軒先のツバメの巣を下から見上げたら、白っぽい小さな卵がいくつか見えた。あるいは、朝掃除をしていたら地面に割れた卵が落ちていた——ツバメが来る家では、5月前後にこうした場面が毎年のように起こります。そのとき知りたいのは、卵はいくつあるのが普通なのか、いつ孵るのか、そして触ってもいいのか、の3つではないでしょうか。
先に結論をお伝えします。ツバメの卵は白色の地に赤褐色の斑点があり、長径20mm・短径14mm、重量は1.8g内外です。1回の子育てで産む数(一腹産卵数)は3〜7卵で、1日に1個ずつ増えていきます。産卵から孵化までは14〜18日。そして卵は、たとえ地面に落ちたものであっても、法律で採取や損傷が原則として禁止されています。手を出さずに見守ることが、いちばん確実な手助けになります。
この記事では、卵の色・大きさ・数といった基本から、産卵カレンダー、イワツバメやコシアカツバメの卵との見分け方、そして卵が落ちてしまったときの正しい対処までを、日本野鳥の会や環境省、自治体が公開している情報をもとに整理しました。巣の下で毎年そわそわしている人が、来年の春を落ち着いて迎えられる内容になっています。
この記事でわかること
・ツバメの卵の色・大きさ・重さと、1回に産む数の幅(3〜7卵)
・産卵から孵化までの日数と、4月〜8月の繁殖カレンダー
・白い卵だったときに疑うべきイワツバメ・コシアカツバメとの見分け方
・落ちた卵やヒナへの対処と、鳥獣保護管理法で禁止されていること
ツバメの卵は長径20mm・重さ1.8g|まず色と大きさを知る

白い地に赤褐色の斑点|「真っ白」ならツバメ以外を疑う
ツバメの卵は、白色の地に赤褐色の斑点が散った模様をしています。この「斑点があるかどうか」が、ツバメの卵かどうかを判断する最初の手がかりです。斑点は卵ごとに濃さや散り方が違い、同じ巣の中でも一つひとつ模様が異なります。
斑点があるのは、卵の殻がつくられる過程で色素が付着するためです。地面や崖など明るい場所に産む鳥ほど模様が濃い傾向があり、暗い樹洞や穴の中に産む鳥は白い卵を産むことが多いという関係が知られています。ツバメは軒先という半分開けた場所に巣をつくるため、斑点のある卵になっていると考えると腑に落ちます。
実際の見分け方はシンプルで、巣の下から見上げて卵が真っ白に見えるなら、ツバメではなくイワツバメやコシアカツバメの巣かもしれません。イワツバメの卵は白色で斑点がなく、コシアカツバメの卵も真っ白です。斑点の有無は、双眼鏡があれば下から見上げるだけでも判別できることがあります。
注意したいのは、確認したいあまり巣に顔を近づけてしまうことです。卵の模様を見るために脚立を出す必要はありません。次の項目で触れるように、卵の識別は「巣の形」からでも十分にできます。斑点が見えなかったからといって、抱卵中の親鳥を追い出してまで確かめる価値はありません。
長径20mm×短径14mm|指先に乗る1.8gという軽さ
ツバメの卵は長径20mm、短径14mm、重量は1.8g内外です。長径20mmは2cm、つまり指先に乗るサイズです。重さの1.8gは2gに届かず、手のひらに置いても重みをほとんど感じない軽さになります。
これだけ小さいのは、親鳥自身が全長17cmという小型の鳥だからです。ツバメはトンボやアブ、ユスリカなどの飛ぶ虫を、飛びながら捕えて生きています。空中で長時間飛び続ける体を保つには、体重に対して過大な卵を抱えるわけにはいきません。小さな卵を複数個、日をおいて産むという方式は、飛ぶ鳥にとって理にかなった戦略です。
庭やベランダから観察するとき、この小ささは判断の材料になります。巣の縁からわずかに見える卵が、明らかに親指の先ほどの大きさがあるなら、それはツバメの卵ではありません。ハトやムクドリなど別の鳥が営巣している可能性を考えたほうが自然です。
覚えておきたいのは、卵の殻がこの重量に見合った薄さだということです。1.8gの卵は、人の指で持ち上げるだけでも割れる強度しかありません。落ちた卵を「戻してあげよう」と拾い上げた結果、その場で割れてしまう例は珍しくありません。後述するとおり、卵に触れること自体が法律上の問題にもなります。
卵形という形が、おわん型の巣と相性がいい理由
ツバメの卵は、いわゆる卵形(一方がやや細くなった形)をしています。この形は、平らな面に置いたときにまっすぐ転がらず、細い側を中心にして弧を描くように回る性質を持ちます。
ツバメの巣は、泥でできたおわん型です。人家や商店、駅などの軒先に土や泥を積み上げてつくられ、内側がくぼんだ形になっています。卵形の卵とくぼんだ巣の組み合わせは、卵どうしが中央に集まりやすく、親鳥が抱いたときに全体を温めやすい構造です。崖の縁に直接産む鳥ほど極端な形にはなっていませんが、巣の外へ転がり出にくい形であることは変わりません。
観察の場面では、卵が巣の中央にまとまっているかどうかが一つの目安になります。抱卵中の巣では卵は中央に寄せられており、親鳥が座ると外からはほとんど見えなくなります。逆に、卵が巣の縁に散らばったまま何日も親鳥が戻らない場合は、その巣が放棄されている可能性があります。
豆知識として、ツバメが2回目の子育てをするときは、同じ巣を使わずに新しい巣を5〜7日かけてつくることが知られています。巣に寄生虫が繁殖するのを防ぐためだと考えられており、1回目は去年の巣を修繕して使い、2回目は新築する、という使い分けをしています。「去年と同じ場所に新しい巣が増えた」と感じたら、それは同じペアの2回目かもしれません。
| 卵の色 | 白色の地に赤褐色の斑点 |
| 大きさ | 長径20mm × 短径14mm |
| 重量 | 1.8g内外 |
| 形 | 卵形 |
| 一腹産卵数 | 3〜7卵(平均3.00〜4.98卵) |
| 巣の形と場所 | 泥でできたおわん型/人家や商店、駅などの軒先 |
いくつ産むの?3〜7個という幅の正体
一腹産卵数は3〜7卵、平均は3.00〜4.98卵
ツバメが1回の子育てで産む卵の数は3〜7卵で、平均すると3.00〜4.98卵という調査値が報告されています。自治体の解説では「子育て1回あたりの産卵数は4から5個」と紹介されることが多く、実感としては4個か5個が最も出会いやすい数字です。
幅が生まれるのは、産卵数が親鳥の体調やその年の餌の状況に左右されるためです。ツバメが食べるのはトンボやアブ、ユスリカなどの飛ぶ虫で、冷え込みや長雨が続く年は虫が飛ばず、親鳥が十分な栄養を確保できません。育てきれない数の卵を産むことは親子ともに不利になるため、条件のよくない年は少なめに産むことになります。
観察の場面では、巣の下から見えた数が「全部」とは限らない点に気をつけてください。おわん型の巣は縁が高く、下から見上げると手前の1〜2個しか見えないことがよくあります。3個しか見えなくても実際は5個ある、というのは日常的に起こります。
数を正確に知りたい気持ちは自然なものですが、正確な数がわかっても飼い主にできることは何も増えません。むしろ、後述するように巣をのぞく行為そのものが繁殖の失敗につながります。数は「3〜7個のどこか」と受け止めておくのが、観察する側にとっても親鳥にとってもいちばん穏やかです。
卵は1日に1個ずつ増える|数え急ぐ必要がない理由
ツバメは卵を一度に産み落とすのではなく、1日に1個ずつ産んでいきます。つまり5個の卵がそろうまでには5日前後かかる計算になり、途中で見た数が最終的な数とは一致しません。
1日1個というペースになるのは、卵の殻をつくるのに時間がかかるためです。殻はカルシウムを主成分としており、体内で1個分を仕上げるのにおおむね1日を要します。多くの小鳥に共通するペースで、ツバメだけが特別に遅いわけではありません。
この性質を知っていると、観察の受け取り方が変わります。「昨日は2個だったのに今日は3個ある」という増え方はごく普通の経過で、途中で別の鳥が産み足したわけでも、数え間違いでもありません。逆に、数日たっても増えず、親鳥が長時間巣に座るようになったら、産卵が終わって抱卵に移ったサインだと考えられます。
注意したいのは、産卵期の巣がとりわけ敏感だという点です。この時期は親鳥がまだ巣への執着を強めきっておらず、驚かせると巣ごと放棄してしまうことがあります。日本野鳥の会も、フン受けなどの設置について「親鳥の警戒心が強い巣作り中や抱卵中はやめましょう」と案内しています。数を確認するための脚立も、同じ理由で控えるのが賢明です。
1回目と2回目で数が変わる|前期繁殖のほうが多く産む
ツバメは春から夏にかけて繁殖し、1シーズンに1〜3回、通常は2回子育てをします。そして前期繁殖(1回目)のほうが、後期繁殖(2回目)よりも多くの卵を産む傾向があることがわかっています。
理由は季節の進み方にあります。1回目の子育てが始まる5月ごろは、虫の量も日照時間も上り坂で、ヒナを多く育てられる条件がそろっています。一方で2回目は夏の後半にさしかかり、渡りの準備までの時間が限られます。数を絞って確実に巣立たせるほうが、結果的に多くの子を残せるという計算が働いていると考えられています。
実際の見え方としては、5月の巣で5個前後、7月の巣で4個前後、という違いになって現れます。同じ家の軒先で2回続けて営巣した場合、2回目のほうが卵が少なくても心配はいりません。ツバメの側では想定内の変化です。
知っておくと得なのは、2回目の巣は多くの場合、1回目と別の場所に新築されるということです。「1回目の巣が空になったから撤去しよう」と考えたくなる時期が、ちょうど2回目の営巣とぶつかります。空の巣に見えても近くで次の準備が進んでいることがあるので、シーズン中の撤去は避けたほうが無難です。
卵の数は「今見えている数」で判断しないこと。ツバメは1日に1個ずつ産み、おわん型の巣は下から全部が見えません。3個しか見えなくても数日後には5個になっていることがあります。数えるために巣をのぞく行為のほうが、繁殖の失敗を招きます。
産卵はいつ?4月から始まる繁殖カレンダー

4月上旬〜中旬の巣作りから、すべてが始まる
ツバメの繁殖は、4月上旬から中旬にかけての巣作りから始まります。巣が完成するまでには約2週間から1ヶ月かかり、そのあとに産卵という順序です。つまり4月に「泥をくわえたツバメ」を見た家では、5月には卵が入っていると考えて差し支えありません。
これだけ時間がかかるのは、巣が泥と枯れ草を少しずつ積み上げてつくられるためです。一度に高く積むと自重で崩れるため、乾かしながら段階的に重ねる必要があります。1回目の繁殖では去年使った巣を修繕して使うことが多く、その場合は新築より短い期間で産卵に入ります。
観察のポイントは、巣に出入りする回数の変化です。巣作り中は泥をくわえて何度も往復しますが、産卵が始まると出入りは静かになり、親鳥が巣に長く留まる時間が増えていきます。この切り替わりが、卵が入ったサインです。
注意したいのは、この時期に足場や外壁の工事を予定している場合です。卵やヒナが入ったあとでは、後述するとおり巣を壊すことが法律違反になります。工事の予定があるなら、営巣が始まる前の段階で対策を検討しておくのが現実的な選択になります。
産卵のピークは4月下旬〜5月中旬
産卵は4月から7月にかけて行われ、ピークは4月下旬から5月中旬です。ゴールデンウィークの前後に、日本各地の軒先で卵が産み落とされていることになります。
この時期に集中するのは、ヒナを育てる時期を虫が最も多い季節に合わせるためです。孵化してからのヒナは飛ぶ虫を大量に必要とします。逆算すると、4月下旬から5月中旬の産卵がちょうどよいタイミングになります。渡り鳥が春に急いで繁殖に入るのは、この逆算が効いているからです。
地域によって時期はずれます。南の地域ほど飛来が早く、産卵も前倒しになります。北の地域では5月に入ってから巣作りを始める例も多く、7月の産卵が2回目ではなく1回目、ということもあります。「うちはまだ卵がない」と焦る必要はありません。
豆知識として、卵を見られる期間は意外と短いという点も挙げておきます。産卵から孵化まで14〜18日ですから、卵の状態で存在するのは2週間強です。1年のうち、軒先の巣に卵がある期間は正味1ヶ月ほどしかありません。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ | △ | △ |
◎=巣に卵がある可能性が高い(産卵ピークは4月下旬〜5月中旬) ○=卵が見られることがある △=ほぼ見られない(渡去・越冬期を含む)
シーズンに2回|2回目は新しい巣を5〜7日でつくる
ツバメは1シーズンに1〜3回、通常は2回子育てをします。1回目が5月、2回目が7月前後という流れが一般的です。そして2回目は、1回目と同じ巣を使わずに新しい巣をつくることが知られています。
新築する理由は、巣に寄生虫が繁殖するためだと考えられています。泥と枯れ草でできた巣は、ヒナが育つ過程でダニなどの温床になります。1回目の巣をそのまま使い続けるより、5〜7日かけて新しい巣をつくったほうが、2回目のヒナの生存率が上がるという判断です。
この習性は、家の側から見ると「巣が増える」という現象として現れます。同じ軒先に2つ、3つと巣が並んでいる家は、複数年にわたって同じ場所が選ばれ続けてきた証拠でもあります。1回目の巣は去年の巣を修繕して使うため、古い巣が残っていることは翌年の営巣を呼び込む要素にもなります。
注意点として、2回目の巣ができたからといって1回目の巣がすぐ空になるわけではない、という点があります。巣立ったばかりの若鳥が古い巣に戻って休むこともあります。撤去を考えるなら、ツバメが渡去したあと、つまり秋以降に判断するのが確実です。
8月頃に巣立ち、ヨシ原のねぐらへ
卵から始まった一連の繁殖は、8月頃の巣立ちで一区切りを迎えます。そのあとツバメは、川沿いのヨシ原などに数千羽から数万羽が集まってねぐらをとり、8月中旬から10月にかけて東南アジアへ渡っていきます。
集団でねぐらをとるのは、渡りに備えて安全に休むためです。1羽ずつ散らばるより、大きな群れのほうが天敵に気づきやすくなります。夕方のヨシ原に空が黒くなるほどのツバメが渦を巻いて降りていく光景は、この時期だけのものです。
家の軒先での観察という点では、8月に入って巣が静かになったらシーズン終了の合図です。巣を見上げても親鳥が戻らない日が続けば、その巣の役目は終わっています。ただし、地域によっては9月に入っても遅い個体が残ることがあります。
知っておくと視野が広がるのは、この渡りの距離を支えているのが、あの1.8gの卵から始まった体だということです。全長17cmの鳥が東南アジアまで飛ぶまでに、わずか2週間強の卵の期間と、ひと夏の子育てがあります。軒先の巣は、その長い旅の出発点にあたります。

軒下にツバメの巣ができた。ヒナの声が聞こえてくる。そうなると、つい「何か食べさせてあげたほうがいいのでは」と思ってしまいますよね。パンくずを置いてみた、ごはん粒…
温めはじめて14日|孵化までに巣の中で起きていること
産卵から孵化まで14〜18日
産卵から孵化までの日数は14〜18日です。オスとメスが交代で約14日間抱卵するという記述が図鑑系の解説では一般的で、期間に幅があるのは、抱卵を始めるタイミングと気温の影響によります。
幅が出る仕組みは、産卵のペースと関係しています。ツバメは1日1個ずつ卵を産みますが、産んだ端から本格的に温め始めるわけではありません。すべて産み終えてから抱卵に入ることで、ヒナの孵化時期がそろい、大きさに差がつきにくくなります。最初に産まれた卵から数えるか、最後の卵から数えるかで、体感の日数は数日ずれることになります。
観察する側の目安としては、親鳥が巣に長時間座り込むようになった日を起点に、2週間を数えるとよいでしょう。その頃から巣の下に細かな殻の破片が落ちていたり、親鳥の出入りが急に増えたりしたら、孵化しています。ヒナが孵ると親鳥は餌を運ぶために頻繁に往復するようになるため、変化ははっきりわかります。
注意したいのは、「2週間経ったのに孵らない」と焦らないことです。抱卵開始日は外からは正確にわからず、気温が低い年は遅れます。親鳥が通っている限り、その巣は生きています。人が手を出せることは何もありません。
抱卵日数は前期14.1日・後期11.8日|季節で変わる温めかた
調査データを見ると、抱卵日数は前期繁殖で9〜17日(平均14.1日)、後期繁殖で9〜16日(平均11.8日)と報告されています。1回目より2回目のほうが、平均で2日ほど短くなっています。
差が生まれるのは、気温の違いが大きいと考えられます。卵の発生には一定の温度が必要で、外気温が高い夏場は親鳥が離れているあいだも卵が冷えにくくなります。5月の肌寒い日が続く時期には、親鳥が温め続けても発生の進みが遅くなり、日数が伸びます。
この数字は、観察日誌をつけている人にとっては便利な目安になります。5月の巣なら14日前後、7月の巣なら12日前後を目安にすると、孵化の予想が当たりやすくなります。ただし、いずれも9日から17日という幅の中の平均値です。数日のずれは想定内と考えてください。
同じ調査では育雛日数も報告されており、前期繁殖で33〜46日(平均39.1日)、後期繁殖で29〜38日(平均36.2日)とされています。この数字は巣の中にいる期間だけを指すとは限らず、巣立ち後に親が世話をする期間の扱いによって定義が変わります。巣立ちまでの日数そのものを知りたい場合は、ヒナに焦点を当てた記事のほうが実態に近い数字を確認できます。

抱卵中の親鳥は何をしているのか
抱卵中の巣では、オスとメスが交代で卵を温めています。1羽が巣に座っているあいだ、もう1羽は飛ぶ虫を捕りに出て、戻ってきたら交代する、という繰り返しです。
交代制になっているのは、親鳥自身が食べなければ体力が続かないからです。ツバメの食事は飛翔中の虫の捕食で、じっと座って餌を待つことができません。空中で虫を捕り続けるには相応のエネルギーが必要で、片方だけが抱卵し続けると体が持ちません。
下から見ていると、この交代は「巣から1羽飛び出して、すぐ別の1羽が入る」という数秒の動きとして見えます。慣れてくると、しっぽの切れ込みの深さや喉の色から個体を見分けられるようになります。双眼鏡があれば、地面から離れた位置で観察できるので、親鳥を驚かせずに済みます。
豆知識として、抱卵中の親鳥は巣にいる時間が長いぶん、天敵に狙われやすいという弱点があります。だからこそツバメは、人の出入りが多い軒先という、カラスやヘビが近づきにくい場所を選んでいます。この点は次の章で詳しく見ていきます。
やりがちな失敗①|毎日脚立でのぞき込み、巣を放棄させてしまう
卵が気になって毎日脚立を出し、巣の真横から中を確認する——これが、ツバメの繁殖でもっとも起きやすい失敗です。とくに産卵期から抱卵初期にかけては、親鳥が巣を捨てて戻らなくなることがあります。
原因は、この時期の親鳥がまだ巣への執着を強めていないことにあります。ヒナが孵ったあとの親鳥は多少の刺激では巣を離れませんが、卵の段階では「この場所は危険だ」と判断すると、そこまでの労力を捨ててやり直す選択をします。日本野鳥の会が、フン受けの設置について巣作り中や抱卵中を避けるよう案内しているのも同じ理由です。
対策はシンプルで、卵の期間は巣の真下や真横に人の顔を持っていかないことです。どうしても確認したいなら、離れた場所から双眼鏡で見る、あるいは親鳥の出入りだけを数えるという方法があります。卵の数を知らなくても、親鳥が通っていれば繁殖は進んでいます。
もう一つの目安として、巣の下を通るときに親鳥が飛び出すかどうかを見てください。人が近づくたびに親鳥が巣を離れているなら、その動線は近すぎます。玄関先の巣なら、通る位置を数十cm変えるだけでも親鳥の反応は変わります。
白い卵ならツバメじゃないかも|似た2種との見分け方
イワツバメの卵は真っ白|巣は入口が穴の半球形
巣の中の卵が斑点のない白色だった場合、まず疑いたいのがイワツバメです。イワツバメの卵は白色で、1回に4〜5個産みます。大きさは平均で長径20.2mm × 短径13.8mm、重量1.5〜1.9gと、ツバメの卵とほぼ同じサイズです。
サイズが近いのは、イワツバメも同じツバメの仲間で体格が大きく違わないためです。ただし成鳥はツバメより小型で、全長は約13cm。ツバメの17cmと並べると差がわかります。尾は浅く切れ込んでいますが、ツバメほど長く伸びません。
確実な見分け方は、卵ではなく巣の形を見ることです。イワツバメは泥で半球形の巣をつくり、入口が小さな穴になっています。おわん型で上が開いているツバメの巣とは、下から見上げただけで区別できます。営巣場所も、崖や橋などの岸壁、学校のような大型コンクリート構造が中心で、民家の軒先が定番のツバメとは好みが違います。
注意点として、卵の色だけで判断しようとすると混乱しがちです。光の当たり方によっては、ツバメの卵の斑点が見えないこともあります。巣の形と場所という2つの手がかりを合わせれば、卵を見なくても答えが出ます。
コシアカツバメは壺状の巣とトンネル状の出入り口
もう一種、白い卵を産むのがコシアカツバメです。卵は真っ白で、小指の第1関節から先より少し小さいくらいの大きさ。日本では5〜8月に4〜5個の卵を産みます。
この種を見分ける最大の手がかりも巣の形です。コシアカツバメは家屋の軒下や橋の下などに泥で壺状の巣をつくり、入口に長いトンネル状の出入り口を設けます。おわん型のツバメの巣とは、形が根本から違います。成鳥は名前のとおり腰が赤く、喉から腹全体がオレンジ色で黒褐色の縦斑があります。
産卵時期にもずれがあります。ツバメが4月から7月なのに対し、コシアカツバメは5月から8月と、ひと月ほど遅い時期にかかります。7月下旬に新しく営巣が始まった家では、コシアカツバメの可能性も考えてみる価値があります。
知っておきたいのは、コシアカツバメの巣がツバメの巣より大がかりに見えることです。トンネル部分があるぶん泥の量も多く、「うちのツバメの巣がやけに大きい」と感じたら、そもそも種が違うのかもしれません。日本にいるツバメの仲間は1種類ではないので、巣の個性の違いとして見ていくと観察が広がります。

春先に空を横切る黒い鳥を見て、「これって全部ツバメなの?」と首をかしげたことはありませんか。軒下に巣をかけるおなじみのツバメだけでなく、駅のホームの天井に集まる…
迷ったら巣の形を見る|3種の違いを一覧で
結論として、卵で悩むより巣の形を見たほうが早く正確に判断できます。卵は色こそ違うものの大きさがほぼ同じで、高い位置にある巣を下から見上げる状況では、色の判別が難しいためです。
巣の形は、それぞれの種が選んだ営巣場所と結びついています。人家の軒先に営巣するツバメは上が開いたおわん型、崖や橋を選ぶイワツバメは入口が穴の半球形、軒下や橋の下を使うコシアカツバメはトンネル付きの壺状です。形は場所への適応の結果なので、営巣場所とセットで覚えると忘れません。
下の表は、卵・巣・営巣場所の違いを1枚にまとめたものです(野鳥の教科書調べ)。玄関先で見上げながら確認できるよう、外から見てわかる項目を優先して並べました。
| 比較項目 | ツバメ | イワツバメ | コシアカツバメ |
|---|---|---|---|
| 卵の色 | 白色地に赤褐色の斑点 | 白色(斑点なし) | 真っ白(斑点なし) |
| 卵の大きさ | 長径20mm × 短径14mm | 長径20.2mm × 短径13.8mm | 小指の先より少し小さい |
| 巣の形 | おわん型 | 半球形・入口が小さな穴 | 壺状・トンネル状の出入り口 |
| 営巣場所 | 人家や商店の軒先 | 崖や橋などの岸壁、大型コンクリート構造 | 家屋の軒下や橋の下 |
| 産卵数 | 3〜7卵 | 4〜5卵 | 4〜5卵 |
| 全長 | 17cm | 約13cm | 腰が赤く喉〜腹はオレンジ色 |
なぜ人の家の軒先に卵を産むのか
実は、人が多い場所ほど卵は安全
意外と知られていないのですが、ツバメが人家や商店の軒先を選ぶのは、人を頼りにしているからです。カラスやネコ、ヘビなどの天敵から卵やヒナを守るため、あえて人間が多い場所に営巣する、と解説されています。
この戦略が成り立つのは、天敵の側が人を避けるからです。カラスは人の出入りが多い場所での接近をためらい、ヘビやネコも同様に人通りのある動線を嫌います。ツバメにとって人は「無害だが天敵を遠ざけてくれる存在」であり、その庇護を借りるかたちで営巣場所が決まっています。
だから、「静かにしてあげたほうがいい」と思って玄関の使用を避けるのは、じつは逆効果になりえます。ツバメが選んだのは、人が普通に出入りしている状態のその場所です。生活のしかたを大きく変える必要はありません。変えるべきなのは、巣を直接のぞく行為だけです。
知っておくと見方が変わるのは、繁華街のシャッター前や駅の改札脇に巣がある理由です。あれは行き場がなくてそこにいるのではなく、もっとも人が多い場所が選ばれた結果です。ツバメの側から見れば、一等地に建てた家ということになります。
巣の場所には4つの条件がある
ツバメが巣を作る場所には、明確な条件があります。雨や直射日光が当たらない場所、ツバメが出入りしやすい場所、近くを飛ぶカラスから丸見えにならない場所、蛇やネズミが柱や物を伝って来られない場所——この4つです。
いずれも卵を守るための条件です。泥でできた巣は雨に弱く、直射日光は卵の温度管理を難しくします。出入りのしやすさは親鳥の給餌効率に直結し、カラスからの死角とヘビの経路の遮断は、そのまま捕食対策になります。
この条件がわかると、自宅のどこに巣ができるかが読めます。屋根の軒先や雨どいの近くといった高い位置、壁と天井が合わさる隅、庇の内側などが候補です。逆に、外壁につるつるした面が続き、雨がかかる場所には巣はできません。
注意点として、条件を満たす場所を人為的に増やすのは慎重に考えてください。巣ができれば毎年フンの掃除がついてきます。歓迎する気持ちがあるなら、次の章で紹介するフン受けとセットで準備しておくと、シーズン中の負担が減ります。
読者タイプ別|巣を見つけたときの最初の判断
巣を見つけたあとの動き方は、住まいの状況によって変わります。自分がどのタイプかを先に決めておくと、迷いが減ります。
戸建てで歓迎したい人は、フン受けの準備だけしておけば十分です。設置のタイミングは後述しますが、卵の期間に工事のような作業を持ち込まないのが原則です。賃貸住宅の人は、まず管理会社に一報を入れておくと、あとで外壁清掃などの予定とぶつかったときに話が早くなります。卵やヒナがいる巣は勝手に撤去できないため、共有部分なら早めの共有が有効です。
店舗や事務所の人は、フン受けと動線の確保が現実的な課題になります。入口の真上に巣がある場合、通行の妨げにならない位置にダンボールを設置し、来客への一言掲示を用意しておくと苦情が出にくくなります。営巣してほしくない人は、卵が入る前に対処するしかありません。産卵後は法律で守られるためです。
共通するのは、判断の期限が「卵が入るまで」だという点です。4月上旬から中旬の巣作り期に決めておけば、選択肢が残ります。5月に入ってから悩み始めると、できることは見守ることだけになります。
ツバメは、カラスやネコ、ヘビなどの天敵から卵やヒナを守るため、あえて人間が多い場所に営巣します。人の生活音や出入りを気にして玄関を使わなくする必要はありません。ツバメが避けてほしいのは、巣そのものに近づく手と顔だけです。
卵が落ちていたら|法律と、家でできること
拾うと違法になる|鳥獣保護管理法が禁じていること
地面に落ちたツバメの卵を拾って巣に戻す——善意から出た行動ですが、法律上は認められていません。環境省は、鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)について「鳥獣を捕獲または殺傷することおよび鳥類の卵を採取または損傷することを原則として禁止しています」と説明しています。
禁止の対象は、卵を持ち帰る行為だけではありません。日本野鳥の会も、都道府県知事の許可がなければ、卵やヒナがいる巣を壊すことは違法になると案内しています。違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
実際の場面に当てはめると、「巣が邪魔だから卵ごと落とす」「卵を拾って冷蔵庫に入れておく」「殻を記念に取っておく」といった行為が該当します。孵化後の殻が自然に落ちてきた場合と、卵そのものを扱う場合は意味が違います。
覚えておきたいのは、この法律が個人の善意を疑っているわけではないという点です。野鳥の繁殖に人が介入すると、良かれと思った行動が結果として繁殖を失敗させることが多いため、一律で線が引かれています。落ちた卵に対しては、そのまま親鳥に任せるのが唯一の正解です。
ヒナが落ちていた場合の対応
卵ではなくヒナが落ちていた場合は、対応が少し変わります。基本は親鳥に任せることで、巣から落ちたヒナも親が見守っているため、人間がそっと場を離れるのが原則です。
親に任せるのが基本なのは、給餌ができるのが親鳥だけだからです。ツバメのヒナが食べるのは飛ぶ虫で、人がパンや牛乳を与えても育ちません。周囲から親鳥が呼びかけ、地上のヒナに餌を運ぶ例は珍しくありません。人がその場にいると、親鳥は警戒して近づけなくなります。
ヒナが道路上など危険な場所にいる場合の方法として、日本野鳥の会に協力する団体などでは、カップめんの容器やザルを巣に近い場所に設置し、ティッシュペーパーをしいてヒナを入れると親が給餌する、という代用巣が紹介されています。ヒナを助ける際は、使い捨て手袋やハンカチなどでそっと包むよう案内されています。
注意したいのは、この代用巣が「保護して育てる」ための手段ではないことです。あくまで親鳥が給餌できる位置にヒナを戻すための応急処置です。判断に迷う場合や、明らかに衰弱している場合は、自治体の担当窓口(鳥獣保護担当)に相談してください。
鳥獣保護管理法では、鳥類の卵を採取または損傷することが原則として禁止されています。卵やヒナがいる巣を都道府県知事の許可なく壊すことも違法で、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。落ちた卵を拾う、殻を持ち帰る、シーズン中に巣を落とすといった行為はいずれも避けてください。判断に迷ったら、自分で動く前に自治体の鳥獣保護担当に確認するのが確実です。
やりがちな失敗②|抱卵中にフン受けを付けて、巣を捨てられる
フンの掃除に困り、卵があるうちに脚立を立ててフン受けを設置する。これがもう一つの典型的な失敗です。掃除の手間を減らそうとした行動が、繁殖そのものを終わらせてしまいます。
日本野鳥の会は、フン受けの設置について「親鳥の警戒心が強い巣作り中や抱卵中はやめましょう」とし、ヒナが孵化してから置くか、巣台を設置するときにあわせて作るよう案内しています。抱卵中の親鳥にとって、巣のすぐ下で人が作業する状況は、天敵が来たのと同じ意味を持ちます。
正しい順序は、孵化を待ってから設置することです。フンの量が増えるのはヒナが孵ってからで、子育て期間中の約2週間が対策の対象になります。つまり、卵のうちは掃除の負担もまだ軽く、急いで設置する理由がありません。
同じ考え方はカラス除けにも当てはまります。日本野鳥の会は、巣の下にツバメが通過できる程の隙間を空けてヒモを張ったり、場合によってはネットを張ったりするとカラス除けとして効果があるとし、抱卵が始まったら設置するよう案内しています。ただし、ヒナが成長して羽ばたきの練習を始めるころに設置すると、ヒナが驚いて巣から飛び出してしまうことがあるため、時期を外さないことが大切です。
まとめ|卵の期間にできる最善は、手を出さないこと
軒先の巣に卵が入っている期間は、1年のうちわずか2週間強です。その短いあいだにできることは多くありませんが、やってはいけないことははっきりしています。脚立を出して真横からのぞかない、落ちた卵を拾わない、フン受けの設置は孵化まで待つ。この3つを守れば、あとは親鳥が自分の仕事をします。今日からの最初の一歩としては、巣の真下を通る動線を数十cmずらしてみてください。親鳥が飛び出す回数が減れば、それだけ卵が温められる時間が増えます。
※法律の運用や自治体の相談窓口は変わることがあります。巣の扱いで判断に迷う場合は、お住まいの自治体の鳥獣保護担当窓口で最新の情報をご確認ください。

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