駅前の電線にとまっている黒い鳥を見上げて、「カラスってどれも同じに見えるけれど、種類ってあるんだろうか」と思ったことはありませんか。ゴミ集積所に集まるカラスと、田んぼの上をゆっくり歩いているカラスが、実は別の種類だと知ると、通勤路の風景が少し違って見えてきます。
結論から書きます。日本で市街地に暮らしているカラスは、ほぼ「ハシブトガラス」と「ハシボソガラス」の2種です。全長は約56cmと約50cm。この6cmの差は遠目にはわかりませんが、額の形とくちばしの太さ、そして鳴き声を知っていれば、慣れると数秒で判別できます。そして日本には、この2種のほかにも冬だけ渡ってくるカラス、高山にしかいないカラス、島に固有のカラス科の鳥がいます。青い翼のカケスも、白黒のカササギも、分類上はカラスの仲間です。
この記事では、街のカラス2種の見分け方を軸に、冬鳥のカラス3種、山と島のカラス科の鳥まで、全長・鳴き声・生息環境という具体的な手がかりで整理します。あわせて、3月から7月の繁殖期にカラスが人を威嚇する理由と、巣や卵に触れてはいけない法律上の理由も、環境省と日本野鳥の会の公式情報をもとにまとめました。
この記事でわかること
・街で見るカラスがハシブトガラス(約56cm)かハシボソガラス(約50cm)かを、額・くちばし・鳴き声・歩き方で判別する方法
・冬だけ日本に来るミヤマガラス・コクマルガラス・ワタリガラスの見つけ方と、渡来する地域
・ホシガラス、カケス、オナガ、カササギ、ルリカケスという「黒くないカラス科」の顔ぶれ
・3月〜7月にカラスが威嚇してくる理由と、巣・卵・ヒナに手を出せない法律上の根拠
カラスの種類を整理する|街・冬・山でメンバーが入れ替わる

街で見上げるカラスは、ほとんど2種で説明がつく
いきなり10種類を覚える必要はありません。日本の市街地で日常的に目に入るカラスは、ハシブトガラスとハシボソガラスの2種にほぼ絞られます。都心のビルや電柱などに覆われた環境にいるカラスのほとんどはハシブトガラスで、田んぼや河川敷など開けた平らな環境ではハシボソガラスが優勢になります。
この住み分けは、それぞれの体のつくりから説明できます。ハシブトガラスはくちばしが太く、先の方に向けて大きく湾曲していて、大きめの餌をつかんで引き裂く動きに向いています。一方のハシボソガラスはくちばしが細く、カーブがややなだらかで、この細いくちばしを器用に使って小さな食べ物も食べます。落ち穂や土の中の虫を拾う暮らしと、まとまった生ゴミを扱う暮らしの違いが、そのまま道具の違いになっているわけです。
実際の見分け方としては、まず「自分が今どこにいるか」を先に考えるのが近道です。駅前のロータリーやマンションの屋上なら、まずハシブトガラスを疑う。郊外の田んぼの畦を歩いている個体なら、まずハシボソガラスを疑う。そのうえで額とくちばしを確認すると、答え合わせが速くなります。
注意したいのは、この住み分けが絶対ではないという点です。郊外の住宅地では2種が同じ電線に並ぶこともあります。「場所で当たりをつけて、形で確定する」という二段構えにしておくと、外れたときにも混乱せずに済みます。
冬になると、日本のカラスは3種増える
秋から冬にかけて、日本のカラスの顔ぶれは入れ替わります。海外で繁殖した3種が、越冬のために渡ってくるからです。ミヤマガラス、コクマルガラス、ワタリガラスの3種で、いずれも季節限定の顔になります。
なぜ冬だけなのかというと、繁殖地が日本より北や大陸側にあるためです。ミヤマガラスはユーラシア大陸の中緯度から北方に広く分布し、その一部が冬に日本列島へ南下してきます。コクマルガラスは中国東北部、極東ロシアなどで繁殖し、日本には越冬のため本州西部、特に九州に飛来します。ワタリガラスは全身黒色の大型種で、北海道などでまれに確認される程度です。
見つけ方のコツは、単独の個体を探さないことです。ミヤマガラスは主に九州以北の農耕地や河川敷に大群を作って飛来し、落ち穂や昆虫を食べて過ごします。冬の刈り取り後の田んぼで、黒い鳥が数十羽単位で地面を埋めていたら、ハシボソガラスの群れではなくミヤマガラスの可能性を考えてみてください。
豆知識として、コクマルガラスはミヤマガラスの群れに混ざって行動していることが知られています。つまりミヤマガラスの大群を見つけたら、その中に一回り小さい個体がいないか探すのが、コクマルガラスに出会う最短ルートになります。
青い鳥も白黒の鳥も、分類上はカラスの仲間
「カラスの種類」を調べていて意外に感じるのが、黒くない鳥がカラス科に入っている点です。カケス、オナガ、カササギ、ルリカケス、ホシガラス。どれも名前に「カラス」が付かないものもありますが、スズメ目カラス科に分類される、れっきとしたカラスの親戚です。
これは「カラス=真っ黒」という思い込みが日本のカラス2種の印象からできているためです。カササギは全長約40cmで、羽の一部や腹のあたりは白色。サギの仲間ではなくカラス科の鳥で、佐賀では「カチガラス」と呼ばれ親しまれています。オナガは全長約36cmで、水色の翼と長い尾、黒い頭という配色をしています。
見分けるときは、体型と行動に注目すると納得しやすくなります。カケス(全長約33cm)は翼に青と黒の細かい縞模様がありますが、地面に降りてどんぐりをくわえ、あちこちに隠して回る「貯食」という行動をとります。この貯食はカラス科の鳥でしばしば見られる行動で、見た目は違っても中身はカラスらしい鳥だとわかります。
やりがちなのは、青い鳥を見て「珍しい外来種だ」と判断してしまうことです。オナガもカケスも日本の在来種で、地域と季節さえ合えば公園や雑木林で観察できます。まずカラス科という枠で捉え直すと、探す場所の見当がつきやすくなります。
全長で並べると、同じカラス科でも倍近い開きがある
種類の全体像をつかむには、全長で一列に並べてしまうのが手っ取り早い方法です。日本で観察できる代表的なカラス科の鳥を、大きさ順に整理しました。数字を見ると、同じ「カラスの仲間」でも体のサイズにかなりの開きがあることがわかります。
以下は、各種の全長と、どこで・いつ見られるかを一覧にしたものです(野鳥の教科書調べ)。
| 種名 | 全長 | 見られる季節 | 主な場所 |
|---|---|---|---|
| ワタリガラス | 約61cm | 冬 | 北海道など(観察例は極めて少ない) |
| ハシブトガラス | 約56cm | 通年 | 都心のビルや電柱に覆われた環境 |
| ハシボソガラス | 約50cm | 通年 | 田んぼや河川敷など開けた平らな環境 |
| ミヤマガラス | 約45cm | 冬 | 九州以北の農耕地や河川敷(大群) |
| カササギ | 約40cm | 通年 | 佐賀平野を中心とした狭い範囲 |
| ルリカケス | 約38cm | 通年 | 奄美大島・加計呂麻島・請島 |
| オナガ | 約36cm | 通年 | 本州の福井県以東、神奈川県以北 |
| ホシガラス | 32〜37cm | 通年(冬はやや低地) | 九州以北の高山帯から亜高山帯 |
| カケス | 約33cm | 通年 | 林(貯食行動が目印) |
| コクマルガラス | 約33cm | 冬 | 本州西部、特に九州 |

並べてみると、最大のワタリガラスと最小級のコクマルガラスでは、全長がおよそ2倍近く違います。ハシブトガラスの約56cmを基準の物差しにしておくと、「これは明らかに小さい」「これは同じくらい」という感覚がつかめます。ただし空を飛んでいる鳥の大きさは距離で錯覚しやすいので、電線や標識など大きさのわかるものと一緒に見るのが確実です。
額とくちばしと鳴き声|街の2種を数秒で判別する
まず額を見る。丸く出っ張っていればハシブトガラス
街のカラス2種を分ける最短の手がかりは、額(おでこ)の形です。ハシブトガラスは額が丸く、ちょっと出ているのが特徴で、横から見るとくちばしの根元から頭頂にかけて段差があるように見えます。対してハシボソガラスは額がなだらかで、くちばしから頭のラインがすっと一直線につながって見えます。
この差は頭骨とくちばしの構造から生まれています。太く大きく湾曲したくちばしを支えるには、根元の筋肉が必要になり、それが額の膨らみとして外から見えるわけです。つまり額の形とくちばしの太さは、別々の特徴ではなく同じ一つの特徴の表と裏だと考えると覚えやすくなります。
実際の判定は、真横のシルエットが見える瞬間を狙います。電線にとまって首を横に向けた一瞬や、地面で餌をつついて顔を上げた瞬間がチャンスです。正面顔ではくちばしの太さも額の段差もわからないので、横向きになるまで待つのが結局は近道になります。
知っておくと得をするのは、若い個体では特徴が読み取りにくい場合があるという点です。判断に迷ったら無理に確定させず、次に紹介する鳴き声と歩き方で二重に確認してください。
「カー」か「ガー」か|声と鳴く姿勢で確かめる
姿がよく見えないときは、声が決め手になります。ハシブトガラスは澄んだ声で「カー、カー」と鳴きます。ハシボソガラスの鳴き声は濁っていて、「ガーガー」と鳴きます。文字にすると微妙な差ですが、実際に聞き比べると音の抜け方がはっきり違います。
声だけでなく、鳴くときの姿勢も別物です。ハシブトガラスは、鳴くときに頭を突き出してやや前傾姿勢になり、のどを膨らませて鳴くのが特徴。一方のハシボソガラスは、鳴くときに体全体を震わせ、お腹を膨らませます。その後、頭と尾羽を下げてお辞儀をするように鳴くのが特徴的です。
この「お辞儀」は遠くからでもよく見えるので、双眼鏡がなくても使える手がかりになります。信号待ちの間に電柱の上でぺこりと頭を下げながら濁った声で鳴いている個体がいたら、ハシボソガラスと考えてまず外れません。
注意点として、カラスは鳴き方のバリエーションが豊富で、警戒や仲間への呼びかけでは普段と違う声を出すことがあります。「カー」「ガー」の判定は、落ち着いてくり返し鳴いているときに使うのが確実です。
跳ねるか、歩くか|地面に降りた瞬間が最大のチャンス
地面に降りた個体がいたら、移動の仕方を見てください。ハシブトガラスは「ホッピング」という歩き方が印象的で、スズメのようにぴょんぴょんと跳ねながら移動します。一方のハシボソガラスは、両方の足を交互に出して人間のように歩くのが特徴的です。
この違いも暮らし方から説明できます。開けた農地で落ち穂や虫を拾い続けるハシボソガラスにとって、地面をゆっくり歩き回るのは効率のよい採食方法です。木の上や構造物の上を主な生活の場にしてきたハシブトガラスは、枝から枝へ跳び移る動きが地上でも出やすいと考えると、腑に落ちます。
公園の芝生やゴミ集積所の周りは、この観察に向いた場所です。数分眺めていれば、跳ねる個体と歩く個体の差は初心者でもはっきり区別できます。慣れてくると、遠くで動いている黒い点の動き方だけで見当がつくようになります。
ただし、急いで移動するときや驚いたときは、どちらの種も跳ねるような動きを見せることがあります。落ち着いて採食している場面で観察するのが、判定精度を上げるコツです。
【失敗パターン1】逆光のシルエットだけで決めつけて外す
もっとも多い失敗が、夕方の空を背景にした逆光のシルエットで種を決めてしまうことです。逆光では羽の光沢も額の段差も潰れ、輪郭だけが残ります。この状態で「くちばしが太く見えたからハシブトガラス」と判断すると、実際はハシボソガラスだったという取り違えが起きます。
原因は、逆光ではくちばしの周りの羽毛が輪郭に溶け込み、実際より太く見えることにあります。さらに飛翔中は首を伸ばすため、額の段差という最大の手がかりが消えてしまいます。
対策はシンプルで、太陽を背にする位置に移動してから見ることです。歩道を数歩ずれるだけで、光の当たり方が変わって額とくちばしの形が浮かび上がります。移動できない場面では、無理に確定させず「声が聞こえるまで保留」にしておく方が、間違った記録を残すより健全です。
記録を残すなら、判定に使った手がかりも一緒にメモしておくと役立ちます。「額の段差+お辞儀鳴き」で判定した記録と、「シルエットのみ」の記録では信頼度が違います。後から見返したときに、自分の判定の癖がわかります。
ハシブトガラスが街に多い理由と、庭で見るときの距離感

森で暮らしていた鳥が、ビル街を選んだ
ハシブトガラスが都市で目立つのは、ビルや電柱に覆われた環境が、この鳥にとって使いやすい構造をしているからです。高い場所にとまり、上から地面を見渡し、必要なときだけ降りてくる。この行動様式は、もともと樹上を主な生活の場にしていた鳥の習性がそのまま活きた形といえます。
くちばしの構造もこの暮らしに向いています。太く先が大きく湾曲したくちばしは、まとまった大きさの食べ物を扱うのに適していて、都市で得られる餌の質と相性がよかったと考えられます。ハシボソガラスの細いくちばしが小さな食べ物を拾うのに向いているのとは、対照的です。
観察の場としては、駅前のロータリー、大きな街路樹のある通り、マンションの屋上や高架橋の欄干などが狙い目です。朝の早い時間帯は活動が活発で、鳴き声も聞き取りやすくなります。
注意しておきたいのは、都市のカラスは人との距離が近い分、こちらの行動が影響しやすいという点です。餌を与える行為は集まる個体数を増やし、近隣とのトラブルの原因になります。観察は「見るだけ」に徹するのが基本です。
| 分類 | スズメ目カラス科(ハシブトガラス) |
| 全長 | 約56cm |
| 見られる季節 | 1月〜12月(留鳥) |
| 生息環境 | 都心のビルや電柱などに覆われた環境 |
| 鳴き声 | 澄んだ声で「カー、カー」 |
| よく見られる場所 | 駅前・街路樹・高架橋・マンションの屋上 |
庭に来る黒い鳥は、カラスとは限らない
「庭に黒っぽい鳥が来た」という時点でカラスと決めつけると、見誤ることがあります。庭やベランダに来る鳥は、体の大きさで整理すると混乱しません。ハシブトガラスの約56cm、ハシボソガラスの約50cmは、庭に来る鳥のなかでは最大級の部類です。
判断の物差しとして便利なのが、身近な鳥との比較です。庭木の実をつつきに来る鳥の多くは、カラスよりひと回り以上小さく、細身の体型をしています。全長が50cmを超える鳥が枝にとまると、枝が明確にしなるので、そこでも見当がつきます。
庭に来る鳥の顔ぶれを知っておくと、カラスとの違いがつかみやすくなります。庭の常連であるヒヨドリの生態を先に押さえておくと、比較の基準ができます。

庭先で「ピーヨ!」と甲高い声がして、見上げると灰色の鳥が枝を揺らしている。気づけばナンテンの赤い実が減っていて、ベランダに干していたミカンにもつつかれた跡がある…
注意点として、庭に食べ物を出すとカラスも寄ってくることがあります。果樹の落果や生ゴミが放置されていると、その庭が採食場所として記憶されます。庭で小鳥を観察したい場合は、地面に落ちた実をこまめに片づけるのが、結果的にいちばん効きます。
観察の距離は「相手が行動を変えない距離」が正解
カラスを観察するとき、どこまで近づいてよいのか迷う人は多いはずです。目安は、相手が採食や休息をやめない距離です。こちらを見て動きを止めた、餌を置いて飛び立った、鳴き始めた——このいずれかが起きたら、それは近づきすぎのサインになります。
この基準が有効なのは、鳥のストレスが行動の変化として先に現れるからです。逃げる前の段階で警戒行動が出るので、そこで止まれば追い立てずに済みます。双眼鏡を使えば距離を取ったまま額の形やくちばしを確認できるので、判別の精度はむしろ上がります。
具体的には、街なかなら歩道の反対側から見る、公園ならベンチに座って動かずに待つ、といった形になります。カメラを構えて近寄るより、一か所にとどまって待つほうが、自然な行動を長く観察できます。
とくに繁殖期は距離の取り方が重要になります。3月から7月頃の巣の周辺では、通常より警戒が強くなります。この時期の注意点は後半で詳しくまとめます。
冬だけ会える3種|大群のなかに小さな一羽を探す
ミヤマガラス|くちばしの根元が灰白色に見えたら確定
冬の農耕地で出会える代表がミヤマガラスです。全長は約45cmで、ハシボソガラスの約50cmよりひと回り小さく、くちばしは細長く、根元が灰白色なのが目立ちます。この「根元の色」が、ほかのカラスにはない決定的な手がかりになります。
根元が白っぽく見えるのは成鳥の特徴で、遠目でも黒い顔のなかに明るい部分があるとわかります。双眼鏡があれば確認は容易で、逆にこの部分が黒一色ならハシボソガラスを疑う、という使い分けができます。
探す場所は、刈り取りの終わった田んぼや河川敷です。渡来個体は主に九州以北の農耕地や河川敷に大群を作って飛来し、落ち穂や昆虫を食べて過ごします。「地面が黒く見えるほどの群れ」に出会ったら、まずミヤマガラスを候補に挙げてください。
注意したいのは、群れの規模でハシボソガラスと混同しやすい点です。ハシボソガラスも冬に集まることがあるため、群れというだけでは決め手になりません。必ずくちばしの根元を確認する習慣をつけると、取り違えが減ります。
【意外と知られていない】白いカラスが、日本に飛んでくる
実は、腹が白いカラスが日本で越冬しています。コクマルガラスです。全長は約33cmで、日本に飛来するカラスでは最小種。首から腹部の羽毛が白い淡色型と、全身の羽毛が黒い黒色型がいて、淡色型は空を飛ぶと胴体が白く抜けて見えます。
「カラスは全身黒」という前提でいると、この鳥を見ても別の科の鳥だと思ってしまいます。実際には黒い羽毛で覆われた基本形をもち、側頭部に灰色の羽毛が混じり、くちばしはカラスとしては細く短いという、カラス科らしい特徴を備えています。
会いに行くなら、越冬地を選ぶのが確実です。中国東北部、極東ロシアなどで繁殖し、日本には越冬のため本州西部、特に九州に飛来します。ミヤマガラスの群れを丹念に見ていくと、明らかに小さい個体として浮かび上がります。
豆知識として、淡色型と黒色型が同じ群れに混ざることがあります。白っぽい個体だけを探していると黒色型を見落とすので、「サイズが小さい個体」という基準で探すほうが確実です。
ワタリガラス|日本最大のカラス科に会える確率は低い
日本で見られるカラス科のなかで最大なのがワタリガラスです。全長は約61cmで、ハシブトガラスの約56cmをさらに上回ります。全身黒色の大型種で、国内での観察例は極めて少なく、北海道などでまれに確認されるにとどまります。
観察例が少ないのは、日本が分布の縁にあたるためです。冬に限られた地域へ渡来するため、狙って会いに行くのは難しく、旅行のついでに出会える鳥ではありません。この記事で紹介する種のなかでは、もっともハードルが高い相手といえます。
もし北海道で「ハシブトガラスより明らかに大きい黒い鳥」を見かけたら、記録を残す価値があります。大きさの比較対象になるもの(電柱、標識、隣にいる別の鳥)を一緒に写しておくと、後から検証できます。
注意点は、単独で見たときの大きさの判断は当てにならないということです。距離が近いだけで大きく見えるため、比較対象なしの「大きかった」という記憶だけでは確定できません。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
※冬鳥として渡来するミヤマガラス・コクマルガラスの観察しやすさの目安です
山と島にいる、黒くないカラス科の鳥たち
ホシガラス|1年で32,000個のタネを埋める山の住人
登山道で「カラスのような、でも褐色っぽい斑点のある鳥」に出会ったら、ホシガラスの可能性があります。体長は32〜37cmで、日本では九州以北の高山帯から亜高山帯に生息し、冬季はやや低地に降りてきます。標高2500m以上の高山帯や、標高1700〜2500mの亜高山帯が主な生活の場です。
この鳥が知られているのは、貯食のスケールが桁違いだからです。ハイマツはホシガラスが好む高山植物で、ひとつの球果に30〜40個のタネが入っており、ホシガラスはのど袋に100個以上のタネを貯めて移動することができます。毎年、32,000個ものマツの種子を貯食し、その1ヵ所当たりの貯食個数は平均3.7個、貯食場所は8,600ヵ所以上に及ぶとされています。
観察するなら、ハイマツ帯を歩く登山中がチャンスです。球果をくわえて飛ぶ姿は目立ちますし、鳴き声はカケスによく似た大きくてしわがれた声なので、姿が見えなくても存在に気づけます。
知っておくと面白いのは、この鳥の子育ての長さです。雌雄ともにヒナに餌を与え、普通巣立ちまでには約23日かかりますが、さらに2〜3ヶ月両親の元にとどまって、厳しい環境での生存に必須の貯食の仕方を学びます。埋めた場所を覚える能力は、教わって身につくものだということです。
カケスとオナガ|青い羽をもつ2種の探し方
青みのある翼をもつカラス科が、カケスとオナガです。カケスは全長約33cmで、翼に青と黒の細かい縞模様があります。オナガは全長約36cmで、水色の翼と長い尾、黒い頭という配色で、飛ぶと尾の長さがよく目立ちます。
この2種を分けるのは、体型と尾の長さです。カケスはずんぐりした体型で林の中を移動し、オナガは細身で尾が長く、開けた住宅地や公園の樹林でも群れで行動します。どちらもカラス科らしい貯食や群れ行動を見せます。
探す場所には決定的な違いがあります。オナガの分布は日本国内で狭まっており、現在は本州の福井県以東、神奈川県以北で観察されるのみです。西日本にお住まいの方が探しても、出会える見込みは薄いということになります。
この分布の変化は記録として残っています。1970年代までは本州全土および九州の一部で観察されましたが、1980年代以降は西日本で繁殖が確認されていません。身近な鳥でも分布が数十年単位で変わるという実例で、観察記録を残す意味を教えてくれます。
カササギとルリカケス|地域に根ざした天然記念物
カラス科には、限られた地域でしか会えない種がいます。カササギは全長約40cmで、羽の一部や腹のあたりは白色。サギの仲間ではなくカラス科の鳥で、佐賀では「カチガラス」と呼ばれ親しまれています。日本では佐賀平野を中心とした狭い範囲に生息し、生息地を定めた国の天然記念物に指定されています(佐賀市公式サイト)。
もう一種がルリカケスです。全長約38cmで、額とのどは黒く、頭頂から後頸と胸、雨覆や三列風切、尾は濃い瑠璃色という配色をしています。鹿児島県の奄美大島と加計呂麻島、請島に特産で、1921年3月3日に国の天然記念物に指定され、鹿児島県の鳥にもなっています(鹿児島県教育委員会)。
会いに行くなら、それぞれの分布域を訪れるのが唯一の方法になります。カササギは近年、長野県や秋田県、北海道といった地域でも確認されていますが、安定して観察できるのは佐賀平野周辺です。
注意点として、天然記念物に指定されている種は、捕獲や卵の採取が法律で厳しく制限されています。巣を見つけても近づかず、離れた場所から観察するのが守るべきマナーです。
黒くないカラス科は「行ける場所」で絞り込めます。高山に登るならホシガラス、東日本の公園ならオナガ、佐賀平野ならカササギ、奄美大島ならルリカケス。旅行や登山の予定に合わせて1種ずつ狙うと、無理なく出会えます。
今日から始める、カラスの見分け方の練習法
4ステップで、通勤路が観察フィールドに変わる
カラスの識別は、特別な場所に出かけなくても練習できます。毎日通る道に必ずいる鳥なので、手順を決めて繰り返すのがいちばん上達します。
この手順の要は、Step2で焦らないことです。判定できる角度になるまで待つ時間さえ確保すれば、正答率は一気に上がります。
シーン別|あなたが会いやすいカラスはこれ
暮らしている場所や出かける先によって、現実的に会える種は変わります。自分の生活圏に合わせて狙いを定めるのが、遠回りしない方法です。
通勤・通学が都市部の人は、ハシブトガラスとハシボソガラスの2種を徹底的に見比べるのが第一歩になります。毎日見られる相手なので、額・声・歩き方の3点セットを体に覚えさせるには最適です。
週末に郊外へ出る人は、冬の農耕地でミヤマガラスを狙えます。刈り取り後の田んぼは見通しがよく、群れの規模もわかりやすいので、双眼鏡の練習にも向いています。九州にお住まいなら、その群れの中にコクマルガラスを探す楽しみも加わります。
登山や高原歩きが趣味の人は、ホシガラスが目標になります。ハイマツ帯を歩くとき、球果をくわえた鳥がいないか意識するだけで、出会える確率が変わります。庭やベランダで観察したい人は、カラスそのものより、カラスと小鳥の関係を見るのが面白い切り口です。庭に来る小鳥を観察する準備を整えると、カラスの行動の意味も見えてきます。

庭やベランダに餌台を置いてみたものの、一羽も来ないまま数日が過ぎた。あるいは、これから置こうと思って調べ始めたら「餌付けはやめましょう」という自治体のページに行…
【失敗パターン2】巣を撮ろうと近づいて、頭を蹴られる
春先にやりがちな失敗が、木の上の巣を見つけて写真を撮ろうと近づき、親鳥から攻撃を受けることです。とくに帽子もかぶらずに真下から見上げると、後頭部が無防備になります。
原因は、こちらに敵意がなくても、親鳥にとっては巣への接近が脅威だからです。カラスは3月から7月頃にかけての繁殖期になると、巣を作り、卵を産んでヒナを育てます。この期間中、親鳥が卵や巣立ち準備中や巣から落ちたヒナを守ろうとして、近くを通る人を威嚇や攻撃することがあります。
覚えておきたいのは、威嚇と攻撃には段階があることです。威嚇は「近くに止まりこちらに向かって激しく鳴く、頭上を旋回して激しく鳴くを繰り返すこと」で、攻撃は「後ろから飛んできて頭上すれすれ、または頭を足で蹴ってくる行動」を指します。威嚇の段階で気づいて離れれば、攻撃までは進みません。
対策は、東京都北区が案内しているとおり、近づかない・観察しないことが基本です。やむを得ず巣の近くを通る際は、傘や帽子で頭部を保護すると被害を避けられます(東京都北区「カラスによる被害を防ぐために」)。
カラスの種類がわかると、トラブルへの向き合い方も変わる
巣・卵・ヒナに手を出すと、法律違反になる
庭木にカラスが巣を作った場合でも、自分の判断で撤去することはできません。鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)では、鳥獣又は鳥類の卵については、狩猟により捕獲する場合を除いて、原則としてその捕獲、殺傷又は採取が禁止されています。
例外が認められるのは限られた場合です。生態系や農林水産業に対して鳥獣による被害等が生じている場合や学術研究上の必要性が認められる場合などには、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けて、鳥獣又は鳥類の卵を捕獲等することが認められています。許可権者は、国指定鳥獣保護区内・希少鳥獣・かすみ網使用時が環境大臣、それ以外の鳥獣の捕獲は都道府県知事で、多くの県では市町村長に権限を一部移譲しています。
実際の手順としては、まずお住まいの市区町村の担当窓口に相談するのが正解です。地域によって申請先や運用が異なるため、自己判断で動かず、公的な窓口から確認してください(環境省「捕獲許可制度の概要」)。
罰則も定められています。鳥獣保護法第83条において、第8条の規定に違反して狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。「巣を落としただけ」という認識でも、法律上は卵の採取等にあたる可能性があります。
カラスの巣や卵は、種類にかかわらず勝手に撤去できません。撤去が必要な場合は、環境大臣又は都道府県知事の許可が必要で、多くの県では市町村長に権限が一部移譲されています。まずは自治体の担当窓口に相談してください。無許可の撤去は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の対象になり得ます。
地面にいるヒナは、拾わずにその場を離れる
繁殖期に地面でうずくまっているヒナを見つけたとき、正しい行動は「拾わないこと」です。巣立ったばかりのヒナはうまく飛べないため、枝の間を移動するときに地面に降りることがあります。これは事故ではなく、正常な巣立ちの過程です。
親鳥がいないように見えても、心配は要りません。姿が見えなくても親鳥は必ず世話をしに戻ってきます。むしろ人が近くにいると親鳥は近づけないため、見守っているつもりの行動が、餌をもらう機会を奪ってしまいます。
具体的な対応としては、ケガをしていなければ、その場からそっと離れるのがよいとされています。犬の散歩コースであれば少し迂回する、子どもが集まっていれば説明して離れる、といった配慮が実際的です。
日本野鳥の会は、30年以上にわたり「野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーン」を実施し、毎年10万枚以上のポスターを動物園や公園に配布しています。長く続いているのは、善意の保護が結果的にヒナを親から引き離してしまう例が絶えないからです(日本野鳥の会「野鳥の子育て応援キャンペーン」)。
種類がわかると、対策の打ち方が具体的になる
カラスの種類を見分けられると、トラブル対策の精度が上がります。ゴミ集積所を荒らしているのが都市型のハシブトガラスなのか、農地から来ているハシボソガラスなのかで、想定される行動範囲も対策の力点も変わってくるからです。
基本の対策は共通しています。東京都北区が挙げているのは、庭木を剪定して見通しをよくすること、巣作りの材料となるハンガーなどを置かないこと、ゴミ出しのルールを守ること、近づかない・観察しないこと、巣の近くを通る際は傘や帽子で頭部を保護することの5点です。
このうち即効性が高いのは、巣材を置かないことと剪定です。ベランダに置きっぱなしのハンガーは巣材として使われますし、密に茂った庭木は営巣場所として選ばれやすくなります。繁殖期に入る前の時期に手を打っておくと、後の対応が楽になります。
庭に鳥を呼ぶ工夫をしている場合は、カラス対策との両立を考える必要があります。巣箱の設置場所を決めるときも、周囲の見通しや高さが結果を左右します。

ホームセンターで巣箱を買ってきて、庭の木に取り付けて、春を待つ。ところが3月が過ぎ、4月が過ぎ、5月になっても入口は静かなまま——。野鳥の巣箱でいちばん多い相談…
まとめ:カラスの種類は「場所と季節」で絞れば覚えられる
日本のカラス科は、体の大きさも暮らす場所も幅があります。全長約61cmのワタリガラスから約33cmのコクマルガラスまで並べてみると、「カラス」という一語で片づけていた鳥たちが、それぞれ違う環境に合わせて形を変えてきたことが見えてきます。まずは今日の帰り道、電線にとまっているカラスの額を横から見てみてください。丸く出っ張っているか、なだらかか。その一点を確認するだけで、これまで背景だった黒い鳥が、名前のある一羽に変わります。
※分布や渡来状況は年や地域によって変動します。最新情報は各自治体・環境省・日本野鳥の会の公式サイトでご確認ください。

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