ホームセンターで巣箱を買ってきて、庭の木に取り付けて、春を待つ。ところが3月が過ぎ、4月が過ぎ、5月になっても入口は静かなまま——。野鳥の巣箱でいちばん多い相談が、この「かけたのに入らない」です。せっかく用意したのに空き家のまま、というのは寂しいものですよね。
先に結論をお伝えします。入らない原因のほとんどは、箱そのものではなく入口の直径・かける高さ・向きと足場・かけた時期の4つのどれかにあります。とくに高さは、ふんわりと「地上2〜3mくらい」で済ませてしまいがちですが、日本野鳥の会の学術誌に載った2,276個ぶんの記録を読むと、シジュウカラ類が実際に選んだのは170cmから200cmという、思ったより低い帯でした。
この記事では、東京都環境局の資料や日本野鳥の会の調査論文をもとに、鳥種ごとの寸法、選ばれる高さ、かける時期、掃除のタイミング、そして卵やヒナが入ったときの法律上の線引きまでを順番に整理します。今日かけ直すだけで、来春の結果が変わるかもしれません。
・シジュウカラ・スズメ用の入口は直径2.7〜3.0cm(27mm〜30mm)、箱の高さは18〜23cm
・シジュウカラ類が最も多く使ったのは地上170cmから200cmの高さ(日本野鳥の会 STRIX Vol.14)
・かけるのは秋から冬。繁殖期の3月〜5月に入ってからでは間に合わない
・卵やヒナが入っている間は、巣の撤去も掃除もできない(鳥獣保護管理法)
巣箱に鳥が入らないのはなぜ?まず疑いたい4つの条件
「入らない」には必ず理由があります。鳥の側から見れば、巣箱は一年でいちばん無防備になる子育ての場所です。条件が合わない箱は、そもそも候補にすら入りません。ここでは4つの条件を順番に見ていきます。
入口の直径が数ミリずれるだけで、住人が入れ替わる
入らない原因の第一候補は入口の直径です。東京都環境局の巣箱資料では、シジュウカラ・スズメ用の出入り口直径は2.7〜3.0cm(27mm〜30mm)、ムクドリ用は4.0〜6.0cm(40mm〜60mm)と示されています。数ミリの差に見えますが、鳥にとっては「敵が入ってこられるかどうか」の境界線です。
穴が大きいほど親切、というわけではありません。入口が広いと、体の大きな鳥やヘビ、ネコの前脚が届いてしまい、卵やヒナが襲われるリスクが上がります。シジュウカラは全長14cm(BIRD FAN/日本野鳥の会)の小さな鳥ですから、体がぎりぎり通る穴のほうが安心して使えるわけです。
自作した巣箱で穴を大きめに開けてしまった場合は、内側から板を一枚あてて穴を絞り直すと使えるようになります。市販品を選ぶときは、パッケージの「対象鳥種」だけでなく、必ず穴の直径の表記を確認してください。表記のない製品は、実測してから設置場所を決めるのが確実です。
「地上2〜3m」で満足していないか
次に疑うのが高さです。キヤノンのバードブランチプロジェクトでは「地面から2メートル以上の高所に架けます」と案内されており、東京都環境局の資料ではシジュウカラ・スズメ用が3m前後、ムクドリ用が4〜5mとされています。まずはこの範囲に入っているかを確認しましょう。
ただし、この「2m以上」「3m前後」という目安は幅が広く、実際に鳥がよく選ぶ帯はもっと狭いことが調査で分かっています。低すぎればネコに登られ、高すぎれば人の手が届かず掃除も観察もできません。詳しい数字は3つ目のH2で扱いますが、脚立を使わずに手が届く高さの上限あたりが、じつは有力な候補になります。
高さを測るときは、地面から入口までではなく、地面から巣箱の底までで揃えると比較しやすくなります。斜面のある庭では、どちら側の地面を基準にするかで数十cm変わってしまうので、ネコやヘビが登ってくる側の地面を基準にしてください。
春にかけた巣箱は、その年は空き家になりやすい
3つ目は時期です。かけるのは秋から冬。これは東京都環境局の資料にも「巣箱は秋〜冬にかけましょう」と明記されており、キヤノンの解説でも「秋から冬にかけて行うのが適している」とされています。理由は単純で、繁殖期が3月から5月ごろに始まるからです。
鳥は繁殖のかなり前から縄張り内を下見して、使えそうな樹洞や隙間を頭に入れています。3月に新品の巣箱をかけても、その年の候補リストにはもう載っていません。逆に前年の秋にかけておけば、冬の間に何度も出入りして中を確認し、春にそのまま使ってくれる可能性が出てきます。
すでに春になってしまった場合でも、かけること自体は無駄になりません。今年は空き家でも、来春の候補として下見されます。むしろ「今年入らなかった箱」は、翌年に入る確率が上がると考えて、秋の掃除だけ済ませてそのまま残しておくのが得策です。
木のない庭・ベランダなら、狙う鳥を変える
4つ目は環境です。シジュウカラは「市街地から山地まで」(BIRD FAN)と幅広く分布しますが、庭にまったく樹木がない環境では、巣箱があっても餌場と隠れ場所が足りません。ヤマガラは「よく茂った広葉樹林を好む」ため、住宅街のベランダで狙うのは現実的ではありません。
読者のタイプ別に整理すると、雑木のある庭ならシジュウカラを本命に。林や公園に隣接した庭ならヤマガラも視野に入ります。人家の周りに多いスズメ(「人家付近でのみ見られる」)なら、街なかの環境でもチャンスがあります。ムクドリは箱も大きく、糞や騒音の相談が多い鳥なので、住宅密集地で積極的に誘致するのは避けたほうが無難です。
入口27mm〜30mmの意味|鳥の体から逆算する箱の寸法
寸法は「なんとなく」で決めるものではなく、鳥の体の大きさと外敵の防ぎやすさから逆算された数字です。ここでは公的資料の数値をもとに、鳥種別の寸法を整理します。
シジュウカラとヤマガラは、同じサイズの箱を分け合う
シジュウカラもヤマガラも全長14cm。ほぼ同じ体格なので、巣箱の寸法も共通で構いません。東京都環境局の資料に沿えば、箱の高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm、出入り口までの高さ15cmくらいが目安です。
なぜ入口を上のほうに開けるかというと、入口から巣材の座までに距離があるほど、外から手や口が届きにくくなるからです。入口が低い位置にあると、カラスが上からのぞき込んでヒナをつまみ出せてしまいます。既製品を選ぶときは、外寸ではなく内寸と入口の位置を見てください。
見分けのコツも押さえておくと観察が楽しくなります。シジュウカラは白いほおと、胸から腹に伸びる黒いネクタイ模様(雄は雌に比べて太い)が目印。ヤマガラは胸から腹が赤味のある茶色で、シジュウカラより尾が短く見えます。同じ箱に来ても、この2点で迷わず判別できます。
| 分類 | スズメ目シジュウカラ科(シジュウカラ) |
| 全長 | 全長14cm |
| 見られる季節 | 通年(繁殖期は3月〜5月ごろ) |
| 生息環境 | 市街地から山地まで |
| 鳴き声 | さえずりは細い声で「ツーピー」「ツツピー」の繰り返し。「ジュクジュク」と濁った地鳴きは本種独特 |
| よく見られる場所 | 庭木・公園の樹林・住宅地の生け垣まわり |

スズメも同じ穴に入る——「共用サイズ」であることを知っておく
意外に思われるかもしれませんが、東京都環境局の資料ではシジュウカラとスズメが同じ行にまとめられています。つまり2.7〜3.0cm(27mm〜30mm)の入口は、シジュウカラ専用ではなく共用サイズです。スズメは全長14.5cm、翼開長22.5cmで、シジュウカラとほとんど変わらない体格だからです。
これは実際の巣箱でも起きています。後述する日本野鳥の会の調査では、穴の直径が約30mmの巣箱2,276個のうち、シジュウカラ類が35.2%(801個)、スズメが38.6%(879個)を使っていました。数のうえではスズメのほうが多かったのです。
「シジュウカラを呼びたいのにスズメが入る」という悩みは、穴の大きさでは解決できません。解決のカギは高さのほうにあります。スズメが好む高さ帯を外す、という発想が有効になるわけですが、詳しくは次のH2で扱います。
ムクドリ用は箱ごと大きくなる(そして設置は慎重に)
ムクドリ用は寸法が一段上がります。箱の高さ28〜40cm、奥行き・幅15〜18cm、出入り口直径4.0〜6.0cm(40mm〜60mm)、出入り口までの高さ18〜23cm、地面からの設置高さは4〜5mが目安です。
ムクドリは群れで行動し、繁殖後は集団ねぐらをつくる習性があります。住宅地では糞と鳴き声の苦情につながりやすいため、庭に呼ぶ相手として最初に選ぶ鳥ではありません。果樹園や農地に隣接した環境で、害虫を食べてもらう目的で設置されることが多い巣箱です。
逆に言えば、シジュウカラを狙っているのに入口を大きめに作ってしまうと、ムクドリやその他の大型の鳥に先取りされる可能性が出てきます。「大は小を兼ねる」が通用しないのが、この分野の面白いところです。
迷ったら小さめに——大きい穴は住人を選べない
穴のサイズで迷ったら、小さいほうを選ぶのが原則です。小さい穴は入れる鳥を絞り込みますが、大きい穴は絞り込めません。誰でも入れるということは、あとから来た大きな鳥に追い出される余地を残すということでもあります。
以下は、公的資料の数値を1枚にまとめた早見表です(野鳥の教科書調べ/出典:東京都環境局・BIRD FAN)。設計図を引くときや、既製品を選ぶときの照合用に使ってください。
| 比較項目 | シジュウカラ | スズメ | ムクドリ |
|---|---|---|---|
| 鳥の全長 | 14cm | 14.5cm | 箱の寸法から一回り大きい |
| 出入り口の直径 | 2.7〜3.0cm(27mm〜30mm) | 2.7〜3.0cm(27mm〜30mm) | 4.0〜6.0cm(40mm〜60mm) |
| 箱の高さ | 18〜23cm | 18〜23cm | 28〜40cm |
| 奥行き・幅 | 12〜15cm | 12〜15cm | 15〜18cm |
| 出入り口までの高さ | 15cmくらい | 15cmくらい | 18〜23cm |
| 地面からの設置高さ | 3m前後 | 3m前後 | 4〜5m |
数値の出典は東京都環境局「巣箱教室」です。設計図を引く前に、一次資料に一度目を通しておくと安心できます。
170cmか300cmか|2,276個の記録が示した「選ばれる高さ」
ここからが本題です。「地上2〜3m」という一般的な目安の内側で、鳥は明確な好みを持っていました。根拠は、日本野鳥の会の学術誌STRIX Vol.14(1996年)に掲載された峯岸典雄氏の論文「巣箱の設置高さによるシジュウカラ類とスズメの使用状況の違い」です。
シジュウカラ類が最も多く使ったのは170cmから200cm
この調査は1993年9月24日から11月17日にかけて、山形県から熊本県までの17のゴルフコースで行われました。標高10mから1270mまでの環境に設置された合計3,221個の巣箱のうち、穴の直径が約30mmの2,276個を対象に、どの高さの巣箱が使われたかを調べています。
結果、シジュウカラ類が最も多く使ったのは170cmから200cmの高さに取り付けられた巣箱でした。200cmから230cmも期待値より高い使用率を示しています。論文では「シジュウカラ類を主体に誘致する場合、170から230cmの高さに巣箱を多くとりつける方がのぞましい」と結論づけられています(統計的にも有意で、χ2=47.466、P<0.001)。
170cmから230cmというのは、大人が背伸びをして手が届くかどうかの高さです。「もっと高くしたほうが安全なはず」と考えて3mを超える位置にかけている方は、いちど下げてみる価値があります。掃除や点検がぐっと楽になるのも実利的な利点です。
スズメは140cmから170cm——低い帯は先に取られる
同じ調査で、スズメが最も多く使ったのは140cmから170cmの高さでした。260cmより高い位置も期待値より高い使用率でした。つまりスズメとシジュウカラ類は、好む高さの帯が少しずれています。
さらに興味深いのは、両種が同じ割合で混在する地域での挙動です。論文によれば、そうした地域ではスズメが140cmから170cmを使い、その帯ではシジュウカラ類の使用がなくなって、代わりにシジュウカラ類は260cmから380cmを多く使ったと報告されています。高さの好みは固定ではなく、ライバルの有無で動くわけです。
この事実は実用的です。「スズメばかり入る」という庭なら、あえて巣箱の位置を上げると、シジュウカラ類の側が使う余地が生まれます。逆に、まわりにスズメがほとんどいない環境なら、170cmから230cmの基本帯をそのまま狙って構いません。
| 比較項目 | シジュウカラ類 | スズメ |
|---|---|---|
| 2,276個中の使用数 | 801個(35.2%) | 879個(38.6%) |
| 最も使用率が高かった高さ | 170〜200cm | 140〜170cm |
| 誘致におすすめの帯 | 170〜230cm | 140〜170cm/260cmより上 |
| 巣立ち成功率が高かった帯 | 410〜430cm、次いで380〜410cm | 120〜140cm、次いで380〜410cm |
| 混在地域での使い分け | 260〜380cmへ移動 | 140〜170cmを確保 |
実は、鳥が選ぶ高さと、ヒナが巣立ちやすい高さは一致していない
ここが、この論文でいちばん意外な部分です。巣立ち成功率を見ると、シジュウカラ類では410cmから430cmの高さが最も高く、次いで380cmから410cm、350cmから380cm、120cmから140cmの順でした。320cmから350cmは低かったと報告されています。
つまり、鳥がよく選ぶ170cmから200cmは、巣立ち成功率が最も高い帯ではありません。論文も「両種とも選好して使用する巣箱の高さと、巣立ち率の高い高さとは異なっていた」と明記しています。スズメでも同様で、選好は140cmから170cmなのに、巣立ち成功率が最も高かったのは120cmから140cmでした。
この「ずれ」は、高さの好みが繁殖成功率ではなく、シジュウカラ類とスズメの種間関係によって生じている可能性がある、というのが論文の見立てです。鳥の判断が常に最適とは限らない、というのは観察者として覚えておきたい視点です。安易に「鳥が選ぶ高さ=正解の高さ」と決めつけないほうがよさそうです。
庭ではどう折り合いをつけるか
この調査はゴルフコースという、庭とは異なる環境で1993年に行われたものです。数値をそのまま自宅に当てはめられるわけではありません。ただ、2,276個という規模の実測データは、庭でも参考になる出発点になります。
現実的な落としどころは、まず170cmから230cmの帯で1年試すこと。スズメに先取りされたら260cmより上へ移す。ネコの通り道になっている庭なら、ネコが登れる木を避けて、幹の細い木や壁面を選ぶ。この3ステップで、庭ごとの最適解に近づけます。原典は日本野鳥の会 STRIX Vol.14(PDF)で読めます。
向き・場所・時期──同じ箱でも結果が変わる3つの分岐
寸法と高さが決まったら、次は取り付け方です。ここで手を抜くと、せっかくの条件が台無しになります。
【失敗パターン1】出入り口の前に枝がある位置にかけてしまう
「鳥が止まりやすいように」と、入口の正面に太い横枝が来る位置を選ぶ人は少なくありません。これは逆効果です。東京都環境局の資料には「出入り口付近の枝は、小鳥の敵(ヘビ・猫・カラス)の足場になってしまいます」と、鳥が嫌がる例としてはっきり書かれています。
原因は、人間の感覚で「便利な足場」を用意してしまうことにあります。小鳥は空中から直接入口に飛び込めるので、止まり木は必要ありません。むしろ足場があると、カラスが腰を据えて入口をのぞき込めるようになります。市販品に止まり木の棒が付いている場合、外してしまってよいくらいです。
対策はシンプルで、入口の正面1mほどに枝や手すり、エアコンの室外機のような足場がない位置を選ぶこと。飛行経路として入口の前が開けていて、かつ足を置ける平面がない——この2つを両立させる場所が理想です。設置後は、少し離れた場所から入口まわりを眺めて、猫の目線で足場を探してみてください。
向きは北か東、雨が入らない角度に
入口の向きは、直射日光と雨風を避ける方向にします。一般に北から東向きが勧められるのは、夏の西日で箱の中が高温になるのを防ぐためです。日本の気候では、西向き・南向きは箱内の温度が上がりやすくなります。
もう一点、入口はやや下向き、少なくとも地面に対して垂直になるように取り付けます。上を向いていると雨が直接入り込み、巣材が濡れて卵やヒナが冷えてしまいます。取り付け後にコップ一杯の水を屋根の上から流してみて、入口から中に入らないかを確かめると確実です。
ひさしの扱いにもコツがあります。東京都環境局の資料では「ひさしは光や風雨を防ぎます。長すぎると鳥の出入りのジャマになり、箱に直角だと風雨避けの役割を果たさないので注意」とされています。長さと角度、どちらか一方だけ気にしても意味がない、というわけです。
かけるのは秋から冬、固定はシュロ縄で上下2か所
時期は前述のとおり秋から冬。取り付けには、木を傷めにくいシュロ縄などを使うのが基本です。針金を幹に直接巻くと、木の成長にともなって食い込み、数年後に幹を絞め殺してしまうことがあります。
固定は1か所ではなく上下2か所で。1か所だけだと風で回転し、せっかく決めた入口の向きが変わってしまいます。巣箱の背面に背板や添え木を取り付けておくと、幹の曲面に沿わせたときの安定感が変わります。これも東京都環境局の資料に「巣箱の背には背板や添え木を取り付けると、木にかけたときに巣箱が安定します」と示されています。
設置後は近づかないのが鉄則です。設置直後の数日は鳥が警戒しているので、庭仕事のついでに毎日のぞくと、それだけで候補から外れることがあります。かけたら、しばらく忘れるくらいがちょうどよい距離感です。
手作りかキットか|箱そのもので差がつく4つの工夫
市販品でも自作でも、押さえるべき構造は同じです。ここを見て選べば、既製品選びの目も変わります。
底板の水抜き穴があるかどうか
底板には小さな水抜き穴を開けます。東京都環境局の資料でも「底板には水抜き穴を小さく開けます。こうすると水が入っても排水されます」と説明されています。横殴りの雨や結露で入った水が抜けないと、巣材が湿ってカビが生え、ヒナの生存率に直結します。
市販の巣箱を買ったら、まず底を裏返して確認してください。穴がなければ、細めのドリルで四隅に開けるだけで済みます。穴を大きくしすぎると巣材が落ちるので、爪楊枝が通る程度で十分です。
意外な落とし穴が、防腐塗料の塗りすぎです。内側まで塗ると、においが残って鳥に敬遠されるうえ、水抜き穴が塗料でふさがることがあります。塗るなら外側だけ、そして設置の数か月前に塗ってにおいを飛ばしておくのが安全です。
板の厚みが箱の中の温度を決める
薄い板の箱は、夏に中の温度が上がりやすく、冬は冷えやすくなります。樹洞という本来の営巣場所は、周囲を厚い木部に囲まれた、温度変化の小さい空間です。巣箱がそれに近づくほど、鳥にとっては使いやすくなります。
DIYで作るなら、ある程度の厚みがある無垢の杉板やヒノキ板が扱いやすい素材です。合板は接着剤層から水が入って剥離しやすく、屋外で数シーズン持たせるには向きません。「1シーズンで交換する前提」なら合板でも構いませんが、毎年作り直す手間を考えると無垢材のほうが結局は楽です。
屋根は箱本体より前後左右に張り出させると、雨だれが入口に垂れにくくなります。屋根板を厚くすると直射日光の影響も減らせます。市販品を選ぶときは、屋根の張り出しがあるかどうかを見るだけでも品質の目安になります。
掃除できない箱は、翌年から使われなくなる
屋根か側板のどちらかを開閉式にしておくのは必須と考えてください。東京都環境局の資料でも「観察や掃除がしやすいように、箱の一部を開閉式にしましょう」と示されており、屋根を開閉式にする場合は重なる2か所にクギ穴を開けてとめ金をつける、側板を開閉式にする場合はちょうつがいととめ金をつける、という具体的な方法まで書かれています。
開閉式にしていない箱は、秋の掃除で毎回こじ開けることになり、数年で壊れます。とめ金は、風で勝手に開かず、かつ手袋をしたまま外せるタイプが実用的です。
もう一つ、ネジで留めるか釘で留めるかも分かれ目です。ネジ留めにしておくと、傷んだ板だけを交換して箱を延命できます。木は必ず傷むものなので、修理できる構造にしておくと長く使えます。
巣箱は「たくさんかければよい」ものではありません。キヤノンのバードブランチプロジェクトでも、過度な設置は生態系のバランスを崩す可能性があると指摘されています。狭い庭に何個も並べると、鳥どうしの縄張り争いを招き、結果としてどれも使われないことがあります。まずは1個を丁寧に設置し、掃除まで含めて1年回してから増やすかどうかを判断してください。
巣箱の掃除はいつ?かけっぱなしが招く3つのトラブル
設置よりも軽視されがちで、そして結果を大きく左右するのが掃除です。ここを習慣にできるかどうかで、翌年以降の入居率が変わります。
秋に巣材をすべて取り出す
掃除の時期は秋です。キヤノンのバードブランチプロジェクトでも、翌年の秋に巣材を取り出して掃除・補修することが案内されています。繁殖が完全に終わり、次の繁殖期の下見が始まる前——このタイミングが唯一の作業窓です。
理由は、古い巣材の中にダニなどの寄生者が残るためです。シジュウカラは「コケや獣毛を用いる」(BIRD FAN)ので、巣材は保温性が高く、湿気も抱え込みます。使用済みの巣材をそのままにすると、翌春に入った親鳥とヒナが最初から寄生者にさらされることになります。
作業は、開閉部を開けて巣材をかき出し、内部の汚れを乾いたブラシで落とすだけで十分です。作業中は手袋を着けて、終わったら手を洗ってください。強い薬剤で洗浄する必要はなく、においが残るとかえって使われなくなります。
シジュウカラ・スズメ以外の住人も、意外と多い
掃除で開けたら鳥以外の生き物がいた、というのは珍しくありません。前述のSTRIX論文では、2,276個の巣箱のうち14.5%(330個)が、シジュウカラ類とスズメ以外の生き物に使われていました。内訳はシジュウカラ類とスズメ以外の鳥類のほか、ハチ類、アリ類、ゴキブリ類、ムササビが挙げられています。
そのため、掃除で箱を開ける前に、必ず数分離れた場所から入口を観察してください。ハチが出入りしていれば、その箱には触れず、自治体の相談窓口や専門業者に相談するのが安全です。夏から秋はハチの活動が活発になる時期なので、いきなり手を伸ばすのは避けましょう。
ムササビのような哺乳類が使っている場合も、追い出す作業は簡単ではありません。野生鳥獣の取り扱いは法律の対象になるため、自己判断で捕獲や移動をせず、自治体に確認するのが正しい進め方です。
【失敗パターン2】傷んだ箱をかけっぱなしにしてしまう
2つ目の失敗パターンは、「かけたまま何年も放置する」です。キヤノンの解説では、放置や傷んだ巣箱の使用は外敵を招くと指摘されています。板が反って隙間ができた箱、屋根が割れた箱、入口の縁が欠けて広がった箱——いずれも外敵が入りやすい構造に変わっています。
原因は、巣箱を「一度かけたら終わり」の設備だと考えてしまうことです。屋外に置かれた木箱は、雨・紫外線・気温差で確実に劣化します。とくに入口の縁は、鳥が出入りするたびに削れて少しずつ広がるため、当初27mm〜30mmだった穴が数年で別のサイズになっていることがあります。
対策は、秋の掃除のたびに、入口の直径・板の隙間・固定した縄の状態の3点を点検すること。縄は数年で劣化して切れます。落下した巣箱の下敷きになる事故を防ぐ意味でも、点検は毎年やっておきたい作業です。
1年のスケジュールを頭に入れる
作業の年間サイクルを一枚にすると、迷いがなくなります。掃除は秋、設置も秋から冬、春から初夏は近づかない——この3つの原則を、月ごとに落とし込んだのが次のカレンダーです。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ○ |
◎=巣箱まわりの動きが最も多い月 ○=動きがある月 △=静かな月
2月=下見が本格化/3〜5月=繁殖期(近づかない)/10〜11月=掃除・点検・設置の適期
卵やヒナが入ったら?のぞきたい気持ちとの付き合い方
入居が確認できたときこそ、行動を間違えやすい場面です。ここには法律のラインもあるので、事前に把握しておきましょう。
抱卵中に開けない、が最優先
入口への出入りが始まったら、箱を開けるのはやめてください。抱卵中の親鳥は、人が近づいただけで巣を放棄することがあります。せっかく選んでもらった箱で放棄が起きると、卵はそのまま孵らずに終わります。
観察は、離れた場所から双眼鏡で行うのが基本です。記録すべきは、出入りの回数、くわえている巣材や餌の種類、時間帯の変化。これだけでも子育ての進み方が読み取れます。シジュウカラのヒナは巣立ちまで3週間ほど、スズメは2週間ほど(BIRD FAN)ですから、期間を頭に入れておくと進行状況が分かります。
どうしても中を見たい場合は、次のシーズンに向けて巣箱用の小型カメラを検討するほうが現実的です。設置は繁殖期の前、つまり秋から冬のうちに済ませておきます。繁殖が始まってからの後付けは、放棄のリスクを上げるだけです。
ヒナが地面にいても、拾わないでほしい理由
巣立ちの時期になると、地面や低い枝にヒナがいるのを見かけます。日本野鳥の会の「ヒナを拾わないで」キャンペーンでは、4月から7月に問い合わせが多数寄せられると案内されており、基本の対応は「その場を去る方がよい」とされています。
理由は、親鳥が人の存在を警戒してヒナに近づけなくなるからです。同会の説明では、巣立ち直後のヒナはあまり動かず、親鳥はヒナの声で居場所に気づけるとされています。人が拾って持ち帰ってしまうと、親から餌をもらう機会も、生きるための行動を学ぶ機会も失われます。
ネコの危険が迫っている場合は、ヒナを近くの茂みの中に移す、という対応が示されています。また、ケガをしているものや希少種など、そのままにしておけないと判断される場合は、自治体などに相談してください。詳しくは日本野鳥の会「ヒナを拾わないで」を確認するのが確実です。
野鳥の捕獲・飼養は、許可なく行うことが鳥獣保護管理法で禁止されています。東京都環境局の案内では、違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されるとされ、東京都では愛玩目的での捕獲・飼養は認めていないと明記されています。「保護のつもり」で持ち帰る行為も対象になり得ます。判断に迷ったら、自分で決めずにお住まいの自治体の担当窓口に相談してください。
巣の撤去と掃除には、待たなければいけない期間がある
掃除や撤去のタイミングにも法律の線引きがあります。東京都環境局の案内によれば、巣のみの撤去に特別な許可は不要ですが、卵またはヒナを含めた野生鳥獣は許可なく捕獲・殺傷することができません。つまり、中に卵やヒナがいる間は手を出せません。
待つ期間の目安も示されています。卵を産んでからヒナが巣立つまでは1か月ほど。この期間を見守り、巣立ちを終えてから撤去や掃除に移るのが正しい順序です。秋に掃除するという原則は、この点でも理にかなっています。
なお、これは軒下のツバメの巣やハトの巣にも共通する考え方です。「巣箱だから自分のもの」ではなく、中に野生鳥獣がいる時点で法律の対象になる、と理解しておくと判断を誤りません。根拠は東京都環境局「野生鳥獣との接し方について」で確認できます。
記録を残すと、翌年の精度が上がる
1シーズンごとに記録を残しておくと、庭ごとの傾向が見えてきます。記録するのは、設置した高さ・向き・入口の直径、初めて出入りを見た日、巣立ちを確認した日、そして掃除で出た巣材の種類の5つで十分です。
この記録があると、翌年に条件を変えたときの比較ができます。たとえば「170cmでスズメ、250cmでシジュウカラ」といった、自分の庭だけの傾向が数年で見えてきます。論文の数値はあくまで全国平均の傾向なので、最後に頼りになるのは自分の庭のデータです。
スマートフォンで入口の写真を毎年同じ角度で撮っておくと、入口の縁が削れて広がっていく様子も追えます。点検と記録を兼ねられるので、秋の掃除のときに1枚撮る習慣にしておくとよいでしょう。
まとめ
まず今週やることを1つだけ挙げるなら、いまかけてある箱の高さをメジャーで測ってみることです。3mを超えていたら170〜230cmまで下げる。まだ持っていない方は、入口の直径が表記されている製品を選び、秋のうちに取り付けておく。それだけで、来春の3月から5月に入口をのぞく小さな頭に出会える確率が変わります。シジュウカラのさえずり「ツーピー、ツーピー」が庭で聞こえ始めたら、下見が始まった合図です。
※本記事の数値は東京都環境局・日本野鳥の会・キヤノン バードブランチプロジェクトの公開資料に基づきます。制度や公式の案内は変更されることがあるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
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