7月の夕方、軒先の巣からまた「チュピチュピ」と声が聞こえてきた。6月に一度巣立ったはずなのに、どうしてまだ鳥がいるのだろう——夏にツバメを見ている人から、いちばんよく出てくる疑問がこれです。
先に結論を書きます。ツバメの繁殖期は4〜8月で、1シーズンに2〜3回子育てをします。つまり6月の巣立ちは終わりではなく、折り返し地点。夏はむしろ、二番子・三番子の子育てと、巣立った若鳥が集団でねぐらを作る時期が重なる、1年でいちばん動きの多い季節なのです。
この記事では、夏のツバメが何をしているのかを、繁殖のスケジュール・食べ物・見分け方・巣とのつきあい方の4方向から整理します。フンやカラスといった現実的な困りごとへの対処も、日本野鳥の会や自治体が公開している方法だけを使ってまとめました。巣を落としてしまう前に知っておきたい法律の話も入れてあります。読み終わるころには、軒先の巣が「困りごと」ではなく「9月まで続く連載」に見えてくるはずです。
・繁殖期は4〜8月。年に2〜3回子育てするので、夏の巣にヒナがいるのは普通のこと
・親鳥が運ぶのは体長4〜15mm程度の飛ぶ虫だけ。1日に数百匹を食べる
・卵やヒナがいる巣を許可なく壊すことは鳥獣保護管理法で禁止されている
・フン受けは巣から50cm以上離すのが日本野鳥の会の示す目安
・巣立った若鳥はヨシ原に集まり、9〜10月にフィリピンや台湾へ南下する
夏のツバメは何をしている?巣立ちのあとに始まる二番子の子育て

6月の巣立ちは「終わり」ではなく折り返し地点
夏に巣がにぎやかなのは、ツバメが1シーズンに複数回子育てをするからです。ヒナの巣立ちは6月頃に迎えるのが一般的ですが、そこで親鳥が南に帰るわけではありません。繁殖期は4〜8月とされていて、6月の巣立ちのあとに二番子、条件がよければ三番子の子育てが続きます。
なぜそんなに急ぐのかというと、ツバメの平均寿命は1〜2年、自然界での平均でも2〜3年と短いからです。一生のうちに子孫を残せるチャンスが数回しかないので、日本にいる3月〜9月のあいだに、詰め込めるだけ詰め込むという戦略になります。
見分け方は簡単で、6月末を過ぎても巣の下にフンが新しく落ち続けているなら、二番子の子育てが進行中です。巣のふちに白いくちばしの黄色い口が並んでいれば、それは新しいヒナ。巣立ったはずの巣が空っぽに見えても、数日後に親鳥が泥を運び直していることもあります。
注意したいのは、「もう巣立ったから」と6月末に巣を掃除してしまうケース。次の産卵の準備に入っているタイミングと重なりやすく、あとで説明する法律上の問題にもつながります。夏のあいだは「まだ続いているかもしれない」を前提にしておくのが安全です。
繁殖期は4〜8月、年に2〜3回も子育てする
ツバメの繁殖回数は年2〜3回。これは日本の身近な小鳥のなかでも多い部類です。1回の子育てにかかる時間を分解すると、抱卵に約2週間(14日)、孵ったヒナが飛べるようになるまでに約3週間(20日前後)。ここに巣作りや産卵の期間が加わります。
この時間割を4〜8月の枠に当てはめると、なぜ夏が忙しいのかが見えてきます。4月に始まった一番子が6月に巣立ち、そのまま同じ巣を補修して二番子へ。8月まで繁殖期が続くということは、真夏の8月にもまだヒナがいる巣が残っている、ということです。
具体例として、軒先の巣を毎日見ていると、親鳥の出入りの速さが回によって違うことに気づきます。ヒナが小さいうちは巣に留まる時間が長く、大きくなると外から虫を運んでくる往復だけになります。この「往復モード」に切り替わったら、巣立ちまであと1〜2週間と考えていいでしょう。
豆知識として、二番子は一番子より育つスピードが遅く見えることがあります。夏は日が長く親鳥が餌を運べる時間も長い一方、猛暑の日中は虫の活動が落ちるためです。朝夕に給餌が集中する巣は、暑さを避けている可能性があります。
産卵は4〜6月、1回に3〜7個の卵を産む
産卵時期は4〜6月で、一腹の産卵数は3〜7個、通常は4〜5個です。夏に巣をのぞいて卵が見えたなら、それは二番子の卵である可能性が高くなります。
卵の数が回によって変わるのは、親鳥が「今シーズンあと何回いけるか」を体力と季節から調整しているからだと考えられています。早い時期の一番子は数が多く、シーズン後半は少なめになる傾向があります。とはいえ、巣の外から数を確認しようと脚立を立てるのはおすすめできません。抱卵中の親鳥が巣を放棄する引き金になります。
観察の具体的なコツは、親鳥の動きから中身を推測することです。片方の親がずっと巣に座り、もう片方が近くの電線で見張っているなら抱卵中。2羽とも頻繁に出入りするようになったら孵化後です。抱卵は約2週間なので、座り込みが始まった日をメモしておくと、孵化のタイミングをかなり正確に読めます。
注意点は、巣に触れたり卵を動かしたりしないこと。卵やヒナがいる巣に手を出す行為は、後述する鳥獣保護管理法の対象になります。

軒先のツバメの巣を下から見上げたら、白っぽい小さな卵がいくつか見えた。あるいは、朝掃除をしていたら地面に割れた卵が落ちていた——ツバメが来る家では、5月前後にこ…
夏の巣で親鳥が見せる「近づかせない距離」を読む
夏の巣を見上げていると、親鳥が旋回して戻ってこなかったり、近くの電線で鳴き続けたりすることがあります。これは警戒のサインで、人がその位置にいる限り給餌が止まるということでもあります。
理由は営巣場所の選び方にあります。日本野鳥の会は、ツバメが天敵のカラスなどを避けるため、家の軒先や店の出入り口といった往来の多い場所に巣を作ると説明しています。人の気配を「盾」として使っているわけですが、それは通り過ぎる人の話であって、真下に立ち止まって見上げる人ではありません。
実際の見分け方としては、親鳥が巣の手前3〜4mの位置でホバリングして引き返すようなら、それが今日の限界距離です。1歩下がって壁際に寄り、動かずにいれば、たいてい30秒ほどで給餌が再開します。カメラを構えるならその位置から。
豆知識として、親鳥は毎日同じ人の姿には慣れていきます。急に来客が増えた日や、脚立・掃除道具など見慣れない物が置かれた日に警戒が強くなるので、巣の下の環境はなるべく変えないのがコツです。
全長17cmの体をおさらいすると、夏の飛び方が読めてくる
背は光沢のある黒、腹は白。逆光でも使える見分けの順番
ツバメは全長約17cm、翼を広げた翼開長は約32cmの小型の鳥です。背側は光沢のある黒(青黒色)で、お腹は白。この上下のコントラストが、飛んでいる鳥をツバメだと判断するいちばん速い手がかりになります。
なぜ上が黒く下が白いのかというと、空を背景に見上げられたときに白い腹が空に溶け、上から見下ろされたときに黒い背が地面に溶けるためだと考えられています。低空を高速で飛ぶ鳥にとっては、上下どちらの視線からも目立ちにくい配色です。
実際の見分け方としては、まず「上下の色が違うか」を見ます。夏の田んぼの上を飛ぶ鳥で、翻ったときに白がひらめけばツバメの仲間。次に尾の形、最後に腰の色、という順番で絞っていくと、双眼鏡がなくても判断できます。
注意点は、曇天や夕方だと背の光沢が出ず、ただの黒い鳥に見えることです。そのときは色ではなく飛び方で判断します。ツバメは直線的に飛んでから急に角を曲がるような軌道を描くので、ひらひらと不規則に舞うチョウやコウモリとは動きが違います。
額と喉の赤褐色が見えたら、それは大人の顔
ツバメの額と喉は赤褐色です。この赤みは近距離でしか見えませんが、見えたときの情報量は多く、成鳥かどうかの手がかりになります。
夏、特に巣立ちシーズンの6月以降は、若鳥と成鳥が同じ場所に混ざります。若鳥は全体に色が淡く、赤褐色の部分もぼんやりしています。電線に並んだ数羽のうち、顔の赤がはっきりしている個体が親、淡い個体が今年生まれ、と読むことができます。
見分けの具体的な場面としては、給餌の瞬間がわかりやすいです。電線で口を開けて震えている淡い顔の個体が若鳥、そこへ飛んできて口移しする赤い顔の個体が親鳥。巣立ち後もしばらく親からの給餌が続くので、この光景は6〜7月の定番です。
豆知識として、この赤褐色の喉は、燕尾服の名の由来にもなった尾と並んでツバメらしさの中心にあるパーツです。図鑑の絵を思い出すときは「赤い喉と割れた尾」の2点セットで覚えておくと、他の種と混同しにくくなります。
二つに分かれた長い尾は何のためにあるのか
ツバメの尾は長く二つに分かれていて、外側の羽が細長く飛び出しています。この形は、飛びながら急旋回するための舵として働きます。
理由は、ツバメの狩りのスタイルにあります。空中の小さな虫を追いかけるには、直線速度より「曲がれること」が重要です。深く切れ込んだ尾は、空気の流れを乱しにくいまま向きを変えられる構造で、地面すれすれを飛びながら虫を捕らえる動きを支えています。
野外での見分け方としては、飛んでいる鳥の後ろ姿を見て、尾が2本のとがった線に割れていればツバメ。同じ場所を飛ぶスズメやムクドリの尾は割れていないので、シルエットだけで区別できます。
注意したいのは、若鳥の尾は成鳥ほど長くないという点です。夏に「尾が短いツバメ」を見たら、イワツバメと決めつける前に、今年生まれの若鳥である可能性を考えてみてください。腰の色を確認すれば決着します。
体重19gの軽さが、夏の低空飛行を決めている
ツバメの体重は約19gです。全長17cmの体に対してこの軽さで、しかも翼開長は約32cm。翼の面積に対して体が軽いので、羽ばたきを止めても滑るように進めます。
夏に地面すれすれを飛ぶ姿がよく見られるのは、この軽さと、餌になる虫の分布が関係しています。飛ぶ虫は気圧や湿度の影響で高度を変え、雨の前には低いところを飛ぶことが多くなります。ツバメが低く飛ぶと雨、という言い伝えはここから来ています。
具体的な観察ポイントは、夏の夕方の田んぼや河川敷です。水面の上を何度も往復している個体がいれば、水面近くに湧いた虫を追っています。同じコースを繰り返し飛ぶので、カメラを構えるなら鳥を追うのではなく、コースの先で待つほうが撮れます。
豆知識として、19gという体重は、そのまま「1日に数百匹の虫を食べる」という数字の重みにもつながります。小さな体を維持し、さらにヒナを育てるために、夏のツバメはほぼ一日中飛び続けているのです。
| 分類 | スズメ目ツバメ科 |
| 全長 | 約17cm(翼開長 約32cm/体重 約19g) |
| 見られる季節 | 3月〜9月(繁殖期は4〜8月) |
| 生息環境 | 田んぼ、街路樹の周り、市街地 |
| 鳴き声 | 「ちゅぴちゅぴちゅぴ、じー」と、最後に濁る音が入る |
| よく見られる場所 | 人家の軒先、納屋、車庫、商店街、駅舎 |
1日に数百匹——夏に虫を食べ続ける胃袋のはなし

狙うのは体長4〜15mm程度の「飛んでいる」虫
ツバメが食べるのは、空を飛ぶ小さな昆虫です。捕食の対象になるのは体長4〜15mm程度で、1日に食べる数は数百匹にのぼります。
この「飛んでいる」という条件が重要です。ツバメは飛びながら口を開けて虫を捕らえる狩り方をするので、地面を歩く虫や葉の裏に隠れている虫は基本的に対象外になります。庭にいるダンゴムシやアオムシがいくら多くても、ツバメの食卓には並びません。
具体例として、夏の夕方に街灯の周りを飛ぶツバメを見かけたら、それは光に集まった小さな虫を狙っています。同じ理由で、家畜のいる納屋や水辺の近くはツバメの密度が高くなります。餌が湧く場所と巣の場所は、いつもセットで考えられているのです。
注意点というより発見なのですが、この食性はそのまま「ツバメが多い場所は飛ぶ虫が多い場所」を意味します。逆に、周囲の水田が減ったり、農薬で虫が減ったりすると、ツバメは巣をかけても子育てをやり遂げられません。軒先の巣が使われなくなった理由が、家の側ではなく数百メートル先の環境にあることもあります。
川沿いはカゲロウとトビケラ、内陸ではハチ・ハエ・チョウ
同じツバメでも、住んでいる場所によってメニューが変わります。川の周辺ではカゲロウやトビケラ、内陸部ではハチ、ハエ、チョウが主な食物になります。
理由は単純で、ツバメは「そのとき飛んでいる虫」を食べる鳥だからです。カゲロウやトビケラは水生昆虫が羽化して一斉に飛び立つので、川沿いでは短期間に大量の餌が湧きます。内陸の農地や住宅地では、そうした爆発的な発生がないかわりに、ハエやチョウが安定して飛んでいます。
観察に活かすなら、時間帯を変えて同じ場所を見るのが手っ取り早い方法です。川沿いの巣なら、羽化のタイミングに合わせて夕方に採餌が集中します。内陸の巣なら、日中まんべんなく往復します。給餌の間隔が一定かどうかで、その巣がどんな餌場に依存しているかが読めます。
豆知識として、ハチも食べるという点はよく驚かれます。飛翔中に丸ごと捕らえるため、地上で刺されるような接触にはなりません。ツバメが庭を飛び回っている家では、飛ぶ虫の数が実際に減っていることになります。
ヒナへの運び方は、虫の大きさで変わっている
親鳥がヒナに餌を運ぶ様子をよく見ると、くちばしの様子が回によって違います。これは偶然ではなく、虫の大きさで運び方を変えているためです。
ツバメについて解説する「ツバメマップ」では、親鳥がヒナに運ぶ際、大型の虫は1匹ずつくわえてきますが、小さな虫は複数匹をくちばしに加えるか喉に蓄えて運ぶと説明されています。1回の往復で運べる量を最大化するための工夫です。
見分け方としては、親鳥が戻ってきたときにくちばしから羽やあしがはみ出していれば大型の虫を1匹、くちばしが閉じたまま喉のあたりがふくらんでいれば小さな虫をまとめて運んでいます。後者のほうが往復の間隔は長くなりがちです。
注意点は、この観察をするために巣に近づかないこと。前述のとおり真下に立つと給餌が止まります。斜め下の離れた位置から、双眼鏡で親鳥の顔だけを見るのがマナーにも観察精度にもかないます。
【失敗パターン1】パンくずや米粒を置いても、ツバメには届かない
夏によくある失敗が、「ヒナがかわいそうだから」とパンくずや米粒、ゆで卵などを巣の下や庭に置いてしまうケースです。結論から言うと、これはツバメの助けにはなりません。
原因は食性のミスマッチです。ツバメが食べるのは飛んでいる小さな昆虫であって、地面に置かれた固形物ではありません。置かれた餌はツバメには使われず、かわりにスズメやハト、そして天敵であるカラスを呼び寄せてしまいます。カラスがその場所を覚えると、巣そのものが危険にさらされます。
対策はシンプルで、餌は置かないことです。かわりにできるのは、巣の下を静かに保つこと、庭に殺虫剤を撒く量を減らすこと、水たまりや泥のある場所を残すこと。巣材の泥やわらは、近くの水田や湿った地面から運ばれてきます。
もう一段深く関わりたい場合は、湿地やヨシ原の保全のように、餌となる虫が湧く環境そのものを支える活動が効いてきます。餌台ではなく環境が答えになるのが、ツバメという鳥の特徴です。

ツバメに人の餌は届きません。食べるのは体長4〜15mm程度の飛ぶ虫で、1日に数百匹。巣の下に食べ物を置くとカラスを呼び、巣の危険が増します。手を貸すなら「餌を置く」ではなく「飛ぶ虫が湧く環境と、静かな巣の下を守る」方向で考えるのが正解です。
巣を見上げる前に知っておきたい、鳥獣保護管理法のこと
卵やヒナがいる巣は、許可なく壊すことができない
夏のツバメの話で、いちばん見落とされやすいのが法律です。卵やヒナがいる野鳥の巣を、都道府県知事の許可なく壊すことは、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)によって禁止されています。
根拠となる考え方は、野鳥を個体としてではなく、繁殖の営みごと守るというものです。巣そのものより、中にいる卵やヒナの命が保護の対象になるため、「空き巣なら片づけてよいが、使用中の巣はだめ」という線引きになります。京都府長岡京市も、市町村の許可なく卵やヒナがいる野鳥の巣を撤去することは鳥獣保護管理法により禁止されている、と案内しています(長岡京市の案内ページ)。
実際の判断は、巣の中を見なくてもできます。親鳥が定期的に出入りしている、下に新しいフンが落ちている、鳴き声が聞こえる——このどれか1つでも当てはまれば「使用中」と考えてください。夏は繁殖期の真っ最中なので、使用中である確率が高くなります。
注意点として、「自分の家の軒先だから」は例外の理由になりません。所有物である建物と、法律で保護されている野鳥は別の話として扱われます。
罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金
違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられるとされています。うっかり落としてしまった、では済まない重さの規定です。
この罰則が設けられている理由は、巣の撤去が「その1つの巣で終わらない」からです。ツバメは同じ環境に集まって営巣するため、地域で撤去が常態化すると、その一帯からツバメが消えます。個人の判断の積み重ねが地域の個体数に直結するので、法律で歯止めがかけられているわけです。
具体的な場面としては、店舗やアパートの管理者が「お客様の苦情があるので」と業者に依頼するケースが挙げられます。依頼した側も無関係ではないので、見積もりの前に時期を確認するのが安全です。
豆知識として、営巣期間中でもフン対策は可能です。困っているのがフンであれば、巣に手を触れずに解決できる方法が用意されています。次のH2で具体的に説明します。
安全に撤去できるのは、産卵前か巣立ちのあと
どうしても巣を撤去する必要がある場合、法律に触れずに行える時期は決まっています。産卵前、またはヒナの巣立ち後です。
理由はここまでの通りで、保護されているのは卵とヒナだからです。まだ何も入っていない作りかけの巣、あるいは完全に使い終わった巣であれば、状況は変わります。
ただし夏は、この判断がいちばん難しい季節でもあります。繁殖期は4〜8月、繁殖回数は年2〜3回。6月に巣立った直後の巣が、数日後には二番子の産卵に使われていることがあるからです。「今は空だ」と見えた巣が、翌週には使用中に戻ります。
実務的な対応としては、撤去を考えるなら9月以降、ツバメが日本を離れたあとが最も確実です。夏のあいだにどうしても対処が必要なら、撤去ではなくフン受けやカラス対策など、巣に触れない方法から検討してください。
【失敗パターン2】「巣立ったはず」で落としたら、二番子の準備中だった
実際に起きやすいのが、6月末から7月にかけての勘違いです。ヒナの姿が見えなくなった数日間に巣を落としてしまい、あとから親鳥が同じ場所へ泥を運んできて気づく、というパターンです。
原因は、巣立ち直後の「空白期間」を巣の終了と読み違えることにあります。巣立った若鳥はしばらく近くの電線などにいて、親鳥から給餌を受けます。そのあいだ巣は空に見えますが、親鳥は次の繁殖に向けて巣を補修しはじめます。年2〜3回という繁殖回数を知らないと、この空白を終わりだと思ってしまいます。
対策は、空に見えてから最低でも2週間は様子を見ることです。そのあいだに泥やわらを運ぶ姿が一度もなく、フンも新しく落ちていなければ、その巣はそのシーズン使われていない可能性が高くなります。
判断に迷ったとき、そして許可が必要かどうかを知りたいときは、都道府県庁や市町村の環境部門・農業部門が相談先になります。自己判断で手を出す前に、電話1本で状況を説明するのが、いちばん確実で早い方法です。
卵やヒナがいる巣を、都道府県知事の許可なく壊すことは鳥獣保護管理法で禁止されています。違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金。安全に撤去できるのは産卵前か巣立ち後で、繁殖期が4〜8月・年2〜3回であることを踏まえると、夏の撤去判断は特に慎重に。迷ったら都道府県庁や市町村の環境部門・農業部門へ相談してください。
フンとカラス、夏に増える困りごとの現実的な対処法
フン受けは巣から50cm以上離すのが基本
フンの問題は、巣に触れずに解決できます。日本野鳥の会は、共存のためのアイデアとしてフン受けの設置を紹介しており、「フン受けは、巣から50cm以上離すとよい。」としています(日本野鳥の会「ツバメの保護」)。
なぜ距離を取るのかというと、巣のすぐ下に板や箱を付けてしまうと、親鳥の出入り経路をふさいだり、カラスやヘビの足場を作ってしまったりするからです。50cm以上という数字は、フンを受け止めつつ巣へのアクセスを邪魔しない、実用的なラインとして示されています。
具体的な設置例としては、玄関の軒先なら、巣の真下より少し前方に張り出すように受けを付けると、飛び出す方向に落ちるフンまでカバーできます。設置作業は親鳥が出払っている時間に手早く済ませ、脚立はすぐに片づけてください。
注意点は、受けを付けたあと数日は親鳥の反応を見ることです。出入りをためらう様子が続くようなら、位置を下げるか小さくします。フン対策のために巣を放棄させてしまっては本末転倒です。
段ボール箱と新聞紙で足りる、いちばん手軽な受け方
本格的なフン受けを買わなくても対処できます。日本野鳥の会が紹介している方法のひとつが、巣の下に段ボール箱を置き、新聞で受けるやり方です。
この方法が優れているのは、コストがかからないことに加えて、掃除が「敷いた新聞を丸めて捨てるだけ」で終わる点です。床や地面を直接洗う必要がなくなり、水で流したフンが乾いて粉になる、という二次的な問題も避けられます。
実際の運用としては、新聞紙を数枚重ねて敷いておき、1日1回いちばん上の1枚だけを取り替えます。ヒナが大きくなる時期はフンの量が増えるので、朝と夕方の2回にすると匂いもほとんど気になりません。雨のかかる場所なら、段ボールより浅いプラスチックの箱のほうが長持ちします。
豆知識として、この方式は「いつヒナが増えたか」の記録にもなります。取り替える頻度が上がったタイミングが、孵化やヒナの成長のサインです。観察日記をつけるなら、フンの量は意外に信頼できるデータになります。
カラス対策の網と糸は、張るタイミングで効果が変わる
ツバメにとって最大の脅威はカラスです。日本野鳥の会は、巣の下に網や糸を張ってカラスの侵入を防ぎ、ツバメの通路は確保するという対策を示しています。
ポイントは、この対策には適したタイミングがあることです。示されているのは、産卵開始後で、かつヒナが羽ばたきを始める前。早すぎると親鳥が巣を放棄しやすく、遅すぎるとヒナが網に引っかかる危険が出てきます。
具体的には、抱卵が始まったことを確認してから、巣の下に糸を数本、間隔を空けて水平に張ります。カラスは体が大きいため足場と進入角度を確保できないと近づけませんが、全長17cmのツバメは糸のあいだをすり抜けられます。完全にふさぐのではなく、大きな鳥だけが通れない隙間を残すのが設計の勘所です。
注意点は、ヒナが巣立つ前に外すか、通路が十分に空いているかを再確認することです。巣立ちの瞬間はヒナの飛行がまだ不安定で、細い糸が事故につながります。
立場が変われば正解も変わる。3タイプ別の付き合い方
同じ「軒先の巣」でも、置かれた状況によって取るべき対応は変わります。ここでは3つのタイプに分けて整理します。
①自宅の軒先に巣ができた人:いちばん選択肢が多い立場です。フン受けを巣から50cm以上離して設置し、掃除の手間を新聞紙1枚に圧縮してしまえば、9月まで乗り切れます。玄関の真上で気になる場合は、通行動線を少しずらすだけでもフンの被害は減ります。
②店舗や駐車場を管理している人:利用者への説明がセットになります。巣の下に「ツバメが子育て中です」と一言掲示し、フン受けを設置しておくと、苦情がクレームではなく理解に変わりやすくなります。撤去が避けられない事情がある場合は、自己判断せず都道府県庁や市町村の環境部門・農業部門に相談してください。
③巣はないけれど観察したい人:田んぼ、街路樹の周り、商店街、駅舎が狙い目です。特に駅舎は、屋根の下という条件と人通りの多さが揃っていて、夏でも巣が見つかりやすい場所です。他人の家の軒先を長時間見上げるのは避け、公共空間から観察するのがマナーになります。
日本野鳥の会は、ツバメは鳥インフルエンザ感染リスクが低く、フンなどで体外に出された場合、他の鳥に感染しなければ速やかに感染性を失うと説明しています。とはいえ野鳥のフンを扱う作業であることに変わりはないので、掃除のときは手袋を使い、作業後は石けんで手を洗ってください。乾いたフンを掃き上げると粉が舞うため、新聞紙ごと包んで捨てる方法が結果的にいちばん衛生的です。
5種のツバメ、夏の空でどう見分ける?
まず腰の色を見れば、3種はその場で絞れる
日本で見られるツバメのなかまは、ツバメ、イワツバメ、コシアカツバメ、ショウドウツバメ、リュウキュウツバメの5種類です。夏はこのうち複数の種が同じ空を飛んでいることがあります。
見分けの決め手は腰の色です。ツバメの腰は黒、イワツバメは白、コシアカツバメは赤茶色。飛んでいる鳥を後ろや斜め上から見たとき、尾の付け根あたりに白や赤茶の帯が入るかどうかを1点だけ見れば、3種は判別できます。
なぜ腰なのかというと、飛翔中でもいちばん安定して見えるパーツだからです。顔の赤褐色は近づかないと見えず、尾の長さは角度で変わりますが、腰の色は上空を通過する一瞬でも目に入ります。
注意点は、逆光では白い腰が見えにくいことです。太陽を背にする位置に移動してから、もう一度同じ個体を探してください。群れで飛んでいる場合、1羽だけ腰の白い個体が混ざっていることもあります。
イワツバメは腰が白く尾が短い。巣はドーム型
イワツバメの特徴は、腰が白いこと、そしてほかのツバメより尾が短いことです。ツバメのような深い切れ込みがないため、シルエットが丸っこく見えます。
この違いは巣の形にも表れます。イワツバメが作るのはドーム型の巣で、出入り口だけを残して屋根まで泥で閉じてしまいます。ツバメのおわん型(開口型)とは構造が違うので、巣を見れば種の判定ができます。
具体的な探し方としては、橋の下やコンクリート構造物の天井部分を見上げてみてください。ドーム型の巣が横に何個も並んでいたら、それはイワツバメの集団営巣です。人家の軒先に単独でかかるツバメの巣とは、立地の傾向がはっきり分かれます。
豆知識として、夏に「尾が短いツバメ」を見たときは、イワツバメと今年生まれのツバメの若鳥のどちらかです。腰が白ければイワツバメ、黒ければツバメの若鳥、で決着します。
コシアカツバメは腰が赤茶色、巣は徳利型
コシアカツバメは、尾の付け根の腰のあたりが赤茶色の帯になっていること、胸に縦筋があることが特徴です。ツバメより落ち着いた印象の配色で、飛んでいると腰のオレンジがかった帯がよく目立ちます。
巣も特徴的で、徳利型と呼ばれる形をしています。ドーム型からさらに出入り口が筒状に伸びた構造で、一度見たら忘れられません。この形は外敵が中に入りにくく、雨も吹き込みにくい設計になっています。
見分けの実践としては、腰の色を見たあと、胸に注目します。ツバメの腹は白一色ですが、コシアカツバメには縦筋が入ります。距離があって腰の色が判断しにくいときは、この胸の模様が2つ目の手がかりになります。
注意点は、コシアカツバメの古巣をスズメが利用することがある点です。徳利型の巣から出てきた鳥がスズメだったとしても、その巣を作ったのはコシアカツバメです。巣の形と、いま使っている鳥は分けて考えてください。
ショウドウツバメとリュウキュウツバメ、出会えるのはどこか
残る2種は、出会える場所がはっきり限られます。ショウドウツバメは胸にT字形のバンドがあるのが特徴で、川の崖の土手に集団営巣します。人家の軒先には来ません。
リュウキュウツバメは全体的に暗い色合いで、沖縄・奄美地方に通年生息する種です。渡りをして夏だけ日本にいるツバメとは、暮らし方そのものが違います。本州で見かけることはまずないので、南西諸島を旅行するときに探す鳥だと考えてください。
具体例として、夏に河川敷を歩いていて、切り立った土の崖にたくさんの穴が並んでいるのを見つけたら、ショウドウツバメの営巣地の可能性があります。穴の出入りを遠くから眺め、胸のT字形バンドが確認できれば決まりです。
注意点は、崖の営巣地に近づかないこと。集団営巣地は一度の攪乱で多数の巣が影響を受けます。堤防の上など、離れた場所からの観察にとどめてください。
| 比較項目 | ツバメ | イワツバメ | コシアカツバメ | ショウドウツバメ |
|---|---|---|---|---|
| 腰の色 | 黒 | 白 | 赤茶色 | 目立たない |
| 体の目印 | 額と喉が赤褐色 | 尾が短い | 胸に縦筋 | 胸にT字形のバンド |
| 巣の形 | おわん型(開口型) | ドーム型 | 徳利型 | 崖に掘った穴 |
| よく見る場所 | 人家の軒先・商店街・駅舎 | 橋の下・建造物 | 建造物 | 川の崖の土手 |
※野鳥の教科書調べ(公開資料をもとに整理)。日本で見られるツバメのなかまは、この4種にリュウキュウツバメ(沖縄・奄美に通年生息、全体的に暗色)を加えた5種類です。
夏の終わりに始まる、ヨシ原の集団ねぐらと南への旅
巣立った若鳥は、ヨシ原に集まって夜を過ごす
夏の後半、ツバメの主役は巣から野外へ移ります。巣立った若い鳥は集団でヨシ原などに「ねぐら」をとり、夏の終わりから秋にかけて南下していきます。
群れる理由は安全確保です。1羽ずつ散らばって眠るより、数千羽が同じヨシ原に集まったほうが、捕食者に見つかったときに自分が狙われる確率が下がります。まだ飛行が上手ではない若鳥にとって、これは大きな意味を持ちます。
観察のチャンスは日没前後の30分ほどです。大きな河川敷のヨシ原の上空に、日が傾くころからツバメが集まりはじめ、旋回しながら少しずつ高度を下げ、最後に一気にヨシの中へ吸い込まれていきます。夏の終わりにしか見られない光景です。
注意点は、ねぐらのヨシ原に立ち入らないこと。人が入ると鳥が舞い上がり、その日のねぐら入りが失敗します。堤防の上や橋の上など、離れた高い場所から眺めるのが正解です。
9〜10月、フィリピンや台湾へ向かって日本を離れる
ツバメが日本を離れるのは9〜10月です。越冬地はフィリピン、台湾などの東南アジアで、春になるとまた日本へ戻ってきます。
渡る理由は、餌である飛ぶ虫が冬の日本から消えるからです。地面の種子を食べる鳥は冬も残れますが、空中の虫だけを食べるツバメには、越冬という選択肢がほとんどありません。食性がそのまま渡りの必然になっている、わかりやすい例です。
時期の目安としては、8月に入るとツバメの姿は「巣の周り」から「ヨシ原や河川敷」へ移り、9月に入ると徐々に数が減っていきます。軒先の巣が静かになっても、少し足を伸ばした河川敷にはまだ群れがいる、という時期が夏の終わりです。
豆知識として、日本への飛来は3月上旬の九州南部から始まり、4月下旬に北海道へ達します。北へ向かうときも南へ帰るときも、日本列島の南北で1か月半ほどのずれがあることになります。

実は、翌年も同じ巣に戻る確率は15%程度
「毎年うちに同じツバメが帰ってくる」という言い方はよく聞きますが、研究では、翌年も同じ巣に戻る返舎率は15%程度と報告されています。意外と低い数字です。
背景にあるのは寿命の短さです。ツバメの平均寿命は1〜2年、自然界での平均でも2〜3年。数千キロの渡りを往復するあいだに命を落とす個体が多く、そもそも「翌年戻ってこられる」個体自体が限られています。同じ巣に別の個体が入ることも珍しくありません。
この視点を持つと、軒先の巣の見え方が変わります。毎年ツバメが来る家というのは、同じ1羽に選ばれ続けているのではなく、その環境が「毎年、別のツバメにも選ばれる条件」を満たしている、ということです。近くに餌になる飛ぶ虫が湧き、カラスが入りにくく、人の往来がある——その組み合わせが評価されています。
だからこそ、巣を落とすかどうかの判断は、1羽の鳥ではなく1つの営巣地の話になります。15%という数字は、寂しさと同時に、環境を守ることの意味を教えてくれる数字でもあります。
観察を記録に残すなら、月別のカレンダーが使える
夏のツバメ観察は、単発で見るより記録すると面白くなります。ツバメがいるのは3月〜9月、子育ての中心は4月〜7月、巣立ちは6月頃。この骨格に自分の家の巣の日付を書き込んでいくだけで、その場所固有のデータになります。
記録項目としておすすめなのは、初めて姿を見た日、親鳥が巣に座り込みはじめた日、ヒナの声が聞こえた日、巣が静かになった日、最後に見た日の5つです。抱卵は約2週間、巣立ちまでは約3週間という目安があるので、座り込みの日から先の予定を逆算できます。
鳴き声も手がかりになります。ツバメのさえずりは「ちゅぴちゅぴちゅぴ、じー」と鳴き、最後に「じー」と音がにごるのが特徴です。ツガイ探しの時期にあたる2月下旬〜4月上旬によく聞かれる声なので、夏に激しいさえずりが復活したら、次の繁殖に向けた動きの可能性があります。
なお、日本野鳥の会はツバメの観察を広めるための小冊子『ようこそツバメ』を無料配布しています。減少が懸念される現状に関心を持ってもらうためのもので、記録を始めるきっかけとしても使えます。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | △ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
飛来は3月上旬の九州南部から始まり4月下旬に北海道へ。繁殖期は4〜8月、離日は9〜10月です(野鳥の教科書調べ)。
まとめ:夏のツバメと過ごす3か月で、覚えておきたいこと
ここまで読んで、軒先の巣が「夏じゅう続く連載」に見えてきたなら、最初の一歩は簡単です。今日、巣の下に新聞紙を敷いた段ボール箱を置いてみてください。掃除の負担が1日1枚の入れ替えになるだけで、ツバメが困りごとから観察対象に変わります。そして日付をひとつメモしておくと、次に来る変化——ヒナの声、静かになる日、河川敷の群れ——が予測できるようになります。撤去を考えるのは、ツバメが日本を離れた9月以降で十分間に合います。
※法律の運用や許可の要否は地域によって扱いが異なる場合があります。判断に迷うときは、都道府県庁や市町村の環境部門・農業部門など、公式の窓口で最新の情報をご確認ください。

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