夏のあいだ、夕方になると駅前の街路樹が黒く見えるほど集まっていたムクドリ。あの騒がしさが、ある日ふっと消えたように感じたことはありませんか。「もう渡っていったのかな」「来年の春まで来ないのかな」と気になって検索した方は多いはずです。
先に結論をお伝えします。ムクドリの夏ねぐらは、10月中旬ごろにはなくなります。ただし、それは日本からいなくなるという意味ではありません。北海道では夏鳥として春から秋に見られ、冬は個体数が大幅に減ります。一方、本州から九州では一年中見られる留鳥です。つまり「いなくなる時期」の答えは、あなたが住んでいる場所で大きく変わります。
この記事では、ムクドリの季節ごとの動きを、ねぐらの数という公的な調査データを手がかりに追いかけます。全長24cmの鳥が、なぜ秋に群れをつくり、なぜ冬に南へ動くのか。そして群れが去る前後にできること、やってはいけないこと。庭先で「これ、どうなってるの?」と聞かれたときに答えられるところまで、一緒に見ていきましょう。
・夏ねぐらは10月中旬ごろになくなり、同じころ周囲に冬ねぐらが作られ始める
・北海道では冬に個体数が大幅に減り、本州〜九州では一年中見られる
・ねぐらの数は北日本で冬に減り、四国・九州では冬に増える
・対策は「ねぐらとして定着する前」「巣作りを始める前」が分かれ目
ムクドリがいなくなる時期は10月中旬が最初の分かれ目

夏ねぐらが消える10月中旬、街で起きていること
ムクドリの群れが「消えた」と感じる最初のタイミングは、10月中旬です。暖かい時期に使われていた夏ねぐらは10月中旬ごろにはなくなり、それと同時に、夏ねぐらの周囲に冬ねぐらが作られ始めます。つまり群れは消滅したのではなく、集合場所を引っ越しているのです。
この引っ越しが「いなくなった」と受け取られるのには理由があります。ムクドリは夕方になると木や電線に集まってねぐらをとり、朝になると採餌場所に向かうという往復を毎日繰り返します。夕方の集合場所が数百メートル移動しただけでも、いつもの街路樹の下を歩く人にとっては、群れが丸ごと消えたのと同じ体験になります。
実際に確かめるなら、日没前後に少し歩いて周辺の大きな木や高架、駅前のケヤキ並木をのぞいてみてください。移動先が近所であれば、あの「キュルキュル」「ジュリジュリ」という声がどこかから届いてくるはずです。声が聞こえるうちは、群れは地域に残っています。
注意したいのは、10月中旬という時期はあくまで夏ねぐらが解消する目安であって、その年の気候や木の実の実り具合で前後するということです。「10月15日にいなくなる」といった日付単位の話ではなく、10月の半ばを境に群れの居場所が動く、という捉え方が実際に近いです。
「いなくなった」の正体は、消滅ではなく移動と分散
ムクドリがいなくなったように見える現象には、大きく2つの中身があります。ひとつは南方への移動、もうひとつは群れの分散です。秋から冬にかけて、ムクドリは越冬のため「ギュルギュル」「チッチッ」などと鳴きながら集団で暖地へ移動します。これが本来の意味での渡りです。
もうひとつの分散は、群れの規模そのものが小さくなることを指します。繁殖が終わると群れになり、多い場合は数万羽になることもありますが、その巨大な群れがずっと同じ密度で維持されるわけではありません。数千から数万羽の集団ねぐらが解けて小さなまとまりに分かれれば、体感としての「うるささ」は一気に下がります。
見分け方は単純です。近所の農耕地や芝生、公園の地面で、地上を歩きながら採餌している姿がまだ見つかるなら、それは分散であって渡去ではありません。ムクドリは地上を歩きながら石などをくちばしで転がしたり、地中にくちばしをさしたりして餌を探すので、探すときは木の上ではなく足元の開けた場所を見るのがコツです。
逆に、地面でも電線でも姿がまったく見つからず、翌春まで声も聞こえないなら、その地域は季節的に個体数が大きく減るエリアだと考えられます。次の見出しで扱うように、これは北日本で起きやすい現象です。
住んでいる地域で答えが180度変わる
「ムクドリはいつ渡るのか」という質問に日本全国共通の答えがないのは、地域によって暮らし方そのものが違うからです。北海道では夏鳥として春から秋に見られ、冬は個体数が大幅に減少します。一方、本州から九州では一年中見られる留鳥として扱われます。
この違いが生まれる根拠は、餌の取り方にあります。ムクドリは地上を歩いて昆虫やミミズを探す採餌方法を得意としています。北海道や東北地方では冬は積雪が多く地上で採食できないため、夏にくらべて冬の生息数が少なくなるのです。雪が地面を覆えば、得意技がそのまま使えなくなります。
ここで注意したいのが、自分の地域の常識を他の地域に当てはめてしまう失敗です。東京や大阪で「ムクドリは一年中いる鳥」と覚えた人が札幌の友人に同じ説明をすると、まったくかみ合いません。逆に北海道の人が「ムクドリは夏の鳥」と説明しても、九州では通じません。まず自分の地域が北日本側なのか、それ以外なのかを押さえておくと、話が整理しやすくなります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる ※本州〜九州で大きな群れが目につきやすい時期の目安です。北海道では冬に個体数が大幅に減ります
群れが目立つのは繁殖が終わったあと
カレンダーで8月から11月に◎が並ぶのは、この時期がムクドリの「群れの季節」だからです。繁殖期は3月下旬から7月ごろまでで、繁殖が終わると群れになり、多い場合は数万羽になることもあります。春はペア単位で静かに巣に通っているため、同じ数がいても目に入らないのです。
ここに「いなくなる時期」の錯覚のタネがあります。多くの人がムクドリを意識し始めるのは、大群になって騒がしくなってからです。そこを起点にすると、群れが解けた瞬間が「いなくなった日」に感じられます。実際には、春先から同じ地域に暮らしていた鳥が、また目立たない暮らし方に戻っただけということが少なくありません。
観察したい人にとっては、この時期の差が狙い目になります。大群のダイナミックな一斉方向転換を見たいなら夏の終わりから秋、1羽ずつの表情や採餌の仕草をじっくり見たいなら春から初夏です。ムクドリは飛翔能力が優れていて、群れでの一斉方向転換が特徴なので、夕暮れの空を見上げる時間は秋のほうが報われます。
北海道は冬に姿を消し、本州から九州では一年中いる
同じ鳥なのに「夏鳥」と「留鳥」に分かれる
ムクドリはスズメ目ムクドリ科の鳥で、学名はSpodiopsar cineraceusといいます。東アジア(中国、モンゴル、ロシア南東部、朝鮮半島、日本)に分布し、日本では九州以北に分布します。この「九州以北」という広さの中で、暮らし方が二層に分かれているのがこの鳥の面白いところです。
北海道では春から夏、秋にかけて観察でき、冬は個体数が大幅に減少します。図鑑的な言い方をすれば夏鳥です。これに対して本州から九州では通年確認されており、留鳥として扱われます。渡り鳥か留鳥かという二択で覚えると答えに詰まりますが、「地域によって渡る集団と残る集団がいる」と理解すると、地域差の質問にも答えられます。
この理解が役に立つのは、引っ越したときです。仙台から福岡へ移った人が「冬にムクドリが増えた気がする」と感じるのは錯覚ではありません。後述するねぐらの調査でも、四国や九州では冬にねぐらが増える傾向が確認されています。
注意点として、留鳥だからといって同じ個体がずっと同じ町にいるとは限りません。非繁殖期には九州以北の農耕地や芝生などの開けた環境に群れるため、町なかから郊外の農地へ、日中の生活圏が移ることもあります。「見なくなった」の理由が渡りではなく日中の行動圏の変化ということも起こります。
雪が降ると、得意な餌の取り方が使えなくなる
北海道や東北地方で冬に減る直接の理由は、餌です。冬は積雪が多く地上で採食できないために、夏にくらべ冬の生息数が少なくなると考えられています。ムクドリの採餌は、地上を歩きながら石などをくちばしで転がしたり、地中にくちばしをさしたりというスタイルで、地面が使えることが前提になっています。
ムクドリは雑食性で、昆虫、ミミズ、果実、種子、虫、クモ、カエル、ムクノキの実など幅広く食べます。木の実も食べられるのだから雪でも大丈夫では、と思うかもしれませんが、冬の北日本で群れ全体を養えるだけの果実を確保し続けるのは簡単ではありません。そこで、より条件のよい暖地へ動くという選択が生まれます。
庭で観察している人にとっての実務的なポイントは、地面が見えているかどうかです。雪が積もった直後に姿が見えなくなり、融けた日にまた地面を歩き始める、という短期的な出入りも起こります。「いなくなった=渡った」と決める前に、数日単位で地面の状態と合わせて見ておくと判断を誤りません。
| 分類 | スズメ目ムクドリ科(学名 Spodiopsar cineraceus) |
| 全長 | 全長24cm前後/翼開長40cm/体重70〜100g(約86g) |
| 見られる季節 | 本州〜九州は一年中/北海道は春〜夏〜秋(冬は大幅に減少) |
| 生息環境 | 農耕地、芝生などの開けた環境。市街地の街路樹もねぐらに使う |
| 鳴き声 | キュルキュル、ジュリジュリ、キューキュー、ギュギュ、ケケケなど |
| よく見られる場所 | 農耕地や公園。とくに朝夕のねぐら移動の時間帯 |
実は、南へ動いた先ではムクドリが「増える」
意外と知られていないのですが、ムクドリの季節移動は「いなくなる側」だけを見ていると半分しか見えません。北で減った分は、南で増えています。四国や九州では冬にねぐらが増える傾向がみられ、ムクドリは冬に南へ移動していると考えられています。
これは体感とも合います。九州や四国にお住まいの方から「うちは冬のほうが群れが大きい」という話を聞くことがありますが、これは記憶違いではなく、北から来た集団が加わっている可能性があるということです。同じ日本国内で、片方が「いなくなる時期」と呼び、もう片方が「増える時期」と呼ぶ現象が同時に起きています。
この視点を持つと、ニュースやSNSで流れてくる「ムクドリの大群」の話題も読み解きやすくなります。北日本の話題なら夏から秋、西日本の話題なら冬にも起こりうる。季節と地域をセットで見るのが、この鳥を理解する近道です。
ねぐらの数が語る、季節ごとの移動

北海道・東北は17か所中、夏13か所が冬は4か所に
感覚ではなく数字で確かめたい方のために、公的な調査結果を紹介します。生物多様性センターの報告によると、北海道と東北地方の合計17か所のねぐらの中で、夏ねぐらは13か所、冬ねぐらは4か所と冬に少ないという結果が出ています。
この数字の読みどころは、単に「減った」ではなく「3分の1以下に絞られた」という点です。ねぐらは数千から数万羽の集団が夜を過ごす場所なので、その数が減るということは、地域全体で夜を過ごす群れの受け皿が縮小したことを意味します。積雪で地上採食ができなくなる環境変化と、きれいに対応しています。
観察に活かすなら、冬の北日本で群れを探すときは「数を撃つ」より「残った場所を絞る」ほうが効率的だということになります。夏に群れが集まっていた場所を10か所回るより、川沿いの大きな樹林や市街地の常緑樹など、条件のよい場所を丁寧に見るほうが出会える確率は上がります。
元データは生物多様性センターの調査報告で公開されています。地域の傾向を自分の目で確かめたい方は、一次情報にあたってみてください。
四国・九州は夏6か所が冬に16か所へ増える
同じ調査で、四国や九州では6月から9月までの夏ねぐらは6か所、冬ねぐらは16か所と、冬に多い傾向がみられました。北日本とは逆方向の動きです。この2つの数字を並べると、「日本からいなくなる」のではなく「日本の中で重心が南へずれる」という実態が見えてきます。
ここで気をつけたいのが、数字の意味を広げすぎないことです。ねぐらの数は個体数そのものではありません。1か所あたりの規模は場所によって違いますし、調査時点の状況を切り取ったものです。それでも、北で減り南で増えるという方向性がはっきり出ている点は、季節移動の裏づけとして十分に読み取れます。
豆知識として、ねぐらの入れ替わりは10月中旬に集中します。暖かい時期に使用した夏ねぐらは10月中旬頃にはなくなり、それと同時に夏ねぐらの周囲に冬ねぐらが作られ始めます。南への移動と、近所での引っ越しが、ほぼ同じタイミングで進んでいるわけです。
季節ごとの動きを1枚にまとめた早見表
ここまでの内容を、時期・群れの状態・ねぐら・観察や対策の目安という4つの軸で整理しました。「今は何が起きている時期か」を確かめたいときの目安として使ってください。
| 時期 | 群れの状態 | ねぐら | 観察・対策の目安 |
|---|---|---|---|
| 3月下旬〜7月 | 繁殖期。ペア単位で目立たない | 木の穴・巣箱・戸袋などで営巣 | 巣に近づかない。撤去は要注意 |
| 7月〜9月 | 繁殖後に群れ化。数万羽になることも | 夏ねぐらが最大規模に | 定着前に手を打つ適期 |
| 10月中旬ごろ | 南へ動く群れと、残る群れに分かれる | 夏ねぐらが消え、周囲に冬ねぐら | 「いなくなった」と感じやすい時期 |
| 11月〜2月 | 北日本で大幅に減り、西日本で増える | 北海道・東北は4か所、四国・九州は16か所 | 北日本は場所を絞って探す |
※野鳥の教科書調べ。ねぐら数は生物多様性センターの調査結果、繁殖期・群れの規模は自治体および研究機関の公開情報にもとづいて整理しました。
秋にいちばん騒がしく感じるのは、なぜか
1羽の声は小さいのに、大群になると届いてしまう
ムクドリの騒音が話題になるのは、決まって夏から秋です。理由は単純で、この時期に群れが最大になるからです。個々のムクドリは小さな声で、口をほとんど開けずにさえずります。それでも数千から数万羽の集団ねぐらができれば、話は変わります。
数千から数万羽の群れが一斉に鳴き叫ぶため、夕方から夜間の騒音が深刻になるという指摘があります。1羽ずつの音量が控えめでも、桁が変われば体感はまったく別物になるということです。「うるさい鳥」というより「うるさくなる集まり方をする鳥」と言ったほうが実態に近いでしょう。
ここに見分けのヒントもあります。100羽を超えるムクドリが集まることは珍しくなく、鳴き声やフンの被害が一気に広がるとされます。逆に言えば、静かに「キュルキュル」と鳴く数羽を庭で見かける段階なら、それは通常の暮らしぶりであって、街路樹のねぐら問題とは別の話です。
朝と夕方に往復する、決まったリズムがある
群れの動きには毎日のパターンがあります。夕方になると木や電線に集まってねぐらをとり、朝になると採餌場所に向かう、という往復です。このリズムを知っていると、「いつ見に行けばいいか」も「いつ困りやすいか」も予測できます。
観察したい人は、日没前の時間帯に、大きな街路樹や高架のある場所へ。空をうねるように移動する群れの一斉方向転換は、ムクドリの飛翔能力の高さがよく出る場面です。逆に日中に群れを探すなら、木の上ではなく農耕地や芝生など、地面が開けた場所を見ます。
困っている人にとっては、この往復の起点と終点が対策のポイントになります。ねぐらそのものだけでなく、そこへ入る直前に集まる中継地点にも群れは滞留します。木を1本だけ見て「ここが原因」と決めつけると、隣の街区に移っただけで終わってしまうことがあります。
被害が問題になりやすいのは夏から冬にかけて、とくにピークは秋です。騒音だけでなく、大量の糞が歩道・車・建物を汚す糞害、ブドウやサクランボなどへの農業被害も同じ時期に重なります。「秋が来たら注意」ではなく「秋が来る前に備える」が合言葉です。
失敗パターン①「そのうちいなくなる」と待って被害が長引く
もっとも多い失敗が、10月中旬に夏ねぐらが消えるという知識だけを頼りに、何もせず待ってしまうケースです。原因は、夏ねぐらの消滅を「群れが地域から出ていくこと」と取り違えている点にあります。実際には、夏ねぐらがなくなると同時に、その周囲に冬ねぐらが作られ始めます。
対策としては、待つ期間を決めておくことです。9月の時点で群れが定着しているなら、10月を待つのではなく、その時点で管理者や自治体へ相談する。ムクドリが巣作りを始める前や、ねぐらとして完全に定着する前に手を打つことで、被害を大幅に減らすことが可能とされています。時間は味方ではなく、定着を進める側に働きます。
もうひとつの注意点は、乾燥した糞は粉末状になり衛生上の問題につながるということです。放置すればするほど清掃の手間も増えます。「いなくなる時期を待つ」戦略は、被害の総量という点では割に合わないことが多いのです。
読者タイプ別・秋のムクドリとの向き合い方
同じ「秋のムクドリ」でも、立場によって最適な動き方は変わります。困っている人は、定着前の対策と管理者への相談を最優先に。群れの規模が100羽を超えているなら個人で抱え込まず、自治体の窓口へ状況を伝えるのが現実的です。
観察を楽しみたい人は、日没前後の空を狙ってください。数万羽が一斉に向きを変える動きは、この季節にしか見られません。双眼鏡があると、群れの中の若鳥(灰褐色で模様が不明瞭)と成鳥の違いまで見えてきます。
庭に野鳥を呼びたい人にとっては、ムクドリは少し扱いの難しい相手です。大群で来れば近隣への影響が出ますし、餌台の食べ物を独占してしまうこともあります。庭での餌やりを考えている方は、時期や条件を整理したこちらの記事も参考になります。

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春に戻る合図は3月下旬|繁殖期のスケジュール
3月下旬から7月、年に2回の子育て
いなくなる時期の裏返しとして、戻ってくる時期も押さえておきましょう。ムクドリの繁殖期は3月下旬から7月ごろまでで、繁殖は年に2回ほど行われます。北海道で春に姿が見え始めるのも、この繁殖のサイクルに合わせた動きです。
年2回というのが、この鳥の存在感の大きさを支えています。1回の産卵で4〜7個ほどの卵を産み、それを年に2回。1シーズンで地域の個体数がまとまって増えるので、夏の終わりに群れが急に大きくなったように見えるのは自然な流れです。
観察のコツは、3月下旬から4月にかけて、木の穴や巣箱に出入りする姿を探すことです。この時期のムクドリはペア単位で動くので、群れの季節とはまったく違う静かな姿が見られます。繁殖期にはくちばしの基部が青色になるという変化もあり、近くで見られたときの見どころになります。
産卵から巣立ちまで、およそ1か月
スケジュールをもう少し細かく見てみましょう。産卵後、およそ2週間で孵化し、3週間ほどで巣立ちます。産卵から巣立ちまでは約1か月です。具体的には、4月に産卵して5月後半に巣立つという流れが代表的なパターンとして知られています。
この1か月というテンポの速さが、年2回の繁殖を可能にしています。裏を返せば、「巣を見つけてどうしようか迷っているうちに巣立っていた」ということも起こりうる短さです。慌てて手を出す前に、まず何日目くらいなのかを見極める余裕を持てるかどうかが分かれ目になります。
巣立ち直後のヒナが地面にいるのを見かけることもありますが、これは異常事態とは限りません。地面のヒナへの向き合い方は、こちらの記事で詳しく整理しています。

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木の穴だけでなく、雨戸の戸袋や排水口にも巣を作る
ムクドリの営巣場所は、木の穴や巣箱だけではありません。雨戸の戸ぶくろや、建物の排水口などにも巣を作ります。住宅と接点が生まれやすいのは、この習性のためです。「秋の街路樹の話」だと思っていたムクドリが、春には自宅の設備に入ってくることがあります。
気づくきっかけは音です。壁の内側や戸袋のあたりから、朝夕に「ギュギュ」「ケケケ」といった声や、羽ばたきの音が聞こえたら営巣の可能性があります。外から見て、決まった隙間に何度も出入りしている個体がいれば、ほぼ確定と考えてよいでしょう。
注意したいのは、この段階での対応です。使われていない時期に隙間をふさぐのと、卵やヒナがいる巣に手を入れるのとでは、話がまったく違います。次の見出しで扱う法律の話に直結する部分なので、まずは「中に卵やヒナがいるかどうか」を確認するところから始めてください。
失敗パターン②「巣を見つけたのでとりあえず撤去した」
もうひとつの典型的な失敗が、戸袋や排水口の巣を、卵やヒナが入ったまま自己判断で撤去してしまうケースです。原因は、建物の一部だから自分の裁量で自由にできる、と考えてしまうことにあります。
ムクドリは鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)で保護されている野生鳥獣です。狩猟を除き、鳥獣または鳥類の卵については、原則としてその捕獲、殺傷または採取が禁止されています。巣そのものの扱いは状況によって判断が分かれるため、卵やヒナがいる場合は自己判断で動かず、お住まいの自治体の担当窓口に相談するのが確実です。
対策としては、時期をずらすことに尽きます。繁殖期は3月下旬から7月ごろまでなので、隙間をふさぐ工事や点検は、その期間を避けて計画する。産卵から巣立ちまで約1か月というテンポを頭に入れておけば、「今はどのフェーズか」を判断しやすくなります。
全長24cmの鳥を見間違えないための3つのチェック
黒い体・白い頬・オレンジのくちばしと足
「いなくなった」と思っていたら、実は別の鳥を見ていた、ということもあります。まずはムクドリ自体の見た目を固めておきましょう。全体が黒褐色で光沢があり、頬が白く、くちばしと足がオレンジ色。全長24cm、翼開長40cmという大きさです。
識別の鍵になるのは、黒い体に白い頬、そしてオレンジのくちばしと足という組み合わせです。とくにオレンジ色の足は、地面を歩いているときによく目立ちます。逆光で色が分かりにくいときは、飛び立った瞬間を見てください。飛行時には腰の白色が目立つので、これも決め手になります。
気をつけたいのが若鳥です。若鳥は灰褐色で模様が不明瞭なため、「頬の白が見当たらない」と迷うことがあります。夏から秋の群れには若鳥が多く混じるので、群れ全体の中に成鳥の特徴を持つ個体がいるかどうかで判断すると迷いにくくなります。
ヒヨドリ・ツグミ・ハッカチョウとの違い
ムクドリと混同されやすいのは、街でよく見る同じくらいの大きさの鳥たちです。ヒヨドリはムクドリよりも尾が長く、全体的にスマートで、波を打つように飛ぶ印象があります。くちばしと脚の色、尾の長さ、鳴き声、被害の出方で見分けられます。
ツグミはムクドリとほぼ同じ大きさですが、見分ける最大のポイントは胸にある黒い斑点模様です。ムクドリにはこの模様がありません。冬に地面を歩いている姿が似ているので、胸を確認するクセをつけておくと確実です。
ハッカチョウは、黒っぽい体と白い翼斑、頭部の雰囲気が特徴で、顔つきや体色がムクドリと異なります。3種の違いを表にまとめました。
| 比較項目 | ムクドリ | ヒヨドリ | ツグミ |
|---|---|---|---|
| 体つき | 全長24cm前後、尾は短い | 尾が長く全体にスマート | ムクドリとほぼ同じ大きさ |
| 決め手になる特徴 | 白い頬とオレンジのくちばし・足 | くちばしと脚の色、尾の長さ | 胸の黒い斑点模様 |
| 飛び方 | 群れで一斉に方向転換、腰の白が目立つ | 波を打つように飛ぶ印象 | 地上を歩く姿をよく見る |
| よく見る場所 | 農耕地、芝生など開けた環境 | 庭木や街路樹 | 冬の地面、公園 |
ヒヨドリとの違いは、街で迷いやすい代表格です。より詳しい見分け方はこちらにまとめています。

庭のミカンをつつく鳥、電線に並んで鳴いている鳥。「これ、ヒヨドリ? それともムクドリ?」と迷ったまま、なんとなく見送ってしまった経験はないでしょうか。図鑑を開い…
声で見分けるという手もある
姿がよく見えない距離でも、声なら手がかりになります。ムクドリの鳴き声は「キュルキュル」「ジュリジュリ」「キューキュー」「ギュギュ」「ケケケ」など複数の音色があり、金属質でにぎやかに響くのが特徴です。渡りの移動中には「ギュルギュル」「チッチッ」などと鳴きながら集団で暖地へ移動します。
声で覚える利点は、群れの位置を追えることです。夕方に姿を見失っても、声のする方向へ歩けばねぐらにたどり着けます。「いなくなったのか、移動しただけなのか」を判断するときにも、この方法がいちばん早いです。
豆知識として、ムクドリは個々の声は小さく、口をほとんど開けずにさえずります。1羽のさえずりをじっくり聞けるのは、群れが解けた季節のほうがむしろチャンスがあるということです。似た鳥をまとめて確認したい方は、こちらの記事もどうぞ。

庭先や駅前の街路樹で、スズメより大きくてハトより小さい茶色っぽい鳥が群れているのを見て、「これがムクドリだろうか」と思ったことはありませんか。ところが図鑑を開く…
群れが去る前にできること、やってはいけないこと
定着する前に手を打つ、が原則
対策の効き目は、タイミングでほぼ決まります。有効な対策としては、防鳥ネット、防鳥テープ・反射板による対策が挙げられます。そして、ムクドリが巣作りを始める前や、ねぐらとして完全に定着する前に手を打つことで、被害を大幅に減らすことが可能とされています。
逆に言えば、すでに数千羽が毎晩集まっている場所を、個人が後から追い出すのは簡単ではありません。ここが「秋になったら考えよう」が裏目に出やすい理由です。夏の終わりに数十羽が集まり始めた段階が、いちばん低コストで動ける時期になります。
自宅の設備が対象なら、繁殖期の前に戸袋や排水口の隙間を点検しておくのが実務的です。木の穴や巣箱、雨戸の戸ぶくろ、建物の排水口といった「入れる隙間」があることが営巣の前提なので、そこを繁殖期の外で処理しておけば、春先に悩む場面自体が減ります。
ムクドリは鳥獣保護管理法により保護されている野生鳥獣です。狩猟を除き、鳥獣または鳥類の卵については、原則としてその捕獲、殺傷または採取が禁止されています。違反して捕獲した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。傷ついたムクドリを保護した場合でも、飼い続けると違法になる可能性があります。困ったときは自己判断で動かず、お住まいの自治体の担当窓口へ相談してください。
捕獲が例外的に認められる場合と、その手続き
まったく手段がないわけではありません。生態系被害や農林水産業被害の防止、学術研究の必要性がある場合は、例外として捕獲が認められます。許可の権限を持つのは都道府県知事で、国指定鳥獣保護区内での捕獲等は環境大臣が認可します。
許可権限者は、捕獲の目的ごとに、鳥獣の種類・員数・期間・区域・方法等に関する要件を定めています。具体的な基準は各都道府県の鳥獣保護管理事業計画に記載されているので、農作物被害などで検討する場合は、まず自分の都道府県の計画を確認することになります。制度の全体像は環境省の鳥獣の捕獲等の許可のページで公開されています。
この法律の背景も知っておくと理解が深まります。鳥獣保護管理法は1963年に現在の基本形が確立し、2002年に大幅改正されました。起源は1892年の「狩猟規則」までさかのぼります。目的は、生物の多様性の確保、生活環境の保全および農林水産業の健全な発展に寄与することです。被害対策と保護は対立するものではなく、同じ法律の中に位置づけられています。
自治体が行う追い払いという選択肢
地域全体で取り組む方法もあります。会津若松市では、市民と協働で、対策会議の開催や市街地での追い払いの実施など鳥害対策に取り組んでいます。追い払いの時間帯は夕暮れ時から日没後(概ね18時から20時の間)で、拍子木や競技用ピストル、LEDライト、レーザーポインターが使われています。
時間帯が夕暮れ時から日没後に設定されているのは、群れが夕方にねぐらへ集まるという行動リズムに合わせているためです。日中に対象の木の下で何をしても、そこに鳥はいません。行動パターンを踏まえた時間設計が、効果を分ける要素になります。
近年、夏から冬にかけてムクドリやカラスが市街地をねぐらにしており、フン等の鳥害について対策の要望や問い合わせが寄せられている、というのが多くの自治体に共通する状況です。個人で悩んでいる案件でも、同じ相談がすでに寄せられている可能性があります。会津若松市の鳥害対策のページのような自治体の公開情報は、相談前に読んでおくと話が早く進みます。
観察するなら「やさしいきもち」を思い出す
被害の話が続きましたが、ムクドリは観察対象としても見どころの多い鳥です。日本野鳥の会は、フィールドマナーの標語として「やさしいきもち」の7文字を掲げています。「や」は野外活動、無理なく楽しく。知識とゆとりを持って、安全に行動すること。「さ」は採集は控えて、自然はそのままに。「し」は静かに、そーっと。野生動物を脅かさず、自然の音を楽しむことです。
続けて、「い」は一本道、道からはずれないで。危険回避と自然保護、地域住民への配慮を意味します。「き」は気をつけよう、写真、給餌、人への迷惑。観察が野生生物や周囲の自然に悪影響を及ぼさないよう配慮すること。「も」は持って帰ろう、思い出とゴミ。「ち」は近づかないで、野鳥の巣です。
ムクドリの観察でとくに関わってくるのが、最後の「ち」です。巣立ちたてのヒナは迷子のように見えるが、親鳥が潜んでいることに注意、とされています。地面のヒナを見つけたときに手を出さない判断は、この一文を覚えているかどうかで変わります。詳しくは日本野鳥の会のフィールドマナーのページで確認できます。
知っていると得する、ムクドリの変わった行動
最後に、観察が楽しくなる豆知識をひとつ。ムクドリは、クロヤマアリの巣で、アリを体にすりつける「アリあび」という行動をします。地面でしゃがみ込むように羽を広げている個体を見かけたら、この行動の可能性があります。
群れの騒がしさばかりが話題になる鳥ですが、1羽の行動を追ってみると、地面の石をくちばしで転がして虫を探したり、地中にくちばしをさし込んだりと、動きに理屈があります。この観察は、群れが解けた季節のほうがやりやすいので、「いなくなった」と感じる時期こそチャンスとも言えます。
庭で野鳥を観察する習慣がある方は、季節ごとに来る鳥の顔ぶれが入れ替わるのも楽しみのひとつです。冬に庭へ来る鳥を知っておくと、ムクドリが減った季節の観察対象が見つかります。
まとめ:ムクドリがいなくなる時期と、季節ごとの付き合い方
ムクドリがいなくなる時期を一言で言えば、10月中旬に群れの居場所が入れ替わる、ということになります。ただしそれは日本から消えることではなく、北海道では冬に個体数が大幅に減り、四国や九州では冬にねぐらが増えるという、国内での重心の移動です。ねぐらの数を見れば、北海道と東北の17か所のうち夏ねぐらは13か所、冬ねぐらは4か所。四国と九州では夏の6か所に対して冬は16か所。この2つの数字が、季節移動のいちばん分かりやすい証拠になっています。
最初の一歩としておすすめしたいのは、この秋の日没前に、近所の大きな木を1本決めて見に行ってみることです。声が聞こえれば群れはまだ地域にいますし、静かなら移動した後。それだけで、あなたの町のムクドリがどちらのタイプなのかが分かります。困っている場合は、群れが小さいうちに管理者や自治体へ相談するのが、いちばん手数の少ない解決策です。
※制度の運用や自治体の対策内容は変わることがあります。捕獲の許可や鳥害対策の相談は、最新情報を各自治体・環境省の公式サイトでご確認ください。

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