電線の上で逆さまにぶら下がってクルンと回る。滑り台をわざわざ滑り降りる。信号待ちの車の前に、クルミをそっと置いて待っている。そんな場面を目にして「カラスって、ちょっとかわいいかも」と思った経験はありませんか。ゴミを荒らす鳥というイメージが強い一方で、じっと観察していると意外な表情が見えてくる鳥でもあります。
結論から言うと、カラスをかわいいと感じるのは気のせいではありません。福岡県の公的な生きもの図鑑には、採餌や縄張り誇示といった生存・繁殖に直接関係のない「遊び」の行動が確認されている、とはっきり書かれています。さらに、巣立ち直後のわずかな期間だけ目が青みを帯びる、口の中が赤い、といった幼鳥ならではの姿もあります。カラスの「かわいさ」には、ちゃんと生態上の裏づけがあるのです。
この記事では、カラスのどんな仕草がかわいいのか、その行動が何を意味しているのかを、環境省・日本野鳥の会・東京都環境局などの公的資料と学術論文をもとに整理します。あわせて、かわいいと感じたときにやってしまいがちな失敗と、近づいてはいけない時期についても正直にお伝えします。
・カラスの「遊び」は公的な図鑑にも記載がある、実在する行動です
・幼鳥は口の中が赤く、瞳が青みを帯びる。見られるのは巣立ち直後の短い期間だけ
・街で見る2種は歩き方が違う。ぴょんぴょん跳ぶのがハシブト、交互に歩くのがハシボソ
・3月下旬〜7月上旬はヒナを守る時期。かわいくても巣に近づかないのが観察のマナー
カラスがかわいいと感じるのは気のせいじゃない

公的な図鑑にも「遊び」と書かれている行動がある
カラスの遊びは、観察者の思い込みではなく、公的資料に記載された行動です。福岡県が運営する「身近な生きもの図鑑」のハシブトガラスの項目には、知能が高いことに加えて、採餌や縄張り誇示など生存・繁殖に直接関係のない「遊び」の行動も確認されている、と明記されています。つまり、生きるために必要ではない動きをあえてしている個体がいる、ということです。
なぜそんな行動が生まれるのでしょうか。カラスは雑食で、昆虫から果実、動物の死骸まで幅広く食べます。食べ物を探す技術の幅が広い鳥ほど、対象物を「試す」行動が必要になります。物をつつく、持ち上げる、落とす、滑らせる——こうした試行そのものが、結果的に遊びに見える動きとして表れると考えられています。
実際に街で見られるのは、電線に足でぶら下がって一回転して戻る、垂れ下がった枝をくわえてぶら下がる、公園の滑り台やすべりやすい斜面を滑り降りる、といった動きです。どれも食べ物とは無関係で、しかも1羽が始めると近くの個体が真似することがあります。数分間、同じ動作を繰り返している個体を見つけたら、それが遊びの可能性が高い場面です。
注意したいのは、遊びに見える行動のすべてが遊びとは限らない点です。屋根の上で何かをつついているように見えても、隠した食べ物を掘り出しているだけということもあります。判断のコツは「その動作に食べ物が絡んでいるか」。くちばしの先に何もないのに動作を繰り返していたら、遊びと考えてよいでしょう。
信号待ちの車にクルミを置く、あの間の抜けた姿
カラスのかわいさが最もわかりやすく出るのが、クルミ割り行動です。ハシボソガラスは硬いオニグルミを自力で割れないため、車のタイヤに割らせます。東北大学の仁平義明氏による日本鳥学会誌の論文(1995年、44巻1号 21-35頁)では、「信号待ちで停車した自動車の車輪の前にクルミを置き、車がひいたクルミを摂食する事例が頻繁に観察された」と報告されています。
この行動が知的だとされるのは、偶然の産物ではないからです。同論文は、クルミの調達法、クルミの特性、セッティング方法、時刻、場所、他個体の存在、待ち行動を打ち切る臨界時間、置き直し行動、食行動という多くの変数から構成される、バリエーションの多い行動として整理しています。置いて終わりではなく、うまく割れなければ置き直す。この「置き直し」がなんとも人間くさく見えるところです。
観察できるのは、クルミの実る木がある河川敷や、街路にオニグルミが植えられた道路沿いです。秋から冬にかけて、信号のある交差点でカラスが路面に降りたり戻ったりを繰り返していたら、その足元を見てみてください。車が来るまで路肩で待ち、通過した直後に降りて中身を食べる流れが見られます。ちなみに、車を利用したクルミ割りは日本以外ではほとんど報告例がありません。
豆知識として、この行動をするのは主にハシボソガラスです。ハシボソガラスは地上を歩きながら餌をとる種で、地面での作業に慣れています。都市部の高いところにいるハシブトガラスより、農地や河原にいるハシボソガラスのほうが、路上での「置き直し」を見られる確率が高いと覚えておくと探しやすくなります。
隠した食べ物の場所を何十か所も覚えている
カラスには貯食という習性があります。八戸市の資料によれば、食べ物がたくさんあるときにいろいろな場所に隠しておき、餌が少ないときに取り出して食べる行動で、隠した場所を何十か所も覚えているといわれています。パンのかけらを1つ持って、屋根や植え込みの間を行ったり来たりしている個体は、たいてい隠し場所を探しているところです。
この習性が「かわいい」と感じられるのは、隠す動作がやたらと丁寧だからです。落ち葉をくちばしでめくり、食べ物を押し込み、また落ち葉をかぶせて、周囲を見回してから去る。人が見ていると隠すのをやめて別の場所に移動することもあります。見られたら場所を変える、という判断ができている点が、この鳥の観察を面白くしています。
探すコツは、餌が豊富な時期に人の生活圏を見ることです。八戸市の資料では、屋根の雨樋の中や屋上の設備の陰、植木鉢の中など、人家の屋根や屋上に隠す例が挙げられています。ベランダの植木鉢に見覚えのない食べ物が埋まっていたら、それはカラスの貯蔵庫だった可能性があります。
注意点もあります。貯食された生ゴミが腐って悪臭の原因になることがあるため、見つけたら取り除いたほうが衛生的です。ここで大事なのは、取り除くのは構いませんが「代わりに餌を置く」のは避けること。人の生活圏に食べ物があると学習させると、後述するトラブルにつながります。
遊びかどうかの見分け方は「くちばしの先に食べ物があるか」。何もくわえていないのに同じ動作を繰り返していたら遊びの可能性が高く、何かをくわえて場所を移していたら貯食の途中です。どちらもカラスの知能の高さが表れた行動で、数分間見ているだけで違いがわかるようになります。
幼鳥の目が青いのは巣立ち直後だけ
口の中が赤いのは、生まれてから10か月ほど
カラスの幼鳥は、成鳥と口の中の色が違います。成鳥の口内は黒ですが、幼鳥は赤みを帯びており、巣立ちから10か月ころには完全に黒くなります。鳴くときに口を開けた瞬間、内側がピンクから赤に見えたら、その個体はその年に生まれた若い鳥です。
色が違う理由は、給餌のサインとして機能しているためと考えられています。巣の中は暗く、親鳥はヒナが口を開けた場所を目がけて餌を入れます。目立つ色の口内は「ここに入れて」という標識の役割を果たします。巣立った後もしばらく赤いままなので、地上でも見分けの手がかりとして使えます。
見分ける具体的な場面は、公園でカラスが「アー、アー」と繰り返し鳴きながら親鳥を追いかけているときです。羽をふるわせて口を開ける餌ねだりの姿勢をとるので、そのタイミングで口の中が見えます。親鳥のほうは黙って餌を口に入れてやり、また飛び去る、という往復を繰り返します。
やりがちな失敗は、この餌ねだりを「弱っている」と誤解することです。羽をふるわせて口を開ける姿は一見つらそうに見えますが、健康な幼鳥の正常な行動です。近づくと親鳥が警戒するだけなので、少し離れて見守るのが正解になります。
瞳が青みを帯びるのは、巣立ち後のごく短い期間だけ
幼鳥のもう一つの特徴が、瞳の色です。成鳥の虹彩は黒褐色ですが、幼鳥は青っぽく見え、成長するにつれて黒く変わっていきます。この「ブルーアイ」が観察できるのは巣立ち後の短い期間に限られ、その後は急速に暗い色になっていきます。口の中の赤が10か月続くのに対し、目の青はもっと短い、と覚えておくとよいでしょう。
青く見える理由は色素そのものではなく、虹彩の構造によるものと考えられています。若い個体では色素の沈着が進んでおらず、光の散乱で青みがかって見えます。だからこそ、成長にともなって色素が増えると黒褐色に置き換わっていきます。人間の赤ちゃんの目が濃くなっていくのと似た変化です。
探すなら、日本野鳥の会が示す巣立ち時期、5月下旬から6月中旬頃が狙い目です。この時期に公園や街路樹の下を歩いていて、やけに動作がゆっくりで、こちらが近づいても逃げないカラスがいたら、双眼鏡で目を見てみてください。逆光では黒く見えるので、順光側から観察するのがコツです。
豆知識として、巣立ち直後の個体は動作が緩慢で、人との距離の置き方がまだ学習できていません。近づいてもぼんやりしていることがあります。「人慣れしている」「なついた」のではなく、危険の判断がまだできていないだけです。この違いを知っておくと、次の失敗を避けられます。
失敗パターン①:かわいそうに見えて拾ってしまう
初夏に最も多い失敗が、地面にいる巣立ちビナを保護してしまうことです。日本野鳥の会は30年以上にわたり「ヒナを拾わないでキャンペーン」を続けており、「巣立ったばかりのヒナたちは、親鳥と行動しながら飛び方やエサのとり方を身につけていく」と説明しています。地面にいるのは異常事態ではなく、学習の途中なのです。
拾ってはいけない理由は明確です。同会は、その場を去るほうがよいとしています。人がそばにいると親鳥が近づけないからです。親鳥はヒナの声で居場所に気づくことができます。逆に人が育てた場合、自然界で生きるために必要な食べ物と危険の識別を学べないリスクがあります。八戸市の資料でも、幼鳥は巣立ってから1〜2週間ほど親から食べ物をもらって家族単位で生活し、その後独立して集団に入る、と説明されています。
では、猫やカラス以外の捕食者が迫っている場合はどうするか。日本野鳥の会は、捕食動物の危機が差し迫っている場合には、ヒナを近くの茂みの中に移すことを挙げています。持ち帰るのではなく、その場の安全な位置へずらすという対応です。ケガをしている場合や希少種の場合は、自治体の野生鳥獣担当機関に連絡します。
注意点として、善意で連れ帰る行為は法律上の問題にもつながります。詳しくは記事の後半でふれますが、野生鳥獣の捕獲は原則として禁止されています。「かわいそうだから」で始めた行動が、結果的にヒナの生存率を下げ、自分の法的リスクにもなる——これが初夏に繰り返される失敗の構図です。
地面にいる巣立ちビナを見つけても、拾わずにその場を離れてください。人がそばにいると親鳥が近づけません。捕食動物の危機が差し迫っている場合に限り、近くの茂みの中に移すという対応が日本野鳥の会から示されています。ケガをしている場合や希少種の場合は、自治体の野生鳥獣担当機関に相談してください(日本野鳥の会「ヒナを拾わないでキャンペーン」)。
街で見る黒い鳥は2種類|歩き方でわかる違い

ぴょんぴょん跳ぶほうがハシブトガラス
街のカラスを見分ける最短ルートは、歩き方です。ハシブトガラスは両足をそろえてぴょんぴょんと跳ぶホッピングで移動します。地面に降りたカラスが跳ねるように進んでいたら、まずこの種と考えて間違いありません。全長は56.5cm、資料によっては57cmとされ、体重は550〜750gほどです。
跳ぶ理由は、もともとの生息環境にあります。ハシブトガラスは本来が森林性の鳥で、枝から枝へ移る動きが得意です。枝の上では歩くより跳ぶほうが効率がよく、その動きが地上でもそのまま出ています。日本の都市部でよく見られるのはこの種で、全国の低地から山地まで幅広く分布する留鳥です。
見た目の決め手は、くちばしと額です。大きく湾曲した太いくちばしを持ち、額(くちばしの上)が出っ張っています。横から見たときに、おでこがコブのように盛り上がって見えたらハシブトガラスです。全身が光沢のある黒色で、雌雄同色のため、外見からオスとメスを見分けることはできません。
豆知識として、跳ぶ動きは慣れると遠くからでも判別できます。距離が離れて額の形が見えなくても、歩幅のリズムが「タン、タン」と等間隔に跳ねていればハシブト、左右交互の「トコトコ」ならハシボソです。声も聞こえない距離でも見分けられる、実用的な手がかりです。
交互に足を出して歩くのがハシボソガラス
ハシボソガラスは、左右の足を交互に動かして歩きます。人が歩くのと同じリズムで、地上を歩きながら餌をとる種です。全長は50cmで、ハシブトガラスより一回り小さく見えます。並んでいれば大きさの差ははっきりわかりますが、単独では歩き方で判断するほうが確実です。
歩ける理由も生息環境から説明できます。ハシボソガラスは農地や河原のような開けた環境を好み、地面を移動しながら採食します。ハシブトをよく見る山地や林内、都市部では少ない種です。地上での作業時間が長いぶん、前述のクルミ割りのような路面での行動も、この種で観察されます。
外見の見分けポイントは、くちばしが細めで、額がなだらかなことです。ハシブトの「出っ張ったおでこ」に対して、ハシボソは鼻筋からくちばしまでが一続きのなだらかな線になります。声は「ガーガー」と濁り、ハシブトの澄んだ「カーカー」とは印象が違います。分布はユーラシア大陸に広く及びますが、日本では九州より北にしかいません。
注意点は、鳴き声だけで断定しないことです。どちらの種も状況によって多様な声を出すため、1声だけを聞いて決めつけると外します。歩き方・額の形・声の3つのうち2つが一致したら確定、というくらいの慎重さがちょうどよい精度になります。

駅前の電線にとまっている黒い鳥を見上げて、「カラスってどれも同じに見えるけれど、種類ってあるんだろうか」と思ったことはありませんか。ゴミ集積所に集まるカラスと、…
野鳥の教科書調べ:日本で会える4種の比較表
日本ではカラス科の鳥が11種見られますが、いわゆる「黒いカラス」として意識されるのは主に4種です。全長・くちばし・歩き方・会える季節を1枚にまとめると、街と冬の田んぼで出会う種のすみ分けがはっきりします。
| 比較項目 | ハシブトガラス | ハシボソガラス | ミヤマガラス | コクマルガラス |
|---|---|---|---|---|
| 全長 | 56.5cm | 50cm | 47cm | 33cm |
| くちばし・額 | 太く湾曲・額が出る | 細め・額がなだらか | 基部が白っぽい | 小さく短い |
| 歩き方 | 両足で跳ぶ | 交互に歩く | 交互に歩く | 交互に歩く |
| 羽の色 | 光沢のある黒 | 黒 | 黒 | 淡色型は首〜腹が白い |
| 会える季節 | 一年中(留鳥) | 一年中 | 秋〜春(冬鳥) | 秋〜春(冬鳥) |
| よく見る場所 | 都市部・低地〜山地 | 農地・河原 | 休耕田・農耕地 | ミヤマガラスの群れの中 |

この表で押さえておきたいのは、全長の差です。ハシブトとハシボソの差は6.5cmですが、コクマルガラスは33cmしかなく、ハシブトガラスとは23.5cmも違います。カラスというより、ずんぐりしたハトくらいの大きさだと思って探すと見つけやすくなります。
「カー」と「ガー」だけじゃない、声と態度の読みかた
澄んだ声か濁った声かで種がわかる
声で種を見分ける基準はシンプルです。ハシブトガラスは「カーカー」と澄んだ声で鳴き、ハシボソガラスは「ガーガー」と濁った声で鳴きます。朝の通勤路で聞こえる声がクリアに響くならハシブト、しゃがれて聞こえるならハシボソ、という判定でおおむね合います。
声質が違うのは、体格と発声器官の差によるものです。ハシブトガラスは体が大きく、太いくちばしを持つ種で、共鳴する音の性質が変わります。森の中で遠くまで届く声と、開けた農地で近距離のなかまとやりとりする声では、求められる性質が違うという説明もされています。
実際の判定では、鳴くときの姿勢も手がかりになります。ハシブトガラスは体を水平に保って首を突き出すように鳴くことが多く、ハシボソガラスは体を前に倒し、頭を下げながら鳴く姿がよく見られます。電線の上で「お辞儀」をするように鳴いていたら、ハシボソの可能性が高い場面です。
注意点は、どちらの種も1種類の声しか出さないわけではないことです。仲間を呼ぶ声、警戒の声、子どもの餌ねだりの声など、場面によって声色は変わります。種の判定に使うのは、平常時のよく通る鳴き声にとどめ、迷ったら見た目の特徴と合わせて確認するのが確実です。

朝ベランダに出たら「カー、カー」と澄んだ声。夕方、川沿いを歩いていたら今度は「ガアー、ガアー」と濁った声。同じカラスなのに、どうしてこんなに声が違うのだろう——…
実は、カラスはこちらの顔を覚えて態度を決めている
意外と知られていませんが、カラスが特定の人にだけ強く反応するのには理由があります。米ワシントン大学のジョン・マーズラフ教授らの研究では、研究者がゴムマスクをかぶってカラスを捕獲・標識し、その後「脅威を与えた」マスクと普通のマスクをかぶって歩いたときの反応が比較されました。カラスは特定のマスクにだけ警戒反応を示したのです。
驚くのはその持続性です。警戒反応を示した個体の割合は、実験直後は約20%でしたが、5年後には60%に増えていました。時間が経つほど反応が薄れるどころか、逆に広がっていったことになります。初期実験では7羽、拡大実験では4か所で41羽が捕獲され、他の地点でも1年半で20〜40%の増加が確認されています。
つまり、あなたが街で特定のカラスに「にらまれている」と感じるとき、その個体はあなたを個体として識別している可能性があります。逆に言えば、悪いことをしなければ、多くのカラスにとってあなたはただの背景です。カラスに嫌われる人と、そばを通っても無反応な人がいるのは、この記憶が働いているためと考えられます。
豆知識として、この研究で使われたのはアメリカガラスという別種です。日本のハシブトガラス・ハシボソガラスで同じ数値が出るとは限りません。ただ、カラス科の鳥に個体識別と長期記憶の能力があることを示した点で、日本の街のカラスを見る目も変わってきます。
羽づくろいと水浴びは、リラックスのサイン
カラスがかわいく見える瞬間として外せないのが、水浴びと羽づくろいです。水場で羽を広げて体を沈め、頭から水をかぶって全身を震わせる動きは、人の目にはただ気持ちよさそうに見えます。この行動が見られるのは、周囲に危険がないと判断しているときです。
水浴びをする理由は、羽についた汚れや寄生虫を落とし、羽毛の状態を保つためです。鳥にとって羽の手入れは飛行性能に直結する作業で、浴びた後は必ず時間をかけて羽づくろいをします。この一連の流れが終わるまで同じ場所に留まるので、観察の時間を確保しやすい行動でもあります。
探す場所は、公園の水飲み場の受け皿、雨上がりの水たまり、河川敷の浅瀬です。特に浅い水域を好むので、深い池より、足がつく程度の水深に集まります。つがいで並んで浴びていることもあり、そのときは片方が周囲を見張り、交代で入る様子が見られます。
注意点は、水浴び中に近づかないことです。羽が濡れている間は飛び立つ速度が落ちるため、鳥にとっては無防備な時間帯にあたります。驚かせると次からその水場を使わなくなることがあるので、10m以上離れて双眼鏡で見るのが、鳥にも観察者にも都合のよい距離になります。
冬だけ会える全長33cmの小さなカラス
白と黒の「パンダガラス」コクマルガラス
カラスのかわいさで頂点を争うのが、コクマルガラスです。全長33cmと小型で、雌雄同色。暗色型は他のカラスと同じく黒一色ですが、淡色型は首から腹にかけて白く、その配色から「パンダガラス」と呼ばれることがあります。冬鳥として秋に渡来し、越冬して春に渡り去ります。
小ささが際立つのは、他のカラスと並ぶからです。ハシブトガラスが56.5cmであるのに対して33cmですから、体の長さで半分強しかありません。群れの中で1羽だけ明らかに小さく、動きが素早い個体がいたら、コクマルガラスの可能性を疑ってよい場面です。
声も違います。「キュ」「キャウ」といった高く短い声で鳴き、ハシブトガラスの「カー」とは明確に区別できます。田んぼの上を大群が飛んでいるとき、低い「ガー」の中に高い声が混じっていたら、その群れの中にコクマルガラスがいるサインです。
注意点は、探せる場所と時期が限られることです。淡色型は目立ちますが、暗色型はミヤマガラスに紛れると識別が難しくなります。まずは淡色型を探し、群れの規模と滞在場所を把握してから暗色型を探すという順番が、現実的な進め方になります。
ミヤマガラスの群れを見つけるのが近道
コクマルガラスに会う最短ルートは、ミヤマガラスの群れを探すことです。コクマルガラスはまれにミヤマガラスの群れに混じっているため、まず大きな群れを見つけ、その中を1羽ずつ確認していくのが定石になります。
ミヤマガラスは全長47cm、雌雄同色で、くちばしの基部が白っぽく見えるのが特徴です。冬鳥として秋に渡来し、春に渡り去ります。冬期には広い休耕田で越冬する群れが観察され、近年は西日本各地での観察例が増えています。八戸市の資料では、朝夕に大群を成して市街地を飛び回り、夜間に群れで電線にとまると説明されています。
探す場所は、稲刈り後の田んぼや休耕田です。数十羽から数百羽が地面に降りて採食している光景は、農村部の冬の風物詩でもあります。車を降りずに車内から双眼鏡で見ると、群れを散らさずに観察できます。
豆知識として、ミヤマガラスは「くちばしの根元が白い」という特徴が若い個体では目立たないことがあります。若鳥は基部が黒いままなので、群れの中に一見ハシボソガラスに見える個体が混じります。全体のシルエットが小さめで、群れで行動しているかどうかを合わせて見るのが確実です。
いつ、どこを見れば会えるのか
カラスの観察は「一年中いる2種」と「冬だけ来る2種」で計画を分けると効率的です。ハシブトガラス・ハシボソガラスは留鳥なので季節を問わず観察できますが、幼鳥の青い目や餌ねだりは巣立ち時期の5月下旬から6月中旬に集中します。一方、ミヤマガラスとコクマルガラスは秋から春の期間限定です。
下のカレンダーは、カラス観察全体で「見どころが多い月」を整理したものです。冬は冬鳥2種と大きなねぐらが、初夏は幼鳥と家族行動が見どころになります。八戸市の資料によれば、繁殖期以外の時期や繁殖に関わらない個体は、夜には群れを作り緑地等のねぐらに集まります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ◎ | ◎ | ○ | △ | ○ | ◎ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
| 分類 | スズメ目カラス科カラス属(コクマルガラス) |
| 全長 | 全長33cm・雌雄同色 |
| 見られる季節 | 秋に渡来して越冬し、春に渡り去る(冬鳥) |
| 生息環境 | 休耕田・農耕地。まれにミヤマガラスの群れに混じる |
| 鳴き声 | 「キュ」「キャウ」と高く短い声 |
| よく見られる場所 | 冬の広い休耕田。淡色型は首から腹にかけて白い |
近づけない時期がある|3月下旬から7月上旬
威嚇するのは怒りではなく、ヒナを守るため
カラスに威嚇された経験があると「攻撃的な鳥」という印象が残りますが、時期を知れば話は変わります。東京都環境局によれば、繁殖期はおよそ3月下旬から7月上旬ごろで、この期間に巣やヒナの近くを人が通ると、威嚇・攻撃することがあります。八戸市の資料でも、威嚇を行うのは卵やヒナや幼鳥を守るためであり、繁殖期以外は威嚇をしないとされています。
繁殖のスケジュールを押さえると、危険な時期がさらに絞れます。日本野鳥の会によれば、繁殖期は3月〜7月で、4月上旬頃に産卵し、巣立ちまでには約1ヶ月かかります。八戸市の資料では、一度に産む卵は3〜5個、抱卵期間は20日ほどです。そして巣立ち時期は5月下旬から6月中旬頃にあたります。
トラブルが集中するのは、まさにこの巣立ちの時期です。日本野鳥の会は、巣立ち時期に親鳥が巣立ったヒナを守り、近づく人に対して威嚇するため、人とのトラブルが集中して発生すると説明しています。地上に降りたヒナのそばを、人が知らずに通ることが引き金になります。
注意すべきサインは、頭上での鳴き声と、低い高度での飛行です。急に「カッ、カッ」と短い声が続いたり、カラスが不自然に近い距離を旋回し始めたら、近くに巣かヒナがあります。走って逃げるより、その場から静かに離れるほうが刺激が少なくて済みます。
傘を肩にかつぐと、そもそも近寄ってこない
威嚇への対処法は、公的機関がはっきり示しています。東京都環境局は、「傘などの棒状の物を肩にかつぐようにして、頭の上に上げる」ことを挙げています。あわせて、頭を保護するために帽子をかぶるのも有効とされています。
効果がある理由は、カラスが羽の接触を嫌うためです。カラスにとって羽は飛行のための道具で、破損は生存に直結します。頭上に障害物があると、接触を避けて近寄らなくなります。傘は開かなくても、棒状のまま肩にかつぐだけで機能します。
実際の使い方としては、繁殖期に同じ通勤路で威嚇された場合、翌日から折りたたみ傘を1本かばんに入れておくだけで対応できます。近くを通る数十メートルの区間だけ肩にかつぎ、通り過ぎたらしまう、という運用で十分です。可能なら、その区間だけ迂回するのがいちばん確実です。
やりがちな失敗は、追い払おうとして手を振ったり、石を投げたりすることです。人の顔を覚える能力があるため、敵対的なやりとりは翌年以降まで持ち越される可能性があります。刺激せず、通過するだけ——これが被害を最小にする方法です。
巣の材料を減らすと、翌年の距離が変わる
威嚇を根本から減らすには、身近な場所に巣を作らせないことが効きます。東京都の資料によれば、都会のカラスの巣の材料はほとんどが針金ハンガーで、カラスにとって調達しやすいため、使った後は必ず片付けることが呼びかけられています。
理由は単純で、材料が手近にあるほど営巣地として選ばれやすくなるからです。ベランダに針金ハンガーを掛けっぱなしにしている家が並ぶ地域では、巣材の供給源が集中します。結果として、その一角の樹木や電柱に巣が作られ、初夏に住民が威嚇を受けることになります。
あわせて有効なのが、餌になるゴミの管理です。東京都環境局は、防鳥ネットでゴミをしっかりと覆うこと、生ゴミは水切りをして新聞紙で包むこと、収集日時を守ることを挙げています。実際、東京都では対策開始前に36,400羽だった生息数が、現在は4分の1程度にまで減少したとされています。
豆知識として、こうした対策は「カラスを追い出す」ためだけのものではありません。人の生活圏に依存しない個体が増えれば、本来の採食行動が観察しやすくなります。ゴミをあさる姿より、地面を歩いて虫を探す姿のほうが、この鳥の面白さはずっとよく見えます。
カラスをかわいいと思う人がやりがちなこと
失敗パターン②:かわいいから食べ物をあげてしまう
もう一つの典型的な失敗が、餌やりです。手からパンを受け取る姿はたしかに愛嬌がありますが、この行為はカラスに「人=食べ物」という学習をさせます。前述の通り、カラスには人の顔を個体として識別する能力があり、学習は一度きりで終わりません。
問題が起きる仕組みはこうです。餌をもらえると学習した個体は、人に近づくことをためらわなくなります。すると、食べ物を持っている別の人にも接近するようになり、子どもの持つ菓子を狙う、ベランダの洗濯物を荒らすといった行動につながります。餌をあげた本人ではなく、近隣の誰かがトラブルの当事者になるという構図です。
自治体によっては、野鳥への餌やりを条例で制限しているところもあります。地域のルールは自治体のウェブサイトで確認できます。かわいいから、という動機で始めた行動が、結果として苦情や規制の対象になってしまうのは避けたいところです。
代わりにできることを挙げるなら、観察の道具に投資することです。8倍程度の双眼鏡があれば、10m以上離れた位置から羽の光沢や瞳の色まで確認できます。餌で距離を縮めるのではなく、光学機器で距離を縮める——これが鳥にも周囲にも負担をかけない方法です。

庭先やベランダにやってきたカラスに、パンの耳をひとかけら。あるいは通勤路の公園で、毎朝おにぎりを置いていく人を見かけた。どちらの側に立っていても、頭をよぎるのは…
拾って飼うことは法律で禁じられている
「なついたから飼いたい」は、法律上できません。環境省によれば、鳥獣の捕獲は、環境大臣又は都道府県知事の許可を得て行うか、狩猟者登録を受けて行う場合以外は原則として禁止されています。カラスも野生鳥獣であり、この対象に含まれます。
罰則も定められています。環境省のページには、違反した場合「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます」と記載されています。さらに、違法に捕獲した野生鳥獣を飼育・販売・譲渡・譲受け・加工した場合は、懲役6か月以下又は50万円以下の罰金とされています。東京都環境局も、野生鳥獣は許可なく捕獲したり処分したりすることは禁じられている、と説明しています。
例外として捕獲が認められるのは、生態系や農林水産業に対する被害等が生じている場合や、学術研究上の必要性が認められる場合などで、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けたときに限られます。個人が「かわいいから」という理由で許可を得られるものではありません。
注意点として、ケガをした個体を見つけた場合の窓口は自治体です。日本野鳥の会も、ケガをしている場合や希少種の場合は自治体の野生鳥獣担当機関に連絡するよう案内しています。自己判断で連れ帰らず、まず電話で相談するのが正しい順番になります。
タイプ別・カラスとのちょうどいい距離のとり方
読者の状況によって、無理のない楽しみ方は変わります。通勤・通学で毎日見かける人は、同じ個体を追う「定点観察」が向いています。特定の電柱にいる個体の歩き方と額の形を確認しておけば、種の判別が体に入ります。3月下旬から7月上旬は、その経路に巣がないかだけ意識しておけば十分です。
週末に公園へ行ける人は、水場のある公園を選ぶのがおすすめです。水浴びと羽づくろいは滞在時間が長いため、観察の練習に向いています。5月下旬から6月中旬なら、幼鳥の口の中の赤や、青みを帯びた瞳を探す楽しみも加わります。
庭やベランダに来る人は、餌を置かない前提で、貯食の痕跡を探してみてください。植木鉢や雨樋に食べ物が隠されていたら、それはその一帯を縄張りにしている個体がいる証拠です。ただし衛生面から、見つけた生ゴミは取り除いておきます。
冬に車で郊外へ出られる人は、休耕田のミヤマガラスの群れが狙い目です。全長47cmの群れの中から33cmのコクマルガラスを探すのは、カラス観察のなかでも達成感のある課題になります。淡色型の白い個体が1羽混じっていれば、遠目でもすぐわかります。
野生のカラスを許可なく捕まえること、飼うことは鳥獣保護管理法で原則禁止されています。違反した場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、違法に捕獲された個体を飼育・譲渡した場合は懲役6か月以下又は50万円以下の罰金が定められています(環境省「野生鳥獣の違法捕獲の防止」)。かわいいと感じても、観察は距離を保って行ってください。
まとめ
まず今週やってみてほしいのは、通勤路で見かけたカラスが「跳んでいるか、歩いているか」を確かめることです。跳ねていれば全長56.5cmのハシブトガラス、左右交互に歩いていれば全長50cmのハシボソガラス。この1つの視点が入るだけで、これまで同じに見えていた黒い鳥が2種類に分かれて見えるようになります。慣れてきたら、鳴き声が澄んでいるか濁っているかを重ねてみてください。5月下旬から6月中旬なら、口の中が赤い幼鳥にも会えるかもしれません。冬になったら、休耕田のミヤマガラスの群れに小さな白黒の1羽が混じっていないか探す——そこまで進めば、カラス観察はもう立派な趣味です。
なお、繁殖期にあたる3月下旬から7月上旬は、巣やヒナの近くで威嚇されることがあります。地面にいるヒナは拾わず、その場を離れてください。野生鳥獣の捕獲・飼養は法律で原則禁止されています。制度や自治体ごとのルールの最新情報は、環境省「野生鳥獣の違法捕獲の防止」や東京都環境局「カラスに関するQ&A」など、公式サイトでご確認ください。

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