識ですが、繁殖期に農薬の使用を控えることは、巣箱を架けること以上に子育ての成功に効いてくる要素です。
実は、巣立った直後のヒナを拾ってはいけない
意外と知られていないけれど、巣立ちは「無事に飛べるようになった日」ではありません。巣立ったばかりのヒナはうまく飛べず、地面にいることがよくあります。東京都環境局は、落ちているヒナの大半は元気で人間が干渉する必要のない状態であり、親鳥はヒナのもとへ戻って世話をすると案内しています。
対応は、拾わずにそのままにしてその場をそっと離れることです。人がそばにいると親鳥が近づけません。ただし、車道の上など危険な場所にある場合に限り、近くの木の枝などに移すという方法が示されています。巣立ちビナが見つかりやすいのは特に4月から6月です。
巣立ち後もしばらく親子の関係は続きます。万博記念公園の調査では巣立ちのあと2週間から1ヶ月は親鳥と同居するとされ、図鑑データでも若鳥は約1ヶ月間は両親と共に繁殖なわばりの中で行動した後に独立すると記されています。庭で親子連れのシジュウカラを見かけたら、それは下見から始まった一連の流れが最後まで進んだ証拠です。注意点として、この時期の巣箱にはもう戻らないことが多いので、掃除は秋まで待ってください。
巣立ちビナを見つけても拾わないでください。東京都環境局は、落ちているヒナの大半は元気で人間が干渉する必要のない状態であり、親鳥はヒナのもとへ戻って世話をすると案内しています。人がヒナのそばにいると、かえって親鳥はヒナに近寄れません。危険な場所にある場合のみ、近くの木の枝などに移してください。また、鳥獣保護管理法により、許可なく野鳥を捕獲・殺傷すること、飼うことは禁止されています。
はじめて巣箱を架ける人:秋に架ける・出入り口2.7〜3.0cm・地面から3m前後の3点だけ守れば準備は足ります。今年入らなくても失敗ではなく、下見の記憶を積み上げている途中です。
去年入らなかった人:下見が観察できたのか、そもそも来なかったのかで切り分けます。下見があったなら寸法と正面の枝、来なかったなら設置時期と高さを疑う順序です。
ベランダしかない人:人の動線と重なりやすいため、無理に架けるより地域の緑地で下見行動を探すほうが観察としては実りがあります。
まとめ|下見は失敗のサインではなく、選ばれる途中経過
下見だけして帰る姿を何度も見ると、つい何かを変えたくなります。けれど、シジュウカラにとって巣穴選びは1年に一度きりの重大な判断で、時間をかけるのが当たり前です。万博記念公園の調査で70個中29個という数字が示す通り、選ばれない巣箱があるのはむしろ普通のこと。最初の一歩としておすすめしたいのは、この秋に巣箱の出入り口の直径を定規で測ってみることです。2.7〜3.0cmから外れていたなら、そこが今年の分かれ目だったのかもしれません。測って、正面の枝を1本落として、あとは動かさずに冬を越す。それだけで来春の見え方が変わってきます。
※本記事の数値は東京都環境局・万博記念公園・日本野鳥の会などの公開資料に基づいています。制度や案内の内容は変わることがあるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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