春先、いつもの通勤路を歩いていたら、頭上でカラスが「カッ、カッ」と鋭く鳴いた——そんな経験はありませんか。何もしていないのに睨まれている気がして、翌日から遠回りしている人もいるはずです。じつはその時期、カラスの側にも切実な事情があります。
結論から言うと、カラスの繁殖期はおよそ3月下旬から7月上旬ごろです(東京都環境局)。この4か月弱のあいだ、カラスは巣をつくり、卵を温め、ヒナを育てます。人を威嚇したり攻撃したりするのは、この子育ての最中だけ。裏を返せば、時期と場所さえ分かっていれば、ほとんどの遭遇は事前に避けられます。
この記事では、繁殖期の月ごとの進み方、襲われる前にカラスが必ず出すサイン、頭を狙われたときに効く守り方、そして地面にいるヒナを見つけたときの正しい対応まで、自治体と公的機関が公開している情報をもとに整理します。カラスを敵に回さずに、この季節をやり過ごすための知識です。
この記事でわかること
・カラスの繁殖期がいつ始まり、いつ落ち着くのか
・攻撃が集中する月と、その理由
・襲われる前に出る3つのサインと、頭を守る具体的な方法
・地面のヒナを拾ってはいけない理由と、法律上の線引き
カラスの繁殖期は3月下旬から7月上旬|4か月弱の子育てシーズン

始まりは3月下旬、終わりは7月上旬という4か月弱
カラスの繁殖期は、東京都環境局の案内ではおよそ3月下旬から7月上旬ごろとされています。多摩市は3月下旬から7月中旬頃、船橋市は3〜7月ごろと案内しており、自治体によって半月ほどの幅がありますが、いずれも「3月の終わりに始まり、7月に入って落ち着く」という骨格は共通です。
幅が出るのは、カラスが日本全国に広く分布していて、地域の気候によって巣づくりの開始が前後するためです。暖かい地域ほど早く始まり、寒い地域ほど遅れます。同じ市内でも、日当たりのよい場所に巣をかけたペアのほうが数週間早く進むこともあります。
実際の見分け方としては、街路樹や公園の高木を見上げて、枝が椀のように組まれた塊があるかを確認します。落葉樹なら3月の葉が出そろう前がいちばん見つけやすく、逆に5月以降は葉が茂って巣が隠れるため、気づかないまま巣の真下を通ってしまいがちです。
注意したいのは、「繁殖期が終わった=カラスがおとなしくなった」ではない点です。巣立ち後も家族群で行動する期間があり、ハシブトガラスでは巣立ち後の家族期が50〜100日ほど続きます。7月に入ってからも、地面近くにいる若い個体のそばには親鳥が控えていると考えておくほうが安全です。
なぜ人を襲うのか——攻撃ではなく、防衛だという見方
カラスが人に向かってくるのは、ヒナや卵を守るためです。足立区も茅ヶ崎市も、威嚇の目的を「ヒナや卵を守るため」と説明しています。人間を餌として狙っているわけでも、恨みを覚えているわけでもありません。
理由は巣の構造にあります。カラスの巣は樹上にあり、逃げ場がありません。ハシボソガラスは樹上の幹近くの枝の上に、雌雄共同で枝を集めて椀形の巣をつくります。卵やヒナは自力で移動できないため、親鳥にとっては「近づくものを追い払う」以外に守る手段がないのです。
この見方に立つと、行動の意味が変わって見えます。頭上を旋回するのは追跡ではなく警告で、木の枝を折り落とすのは攻撃ではなく「これ以上来るな」という意思表示です。人が巣から離れれば、追いかけてくることはまずありません。距離をとった瞬間に静かになるのは、目的が排除ではなく防衛だからです。
豆知識として、カラスは人の顔を識別すると言われますが、繁殖期の威嚇は特定の個人を狙ったものというより、巣の周囲に入った対象すべてに向けられます。「自分だけ嫌われている」と感じたときは、たまたま毎日その巣の真下を通っているだけ、という可能性が高いのです。
都市部でカラスが減っても、遭遇が減らない理由
東京都の資料によれば、都内約40か所における合計生息数は平成13年度に比べて約80%減少し、都庁に寄せられた苦情・相談件数も平成13年度に比べて約93%減少しています。令和7年度の捕獲数は約5,000羽、事業開始以来の累計は約26万羽にのぼります。数字だけを見れば、都市のカラスは大きく減りました。
それでも繁殖期の遭遇が体感として減らないのは、残ったペアが人の生活圏で営巣しているからです。カラスは繁殖期になわばりを分散させる習性があり、密度が下がっても、住宅地の街路樹や公園の木にはそれぞれ別のペアが入ります。総数が減っても、あなたの通勤路に1ペアいるかどうかは別問題なのです。
もうひとつの理由が、巣の見えにくさです。ビルの間の緑地や、マンションの敷地内の高木など、人の目線から見上げにくい場所が営巣地になりやすく、威嚇されて初めて巣の存在に気づくケースが目立ちます。
失敗しやすいのが、「去年は何もなかったから今年も大丈夫」と考えることです。カラスは毎年同じ木を使うとは限らず、前年の巣が残っていても別の木に新しく作り直すことがあります。春先は前年の記憶に頼らず、その年の巣の位置を確かめ直すほうが確実です。
知らないと損する、繁殖期の「静かな月」の使い方
繁殖期の始まりは3月下旬ですが、警戒が本格化するのは卵からヒナが孵ってからです。足立区の案内では、3月〜4月が巣を作り始める時期、4月〜5月が卵やヒナを温める時期にあたります。つまり3月から4月前半は、比較的落ち着いている期間です。
この時期をどう使うかで、その後3か月の安全度が変わります。巣づくりが始まったばかりの3月なら、葉が茂る前で巣の位置が見つけやすく、ルートの付け替えも余裕をもって決められます。5月に入ってから慌てて迂回路を探すより、はるかに楽です。
具体的には、自宅から駅までの道、子どもの通学路、犬の散歩コースの3つについて、3月中に一度だけ上を向いて歩いてみることをおすすめします。枝の組まれた塊を見つけたら、その木から10m程度離れた別ルートを1本用意しておく。それだけで、5月以降の威嚇に巻き込まれる確率は大きく下がります。
注意点として、巣を見つけても近づいて確かめようとしないでください。この段階で人が繰り返し近寄ると、カラスは人を警戒対象として強く記憶します。距離をとって位置だけ把握するのが、いちばん穏やかな付き合い方です。
月ごとに危険度が変わる|ヒナがいる5〜6月に集中する理由
3月から7月まで、子育てのカレンダーを追う
足立区は、カラスの子育ての流れを月ごとに整理して公開しています。3月〜4月に巣を作り始め、4月〜5月に卵やヒナを温め、5月〜6月にヒナの世話をし、6月〜7月には巣立ったヒナが多く見られる、という流れです。
この4段階を頭に入れておくと、いま目の前のカラスがどの段階にいるのかが推測できます。3月に枝をくわえて飛んでいるなら巣づくり中、5月に同じ木を頻繁に往復しているならヒナに餌を運んでいる最中、6月下旬に地面をぴょんぴょん歩く尾の短いカラスがいれば巣立ったばかりのヒナです。
下のカレンダーは、この段階ごとの警戒度を月別にまとめたものです。◎の月は、巣の近くを通るだけで威嚇される可能性が高い時期を示します。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | △ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ | △ | △ |
◎=威嚇・攻撃がもっとも起きやすい ○=巣づくり・巣立ち後で警戒が見られる △=繁殖期外で落ち着いている(野鳥の教科書調べ/東京都環境局・足立区・船橋市・多摩市の公開情報をもとに作成)
5〜6月に攻撃が集中するのはなぜか
船橋市は、繁殖期のなかでも特に5〜6月は攻撃行動が激しくなると案内しています。多摩市も、5月以降に攻撃が増え、威嚇の強度が最も高まるのは巣立ちの時期だとしています。攻撃のピークは繁殖期の始まりではなく、後半にあるということです。
理由はヒナの成長段階にあります。抱卵中の卵は巣の中にあり、親鳥は目立たないよう静かにしています。ところが孵化してヒナが育つと、親鳥は餌を運ぶために何度も巣を往復し、ヒナは大きな声で鳴くようになります。巣の存在が周囲に知られやすくなるぶん、親鳥の警戒も跳ね上がるのです。
さらに巣立ち直後は、ヒナが巣の外——つまり地面や低い枝——にいます。守るべき対象が無防備な場所に出てくるため、親鳥の反応がもっとも鋭くなります。「巣から離れているのに威嚇された」という状況の多くは、見えていない場所に巣立ちビナがいるケースです。
覚えておきたいのは、5〜6月に急に威嚇が始まったからといって、そのカラスが凶暴になったわけではないという点です。同じペアが3月からそこにいて、守るものが増えただけ。だからこそ、7月に入って家族が巣を離れれば、同じ場所を通っても何も起きなくなります。
朝と夕方、時間帯によっても遭遇率は変わる
繁殖期のカラスは、餌を運ぶために日中を通して活動しますが、人との接触が増えるのは通勤・通学の時間帯です。人通りの多い時間に巣の下を通る人が集中するため、威嚇の報告もこの時間帯に偏りやすくなります。
背景には、親鳥が餌を探して巣を離れているタイミングと、巣に戻ってヒナに与えるタイミングの繰り返しがあります。親鳥が巣に戻る瞬間に人が真下にいると、親鳥は「巣に近づく存在」として反応します。同じ道でも、通る時刻を15分ずらすだけで遭遇が減ることがあるのはこのためです。
使い分けとしては、毎日決まった時刻に同じ道を通る人ほど、ルートを変えるより時刻をずらすほうが実行しやすい場合があります。一方、子ども連れや自転車で速度を出す人は、時刻の調整より距離をとるルート変更のほうが確実です。
注意点は、暗くなってからの通行です。夕方以降は巣の位置や親鳥の姿が見えにくく、サインに気づかないまま巣の真下に入ってしまいます。5月から6月に巣の近くを通らざるを得ないときは、明るいうちに済ませるほうが安全です。

庭先やベランダにやってきたカラスに、パンの耳をひとかけら。あるいは通勤路の公園で、毎朝おにぎりを置いていく人を見かけた。どちらの側に立っていても、頭をよぎるのは…
襲われる前に必ず出る3つのサイン|見逃すと頭を狙われる

音・声・旋回——警告は段階を踏んでくる
多摩市は、カラスの威嚇には3つの段階があると説明しています。第1段階がくちばしをカチカチ鳴らすこと、第2段階が樹木や電線にとまって大きな鳴き声で人に向かって鳴くこと、第3段階が鳴きながら頭上を飛びまわることです。
この順番には意味があります。カラスにとって人を蹴りにいく行為は消耗が大きく、失敗すれば自分が傷つきます。だから、まず音で、次に声で、最後に飛翔で、段階的に警告の強さを上げていくのです。いきなり後ろから襲われることは、ほとんどありません。
実際の見分け方としては、頭上でくちばしを鳴らす乾いた「カチカチ」という音が聞こえたら、それが最初の合図だと考えてください。この段階で立ち去れば、それ以上のことは起きません。第3段階の旋回まで進んでいたら、すでにかなり接近しているサインです。
意外と知られていないのですが、カラスの側は「警告した」と思っています。人間が段階を読み取れずにその場に留まることが、次の段階を引き出してしまう。威嚇されたときに立ち止まってスマートフォンを向けるのは、カラスから見れば警告の無視にあたります。

朝ベランダに出たら「カー、カー」と澄んだ声。夕方、川沿いを歩いていたら今度は「ガアー、ガアー」と濁った声。同じカラスなのに、どうしてこんなに声が違うのだろう——…
枝をつつく・葉を落とす——見落とされがちな警戒サイン
船橋市は、カラスが警戒状態を示す兆候として、鳴きながら頭上を旋回する、止まっている電線や木の枝をつつく、止まっている木の枝や葉を落とす、の3つを挙げています。足立区も、大きな声で鳴く・鳴きながら旋回する・木の枝を折るなどの行動が見られた場合はその場から立ち去るよう案内しています。
「枝をつつく」「葉を落とす」は、声や旋回に比べて気づかれにくいサインです。頭上から小枝や葉が落ちてきたとき、多くの人は風のせいだと考えます。しかし繁殖期に、風もないのに真上から枝が落ちてきたら、それはカラスが枝を折って落としている可能性があります。
具体的な判断としては、落ちてきた葉や枝の切り口を見ます。ちぎられたように不揃いなら、鳥がくちばしで折った跡です。そして落下地点の真上を見上げれば、たいてい枝の上にカラスがいます。この時点で引き返せば、接触は避けられます。
失敗パターン①:サインに気づいて立ち止まり、見上げてしまう。これはやりがちですが逆効果です。原因は、人が立ち止まって上を向く姿勢が、カラスから見て「巣に注目している」と読み取られることにあります。対策はシンプルで、サインに気づいたら見上げずに、そのまま歩く速度を落とさず前進して巣の勢力圏から出ることです。
威嚇されやすい人・されにくい人の差はどこにあるか
同じ道を通っても、威嚇される人とされない人がいます。差を生むのは、巣からの距離と、動きの大きさ、そして滞在時間です。走る、大きな荷物を持って揺らす、傘を振り回すといった動きは、カラスに脅威として認識されやすくなります。
理由は、カラスがヒナへの危険度を「動きの大きさ」で判断しているからです。静かに一定速度で通り過ぎる人より、急に方向を変えたり立ち止まったりする人のほうが、予測できない存在として警戒されます。
シーン別に整理すると、通勤で歩く人は「巣の真下を通らない」「立ち止まらない」の2点で十分です。小さな子どもを連れている場合は、子どもが走り出すと反応を引き出しやすいため、巣のある区間だけは手をつないで歩くほうが安全です。犬の散歩では、犬が地面のヒナに興味を示すと親鳥が強く反応するため、リードを短く持つ区間をつくります。
注意点として、自転車は速度がある分、巣の勢力圏に一気に入り込んでしまいます。巣の位置が分かっている区間では、降りて押して通るか、別ルートを選ぶほうが結果的に早く済みます。
威嚇されたからといって、石を投げる・棒で追い払う・巣に近づいて確かめるといった行為は避けてください。カラスの反応を強めるだけでなく、鳥獣保護管理法では許可なく卵やヒナを捕獲したり傷つけたりすることが禁じられています(東京都環境局)。人もカラスも無事に済ませるいちばんの方法は、その場から離れることです。
頭を狙われたときの守り方|傘の使い方ひとつで結果が変わる
カラスは後ろから、頭を狙ってくる
東京都環境局は、カラスは後ろから人の頭をめがけて飛んでくると説明しています。多摩市はさらに具体的で、後ろから足で蹴ると記載しています。正面から向かってくるのではなく、背後の死角から後頭部を狙うのが基本パターンです。
この行動には合理性があります。正面から接近すれば人に見られ、手で払われる可能性があります。背後からなら、人が反応する前に接触して離脱できる。カラスにとっては、自分が傷つかずに相手を追い払える方法なのです。
実際の場面では、頭上を旋回していたカラスが視界から消えた瞬間が危険です。姿が見えなくなったのは去ったからではなく、背後に回り込んだ可能性があります。船橋市は攻撃時の対応として、後頭部を守り、巣やヒナから素早く離れることを挙げています。
豆知識として、蹴られたと感じたときにすぐ振り返って追いかけるのは避けてください。カラスは離脱してすでに上空に戻っており、追う動作は次の接近を招くだけです。守るべきは頭部で、取るべき行動は前進による離脱です。
傘は「さす」より「肩にかつぐ」ほうが効く
東京都環境局は、傘などの棒状の物を肩にかつぐようにして頭の上に上げるとよいと案内しています。多摩市も同様に、傘などの棒状のものを肩にかつぎ頭上に掲げる方法を示しています。開いてさすのではなく、閉じたまま肩に担いで先端を頭より高く出すのがポイントです。
理由は、カラスが頭の最も高い位置に接近するためです。頭上に棒状のものが突き出ていれば、そこが最高点になり、カラスは人の頭に届く前に棒に接近することになります。結果として、直接の接触を避けられます。
開いた傘でも頭は覆えますが、視界が狭くなり、周囲の状況が読めなくなる欠点があります。特に交通量のある道では、視界を確保したまま頭上に高さをつくれる「かつぐ」形のほうが実用的です。傘がない場合は、丸めた雑誌や折り畳み傘、長めの荷物でも代用できます。
注意点は、棒を振り回さないことです。振る動作はカラスに対する攻撃と受け取られ、警戒を強めます。掲げたまま動かさず、歩き続ける。これが基本の型です。
帽子・カバン・迂回——効く順番で並べると
船橋市は、被害を避ける方法として、落ちているヒナに近づかない・巣の近くを迂回する・帽子をかぶる・傘をさす・エサ場になる要因を排除する、の5つを挙げています。東京都環境局も帽子の着用が有効だとしています。多摩市は、帽子やカバンで頭を保護することを勧めています。
これらを効く順に並べると、最上位は「そもそも近づかない」です。迂回できるなら、それ以上の対策は要りません。次が頭上に高さをつくる傘、その次が帽子やカバンによる保護、という順序になります。装備は、迂回できない場合の保険という位置づけです。
下のステップは、巣のある区間をどうしても通らなければならないときの流れをまとめたものです。
ハシブトとハシボソ、子育ての日程が2週間ずれる
街のカラスは2種類いる、という前提
日本の市街地で見かけるカラスは、主にハシブトガラスとハシボソガラスの2種です。松山市の解説によれば、ハシブトガラスは全長約57cmでくちばしが太く、上くちばしは大きく湾曲し、額は盛り上がって丸みがあります。ハシボソガラスは全長約50cmで、くちばしはハシブトガラスより細く、上くちばしはやや湾曲します。
この違いが繁殖期の話に効いてくるのは、2種でスケジュールが異なるからです。ハシブトガラスの繁殖期は3〜7月、ハシボソガラスは3〜6月とされ、終わりが1か月ほどずれます。つまり、あなたの家の近くにいるのがどちらかによって、警戒すべき期間の長さが変わります。
見分けの実践では、額の形がいちばん確実です。おでこが張り出して丸く見えればハシブトガラス、平らですっと鼻筋が通って見えればハシボソガラスです。生息環境も手がかりになり、ハシボソガラスは北海道から沖縄まで分布する留鳥で、農村部や河川敷などでよく見られます。
注意点として、両種は同じ街に混在します。「うちの近所はハシブトだけ」と決めつけず、巣ごとにどちらかを確かめるほうが正確です。

駅前の電線にとまっている黒い鳥を見上げて、「カラスってどれも同じに見えるけれど、種類ってあるんだろうか」と思ったことはありませんか。ゴミ集積所に集まるカラスと、…
卵の数・ふ化日数・巣立ちまで、数字で比べる
2種の繁殖データを並べると、違いがはっきりします。ハシブトガラスは1巣卵数3〜6個、ヒナは20〜22日でふ化し、34〜36日で巣立ちます。ハシボソガラスは1巣卵数3〜5個、ヒナは19〜20日でふ化し、30〜35日で巣立ちます(松山市)。
ふ化から巣立ちまでを足すと、ハシブトガラスは産卵からおよそ54〜58日、ハシボソガラスはおよそ49〜55日。数日から1週間ほど、ハシブトガラスのほうが子育て期間が長い計算になります。この差が、繁殖期の終わりの1か月のずれにつながっています。
実用的な読み方をすると、6月中旬にまだ強い威嚇が続いているなら、そこにいるのはハシブトガラスである可能性が高い、ということです。逆に6月末に落ち着いたなら、ハシボソガラスのペアだったのかもしれません。
豆知識として、抱卵するのはメスで、オスは餌を運ぶ役割を担います。ハシブトガラスでは抱卵はメスだけが行います。4月から5月にかけて、1羽が巣に留まり、もう1羽が出入りを繰り返している状態を見たら、それが抱卵期のサインです。
| 比較項目 | ハシブトガラス | ハシボソガラス |
|---|---|---|
| 全長 | 57cm | 50cm |
| 繁殖期 | 3〜7月 | 3〜6月 |
| 1巣卵数 | 3〜6個 | 3〜5個 |
| ふ化までの日数 | 20〜22日 | 19〜20日 |
| 巣立ちまでの日数 | 34〜36日 | 30〜35日 |
| 額とくちばし | 額が盛り上がり、くちばしは太い | 額が平ら、くちばしは細い |
| よく見る環境 | 低地から山地に広く分布 | 農村部や河川敷など |
巣の場所と形で、ペアの正体を推理する
巣そのものも手がかりになります。ハシボソガラスは樹上の幹近くの枝の上に、雌雄共同で枝を集めて椀形の巣をつくります。ハシブトガラスは主に大木に巣を作り、産卵期は4月頃とされています。
幹の近くか、枝の先のほうか。低めの木か、高い大木か。この2点を見比べると、どちらのペアかの見当がつきます。街路樹の中ほどにこぢんまりと収まっているならハシボソガラス、公園の高木の上部にあるならハシブトガラスの可能性が高くなります。
実際の観察では、双眼鏡があると巣の位置と形を離れた場所から確認できます。近づかずに済むという点で、繁殖期の観察道具としては合理的な選択です。倍率は8倍前後あれば、街路樹の巣を十分に確認できます。
注意点として、巣を見つけても写真を撮るために近づかないでください。巣の撮影は、カラスにとって最も強い刺激のひとつです。記録を残したいなら、離れた場所から巣のある木全体を撮るにとどめるのが、双方にとって穏やかなやり方です。
| 分類 | スズメ目カラス科カラス属 |
| 全長 | 全長57cm/体重550〜750g |
| 繁殖期 | 3月〜7月(産卵期は4月頃) |
| 生息環境 | 日本全国の低地から山地(小笠原諸島を除く) |
| 繁殖形態 | 一夫一妻でなわばりを分散して繁殖。抱卵はメスのみ |
| 巣立ち後 | 家族群で行動する期間は50〜100日ほど |
地面にいるヒナを助けたくなったときに読む話
巣立ちビナは、迷子ではない
6月から7月にかけて、地面をぴょんぴょん歩く尾の短いカラスを見かけることがあります。東京都環境局は、巣立ちしたばかりのヒナ(巣立ちビナ)はうまく飛べず、枝から枝へ移るときなどに地面に降りてしまうことがあると説明しています。
つまり、地面にいること自体が異常ではありません。飛ぶ力が十分でない時期に巣を出て、地上や低い枝で数日を過ごしながら飛翔を覚えるのが、カラスの育ち方です。そのあいだも親鳥は近くで見守り、餌を運び続けています。
見分け方としては、尾羽が短く、くちばしの付け根が淡い色をしていて、口の中が赤みを帯びているのが巣立ちビナの特徴です。周囲を見上げれば、たいてい親鳥が電線や枝からこちらを見ています。人が近づけば、その親鳥が反応します。
注意点は、心配して見守り続けることも逆効果になるという点です。人間がそばにいると親鳥が近づけないため、そっと離れることが勧められています。「様子を見る」つもりの滞在が、親鳥の給餌を止めてしまうのです。
拾わない、が原則。ネコが心配なときの唯一の例外
環境省が後援し、日本鳥類保護連盟・日本野鳥の会・NPO法人野生動物救護獣医師協会が実施している「ヒナを拾わないで」キャンペーンの趣旨は、その名の通りです。親鳥が世話を続けているのだから、拾う必要はない、という考え方が基本にあります。
根拠は2つあります。ひとつは、人がヒナを育てるのが難しいこと。もうひとつは法律で、許可なく野鳥を飼うことは禁じられています。良かれと思って持ち帰る行為が、生存率を下げることにも、法に触れることにもつながります。
ただし、東京都環境局はネコなどの脅威がある場合について、近くの木の枝先など、ネコが近寄れないところに移しましょうと案内しています。これが唯一の例外です。持ち帰るのではなく、その場のすぐ近くで、天敵の届かない高さに移す。親鳥は声でヒナを認識できるため、姿が見えなくても再会できます。
失敗パターン②:段ボール箱に入れて自宅に持ち帰ってしまう。原因は、地面にいる=親とはぐれたという思い込みです。対策は、まずその場を離れて30分ほど遠くから観察すること。親鳥が戻ってくるのが確認できれば、何もしないのが正解だと分かります。どうしても判断できないときは、持ち帰る前に自治体の担当窓口に電話で相談してください。
巣立ちビナのそばで威嚇されたら、どうするか
巣立ちビナがいる場所は、繁殖期のなかでも親鳥の反応がもっとも鋭くなるポイントです。多摩市も、威嚇の強度が最も高まるのは巣立ち時期だとしています。地面のヒナに気づかないまま近づいて威嚇される、というのが6月から7月の典型的なパターンです。
理由は明快で、巣の中にいるヒナと違い、巣立ちビナは無防備な位置にいるからです。親鳥から見れば、人が近づくことは直接の脅威になります。巣から離れた場所で急に威嚇された場合は、足元付近にヒナがいないか確認する価値があります。
具体的な対応は、ヒナから遠ざかる方向に歩くことです。ヒナを避けようとして横に回り込むと、かえって近づいてしまうことがあります。まっすぐ離れる、が原則です。船橋市も、落ちているヒナに近づかないことを対策の第一に挙げています。
豆知識として、この時期の威嚇は数日で終わることがあります。巣立ちビナは日ごとに飛翔力を増し、地上にいる時間が短くなっていくためです。「今週はこの道を避ける」程度の対応で乗り切れるケースは少なくありません。
地面にいるヒナは、原則として拾わずにその場を離れてください。許可なく野鳥を飼うことは法律で禁止されています(東京都環境局)。ネコなどの危険が差し迫っている場合に限り、近くの木の枝先などネコが近寄れないところへ移すという対応が案内されています。持ち帰る・餌を与える・水を飲ませるといった判断は、自治体の窓口に相談してからにしてください。
巣を撤去したいときの手続きと、費用の現実
卵やヒナがいるかどうかで、扱いが正反対に変わる
自宅の敷地の木に巣ができてしまった場合、まず確認すべきは巣の中身です。足立区は、卵及びヒナの撤去には鳥獣保護管理法に基づく許可が必要であり、産卵前および巣立ち後のカラスのいない巣のみを撤去する場合は許可は必要ないと明確に区分しています。
この線引きが重要なのは、法律が保護しているのが「巣という構造物」ではなく「そこにいる鳥」だからです。空の巣は枝の塊にすぎませんが、卵やヒナが入った瞬間、それは保護の対象になります。多摩市も、卵やヒナがない場合は許可なく撤去可能で、存在する場合は東京都知事から得る許可が必要だと説明しています。
実際の手順としては、巣に近づく前に、離れた場所から親鳥の出入りを観察します。1羽が長時間巣に留まっているなら抱卵中の可能性が高く、この段階では自己判断で手を出せません。まずは自治体の担当課に電話で状況を伝え、許可の要否を確認するのが正しい順序です。
注意点として、「知らなかった」は通用しません。巣の中を確認せずに撤去して、あとから卵が入っていたと分かる事態を避けるためにも、繁殖期に入ってからの自己判断による撤去は避けるべきです。
撤去は「作り始め直後」より「産卵後」が効くという逆説
ここが、多くの人の直感と食い違うところです。東京都環境局は、巣を作り始めた直後に撤去しても数日で再構築される傾向があり、卵を産んだ後のほうが効果的だと説明しています。早ければ早いほどよい、ではないのです。
理由は、カラスの繁殖行動の切り替えにあります。巣づくり段階で壊されたペアは、同じなわばり内で作り直します。人手をかけて撤去しても、数日後には同じような場所に新しい巣ができる。労力に見合わないのです。
ただし前項の通り、卵やヒナがある段階での撤去には鳥獣保護管理法に基づく許可が必要です。つまり「効果的なタイミング」と「手続きが必要なタイミング」が重なっているということ。だからこそ、自己判断ではなく自治体への相談から始めるのが現実的な進め方になります。
意外と知られていないのですが、撤去せずに繁殖期をやり過ごし、巣立ち後に空になった巣を撤去する、という選択肢もあります。空の巣なら許可は不要です。7月まで通行ルートを工夫して耐え、そのあと巣を落として翌年の再利用を防ぐ。手続きの手間も費用も、この方法がいちばん軽く済みます。
費用は1件2万円台から。誰が払うのかも決まっている
民間業者に依頼する場合の費用について、東京都環境局はおよそ1件あたり20,000円から30,000円程度としています。高所作業になるため、脚立で届く範囲の作業とは価格帯が変わります。
負担するのは土地の所有者です。船橋市は、私有地内の場合は土地所有者が民間業者に依頼し、費用は自己負担になると案内しています。マンションや集合住宅の敷地内なら管理組合や管理会社、公園や街路樹なら施設管理者が窓口になります。
自治体が対応するケースもあります。足立区は、自宅敷地内で緊急に当該巣の撤去等を行う必要があると認められる場合に限り対応可能としており、まずは担当課への相談が必要です。東京都北区も、一定の要件のもとで巣の撤去と落下した飛べないヒナの捕獲を行っています。条件は自治体ごとに異なるため、自分の住む市区町村の案内を確認してください。
注意点として、業者に依頼する場合も、卵やヒナがいる巣の撤去には許可が必要である点は変わりません。見積もりの段階で、許可の取得を誰が行うのかを確認しておくと、話がスムーズに進みます。
まとめ:時期と場所がわかれば、この季節は怖くない
カラスの繁殖期は、およそ3月下旬に始まり7月上旬ごろに落ち着きます。3月〜4月に巣を作り、4月〜5月に卵やヒナを温め、5月〜6月にヒナを育て、6月〜7月に巣立ったヒナが目立つようになる——足立区が示すこの4段階を頭に入れておけば、いま目の前のカラスがどの段階にいるのか、あとどれくらいで落ち着くのかが読めるようになります。攻撃が集中するのは5〜6月。ハシブトガラスなら3〜7月、ハシボソガラスなら3〜6月と、種によって終わりの時期も1か月ほどずれます。
威嚇は突然始まるものではなく、くちばしをカチカチ鳴らす、大きな声で鳴く、鳴きながら頭上を飛びまわる、という段階を踏みます。船橋市が挙げる、電線や枝をつつく・葉や枝を落とすという兆候も、見上げる前に気づける手がかりです。サインが出たら、立ち止まらず、見上げず、そのまま巣の勢力圏を出る。どうしても通らなければならない道では、帽子をかぶり、閉じた傘を肩にかついで頭上に高さをつくる方法が案内されています。
そして6月以降に増える、地面の巣立ちビナ。うまく飛べずに降りているだけで、親鳥は近くで見守っています。拾わずにその場を離れるのが原則で、ネコなどの危険がある場合に限り、近くの木の枝先など天敵が届かない場所へ移すという対応が示されています。許可なく野鳥を飼うことは法律で禁止されていますし、卵やヒナのある巣の撤去には鳥獣保護管理法に基づく許可が必要です。
最初の一歩としておすすめしたいのは、来年の3月に一度だけ、いつもの道を上を向いて歩いてみることです。枝が椀のように組まれた塊がどこにあるかを、葉が茂る前に確かめておく。それだけで、5月から6月の3か月が、まったく違うものになります。カラスの側も、あなたを敵だとは思っていません。距離をとれば、それで済む話なのです。
※記事内の数値・制度は各自治体および東京都環境局の公開情報に基づきます。撤去の許可要件や相談窓口は自治体によって異なるため、最新情報はお住まいの市区町村および東京都環境局のカラス対策ページ、環境省の鳥獣保護管理ページでご確認ください。

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