庭先で米粒をついばんでいるスズメ。あの茶色い小鳥は世界中どこにでもいる、と思っていませんか。ところが海外の写真集や旅行先で「sparrow」と紹介されている鳥をよく見ると、頬にあるはずの黒い斑がなかったり、頭が灰色だったりします。同じ名前で呼ばれていても、実は別の種であることが少なくありません。
結論から言うと、日本で身近なスズメ(学名 Passer montanus)と、ヨーロッパやアメリカの街でスズメと呼ばれている鳥(イエスズメ、学名 Passer domesticus)は別種です。そして日本のスズメは、世界的に見ると特殊な暮らし方をしています。ヨーロッパでは農村の鳥なのに、日本では電柱や瓦屋根に巣を作る都会の鳥。この差は「その土地にイエスズメがいるかどうか」でほぼ説明がつきます。
この記事では、見た目の違いを頬・頭・体格の3か所で整理したうえで、なぜ日本のスズメだけが街に出られたのか、人との距離が国によってどう違うのか、そして日本と海外でスズメがどれくらい減っているのかまで、公的機関と研究機関のデータをもとに順番に見ていきます。庭に来る1羽の見え方が変わるはずです。
・日本のスズメと欧米の「スズメ」は別種。見分けは頬の黒い斑の有無
・日本ではスズメが街に住み、ヨーロッパでは農村に住む。理由はイエスズメの有無
・東京のスズメは平均4.2mまで人が近づいても逃げない(茨城は11.1m)
・日本のスズメは18年で個体数が62.1%に。イギリスのイエスズメも71%減
スズメの日本と海外の違いは、頬の黒い斑ひとつで決まる

世界の「スズメ」は、同じ鳥を指していない
まず押さえておきたいのは、日本語の「スズメ」と英語の「sparrow」がイコールではないという点です。スズメ属(学名 Passer)は旧世界に分布するグループで、体長10〜20cmほど。スズメ目の中では小型の部類に入り、体つきは丸みを帯び、尾羽は短く、くちばしは短い円錐形をしています。この属にはよく似た種がいくつも含まれていて、そのうちのどれを指して「スズメ」と呼ぶかは国によって違います。
日本で「スズメ」と言えば Passer montanus のことです。一方、イギリスやアメリカの街で「house sparrow」と呼ばれているのは Passer domesticus、和名イエスズメ。この2種は属こそ同じですが、外見も暮らし方も分かれています。スズメ属のうち数種はヒトの居住地周辺の環境に適応していて、特にイエスズメは、本来の分布域と考えられている中東かナイル川下流域からユーラシアの広い地域へ分布を広げました。
ややこしいのは、Passer montanus にも英名があることです。英語では「Eurasian Tree Sparrow」。直訳すれば「ユーラシアの木のスズメ」で、街の鳥という語感はありません。海外の図鑑で日本のスズメを探すときは、この英名で引くのが確実です。「sparrow」だけで検索すると、まず間違いなくイエスズメの写真が出てきます。
頬の黒い斑があるのは、日本で見るスズメだけ
見分けの決め手は、頬にある黒い斑です。日本のスズメは、白い頬の中央にぽつんと黒い斑が入ります。この模様があるかないかで、ほぼ判別できると考えていいでしょう。
なぜ決め手になるかというと、近縁のイエスズメにもニュウナイスズメにも、この黒斑がないからです。イエスズメのオスは、頬に黒斑がない代わりに、頭に帽子を被ったような灰色の部分があります。メスや若鳥は全体的に淡い茶褐色で、目の上に眉状の模様(眉斑)が入ります。日本のスズメのオスとメスは外見の差がほとんどありませんが、イエスズメはオスとメスで見た目がはっきり分かれる点も違いです。
実際に写真で確かめるときは、顔を正面から見るより、横顔が写っているカットを探すほうが早いです。頬の斑は横から見たときにいちばん目立ちます。逆に、真上から撮った写真や逆光のシルエットでは、黒斑があってもつぶれて見えないことがあります。「斑が見えないからイエスズメだ」と早合点せず、光の当たり方も一緒に見てください。頭頂部の色にも注目すると確実で、日本のスズメの頭は茶色、イエスズメのオスは灰色です。
鳥の顔まわりの用語(眉斑・過眼線など)を先に覚えておくと、図鑑の記述が一気に読めるようになります。

並べると分かる、数cmの体格差
大きさも手がかりになります。日本のスズメは全長14〜15cm、体重は25g程度。英語圏の資料では全長12.5〜14cm、体重24g、翼開長は約21cmとされていて、測り方の違いで多少の幅はありますが、いずれにせよ手のひらに収まるサイズです。
これに対してイエスズメは全長14〜16cm、体重24〜38g。数字の幅だけを見ると重なって見えますが、上限が違います。体重で言えばスズメが25g程度なのに対し、イエスズメは38gに達する個体もいるわけで、1.5倍近い差です。分布が重複する地域では、この体格差がそのまま力関係になります。
野外で1羽だけを見て「大きいからイエスズメ」と判断するのは難しく、実際には並んでいるときにしか差が分かりません。羽を膨らませた冬の個体はひとまわり大きく見えますし、若鳥はまだ小柄です。大きさは補助的な手がかりと考え、判断の軸はあくまで頬の黒斑に置くのが安全です。ちなみに日本に分布するスズメは亜種 Passer montanus saturatus で、千島列島、日本、韓国、琉球諸島、台湾、中国南東部に分布します。
海外の写真で迷ったら、この3か所を順に見る
迷ったときの見る順番を決めておくと判断が速くなります。1つ目は頬、2つ目は頭頂、3つ目は雌雄差です。
頬に黒斑があれば日本のスズメ(Eurasian Tree Sparrow)。なければイエスズメかニュウナイスズメの可能性が高い、と絞り込めます。次に頭頂を見て、茶色ならスズメ系、灰色の帽子状ならイエスズメのオス。最後に、同じ場所にいる複数個体の見た目がそろっているかを確認します。オスとメスで色柄が違う群れならイエスズメ、全部同じに見えるならスズメです。
この順番が効くのは、撮影条件に左右されにくい特徴から先に見ているからです。大きさや色の濃さは光と露出で変わりますが、模様の有無は変わりません。
気をつけたいのは、日本国内で撮られた写真にも例外がある点です。ニュウナイスズメには頬の黒斑がないため、「黒斑がない=海外の鳥」とは限りません。撮影地の情報がある写真なら、まず撮影地を確認してから模様を見る。これだけで誤判定はほとんど防げます。
| 分類 | スズメ目スズメ科スズメ属(学名 Passer montanus) |
| 全長 | 全長14〜15cm前後/体重25g程度 |
| 見られる季節 | 通年(繁殖期は3月〜8月) |
| 生息環境 | 市街地・住宅地・農耕地。人が近くにいる環境に限られ、森林には生息しない |
| 鳴き声 | 「チュン、チュン」と短く繰り返す |
| よく見られる場所 | 電柱、瓦屋根の隙間、駅前の植え込み、田んぼのあぜ |

なぜヨーロッパの街角には、あの茶色い小鳥がいないのか
都市はイエスズメ、農村はスズメという住み分け
ヨーロッパを旅行して「日本のスズメを見なかった」と感じるとしたら、それは気のせいではありません。スズメとイエスズメの分布が重複する地域では、イエスズメが市街地に、スズメはその周辺の農耕地に生息するという住み分けが成立しているからです。
英語圏の記述でも、house sparrow は都市部で繁殖し、より小さい tree sparrow は田園地帯に巣を作る、と整理されています。つまりヨーロッパの街中で見かける「スズメらしき鳥」は、ほぼイエスズメです。日本のスズメに会いたければ、街を離れて農地や集落の周辺まで足を伸ばす必要があります。
この住み分けが生まれた理由として大きいのが、先ほど触れた体格差です。全長14〜16cm・体重24〜38gのイエスズメは、全長14〜15cm・体重25g程度のスズメより一回り大きく、都市環境への適応も進んでいます。餌場や巣穴という限られた資源をめぐって競合したとき、押し出されるのは小さいほうです。
注意したいのは、これが「イエスズメがスズメを追い出した」という単純な話ではない点です。両種はもともと好む環境が少しずつ違っていて、その差が重複地域で強調されている、という見方が実態に近いでしょう。
日本にイエスズメがいないから、スズメが街に出られた
では日本はどうか。イエスズメは南極を除く全大陸に分布する汎存種で、世界一分布域の広い鳥類とされます。ところが東アジアは分布の空白域で、日本列島には自然分布していません。
競合相手がいない。この一点が、日本のスズメの立ち位置を決めました。市街地というおいしい環境が空いていたので、スズメがそこに入った。実際、Passer montanus はヨーロッパでは rural bird(農村の鳥)、東アジアでは urban bird(都市の鳥)と、同じ種でありながら地域によって生態的な位置づけが変わることが知られています。
これは種の性質が違うのではなく、置かれた状況が違うということです。同じ遺伝子を持った鳥が、ライバルの有無で農村の鳥にも都会の鳥にもなる。駅前のロータリーでパンくずを拾っているスズメと、フランスの麦畑で群れているスズメが同じ種だと知ると、少し見え方が変わってきます。
ついでに触れておくと、スズメの分布はユーラシア大陸およびその周辺の島々に広く及びますが、インド亜大陸のほとんどの地域は分布を欠きます。自然分布は北緯68度あたりより南の温帯ユーラシアと東南アジアで、意外と抜けている地域があるのも面白いところです。
英名は「Tree Sparrow」なのに、日本では電柱に住んでいる
英名 Eurasian Tree Sparrow の「Tree」は、この鳥がヨーロッパで樹木のある環境に住んでいたことに由来します。ところが日本のスズメは、木よりも人工物を好みます。
日本のスズメは人工構造物が作り出す隙間に営巣し、人が近くにいるところでしか巣を作りません。森林には生息しないのです。名前と実態がここまでずれている鳥も珍しく、英名だけを頼りに「森にいる鳥」と思って探すと空振りします。
具体例として分かりやすいのが電柱です。関東地方の都市部と郊外を比較した研究では、都市部は電柱への営巣が多く、郊外は住宅の屋根への営巣が多いという差が出ました。都市部の電柱は構造が複雑で営巣に適した隙間が多く、郊外は隙間のある瓦屋根が多いためと説明されています。
豆知識として、スズメが餌を取りに行く範囲は巣から半径100m程度とされています。巣の隙間と餌場がセットで半径100m以内にそろっていないと、そこでは繁殖できません。街中でスズメが「いる場所」と「いない場所」がくっきり分かれるのは、この条件を満たすかどうかの差です。
やりがちな失敗①:海外の「sparrow」を日本のスズメだと思い込む
ありがちな行き違いが、海外の書籍・雑貨・SNS投稿に出てくる「sparrow」を、日本のスズメと同一視してしまうことです。
原因ははっきりしていて、翻訳の段階で「sparrow=スズメ」と一対一に置き換えられるからです。英語圏で単に sparrow と言えば house sparrow を指すことが多く、その和名はイエスズメ。日本で見る鳥とは別種です。海外のガーデニング記事に出てくる「sparrow が餌台に来る」という記述も、そのまま日本の庭に当てはめると前提がずれます。
対策は2つあります。1つは、学名か英名まで確認する習慣をつけること。Passer montanus なら日本のスズメ、Passer domesticus ならイエスズメです。もう1つは、画像で頬の黒斑を確認すること。文章だけでは判断できませんが、写真が1枚あれば数秒で見分けられます。
海外の観察記録や研究論文を読むときにも同じ注意が要ります。「sparrow の個体数が減っている」という記事が、どちらの種の話なのかで意味はまったく変わります。減少率の数字を日本に持ち込む前に、種名を確かめてください。
| 比較項目 | スズメ(日本) | イエスズメ(欧米) |
|---|---|---|
| 学名・英名 | Passer montanus Eurasian Tree Sparrow |
Passer domesticus House Sparrow |
| 頬の黒い斑 | あり | なし(オスは頭が灰色) |
| 大きさ | 全長14〜15cm/25g程度 | 全長14〜16cm/24〜38g |
| オスとメスの差 | 外見の差はほとんどない | はっきり違う |
| 住む場所 | 日本では市街地。ヨーロッパでは農耕地 | 市街地 |
| 日本での記録 | 北海道から沖縄までほぼ全域 | 北海道の島などで迷鳥として記録 |
東京のスズメは4.2mまで逃げないというデータ

逃避開始距離、東京4.2mと茨城11.1m
「日本のスズメは人を警戒する」とよく言われます。この感覚を数値で確かめた研究が、2026年1月27日に国立科学博物館から発表されました。濱尾章二名誉研究員による、都市の鳥の逃避開始距離(人が近づいたときに逃げ出すまでの距離)を測った研究です。
スズメの結果は明快でした。茨城県で調べた115個体の平均は11.1mで、一部は20mを超えていました。一方、東京の82個体は平均4.2mで、10mを超えた例はほとんどありません。同じ種でありながら、逃げ出す距離が半分以下になっていたことになります。
調査地は東京23区内12か所と、茨城県南部の農村地帯18か所。都会と農村という環境の違いだけを比べる設計です。論文は「Risk-taking behavior of birds in urban environment」というタイトルで、日本動物行動学会が発行する英文学術誌 Journal of Ethology のオンライン版に掲載されました。
この数字を実感に落とすと、4.2mは横断歩道の幅ほど、11.1mは片側1車線の道路を横切るくらいの距離です。都会のスズメは、それだけ人に近い距離まで平気でいるということになります。
詳細は国立科学博物館のプレスリリースで公開されています。
7種すべてで同じ傾向、しかもヨーロッパより差が大きい
この研究が扱ったのはスズメだけではありません。スズメ、ハシブトガラス、キジバト、シジュウカラ、ヒヨドリ、ハクセキレイ、ムクドリの7種が対象で、7種すべてで東京の逃避開始距離は茨城のものよりも短くなっていました。
種を問わず同じ方向に変化しているということは、個々の種の性格ではなく、都市という環境が共通して働いていると考えられます。人が多く、しかもその人たちが鳥を追いかけたり捕らえたりしない環境では、逃げるコストのほうが高くつきます。餌を探す時間を削ってまで逃げる必要がない、という判断が積み重なった結果でしょう。
さらに注目したいのが、海外との比較です。この都市と田舎の差は、ヨーロッパの先行研究のものよりも大きく、東京での警戒性低下は大きなものだったと報告されています。つまり「東京の鳥は世界的に見ても人慣れしている側」ということになります。
ここは誤解しやすいところなので補足しておくと、これは鳥が人になついたという話ではありません。危険がないと学習した結果、逃げるタイミングが遅くなっただけです。手を伸ばせば触れる、という意味ではない点は押さえておいてください。
「日本のスズメは警戒心が強い」は、半分だけ正しい
海外旅行先で、公園のベンチに座っていると足元まで鳥が寄ってきた、という話を聞いたことがあるかもしれません。そこから「日本のスズメは警戒心が強い」という印象が生まれがちです。
この印象は半分正しく、半分は比較対象がずれています。まず、海外の街で足元まで来る「sparrow」の多くはイエスズメで、別種です。人の居住地に強く依存し、都市環境への適応が進んだ種なので、そもそも人との距離感が違います。
もう半分は、日本国内でも場所によって大きく違うという事実です。東京4.2mと茨城11.1mという差は、同じ種の中で環境が生んだ差でした。「日本のスズメ」とひとくくりにできる警戒心の値は存在しません。あなたが感じている警戒心の強さは、住んでいる場所の値である可能性が高いのです。
庭に来るスズメが逃げやすいと感じるなら、それは種の性質というより地域の値だと考えたほうが実態に近く、無理に慣れさせようとするより、距離を保った観察に切り替えるほうが得るものが多くなります。
逃避開始距離は「その鳥が人をどれくらい危険とみなしているか」の目安です。東京のスズメが平均4.2mまで逃げないのは人になついたからではなく、危険がないと学習した結果。近づけるからといって触れようとするのは別の話で、観察は距離を保ったまま行うのが基本です。
この数字を、明日の観察に生かす
数値が分かると、観察の組み立て方が変わります。都市部なら4.2m前後、農村部なら11m前後を「そこから先は入らない線」として意識するだけで、鳥を飛ばさずに済む時間が延びます。
理由は単純で、逃避開始距離の少し外側にいれば、鳥は逃げるという判断をしないからです。逃げられるたびに移動を繰り返すより、一定の距離で腰を落ち着けたほうが、採食や水浴びといった自然な行動を見られます。
具体的には、農村部でスズメの群れを見つけたら、まず15mほど手前で立ち止まって様子を見る。都会の駅前なら5mほど離れたベンチに座る。この差を意識するだけで、観察できる行動の量が変わってきます。双眼鏡があれば、この距離からでも頬の黒斑ははっきり確認できます。
注意点として、繁殖期の3月〜8月に巣の近くへ寄りすぎると、親鳥が巣に戻れなくなることがあります。逃避開始距離は「これ以上近づかない目安」であって、「ここまでは近づいてよい」という許可ではありません。巣が近いと分かったら、数字にかかわらず距離を取ってください。
海を渡ったスズメたちは、その後どうなったのか
1870年、セントルイスに放たれた12羽
日本のスズメと同じ Passer montanus は、実はアメリカにもいます。ただし自然分布ではなく、人が持ち込んだものです。
1870年4月下旬、ドイツから運ばれたヨーロッパの鳥の一群が、アメリカ・ミズーリ州セントルイスで放たれました。目的は、ヨーロッパから移住してきた人々に、なじみのある鳥を提供することでした。放たれたスズメの数は12羽、資料によっては20羽、あるいは12つがいとされています。
この鳥たちは繁殖に成功し、ミズーリ州北東部、イリノイ州中西部、アイオワ州南東部へと分布を広げました。現在はセントルイス周辺に約15000羽が定着しているとされています。
豆知識として、アメリカのバードウォッチャーの間では、この鳥はセントルイス周辺でしか会えない種として知られています。北米大陸全体から見ればごく限られた範囲にしかいない鳥で、わざわざこの地域を訪れる観察者もいるほどです。
150年以上たっても、約15000羽どまりの理由
1870年の導入から150年以上が経っているのに、約15000羽という数字は控えめに見えます。ここには明確な理由があります。
ほぼ同じ時期に、セントルイス周辺にイエスズメが到達していたのです。イエスズメはより攻撃的で適応力が高く、都市の中心部を占めました。そのため北米の Passer montanus は都市部でイエスズメと競合することになり、主に公園・農場・農村の林で見られる鳥になっています。
これはヨーロッパで起きている住み分けと同じ構図です。イエスズメがいる土地では、スズメは街の中心から外へ押し出される。大陸をまたいでも同じパターンが再現されたことになります。
ちなみにイエスズメ自身も北米では移入種です。元々はユーラシアが分布の中心で、1850年から1875年の間にイギリスからアメリカ大陸に導入され、鉄道網の発達とともに分布域を広げました。19世紀の北米には、2種のスズメがほぼ同時期に上陸していたわけです。
イエスズメは、南極以外の全大陸へ広がった
イエスズメの分布の広がり方は、鳥類の中でも際立っています。南極を除く全大陸に分布する汎存種で、世界一分布域の広い鳥類とされます。
広がれた理由は、人の暮らしに寄り添う性質にあります。雑食性で果実、植物の種子、昆虫類を食べ、本来は種子食性でくちばしは太く短い。人の居住地には穀物のこぼれや残飯という安定した餌があり、建物には巣に使える隙間があります。船や鉄道で人が移動するたび、この鳥も一緒に移動しました。
具体例が、イギリスからアメリカへの導入です。北米大陸にイエスズメはもともと生息していませんでしたが、19世紀半ばに持ち込まれたのをきっかけに、全米で繁殖するようになりました。オーストラリアやアフリカへも、人の居住地を基点に分布を拡大しています。
注意しておきたいのは、これが手放しで喜べる話ではないという点です。導入先では在来の鳥と巣穴や餌をめぐって競合することがあり、移入種として扱われる地域もあります。「世界一広く分布する鳥」という肩書きの裏には、人が運んだ結果という側面があります。
実は、世界的に見ると「街にいるスズメ」のほうが少数派
意外と知られていないけれど、日本の駅前や商店街で当たり前に見ているあの光景は、Passer montanus という種にとっては例外的な暮らし方です。
この種の標準的な姿は、ヨーロッパの農村にいる鳥のほうです。英名の「Tree Sparrow」も、英語圏の資料が rural bird と記すのも、その姿を前提にしています。東アジアで urban bird になっているのは、イエスズメという競合相手が不在という特殊な条件が重なった結果です。
言い換えれば、日本のスズメは「本来なら入れなかった席」に座っています。だからこそ、街の環境が変われば影響もダイレクトに受けます。日本のスズメが都市部で減っているという傾向は、この席の不安定さと無関係ではないでしょう。
私たちが「どこにでもいる鳥」と思っているスズメは、世界基準で見れば珍しい暮らし方をしている個体群です。そう考えると、庭に来る1羽の見え方も少し変わってきます。
巣を作る場所が、日本と海外でここまで違う
日本のスズメは、人工物の隙間に入り込む
営巣場所は、日本と海外の違いがもっともはっきり出る部分です。日本のスズメは、人工構造物が作り出す隙間に営巣します。
この習性は徹底していて、人が近くにいるところでしか巣を作らず、森林には生息しません。人の建てた構造物が、そのまま繁殖の条件になっているということです。研究者の間では、人が意図せずスズメに営巣環境を提供している状態として整理されています。
具体例を挙げると、住宅の瓦の下、物置の隙間、立体駐車場、電柱の部材の間、農業施設のすき間などです。繁殖期は3月から8月で、この時期に建物のまわりで「チュン」という声が集中して聞こえたら、近くに巣がある可能性が高いと考えていいでしょう。
知っておくと得なのは、都市でスズメが生息するには「巣を作れるような隙間」と「餌を効率よくとれる環境」がセットになっている必要がある、という条件です。片方だけでは足りません。餌台を置いてもスズメが来ない庭は、半径100m以内に営巣できる隙間がないのかもしれません。
都市は電柱、郊外は瓦屋根という使い分け
同じ日本の中でも、都市と郊外で使う場所が違います。関東地方の都市部と郊外を比較した研究では、都市部は電柱への営巣が多く、郊外は住宅の屋根への営巣が多いという結果が出ました。
理由は構造物の側にあります。都市部の電柱は構造が複雑で、営巣に適した隙間が多い。一方の郊外には、隙間のある瓦屋根の住宅が多く残っています。スズメはその場所で手に入るいちばん条件のよい隙間を選んでいるだけで、好みが変わったわけではありません。
この視点を持つと、街歩きが観察になります。電線の上ではなく電柱の上部、変圧器まわりの部材の隙間に注目してみてください。繁殖期に親鳥が同じ場所へ何度も出入りしていれば、そこが巣です。
気をつけたいのは、気密性の高い住居が増えてスズメが巣をつくる場所が減っているという指摘です。新しい住宅ほど隙間がなく、営巣に使えません。「昔は家の軒先にスズメが巣を作っていたのに」という感覚は、記憶違いではなく建物の変化を反映しています。
ヨーロッパのスズメは、樹洞や巣箱を使う
海外に目を向けると、同じ種でも巣の場所が変わります。ヨーロッパのスズメは農村の鳥として、樹洞や巣箱といった自然に近い場所を使います。
これも競合と資源の問題です。市街地の建物の隙間はイエスズメが押さえているため、スズメは農地まわりの樹木や巣箱に回ることになります。英名の「Tree Sparrow」は、まさにこの姿から付いた名前です。
参考になるのが、日本のニュウナイスズメの営巣です。ニュウナイスズメは農耕地や広葉樹林などで、樹洞や巣箱、鉄パイプ等に営巣し、スズメよりも自然に近い環境で営巣します。日本のスズメが人工物に寄っている分、ニュウナイスズメがヨーロッパのスズメに近い位置にいる、と考えると整理しやすくなります。
豆知識として、日本のスズメも巣箱を使わないわけではありません。人家のそばに、スズメが入れる大きさの入口を持つ巣箱を掛ければ、利用されることがあります。ただし森の中では使われません。人の生活圏という条件のほうが、巣箱の有無より優先されるからです。
庭の巣箱でスズメを迎えたい場合、入口の直径と設置場所の条件が結果を分けます。

ホームセンターで巣箱を買ってきて庭の木に架けたのに、春が来てもスズメが入らない。そんな話は野鳥好きのあいだでよく出てきます。原因の多くは、置き場所でも木の種類で…
やりがちな失敗②:森の中に巣箱を掛けても、スズメは来ない
巣箱を用意したのに使われない、という相談で多いのが、設置場所を「自然の豊かなところ」と考えてしまうケースです。
原因は、スズメの生態を他の野鳥と同じに考えてしまうことにあります。日本のスズメは人が近くにいるところでしか巣を作らず、森林には生息しません。人の気配がない場所は、この鳥にとって条件を満たさない場所です。緑が多いほうがよい鳥もいますが、スズメは逆です。
具体的な対策は、設置場所を人家のそば、それも普段から人の出入りがある建物のまわりに移すことです。庭の隅の雑木林より、物置の壁や家の軒下に近い位置のほうが、スズメには合っています。加えて、半径100m以内に餌をとれる環境があるかを見てください。芝生、畑、植え込み、田んぼのあぜなど、地面で採食できる場所が必要です。
もう1つの落とし穴が、入口の大きさです。スズメより小さい鳥に合わせた入口では、スズメは入れません。逆に大きすぎると、別の鳥やヘビが入りやすくなります。狙う鳥を決めてから入口の直径を決めるのが順番です。
繁殖期(3月〜8月)に営巣中の巣へ近づいたり、中をのぞき込んだりすると、親鳥が巣を放棄することがあります。使用中の巣の撤去は法律に関わる行為でもあるため、自宅の建物であっても、判断に迷ったら地域を所管する自治体の担当窓口に相談してください。また、巣や糞に触れたあとは手を洗い、掃除の際はマスクと手袋を使うのが基本です。
減っているのは日本だけ?世界のスズメ事情
18年で62.1%、毎年2.61%ずつ減っている
日本のスズメは減っています。感覚の話ではなく、全国規模の調査で裏付けられた数字があります。
環境省が主導する全国鳥類繁殖分布調査は、2300のコースを設定した全国規模の調査です。第2回(1997-2002年)と第3回(2016-2020年)を比較し、基準年を2000年と2018年に設定して解析したところ、18年間で個体数は62.1%になったという結果が得られました。約4割が失われた計算です。
この傾向を年あたりに直すと、毎年、前年の2.61%の個体数が減少していることになり、このペースが続けばおおよそ26年間で半減すると予測されています。じわじわとした減り方なので日常では気づきにくく、10年20年のスパンで初めて見えてくる変化です。
個体数の規模も押さえておきましょう。2008年時点で、日本本土における繁殖期の成鳥はおよそ1800万羽、全国の巣の数は約900万巣と推定されました。この推定は、2008年5、6月に秋田・埼玉・熊本の3県で、住宅地・農村・森林など5つの生息環境について巣の平均密度を調べ、全国の環境面積とかけあわせて算出されたものです。
標識調査でも、20年で6割減という結果
別の方法で調べても、同じ方向の結果が出ています。山階鳥類研究所の鳥類標識調査のデータを統計解析したところ、1987年から2008年までの約20年間に、スズメの個体数は6割減少したと推定されました。
標識調査は、鳥に足環を付けて記録を積み重ねる長期の調査です。全鳥類種の総捕獲数はあまり変化していないのに、捕獲された鳥のうちスズメが占める割合は減少傾向にありました。調査努力が変わっていないのにスズメの割合だけ下がる、というのは、スズメが実際に減っていることを示す手がかりになります。
調べ方の違う複数のデータが同じ結論を指しているという点が重要です。環境省の繁殖分布調査でも、スズメの記録は前回調査の3万1159羽から2万627羽へ減っています。手法が違えば癖も違うので、それでも一致するなら傾向は確かだと考えられます。
減少の背景として指摘されているのが、農地の変化です。1990年代調査時の農地の割合が高い場所ほど、個体数の減少幅が大きいという傾向が確認されています。詳しくは環境省の報道発表資料と、山階鳥類研究所の解説が公開されています。
イギリスのイエスズメは71%減って、2002年にレッドリスト入り
海外はどうでしょうか。イギリスのイエスズメも、大きく数を減らしています。
英国王立鳥類保護協会(RSPB)によれば、イギリスのイエスズメは1977年から2008年の間に71%減少しました。この減少を受けて、2002年に UK Red List of Conservation Concern に追加されています。日本のスズメと同じように、身近すぎて誰も心配していなかった鳥が、保全上の懸念種になったわけです。
減り方には地域差もあります。イングランドの農村部では個体数がほぼ半減し、都市部では60%減少した一方、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドでは増加が見られました。原因も一様ではなく、農村部では冬の刈り株地の消失や穀物貯蔵施設の衛生改善など農業のやり方の変化、都市部では餌不足、鳥マラリアの広がり、大気汚染の影響が指摘されています。
興味深いのは、これだけ減ってもイエスズメが RSPB の Big Garden Birdwatch で20年連続1位を保っている点です。庭でいちばんよく見る鳥であることと、長期的に減っていることは両立します。「よく見かけるから大丈夫」という感覚が当てにならないことを、この事実がよく表しています。数字はRSPBの解説ページで公開されています。
1958年の中国が示した、スズメを消した先にあるもの
スズメが減るとどうなるのか。その答えの一部を、歴史が示しています。
中国では1958年2月から、四害(ハエ・蚊・ネズミ・スズメ)の大量捕獲作戦が展開されました。毛沢東が1958年に導入した衛生キャンペーンで、スズメは農作物を食い荒らす害鳥として駆除の対象になりました。
結果は意図と逆でした。スズメの駆除はかえってハエ・蚊・イナゴ・ウンカなどの害虫の大量発生を招き、農業生産は大打撃を受けました。理由は明快で、スズメは農作物を食べると同時に害虫となる昆虫類も食べており、特に繁殖期には雛の餌として大量の昆虫を消費していたからです。のちに駆除対象はスズメから南京虫に変更されました。
この出来事が教えるのは、1種の鳥が生態系の中で複数の役割を担っているという当たり前の事実です。穀物を食べる面だけを見て評価すると、昆虫を食べる面が見えなくなります。
日本で今起きている減少は、駆除による急激なものではなく、営巣場所と餌場が少しずつ失われることによるゆるやかなものです。速度は違いますが、失われる役割は同じです。
| 比較項目 | 日本のスズメ | イギリスのイエスズメ |
|---|---|---|
| 減少率 | 18年で個体数が62.1%に | 1977〜2008年に71%減 |
| 別調査の結果 | 標識調査で1987〜2008年に6割減 | 都市部60%減、農村部はほぼ半減 |
| 保全上の扱い | 絶滅危惧の指定はされていない | 2002年にUKレッドリスト入り |
| 指摘される原因 | 農地の減少、営巣できる隙間の減少 | 農業のやり方の変化、餌不足、鳥マラリア、大気汚染 |
日本にいる「もう1種のスズメ」と、北海道に迷い込む海外のスズメ
ニュウナイスズメには、頬の黒斑がない
日本で見られるスズメの仲間は、身近なスズメだけではありません。ニュウナイスズメという種がいます。
この鳥は全長14cmで、スズメよりほんの少し小型です。オスは頭から背、腰などに赤味のある褐色をしていて、背には黒い縦斑がありますが、頬に黒斑はありません。メスは頭から背が褐色で、眉斑がはっきりあります。頬の黒斑がないという特徴は、イエスズメと共通です。
会える場所と時期も違います。日本では主に北海道の平地の林や本州中部以北の山地で5月から7月にかけて繁殖し、関東地方以南の暖地で越冬します。営巣は農耕地や広葉樹林などで、樹洞や巣箱、鉄パイプ等を使い、スズメよりも自然に近い環境で営巣します。食べるものは植物の種子や昆虫です。
注意点として、「頬に黒斑がないからイエスズメだ」という判断は日本国内では成り立ちません。国内でその特徴を見たら、まずニュウナイスズメを疑うのが順当です。撮影地が本州の山地や北海道なら、その可能性はさらに高まります。
北海道の島々で記録された、本物のイエスズメ
とはいえ、日本でイエスズメがまったく見られないわけではありません。日本列島には自然分布していませんが、記録はあります。
観察されているのは北海道の島や沿岸部です。1990年8月に利尻島、1992年4月に積丹町、1998年5月に天売島、ほかに礼文島でも確認されています。ロシア沿海地方もしくはサハリン州北部から渡ってきた迷鳥と考えられています。
迷鳥というのは、本来の分布域や渡りのルートから外れて飛来した個体のことです。定着して繁殖しているわけではないので、狙って会える鳥ではありません。北海道の離島で春や夏に、頭が灰色で頬に黒斑のないスズメ大の鳥を見たら、記録する価値があります。
豆知識として、イエスズメの記録がこれらの島に集中しているのは、渡りの中継地として鳥が集まりやすい地形だからです。離島は迷鳥の記録が出やすい場所で、日本の鳥類記録を更新してきた場所でもあります。
あなたのタイプ別・押さえるべきポイント
ここまでの内容は、目的によって使うところが変わります。3つのタイプに分けて整理します。
庭やベランダに来る鳥を知りたい人は、頬の黒斑だけ覚えれば十分です。市街地・住宅地で見るスズメ大の鳥に頬の黒斑があれば、それが日本のスズメ。ニュウナイスズメは市街地には出てこないので、迷う場面はほとんどありません。あとは繁殖期の3月〜8月に巣の出入りを観察すれば、暮らしぶりが見えてきます。
海外旅行や海外の資料を扱う人は、学名と英名の対応を持っておくと迷いません。Passer montanus=Eurasian Tree Sparrow が日本のスズメ、Passer domesticus=House Sparrow がイエスズメ。ヨーロッパの街で見る鳥は後者だと思って構いません。前者に会いたければ、農地や集落の周辺へ向かってください。
野鳥観察を本格的に始めたい人は、逃避開始距離の数字を持ち歩くと役に立ちます。都市部4.2m、農村部11.1mという目安を意識して立ち位置を決めれば、鳥を飛ばさずに観察できる時間が延びます。あわせて、ニュウナイスズメの繁殖期(5月〜7月)と越冬地を覚えておくと、遠征の計画が立てやすくなります。
身近なスズメの仲間を、種のレベルで整理しておくと理解が進みます。

庭先や駅前で見かける茶色い小鳥を、まとめて「スズメ」と呼んでいませんか。じつはそのなかに、スズメではない鳥がかなりの割合で混ざっています。逆に「これは別の鳥だ」…
| 比較項目 | スズメ | ニュウナイスズメ | イエスズメ |
|---|---|---|---|
| 頬の黒い斑 | あり | なし | なし |
| 全長 | 14〜15cm | 14cm | 14〜16cm |
| オスの頭の色 | 茶色 | 赤味のある褐色 | 灰色の帽子状 |
| よく見る場所 | 市街地・住宅地・農耕地 | 北海道の平地の林、本州中部以北の山地 | 日本では北海道の島などで迷鳥として |
| 営巣場所 | 人工構造物の隙間 | 樹洞・巣箱・鉄パイプ等 | 市街地の建物まわり |
※野鳥の教科書調べ。各種の公開資料をもとに、見分けに使える項目だけを抜き出して比較したものです。
まとめ
日本と海外のスズメの違いは、突き詰めれば「イエスズメがいるかいないか」に行き着きます。イエスズメのいるヨーロッパやアメリカでは、スズメは農村へ押し出されて樹洞や巣箱を使う鳥になり、イエスズメのいない日本では、市街地の電柱や瓦屋根に入り込んで都会の鳥になりました。同じ Passer montanus が、置かれた状況次第でこれだけ違う暮らし方をします。そして東京では平均4.2mまで人が近づいても逃げないところまで、人との距離を縮めています。まずは通勤路や庭で、スズメの頬をひとつ確認するところから始めてみてください。黒い斑が見えた瞬間、その鳥が世界的には珍しい暮らし方をしている個体だと分かります。
※調査結果や個体数の推定値は、調査の実施年と手法によって数値が変わります。最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

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