冬の庭先で、姿は見えないのに「チィー、チィー」という細い声だけが枝の奥から降ってくる。サザンカの茂みに目を凝らしても、動いているのは葉先ばかり。この「見つからないけれど確かに鳴いている小さな声」の正体が、メジロの地鳴きです。
結論を先に言ってしまうと、メジロの地鳴きは「チィー」という細く高い一音です。新潟県愛鳥センターの解説でも、メジロの地鳴きは「チィー」など、警戒しているときは「キリキリキリキリ」と断続的に鳴く、と整理されています。春に梅の枝で聞く、あの節の長いにぎやかな声はさえずりで、地鳴きとはまったく別物。この2つを分けて覚えるだけで、声から鳥を探す精度が一段変わります。
この記事では、メジロの地鳴きの音そのものと出る場面、姿を見つけるまでの手順、冬の混群で重なるウグイス・シジュウカラ・ヒヨドリとの聞き分け、聞きやすい季節と時間帯、そして観察するときに守りたいマナーと法律までをまとめました。全長12cmの鳥の声を、庭やベランダから追いかけるための地図として使ってください。
・メジロの地鳴きは「チィー」、警戒すると「キリキリキリキリ」に変わる
・さえずりは複雑な節が10秒前後続く別の声。地鳴きは一年中聞ける
・冬は混群で声が重なる。ウグイス「チャッチャッ」、シジュウカラ「ツピィ」との差が要
・鳴き声を再生して呼び寄せる観察は、日本野鳥の会のガイドラインで明確に「やめましょう」とされている
メジロの地鳴きは「チィー」の一音|まず覚えるのはこれだけ

「チィー」は仲間との連絡に使う、いちばん日常的な声
メジロの地鳴きは「チィー」という細く高い一音です。新潟県愛鳥センター紫雲寺さえずりの里の解説では、メジロの地鳴きは「チィー」など、と記載されています。この声が出るのは、群れで移動しているとき、枝先で虫を探しているとき、花の蜜を吸いながら次の枝へ渡るときなど、要するに何も特別なことが起きていない日常の場面です。
なぜ日常的に鳴くのかというと、メジロは葉や枝が視界を遮る樹上で暮らす鳥だからです。新潟県の解説にもあるとおり、つがいか小群で生活し、樹上で昆虫、クモ類、果実、花の蜜などを採食します。姿が見えない相手と一緒に動き続けるには、短く鳴いて位置を知らせ合うのがいちばん確実な方法になります。人間が林の中で「おーい」と声を掛け合うのと同じ役割です。
庭やベランダで判断するなら、「一音が短い」「同じ音が不規則な間隔で繰り返される」「複数の方向から聞こえる」の3つが揃えば、まずメジロの群れが通過中だと考えて構いません。1羽だけが鳴くことは少なく、声の数がそのまま群れのサイズの目安になります。
注意したいのは、この声を「小さくて弱々しい声」と思い込まないことです。実際の音は高く澄んでいて、ガラス越しでも意外に通ります。窓を閉めた室内で「何か細い音が鳴っている」と感じたら、それがメジロの地鳴きだったというのはよくある話です。
さえずりとは長さも複雑さも別物だと知る
地鳴きとさえずりを混同すると、声から鳥を探す作業は一気に難しくなります。メジロのさえずりは、三鷹市の解説によれば「チィ・チョィ、チュィ・・・・」などと複雑に10秒前後も続く、明るくにぎやかな声です。新潟県の解説では、このさえずりが「長兵衛 忠兵衛 長忠兵衛」と聞きなされると紹介されています。
つまり、さえずりは「節がある・長い・繰り返す」、地鳴きは「節がない・短い・単発」という対比になります。この違いが生まれる理由は役割が違うからです。さえずりは繁殖期にオスがなわばりを主張し、メスに自分を知らせるための声で、複雑で長いほど情報量が増えます。対して地鳴きは連絡用なので、短く、覚えやすく、繰り返せることのほうが重要になります。
野外での見分け方は単純で、ストップウォッチ代わりに心の中で「1、2、3」と数えるだけです。声が3秒以上つながって節を作っていればさえずり、一音で終わって数秒空いてまた鳴くなら地鳴きです。梅の枝でにぎやかに歌っている個体を見て「これが地鳴きか」と覚えてしまうと、冬の「チィー」が別の鳥に聞こえてしまいます。
豆知識として、メジロのさえずりは同じ節をきっちり繰り返すタイプではありません。歌の途中で節が変わっていくので、「さっきと違う鳥かな」と感じても同じ個体であることが多いのです。さえずりのほうを詳しく知りたい人は、こちらの記事にまとめています。

警戒すると「キリキリキリキリ」に切り替わる
メジロには、地鳴きとさえずりのほかにもう一段階、警戒の声があります。新潟県愛鳥センターの解説では、警戒声は「キリキリキリキリ」と断続的に鳴くと説明されています。「チィー」が単発の連絡音なのに対し、こちらは音が刻まれて連続するので、聞き分けはそれほど難しくありません。
この声が出るのは、猛禽類やネコが近づいたとき、人が茂みに踏み込みすぎたとき、巣やヒナの近くに何かがいるときなどです。警戒声は仲間に危険を知らせる信号なので、1羽が鳴き始めると周囲の個体も同調し、群れ全体がざわつきます。庭で急に「キリキリ」が始まったら、視線を鳥ではなく周囲に向けてみてください。塀の上にネコがいることが少なくありません。
観察者として重要なのは、この声を自分が引き出してしまっていないかを確かめることです。近づきすぎ、しゃがみ込んで顔を上げすぎ、レンズを向けたまま動かない——どれも鳥にとっては圧力になります。「キリキリ」が自分の移動に合わせて鳴り続けるなら、それは距離を詰めすぎたサインなので、一歩下がるのが正解です。
逆に言えば、警戒声は「今この場に何かがいる」という情報でもあります。メジロの警戒声をきっかけに見上げたらオオタカが枝に止まっていた、という展開は野鳥観察ではよくあること。小鳥の声は、庭で起きていることを教えてくれるセンサーとして使えます。
地鳴きは一年中聞ける|さえずりを待たなくていい理由
地鳴きの最大の強みは、季節を選ばないことです。さえずりは繁殖期にオスが出す声なので、冬に待っていても基本的に聞けません。一方、地鳴きは季節・性別・年齢に関係なく出る連絡用の声なので、真冬でも真夏でも耳に入ります。声から鳥を探す練習をするなら、地鳴きから覚えるほうが圧倒的に効率的です。
理由は、メジロの暮らし方にあります。三鷹市の解説によると、メジロは普段はつがいや小さな群れで活動し、秋の渡りの時期には100羽ほどにもなるような大きな群れをつくって森の中を移動します。群れで動く時間が長い鳥ほど、連絡用の声を出す頻度が高くなるわけです。
具体的な使い方としては、通勤路や散歩コースで「チィー」が聞こえた地点をメモしておくこと。数週間続けると、同じ生垣・同じ街路樹に繰り返し群れが来ていることが見えてきます。声の記録は、姿の記録よりも取りこぼしが少ないのが利点です。
ただし、地鳴きだけで種を断定しすぎないことも大切です。細く高い一音を出す小鳥はメジロだけではありません。声で当たりをつけて、最後は姿で確認する——この順番を守っているうちは、間違えても学びに変わります。
| 分類 | スズメ目メジロ科 |
| 全長 | 全長12cm(スズメより一回り小さい) |
| 見られる季節 | 一年中(北海道中部以南に分布) |
| 生息環境 | 山地や低地の林、公園、人家の庭などさまざまな場所 |
| 鳴き声 | 地鳴き「チィー」/警戒声「キリキリキリキリ」/さえずり「長兵衛 忠兵衛 長忠兵衛」 |
| よく見られる場所 | サザンカ・ツバキ・ウメの花、熟した柿の実がある庭や公園 |

声はすれども姿が見えない|「チィー」の主にたどり着く手順
探す高さを間違えているだけかもしれない
「声はするのに見つからない」の原因で最も多いのが、探している高さのずれです。メジロは樹上性の鳥で、樹冠の枝先や生垣の内側といった、人の目線より上か、あるいは葉の奥に入り込んだ位置にいます。地面近くを探していると、いつまでも見つかりません。
目安として、街路樹や庭木なら樹高の上半分、生垣なら人の胸から頭の高さの内側。特に花や実がついている木では、蜜や果肉のある部分に集中します。三鷹市の解説にあるとおり、メジロはサザンカ、ツバキ、ウメ、サクラ、ビワなどの花の蜜を好み、熟した柿の実などの木の実、昆虫やクモも食べます。つまり、花と実の位置を先に探せば、鳥の位置は自然に絞れます。
庭で試すなら、まず「今、庭で咲いている花」を口に出して確認してみてください。冬ならサザンカかツバキ、早春ならウメ。その木を注視した状態で「チィー」を待つと、葉が不自然に揺れる瞬間が見えます。メジロは花にぶら下がるような姿勢を取るので、揺れ方が風とは違います。
やりがちな失敗は、声が聞こえた瞬間に木の全体を漫然と眺めてしまうこと。人間の目は動くものにしか反応しにくいので、範囲を絞って一点を見つめ、視界の端で動きを拾うほうが速く見つかります。
動き方で当たりをつける|せわしなく、逆さまになる
メジロは動きに強い癖のある鳥です。一か所に長くとどまらず、枝先から枝先へ数秒ごとに移動し、花の下側に回り込むときは体を横向きや逆さまにします。この「せわしなさ」と「逆さ姿勢」が見えたら、シジュウカラ類かメジロの可能性が高くなります。
理由は採食スタイルにあります。花の蜜は花の内側にあり、虫は葉の裏に隠れています。上から見下ろす姿勢では届かないので、ぶら下がる姿勢が必要になるわけです。体重の軽い小型の鳥だからこそできる動きでもあります。
見分けの実践としては、動きの「単位」に注目します。メジロは数羽から十数羽が同じ木を順番に通過していくので、1羽を見失っても数秒後に別の個体が同じ枝に現れます。1羽が単独で長時間その木を独占しているなら、ヒヨドリなど別の鳥を疑ってください。
豆知識をひとつ。メジロが枝に並んで身体を接して押し合う様子が「めじろ押し」という言葉の語源になったと三鷹市の解説は説明しています。寒い時期の夕方、電線や細い枝に小さな鳥が密着して並んでいたら、その語源そのものの光景を見ていることになります。
白いアイリングと黄緑の背中で確定させる
声と動きで当たりをつけたら、最後は姿で確定します。決め手は目の周りの白いリングです。三鷹市の解説にもあるとおり、目の周りの白いリングが特徴で、これが名前の由来になっています。背中から翼にかけては明るい黄緑色で、喉から胸にかけては黄色みを帯びます。
全長12cmは、スズメより一回り小さいサイズです。この「小ささ」自体が識別情報になります。生垣で動いている鳥がスズメと同じか大きく見えるなら、メジロではありません。逆に、スズメより明らかに小さく、色が茶色ではなく緑がかっていれば、ほぼ確定と考えて構いません。
白いリングは光の条件で見え方が変わります。逆光では白飛びして輪郭が消え、日陰では思ったより目立ちません。確認しづらいときは、太陽を背にする位置に静かに回り込むと見えるようになります。鳥に近づくのではなく、光の側に自分が動くのがコツです。
注意点として、目の周りが白っぽく見える鳥はほかにもいます。慌てて確定させず、背中の黄緑色と体の小ささをセットで確認してください。1つの特徴だけで判断すると、似た鳥に引っかかります。
双眼鏡は「肉眼で捉えてから」上げる
双眼鏡を先に構えてしまうと、視野が狭くなって鳥を見失います。正しい順番は、肉眼で動きを捉える→目を離さずに双眼鏡を目の前に持ち上げる、です。この順番を守るだけで、樹上の小鳥を捉えられる確率が大きく変わります。
理由は視野角の差です。双眼鏡をのぞくと視界は数度に狭まり、目の前の葉の重なりだけが拡大されて位置感覚を失います。メジロは数秒で移動するので、探しているうちにいなくなってしまうのです。
具体的な練習方法としては、動かない対象で予行演習をするのが早道です。庭の物干し竿の先や、隣家の屋根のアンテナを肉眼で見つめ、視線を外さずに双眼鏡を上げる。これを何度か繰り返すと、体が順番を覚えます。
もう一つ、最短合焦距離にも注意してください。生垣のメジロは数メートルの近距離にいることがあり、双眼鏡によってはピントが合いません。近距離で見えないと感じたら、それは機材の性能の問題なので、一歩下がれば解決します。
冬の混群で重なる声|似た一音を出す3種との聞き分け

ウグイスの「チャッチャッ」は笹鳴きという別名を持つ
冬にメジロと取り違えられやすい筆頭がウグイスです。新潟県愛鳥センターの解説では、ウグイスは「チャッチャッ」と鳴き、雄は繁殖期に「ホーホケキョ」とさえずる、この「チャッチャッ」という地鳴きは「笹鳴き」とも呼ばれる、と説明されています。
音の質がまったく違うのが救いです。メジロの「チィー」が細く高く伸びる音なのに対し、ウグイスの「チャッチャッ」は舌を打つような濁った短音で、伸びません。高い音か、打つ音か——この一点で判断できます。
いる場所も違います。ウグイスは繁殖期以外は単独で生活し、藪を移動しながら昆虫やクモを食べます。つまり、声が藪の低い位置から1羽ぶんだけ聞こえたらウグイス、樹上から複数聞こえたらメジロ、という住み分けで絞り込めます。全長はオス16cm、メス14cmで、メジロより一回り大きい鳥です。
ありがちな誤解は、梅の花に来ている緑色の鳥をウグイスだと思ってしまうこと。花札や和菓子のイメージが強いのですが、梅の枝で蜜を吸っている黄緑色の小鳥はほぼメジロです。ウグイスは日本三鳴鳥に数えられる声の主役でありながら、姿は茶褐色で地味な鳥なのです。
シジュウカラの「ツピィ」「ジュクジュク」は混群の中心にいる
冬のメジロは単独行動ではありません。新潟県愛鳥センターの解説によれば、シジュウカラは繁殖期以外は群れで生活し、冬季にはメジロ、エナガなどと混群になります。つまり、メジロの地鳴きが聞こえる場所では、シジュウカラの声も同時に鳴っていると考えたほうが自然です。
シジュウカラの声は「ツピィ」「ジュクジュク」などで、さえずりは「ツピツピツピ」です。メジロとの差は、音に「濁り」と「刻み」があるかどうか。「ジュクジュク」は明らかに濁っていて、メジロの澄んだ一音とは質感が違います。全長は14〜15cmで、ネクタイのような胸の黒い線が目印です。
混群を聞き分ける実践的なコツは、声を一つずつ拾おうとしないことです。まず「今、何種類の声が鳴っているか」だけを数え、そのあとで一番よく鳴っている声から順に特定していきます。すべてを同時に処理しようとすると、どれも曖昧になります。
豆知識として、混群は小鳥たちにとって見張りの数を増やす仕組みでもあります。葉の落ちた冬の林では捕食者に見つかりやすいため、複数種が一緒に動くほうが安全なのです。だからこそ、メジロの声を追いかけると、結果的に何種類もの鳥に出会えます。
ヒヨドリの「ピーコ」「ピーョ」は音量と単独感でわかる
同じ木に来ていて、しかも声が大きいのがヒヨドリです。新潟県愛鳥センターの解説では、ヒヨドリは「ピーコ」「ピーョ」などと鳴き、「ピィー ピョロロ」などとさえずると説明されています。全長は27〜28.5cmで、メジロの倍以上の大きさがあります。
聞き分けは音量とリズムで足ります。ヒヨドリの声は庭全体に響き、しかも1羽が繰り返し鳴きます。メジロの「チィー」は細く、群れの複数個体からばらばらに聞こえます。声の圧が強いほうがヒヨドリ、と覚えておけば取り違えません。
行動の違いも明確です。ヒヨドリはなわばり性が強く、花や実のある木にほかの鳥が来ると追い払うことがあります。庭で「チィー」が急に途切れ、大きな声が響いたら、メジロがヒヨドリに追われた可能性を疑ってください。餌台や花木を巡るこの力関係は、庭で日常的に起きています。
注意点として、ヒヨドリを「じゃまな鳥」と決めつけないこと。植物の実、花のみつやつぼみ、昆虫類などを食べる雑食性で、種子散布の役割も担っています。庭に来る顔ぶれの一員として見ておくほうが、観察は豊かになります。
4種の地鳴き早見表(野鳥の教科書調べ)
ここまでの4種を、地鳴き・さえずり・全長・いる高さで一覧にしました。冬の庭で声が重なったときは、この表の順番で絞り込むと迷いません。数値と音の表記は、各自治体の愛鳥センター等の公的な解説に掲載されている値をそろえています。
| 比較項目 | メジロ | ウグイス | シジュウカラ | ヒヨドリ |
|---|---|---|---|---|
| 地鳴き | チィー | チャッチャッ(笹鳴き) | ツピィ/ジュクジュク | ピーコ/ピーョ |
| さえずり | 長兵衛 忠兵衛 長忠兵衛 | ホーホケキョ | ツピツピツピ | ピィー ピョロロ |
| 全長 | 12cm | オス16cm/メス14cm | 14〜15cm | 27〜28.5cm |
| よくいる高さ | 樹冠・花のある枝先 | 低い藪の中 | 幹から枝先まで | 木のてっぺん・電線 |
| 声の数 | 複数(群れ) | 単独が多い | 複数(混群) | 1〜数羽で大音量 |
さえずりと地鳴きという分け方そのものを、身近な鳥でまとめて整理した記事もあります。声から入る野鳥観察の全体像をつかみたい人はこちらもどうぞ。

窓の外から聞こえてくる「ピーヨ」「ジャッジャッ」「デデッポッポー」。姿は見えないのに声だけがはっきり届く、あの状況ほどもどかしいものはありません。図鑑を開いても…
メジロの地鳴きが最もよく届く季節と時間帯
冬(11月〜2月)|群れで動くから声の密度が上がる
地鳴きを聞くなら、冬がいちばんの狙い目です。理由は3つあります。葉が落ちて音が遮られにくいこと、群れで行動する時期であること、そしてサザンカやツバキという蜜源が庭や公園に揃うことです。声の密度が上がるうえに、姿も見つけやすくなります。
冬のメジロはシジュウカラやエナガと混群をつくって移動します。混群は同じ場所に長居せず、数分で林を通過していくので、庭で待っていると「急ににぎやかになって、また静かになる」という波が来ます。この波の到来時刻は日によってあまりぶれないので、2〜3日記録すれば自分の庭の「メジロ時間」が見えてきます。
具体的な観察場所としては、サザンカの生垣が最も確実です。花に頭を突っ込むように蜜を吸うので、顔に花粉がついて黄色くなった個体が見られることもあります。三鷹市の解説にあるとおり、春先には花の蜜を吸う際に嘴に花粉をつけ、花粉媒介を担っています。
注意点は、寒い時期ほど鳥にとって余裕がないということ。追いかけ回すと採食の時間を奪ってしまいます。動かずに待つ、というのが冬の観察では最も効率的で、鳥にも優しい方法です。
早春(2月〜3月)|梅の枝で地鳴きとさえずりが混ざり始める
梅が咲き始めると、メジロの声は一段にぎやかになります。この時期の面白さは、地鳴きとさえずりの両方が同じ木で聞けること。群れで来た個体が「チィー」と鳴き交わす一方で、繁殖期に向けて練習を始めた個体が節の長い声を出し始めます。
なぜこの時期に集中するかというと、ウメが早春の数少ない蜜源だからです。まだ昆虫の活動が本格化しない寒い時期に、花にとっても鳥にとっても都合のよい関係が成立します。三鷹市の解説が説明するとおり、メジロは花粉を運ぶ役割を果たしています。
観察の実践としては、梅林や公園の梅の木を、朝のうちに訪ねるのがおすすめです。花に来る鳥はほかにもいますが、黄緑色で小さく、群れで来て、細い声で鳴いていればメジロ。ヒヨドリが来ると追い払われて別の木に移るので、群れの移動先を目で追う練習にもなります。
豆知識として、梅の枝のメジロは俗に「ウメジロー」と呼ばれて写真の定番題材になっています。人気があるぶん撮影者が集中しやすい場所でもあるので、三脚の位置取りや、他の観察者の視線を遮らない立ち位置にも気を配りたいところです。
繁殖期(4月〜7月)|つがいの鳴き交わしに変わる
繁殖期に入ると、群れは解けてつがい単位の行動に変わります。新潟県愛鳥センターの解説にあるとおり、メジロはつがいか小群で生活する鳥です。この時期の「チィー」は、群れの連絡ではなく、つがいの相手との位置確認の意味合いが強くなります。
声の聞こえ方も変わります。冬のように四方から降ってくるのではなく、2羽が近い距離で交互に鳴く形になります。片方が鳴き、少し間を置いてもう片方が返す——このやり取りが聞こえたら、つがいが行動していると考えてよいでしょう。
この時期に気をつけたいのは、巣に近づかないことです。日本野鳥の会のガイドラインでは、巣や巣立ち雛に遭遇した場合、すみやかにその場を離れるようにしましょうと明記されています。親鳥が人をストレスと感じて巣を放棄するリスクがあるためです。
観察を続けたいなら、巣の周辺ではなく、親鳥が餌を採りにくる場所で待つほうが安全です。行き先を目で追いたくなりますが、そこをこらえるかどうかが、翌年も同じ庭で繁殖してくれるかどうかの分かれ目になります。
秋(9月〜10月)|100羽規模の群れが林を移動する
秋は群れが最も大きくなる季節です。三鷹市の解説によれば、秋の渡りの時期には100羽ほどにもなるような大きな群れをつくり、森の中を移動します。この規模になると、地鳴きは1羽ずつの単発ではなく、細い声のシャワーのように聞こえます。
背景には季節移動があります。環境省生物多様性センターの鳥類標識調査では、メジロの新放鳥数247,179羽に対して5km以上動いた移動回収が162例あり、最長移動距離は1,164kmが記録されています。留鳥のイメージが強い鳥ですが、動く個体は相当な距離を動いているわけです。
秋に観察するなら、林の縁や尾根筋など、鳥の通り道になりやすい地形を選ぶのがコツです。庭では通過するだけで終わることも多いので、「今日は多いな」と感じたら、その日は移動の当たり日だと考えてよいでしょう。
注意したいのは、大きな群れを見た日をそのまま「うちの庭には100羽いる」と記録しないことです。通過個体と滞在個体は別物なので、観察ノートには「通過」「滞在」を分けて書いておくと、あとで自分の記録が使えるデータになります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | △ | ○ | ○ | ◎ | ◎ |
◎=よく聞かれる(群れで動き、地鳴きの密度が高い時期) ○=聞かれる △=まれ(葉が茂り、つがいで分散するため聞き取りにくい)
声だけでなく、庭にメジロを呼ぶ木や水場の条件から知りたい人は、こちらの記事が入口になります。

聞き取れない人がはまる3つの落とし穴
失敗パターン1:カタカナ表記だけを頼りに覚えてしまう
最初の落とし穴は、「チィー」というカタカナを暗記して満足してしまうことです。鳴き声の表記は、あくまで音を日本語に写し取った近似値でしかありません。同じ声を「チー」「チュル」「キュル」と書く資料もあり、表記を頼りに探すと、実際の音と結びつかないまま時間が過ぎます。
原因は、音の情報量にあります。声には高さ、長さ、音色、間隔という4つの要素があり、カタカナで表せるのはそのうち音色の一部だけです。「チィー」という表記からは、それが1秒未満の短い音であることも、かなり高い周波数であることも読み取れません。
対策は、表記ではなく「性質」で覚えることです。メジロの地鳴きなら、高い・細い・短い・繰り返す・複数方向から、の5点。この性質のセットで記憶しておけば、カタカナ表記が資料ごとに違っていても混乱しません。
加えて、公的機関や研究機関が公開している音声資料で一度耳を慣らしておくと、性質の記憶が定着します。自分の耳で確認した音と、資料の表記を結びつけておくのが、遠回りに見えて最短です。
失敗パターン2:録音しようとして風の音しか残らない
2つ目の落とし穴は録音です。スマートフォンで「チィー」を録ろうとしても、再生してみると風とノイズしか入っていない、というのは初心者が必ず通る道です。メジロの地鳴きは音量が小さく、しかも高い音なので、スマホのマイクにとっては最も苦手な条件が揃っています。
理由は指向性と風です。スマホのマイクは全方向の音を拾うため、遠くの小さな声より近くの衣擦れや呼吸音のほうが大きく記録されます。さらに風がマイクに当たると、低い唸りが全体を覆ってしまいます。
対策としては、まず自分が動かないこと。録音ボタンを押したら手を止め、上着の袖を擦らないようにします。可能なら、マイク部分を手のひらで軽く囲って風を遮ると、それだけで聞き取れる録音になることがあります。木の幹や建物を風上に置く位置取りも効果的です。
そして、録音がうまくいかない日は割り切ることも大切です。記録の目的が「あとで種を確認したい」なら、聞こえた時刻・場所・声の性質をメモするほうが、ノイズだらけの音声ファイルより役に立ちます。
高い音は環境で聞こえ方が変わる|聞こえない日があっても普通
3つ目は、「自分には聞こえない」と落ち込んでしまうケースです。メジロの地鳴きは高い音域にあるため、周囲の環境音との相性で聞こえ方が大きく変わります。幹線道路の走行音、エアコン室外機、風で鳴る葉の音は、いずれも小鳥の細い声をかき消します。
環境を変えるだけで解決することは多いものです。道路から一本奥の路地に入る、建物の陰に回る、風の弱い朝の時間帯に出る——条件を変えると、同じ場所でも急に声が届くようになります。まずは自分の耳ではなく環境を疑ってみてください。
また、高い音の聞こえ方には個人差があり、年齢とともに変化することも知られています。聞こえにくいと感じても、それは観察を諦める理由にはなりません。姿と動きで探す方法、群れの気配で気づく方法、他の観察者と情報を共有する方法など、入口はいくつもあります。
豆知識として、双眼鏡を構える前に耳の後ろに手を当てて集音すると、高音の指向性がつかみやすくなります。原始的ですが、声のする方向を絞るには確実な方法です。
声を再生して呼び寄せない|観察で守りたい距離とマナー
音声で誘引すると、鳥は無駄なエネルギーを使う
地鳴きやさえずりを覚えると、つい「音を流せば出てくるのでは」と考えたくなります。しかしこれは、日本野鳥の会の「野鳥観察・撮影のマナーのガイドライン」で明確に否定されている行為です。ガイドラインには、野鳥の鳴き声を流して野鳥を誘引することはやめましょう、と記されています。
理由は鳥の側の反応にあります。同会の説明によれば、オスは別のオスが縄張りに侵入してきたと勘違いし、防衛のためにさえずったり飛び回ったりします。無駄なエネルギーを使わせるだけでなく、ストレスを与えることになります。バードコールの使用も同様の問題があるとされています。
さらに深刻なのは繁殖期です。勘違いした親鳥が縄張りの防衛のために巣を離れてしまうと、卵やヒナが捕食者に狙われたり、低温にさらされたりする、と同会は指摘しています。数分の撮影のために、その年の繁殖が失敗する可能性があるわけです。
代わりに使えるのが、この記事で紹介してきた「待つ」方法です。メジロは群れで同じルートを通るので、場所と時間さえ合っていれば、呼ばなくても向こうから来ます。誘引よりも、通り道を見つけるほうが結果的に多く出会えます。
距離・餌付け・フラッシュ|ガイドラインが挙げる線引き
同じガイドラインは、音声誘引以外にもいくつかの線引きを示しています。距離については、野鳥が飛び立つ、逃げる等の行動は、ストレスを感じた時の行動で、近づき過ぎている可能性がある、とされています。つまり鳥が動いた時点で、すでに近すぎるということです。
餌付けについては、公共の場での餌づけは条例違反の可能性があり、公園利用者に不快感を与えると説明されています。自宅の庭でバードフィーダーを使う場合も、近隣への配慮と衛生管理はセットで考える必要があります。撮影では、野鳥の目は強烈な光に慣れていないため、フラッシュ・ストロボを使用しないことが求められています。
情報の扱いにも指針があります。営巣中等の写真や映像をSNSで公開しないこと、稀な渡り鳥等の情報は鳥がいなくなってから公開すること。公開によって観察者が押し寄せ、繁殖放棄につながるリスクがあるためです。
これらは制約というより、翌年も同じ場所で観察を続けるための条件だと考えると腑に落ちます。声を覚えるほど鳥に近づける気がしてきますが、上達した人ほど距離を取るのが、この趣味の作法です。
失敗パターン3:地鳴きにつられて巣立ちビナを拾ってしまう
春から初夏にかけて特に多いのが、地面近くで鳴いているヒナを見つけて保護してしまうケースです。「弱っている声がする」と感じても、その多くは巣立ち直後の正常な状態です。日本野鳥の会などが続けている「野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーン」は、まさにこの誤解を減らすために行われています。
見分け方は示されています。同キャンペーンの説明では、親鳥と比べて羽の色があまりはっきりとせず、尾が短く体も少し小さく見えても、一通り羽が生えそろい、しっかり立って歩けるようなら、きっと巣立った後のヒナだとされています。巣立ち直後のヒナはあまり動きません。
取るべき行動もはっきりしています。親鳥は人がヒナの近くにいると警戒して近づけないので、その場を去る方がよい、というのが同キャンペーンの示す対応です。人が見守っているつもりでその場に留まることが、親子の再会を妨げてしまいます。
このキャンペーンは環境省の後援のもと、日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会、NPO法人野生動物救護獣医師協会が中心となって28年継続して実施されています。判断に迷う場合や、明らかなけががある場合は、自分で対応せず、お住まいの自治体の野生鳥獣担当窓口に相談してください。
鳴き声の再生・バードコールによる誘引は、日本野鳥の会の野鳥観察・撮影のマナーのガイドラインで「やめましょう」と示されています。巣や巣立ちビナに遭遇したときは、すみやかにその場を離れること。ヒナの扱いに迷ったら野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーンの案内を確認し、自治体の窓口に相談してください。
声がよすぎた鳥の受難|かご鳥文化と法律のいま
愛玩飼養の対象は7種から1種へ、そして原則不許可になった
メジロの声の話をするとき、避けて通れないのが飼育の歴史です。日本野鳥の会の資料によれば、1950年に7種類の野鳥がペット飼育の対象として指定され、その後1979年に5種類、1980年に4種類、1999年に2種類へと削減され、2007年にはメジロ1種のみとなりました。
環境省のメジロ識別マニュアルにも、平成11年からメジロとホオジロの2種のみ一世帯1羽に限り、平成19年からはメジロ1種に限って一世帯1羽のみが認められていた、と記載されています。長い時間をかけて対象が絞り込まれてきたことがわかります。
転機は2011年でした。同年7月13日の中央環境審議会野生生物部会で、野鳥の愛玩飼養について「原則として許可しない」と示すことが決まり、9月には「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」の改正で、愛玩飼養のための捕獲については許可しないことと明記されました。
この流れを受け、自治体レベルでも運用が変わりました。和歌山県の案内では、2012年4月1日から、愛玩飼養を目的としてメジロを捕獲することは原則禁止と説明されています。2012年3月31日以前に登録された個体は継続飼養が可能ですが、毎年市町村役場で飼養登録の更新を行う必要があり、足環の装着も必須とされています。
いま野生個体を捕まえるとどうなるか
結論から言えば、野生のメジロを許可なく捕まえることも飼うこともできません。環境省のメジロ識別マニュアルの冒頭にも、鳥獣保護法により野鳥は許可なく捕獲することも飼養することも法律で禁じられている、と明記されています。
罰則も示されています。和歌山県の案内によれば、無許可捕獲は1年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑、無許可飼養は6か月以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑とされています。ヒナや傷ついた個体を「助けるつもり」で持ち帰る行為も、扱いを誤れば違法な飼養になりかねません。
背景にあるのは、声のよさゆえの需要です。環境省のマニュアルは、メジロについては容姿が愛らしく鳴き声がよいため、多くの日本産の個体が国内で違法に捕獲され、輸入されたものとして飼養されている、と記しています。国産と外国産を見分けるための識別マニュアルが作られ、改訂まで重ねられている事実が、問題の根深さを物語ります。
ちなみにこのマニュアルは、羽色だけでなく体各部の計測値で識別する内容になっています。たとえば亜種メジロの全頭長は平均30.4mm(n=140)とされ、統計的な差から産地を判定します。趣味の観察には縁のない数字ですが、取り締まりの現場ではこうした値が使われているわけです。
実は、さえずりより地鳴きのほうが観察の役に立つ
意外と知られていないのですが、野鳥観察の現場で頼りになるのは、名調子のさえずりよりも地味な地鳴きのほうです。さえずりは繁殖期のオスに限られるうえ、鳴く場所も梢の目立つところに偏ります。つまり「聞ける時期も、聞ける個体も限られる」情報なのです。
その点、地鳴きは一年中、オスもメスも、若鳥も鳴きます。冬の混群、秋の移動、繁殖期のつがいの鳴き交わしまで、あらゆる場面で情報を出してくれます。年間を通して観察を続けたいなら、覚える価値が高いのは地鳴きのほうだと言えます。
もう一つ、地鳴きには「聞き分けの練習になる」という利点があります。さえずりは種ごとの個性が強く、暗記で対応できてしまいます。地鳴きは似た音が多いぶん、高さ・長さ・音色・間隔という要素で比較する癖がつくので、結果的に耳が育ちます。
だから、メジロの「チィー」を覚えることは、メジロ1種を覚えること以上の意味があります。同じ枠組みで、シジュウカラの「ジュクジュク」も、ウグイスの「チャッチャッ」も整理できるようになるからです。最初の1種として、これほど手頃な題材はそうありません。
観察を記録に残す|市民の記録が積み上がる仕組み
聞いた声を記録に残すと、観察は別の面白さを持ち始めます。記録に必要なのは、日付・場所・時刻・種名・行動(採食/通過/鳴き交わし)の5項目だけ。スマートフォンのメモアプリで十分で、続けるほど自分の庭の季節変化が見えるようになります。
個人の記録がどう役立つのかは、国の調査を見るとイメージしやすくなります。環境省生物多様性センターが公開する鳥類標識調査のメジロの集計では、新放鳥数247,179羽に対して5km以上動いた移動回収が162例、最長移動距離は1,164kmとされています。1羽ずつの記録が積み上がって、はじめて移動の全体像が見えてきます。
身近な実践としては、「メジロの声を聞いた日」だけを1年分マークするカレンダーを作ってみてください。地域によって、群れが来る時期も、さえずりが始まる時期も違います。自分の家の周りのデータは、どの図鑑にも載っていません。
注意点は、記録に主観と事実を混ぜないこと。「たぶんメジロ」は「不明(細い高音/群れ)」と書いておくほうが、あとで見返したときに使えます。確定できなかった記録も、性質さえ残っていれば後から答え合わせができます。
まとめ
最初の一歩は、明日の朝に庭かベランダで3分だけ立ち止まってみることです。全長12cmの鳥は、こちらが動かなければ、思いのほか近くまでやってきます。「チィー」が聞こえたら、花のある枝先を見上げてください。白いリングと黄緑色の背中が見えた瞬間から、庭の景色は「木がある場所」から「鳥が通る道」に変わります。声を覚えるというのは、同じ景色の情報量が増えるということです。冬のサザンカ、早春のウメ、秋の移動——季節ごとに声の聞こえ方が変わるので、1年続けると自分だけの観察カレンダーができあがります。
※法令・制度の運用や施設の案内内容は変わることがあります。飼養登録や保護の判断に関わる場合は、環境省の愛玩飼養に関するページやお住まいの自治体の最新情報をご確認ください。本記事の鳴き声・全長の表記は新潟県愛鳥センターの展示解説、三鷹市のメジロ解説、環境省生物多様性センターの鳥類標識調査、和歌山県のメジロの捕獲許可・飼養登録の案内によります。

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