ホームセンターで巣箱を買ってきて庭の木に架けたのに、春が来てもスズメが入らない。そんな話は野鳥好きのあいだでよく出てきます。原因の多くは、置き場所でも木の種類でもなく、出入り口の穴の直径にあります。市販の巣箱の多くはシジュウカラ用に設計されていて、スズメが体を通しにくい寸法になっているからです。
結論から言うと、スズメを迎えたいなら出入り口の直径は3.0cm前後を選びます。東京都環境局が公開している巣箱の資料では、シジュウカラ・スズメ用の出入り口直径は2.7〜3.0cmとされ、バードリサーチが紹介した研究では、スズメが好む穴径は30.82mmという具体的な数字まで出ています。逆に28mmを選ぶと、その巣箱はシジュウカラ向けになります。数ミリの差が、入居する鳥種を分けてしまうわけです。
この記事では、スズメ用の巣箱の寸法と架け方を公的資料の数値どおりに整理したうえで、スズメがそもそもどんな場所に巣を作る鳥なのか、なぜ約20年で6割も減ったのか、そして卵やヒナを見つけたときに法律上どう振る舞うべきかまでをまとめました。巣箱を一つ架けることが、身近な鳥にとってどういう意味を持つのかが見えてくるはずです。
・スズメ用の出入り口直径は2.7〜3.0cm。28mmだとシジュウカラ向けになる
・箱の内寸は高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm、地面から3m前後に架ける
・架けるのは秋〜冬。春に慌てて架けても、その年は入らないことが多い
・卵が入った巣は許可なく撤去できない。巣立つまでは1ヶ月ほどかかる
スズメの巣箱選びは「穴の直径3.0cm」でほぼ決まる
28mmの巣箱を買うと、来るのはシジュウカラです
市販の小鳥用巣箱を手に取ると、出入り口の直径が28mmと書かれているものがよく見つかります。これはシジュウカラやヤマガラが利用しやすい寸法で、スズメ向けではありません。スズメを呼びたいなら30mm以上を選ぶのが目安になります。
理由は体格差です。スズメの全長は約14cmで、シジュウカラと大きく変わらないように見えますが、体つきはスズメのほうがずんぐりしています。穴の直径がわずかに足りないだけで、出入りのたびに体が引っかかり、営巣地としての候補から外れてしまいます。
実際に見分けるときは、巣箱のパッケージや商品説明にある「対象種」の表記を確認してください。「シジュウカラ用」「ヤマガラ用」と書かれていれば穴は28mm前後、「スズメ・シジュウカラ用」と併記されていれば2.7〜3.0cmの範囲に収まっていることが多くなります。手作りするなら、ドリルの径をそのまま30mmにすれば迷いません。
注意したいのは、穴を大きくしすぎることです。ムクドリ用の出入り口直径は4.0〜6.0cmとされていて、この寸法まで広げるとムクドリが入ってきます。ムクドリはスズメより体が大きく、先に入られると小鳥は使えません。「大は小を兼ねる」が通用しないのが巣箱の穴です。
研究が出した答えは30.82mm。端数に意味があります
スズメが好む穴径には、研究による具体的な数値があります。バードリサーチのニュース2022年1月号(執筆・植田睦之)で紹介された分析によれば、スズメは30.82mmの穴径の巣箱を好むことがわかり、その穴径は繁殖成功率の高い穴径とほぼ同じだという結果も出ています。
この「好む穴径」と「繁殖がうまくいく穴径」が一致している点が重要です。もし好みだけが先行しているなら、スズメは自分に不利な巣箱を選んでいることになります。そうではなく、入りやすさと子育ての成功率が同じところで重なっている。スズメが穴のサイズを選ぶ行動には、ちゃんと理由があるわけです。
庭で実践するときは、30.82mmを狙って精密に開ける必要はありません。市販のホールソーにも30mm前後の規格があるので、それを選べば十分に射程に入ります。東京都環境局の資料が示す2.7〜3.0cmという幅も、同じ帯域を指しています。
豆知識として、穴を開けたあとの断面処理も見ておくと良いです。切りっぱなしでささくれが残っていると、出入りのたびに羽が傷みます。紙やすりで内側の角を軽く落としておくだけで、鳥にとっての通りやすさが変わります。
箱の内寸は高さ18〜23cm、幅12〜15cmが目安
穴径だけを合わせても、箱そのものが小さすぎたり大きすぎたりすると使われません。東京都環境局の巣箱資料では、シジュウカラ・スズメ用の巣箱は高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cmとされています。
この寸法が推奨されるのは、スズメの巣の作り方に由来します。スズメは人家の屋根や壁などの隙間、樹洞などに、わらくずなどを敷いて巣を作る鳥です。巣材をそれなりの量持ち込むので、床面積が狭すぎると巣が組み上がりません。逆に広すぎると保温が効きにくくなります。
手元の巣箱が条件に合うかは、外寸ではなく内寸で測るのがコツです。板が厚い箱では、外寸15cm四方でも内寸が12cm程度まで縮みます。板が厚い巣箱ほど断熱性は高くなりますが、内側が狭くなる点は計算に入れておきましょう。
もう一点、底板には水抜き穴を小さく開けておきます。東京都環境局の資料でも、水が入っても排水されるようにと説明されています。屋根から雨がまわり込んだとき、抜け道がないと巣材が濡れたままになり、卵やヒナが冷えてしまいます。
出入り口までの高さ15cmが、ヒナを守っています
見落とされやすいのが、床から出入り口までの高さです。シジュウカラ・スズメ用では15cmくらいが目安とされています。この深さが、巣箱の防御力を決めています。
出入り口が床に近いと、外から手や足が届いてしまいます。カラスがくちばしを差し込んだり、ネコが前足を入れたりしたときに、床までの距離があるかどうかが生死を分けます。逆に浅い箱は、巣立ち前のヒナが自分で落ちてしまうこともあります。
市販品を選ぶときは、正面から見て穴の位置が上寄りにあるかを見てください。真ん中に穴が開いているデザインは見た目のバランスは良いのですが、床までの距離が稼げていないことがあります。装飾性の高い「バードハウス」風の製品には、この点で実用性を欠くものが混ざります。
参考までに、ムクドリ用の巣箱では出入り口までの高さが18〜23cmとされています。体が大きい鳥ほど深さが必要になるという関係です。スズメ用に自作するときも、15cmを下回らないように材を切り出せば失敗しません。
| 比較項目 | スズメ・シジュウカラ用 | ムクドリ用 |
|---|---|---|
| 箱の高さ | 18〜23cm | 28〜40cm |
| 奥行き・幅 | 12〜15cm | 15〜18cm |
| 出入り口の直径 | 2.7〜3.0cm | 4.0〜6.0cm |
| 出入り口までの高さ | 15cmくらい | 18〜23cm |
| 地面からの高さ | 3m前後 | 4〜5m |
| スズメが好む穴径 | 30.82mm(研究値) | — |
※寸法は東京都環境局「巣箱教室」、穴径の研究値はバードリサーチニュースより。表は野鳥の教科書調べでまとめました。
そもそもスズメは、どこに卵を産む鳥なのか
スズメは「穴」に産む鳥。だから巣箱が効きます
スズメは、人家の屋根や壁などの隙間、樹洞などに巣を作る鳥です。枝の上にお椀型の巣をかけるタイプではなく、閉じた空間の中に巣材を持ち込んで産卵します。この習性があるからこそ、巣箱という人工的な穴が代替物として機能します。
同じ理屈で、スズメが選ぶのは「入口が狭くて中が広い」場所です。瓦の下、換気口のまわり、看板の裏側、雨戸の戸袋。街を歩きながら見上げると、スズメが出入りしている場所はどれもこの条件を満たしています。巣箱は、その条件を木の箱で再現したものだと考えるとわかりやすいでしょう。
見分け方の練習としておすすめなのは、繁殖期にスズメがくわえているものを観察することです。枯れ草や羽をくわえて同じ方向に飛んでいく個体がいたら、その先に巣があります。往復のコースを目で追えば、庭のどのあたりが営巣圏内なのかが見えてきます。
注意点として、スズメの巣は外から丸見えになることがほとんどありません。「巣が見つからないから庭に来ていない」と判断するのは早計です。姿は毎日見るのに巣が見当たらないなら、それは隙間の中に隠れているだけ、という可能性が高くなります。
人がいない場所には、スズメは巣を作りません
スズメの生態を研究してきた三上修さんは、「スズメは人が近くにいるところでしか巣を作りません」と述べています。山の中の静かな林に巣箱を架けても、スズメは来ないということです。
この性質の背景には、天敵との関係があると考えられています。人の生活圏はタカやカラスなどの捕食者が入りにくく、人に慣れたスズメにとってはむしろ安全な場所になります。スズメが市街地から農耕地・山間部まで、人間が生活する地域に広く生息しているのも同じ理由です。
実際の設置に置き換えると、これは心強い話になります。庭に巣箱を架けるとき、「人の出入りがあるから鳥が警戒するのでは」と心配する必要はありません。むしろ、少し人通りがある場所のほうが好まれます。玄関先や物干し場の近くでも候補になります。
ただし、人が近いことと人が触ることは別です。人の気配があるのは問題ありませんが、巣箱を頻繁に開けて中を覗くのは避けてください。設置後はしばらく近づかず、鳥が警戒を解くのを待つのが基本になります。
繁殖期は3月から9月。年に1〜3回の子育て
スズメの繁殖期は3月から9月にかけてで、年に1〜3回繁殖します。三上さんの整理では、通常は年2回の繁殖と推定されています。春だけの鳥ではなく、夏を通して子育てが続くのが特徴です。
年に複数回繁殖するのは、1回あたりの生存率がそれほど高くないためだと考えられています。スズメの寿命は野生下では長くありません。1シーズンに複数回チャレンジすることで、個体群を維持しているわけです。
庭で観察するなら、4月から6月がもっとも動きの多い時期になります。この時期は親鳥が虫をくわえて巣に入る場面が繰り返し見られます。スズメは種子を中心とした雑食性ですが、ヒナには昆虫類を運びます。くちばしに青虫をぶら下げたスズメを見かけたら、近くに巣があると考えて間違いありません。
豆知識として、夏の終わりに巣箱を開けるのは避けたほうが安全です。8月や9月にまだ子育て中の可能性があるためです。掃除は繁殖期が完全に終わった秋に回します。
産卵から巣立ちまでは最短30日という短さ
スズメの子育ては、想像よりずっと短期決戦です。三上さんの整理によれば、産卵から巣立ちまでは最短30日、次の繁殖まで含めた完全な繁殖サイクルは最短40〜50日以上かかるとされています。
1か月という期間の中に、産卵、抱卵、育雛、巣立ちのすべてが詰まっています。だからこそ、巣箱を架ける側は「気づいたら終わっていた」という事態になりがちです。観察のチャンスを逃さないためには、巣材の搬入が始まった時点でカレンダーに印をつけておくと良いでしょう。
この短さは、巣箱の掃除タイミングにも関わります。年2回繁殖する個体なら、1回目の巣立ち後すぐに2回目が始まります。「巣立ったから掃除しよう」と夏に手を出すと、次の産卵を妨げてしまう可能性があります。
注意点として、巣立ち直後のヒナはまだ上手に飛べません。巣箱から出た直後の数日は、地面や低い枝にいることがあります。この時期に見つけても手を出さないのが原則です。詳しくは後半の法律の章で扱います。
| 分類 | スズメ目スズメ科スズメ属 |
| 全長 | 全長約14cm |
| 見られる季節 | 通年(繁殖期は3月〜9月) |
| 生息環境 | 市街地から農耕地・山間部まで、人間が生活する地域 |
| 鳴き声 | チュンチュンと繰り返す地鳴き |
| よく見られる場所 | 屋根や壁の隙間、樹洞のまわり、電線、地面での採食中 |
約20年で6割減った身近な鳥に、いま何が起きているのか
標識調査が示した「6割減」という数字
スズメは今も毎日見かける鳥ですが、数は確実に減っています。山階鳥類研究所が長年おこなってきた鳥類標識調査のデータを使った研究で、「1987年から2008年までの約20年間に、スズメの個体数は6割減少したと推定されました」という結果が示されました。
この推定が信頼できるのは、比較の取り方にあります。分析では、全鳥類種の総捕獲数はあまり変化していないのに、捕獲されたスズメの割合は減少傾向にあることが示されました。調査の努力量が減ったから捕獲数が減った、という説明では片づかないわけです。
研究は三上修さんと森本元さんによるもので、「標識データに見られるスズメの減少」として山階鳥類学雑誌 第43巻1号 pp.23-31に掲載されています。個人の体感ではなく、長期の標識データに基づいた結果です。
ここで気をつけたいのは、「絶滅しそう」という話ではないという点です。三上さんの推定では、日本のスズメの巣は約900万巣、一夫一妻を前提とした繁殖期の成鳥数は1800万羽と算出されています。数としてはまだ多く、それでも減り続けている、というのが現状です。
気密性の高い住宅が、街から「穴」を消しました
減少の原因として繰り返し挙げられているのが、営巣場所の不足です。近年は隙間が少ない気密性の高い住宅が増え、スズメが巣を作れる場所が減っていると考えられています。
スズメが必要としているのは、瓦の下や壁の継ぎ目のような、人間から見れば「施工の甘さ」にあたる隙間です。断熱性や防水性を高めた現代の住宅では、この隙間が設計段階から潰されています。住宅の性能が上がることと、スズメの巣が減ることが同時に進んできました。
加えて三上さんは、街中から舗装されていない小道・公園および空き地が減少したことも要因に挙げています。土の地面はスズメが砂浴びをしたり、草の種子を拾ったりする場所です。営巣場所と採食場所の両方が、同じ都市化の流れで減ってきたことになります。
この整理を知ると、巣箱の位置づけが変わります。巣箱は「野鳥を呼ぶための趣味の道具」であると同時に、街から消えた穴を一つ戻す行為でもあります。庭に一つ架けることの意味は、思っているより小さくありません。
巣立つヒナは1.41〜2.03羽。都市ほど少なくなります
減っているのは営巣場所だけではありません。三上さんの調査では、巣立ち後のヒナ数は商業地1.41羽、住宅地1.79羽、農村地2.03羽という結果が出ています。市街地に近いほど、育つヒナの数が少なくなる傾向です。
この背景には、ヒナに与える昆虫の量があると考えられています。舗装が進み、草地が減れば、親鳥が運べる虫も減ります。産んだ卵の数が同じでも、育て切れる数が減れば、次の世代は目減りしていきます。
比較の材料として、文献では過去に2から3羽のヒナをみることが普通だったとされています。農村地の2.03羽はかろうじてその下限に届く一方、商業地の1.41羽は明らかに下回っています。都市部のスズメが置かれた状況が、数字で見えてくる部分です。
注意しておきたいのは、この数字が「巣箱を架ければ解決する」ことを意味しないことです。巣箱が補えるのは営巣場所であって、餌になる虫の量ではありません。庭に虫が育つ環境があるかどうかは、また別の話になります。
実は、巣箱がいちばん効くのは自然豊かな庭ではありません
意外と知られていないのですが、スズメ用の巣箱がもっとも意味を持つのは、緑の少ない住宅地や市街地です。「自然が豊かな場所のほうが野鳥のためになる」という直感とは逆になります。
理由は単純で、足りていないものを補うのが巣箱だからです。古い木造家屋や樹洞のある大木が残っている場所では、スズメは自力で営巣場所を見つけられます。一方、新しい住宅ばかりが並ぶエリアでは、穴そのものが存在しません。そこに一つ穴を足す効果は、緑の多い場所より大きくなります。
具体例で言えば、庭に大木があり生垣が茂っている家より、駐車場に面した小さな花壇しかない家のほうが、巣箱の設置価値は高いことになります。スズメは人のいる場所を選ぶ鳥なので、住宅密集地であること自体はマイナスになりません。
ただし、この場合はネコとカラスへの対策が重要になります。市街地はこの2種が多い環境でもあるからです。設置場所の選び方は次の章で扱います。
スズメは1987年から2008年までの約20年間に6割減少したと推定されています。原因の一つは、気密性の高い住宅が増えて営巣場所となる隙間が減ったこと。巣箱は、その失われた「穴」を庭に一つ戻す取り組みだと考えると位置づけがはっきりします。(出典:山階鳥類研究所)
スズメの巣箱はいつ架ける?秋から冬が正解な理由
春に慌てて架けるのが、いちばん多い失敗です
巣箱は秋から冬にかけて架けます。3月になって「そろそろ繁殖期だから」と架けるのは、よくある失敗パターンです。その年は使われないまま終わることが少なくありません。
理由は、鳥の側にも下見の期間が必要だからです。設置直後の巣箱は木の中で浮いた存在で、スズメは警戒します。秋から冬のあいだに風雨にさらされて木の色がなじみ、周囲の景色の一部になったころ、ようやく候補地として意識されるようになります。
具体的な行動としては、10月から12月ごろに設置を済ませておくのが分かりやすい目安です。落葉樹に架ける場合は、葉が落ちて枝ぶりが見える時期のほうが作業もしやすくなります。
もし春に手に入れてしまった場合は、その年は「練習」と割り切ってそのまま架けておき、秋に一度下ろして掃除・補修をしてから架け直すのが現実的です。翌シーズンからが本番だと考えておけば、入らなくても落胆せずに済みます。
地面から3m前後。ただし研究では高さの影響は小さい
設置の高さは、東京都環境局の資料ではシジュウカラ・スズメ用で3m前後とされています。一方でバードリサーチが紹介した研究では、地上からの高さが約140cmから約370cmのあいだであれば、巣箱を架ける高さは考慮する必要がないという結果が示されています。
この2つは矛盾しません。3m前後という目安は安全側に振った推奨値で、研究のほうは「その範囲なら差が出ない」という実測結果です。脚立が届かないからと無理をするより、140cm以上を確保できていれば大きな問題にはならない、と読めます。
実際に決めるときは、高さより「手が届くか」で考えるのが実用的です。年に一度の掃除・補修が必要になるので、脚立で安全に作業できる高さに収めておきます。3.7mを超える位置に架けると、メンテナンスのたびに危険が伴います。
注意点として、地面に近すぎる設置はネコの届く範囲に入ります。140cmという下限は、あくまで「利用率に差が出ない範囲」の下限であって、天敵対策としての推奨ではありません。市街地なら2m以上を目安にしておくと安心です。
入口はやや下向き、日当たりと風通しのよい場所へ
巣箱は、入口をやや下に向けて取り付けます。雨や直射日光が中に入るのを避けるためです。真上を向いていたり、上向きに傾いていたりすると、雨が吹き込みます。
取り付ける場所は、日当たりと風通しがよく、湿度の低い場所を選びます。ジメジメした北側の日陰は、巣材が乾かず衛生状態が悪くなります。また、ヘビが入りにくいよう下枝の少ないまっすぐな木を選ぶのが基本です。
幹に固定するときは、シュロ縄や麻ひもを使います。針金は木の幹に食い込んで傷つけるため避けてください。巣箱の背に背板や添え木を取り付けておくと、木にかけたときに巣箱が安定します。丸い幹に平らな板を当てるとぐらつくので、この一手間が効きます。
豆知識として、ひさしの形状にも作法があります。ひさしは光や風雨を防ぐ役割ですが、長すぎると鳥の出入りのジャマになり、箱に直角に付いていると風雨避けの役割を果たしません。市販品を選ぶときの見どころの一つです。
設置から観察までの流れを4ステップで
ここまでの内容を、実際の作業順に並べておきます。買ってきた巣箱をその日のうちに架けるより、順を追ったほうが入居率は上がります。
最初にやるのは場所の下見です。下枝の少ないまっすぐな木、日当たりと風通し、脚立を立てられる足場。この3つが揃う場所を秋のうちに決めておきます。庭に適した木がなければ、外壁や物置の側面でも構いません。
取り付け後は、しばらく近づかずに待ちます。設置直後に何度も様子を見に行くと、下見に来たスズメが警戒します。観察は双眼鏡で距離を取っておこないます。
注意点として、記録は残しておくことをおすすめします。設置日、初めてスズメが止まった日、巣材を運び始めた日。この3つを書き留めておくと、翌年以降に「どのくらいの期間で使われ始めるのか」が自分の庭の基準として分かるようになります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ | △ | △ | △ |
◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる
上の表は、巣箱まわりでスズメの出入りが観察しやすい時期をまとめたものです。繁殖期は3月から9月なので、動きが多いのは春から夏。一方で巣箱を架ける作業は、この表が△になっている秋から冬におこないます。作業の時期と観察の時期がずれる点が、巣箱の特徴です。
入居率を下げてしまう、ありがちな架け方
出入り口のすぐ前に枝があると、天敵の足場になります
巣箱を架けたのに使われない原因として多いのが、出入り口の前に枝を残してしまうことです。東京都環境局の資料でも、「出入り口付近の枝は、小鳥の敵(ヘビ・猫・カラス)の足場になってしまいます」と説明されています。
人間の感覚では、止まり木があったほうが鳥は使いやすそうに見えます。しかし小鳥にとっては、その止まり木がそのまま捕食者の待ち伏せ場所になります。ネコが枝に前足をかけて中を探ることも、カラスが枝に止まって出入りを狙うこともできてしまいます。
対策は簡単で、出入り口の前方と側面の枝を落としてから架けることです。装飾用の止まり木が付いた市販品もありますが、実用面では外してしまって構いません。スズメは止まり木がなくても穴に直接飛び込めます。
注意点として、剪定しすぎると木そのものが弱ります。落とすのは出入り口の周辺だけにとどめ、巣箱の背後や上部の枝は残しておきます。上に葉が茂っていると、直射日光と雨をやわらげてくれます。
ひさしが長すぎる巣箱は、かえって使われません
もう一つの失敗パターンが、ひさしの設計です。ひさしは光や風雨を防ぐためのものですが、長すぎると鳥の出入りのジャマになります。逆に、箱に対して直角に付いているだけだと、風雨避けの役割を果たしません。
この2つは同じ部品の裏表です。防御力を上げようとして深くすると出入りしにくくなり、出入りを優先して浅くすると雨が入ります。市販品のなかには、デザイン優先でどちらも満たしていないものがあります。
選ぶときの見方としては、正面から見て穴の上に数センチのひさしが出ていて、わずかに前下がりになっているものが扱いやすくなります。入口をやや下に向けて取り付ければ、ひさしが短めでも雨は入りにくくなります。
豆知識として、屋根板は本体より前後左右に少し出ているほうが有利です。屋根が本体と面一だと、伝った雨が壁面をつたって継ぎ目から染み込みます。木箱としての基本ですが、巣箱では中の卵に直結します。
底板の水抜き穴を忘れると、巣材が乾きません
外から見えないぶん見落とされやすいのが、底板の水抜き穴です。東京都環境局の資料では、底板には水抜き穴を小さく開けるとされていて、こうすると水が入っても排水されると説明されています。
必要な理由は、どれだけ屋根とひさしを工夫しても、横なぐりの雨は入るからです。抜け道がなければ底に水が溜まり、巣材が湿ったままになります。湿った巣材は卵やヒナの体温を奪い、ダニの温床にもなります。
自作するなら、底板の四隅に小さな穴を開けるのが手軽です。市販品を買った場合も、裏返して底を確認してください。穴が見当たらなければ、細いドリルで数か所開けておけば済みます。
注意したいのは、穴を大きく開けすぎないことです。巣材が抜け落ちたり、下から冷気が入ったりします。あくまで水が抜ける程度の小さな穴にとどめます。
2年目も掃除せずに架けたままにしていませんか
巣箱は架けて終わりではありません。翌年の秋には必ず中の巣材を取り出し、掃除・補修をして架け替えます。年に1度は必ず手入れをする、というのが基本の運用です。
掃除が必要なのは、古い巣材にダニなどが残るためです。前年の巣がそのまま残っていると、新しい鳥が入りにくくなります。木箱そのものも、1年で釘が緩んだり、板が反ったりします。
作業の目安は、繁殖期が終わった秋です。スズメの繁殖期は3月から9月なので、10月以降に手をつければ子育て中の巣を壊す心配がありません。中身を取り出したら、板の割れや釘の緩みを確認し、必要なら補修してから架け直します。
注意点として、掃除のときは手袋を着け、作業後に手を洗ってください。野鳥の巣材や糞に触れたあとの衛生管理は、観察を続けるうえでの基本です。屋外の風通しのよい場所で作業するのも大切になります。
巣箱の掃除や補修は、繁殖期(3月〜9月)を避けて秋におこないます。作業時は手袋を着用し、終わったら手を洗ってください。野鳥の糞や巣材、羽に触れたあとの衛生管理は、観察を長く続けるための基本です。体調に不安がある場合は自己判断せず、医療機関にご相談ください。
卵を見つけたら動かせない — 知っておきたい法律の線引き
空の巣と、卵の入った巣はまったく別の扱いです
巣箱を架ける前に知っておきたいのが、野鳥の巣をめぐる法律の線引きです。東京都環境局の説明では、「巣のみを撤去することについては特別な許可は必要ありませんが、卵またはヒナを含めた野生鳥獣は許可なく捕獲・殺傷することができません」とされています。
根拠となるのは鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)で、この法律により許可なく野鳥を捕獲・殺傷すること、飼うことは禁止されています。違反した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。
実際の場面に当てはめると、判断は中身を見てからになります。秋に巣箱を掃除するとき、中に古い巣材だけが残っていれば取り出して構いません。もし卵が入っていたら、そこで手を止めます。「卵を産んでしまっている場合、許可なく撤去することはできません」というのが東京都環境局の説明です。
注意点として、巣箱の中だけの話ではありません。雨戸の戸袋や換気口にスズメが営巣した場合も同じ扱いになります。困っている場合でも自己判断で撤去せず、お住まいの自治体の担当窓口に相談するのが確実です。
巣立つまでは1ヶ月ほど。待つのが原則です
では、卵やヒナがいる巣はどうすればよいのか。東京都環境局は、巣の撤去はヒナが巣立つのを待ってからとしたうえで、「巣立つまでは1ヶ月ほどかかります」と案内しています。
この期間は、スズメの繁殖サイクルとも整合します。産卵から巣立ちまでは最短30日というのが三上さんの整理です。数字の上でも、待つ期間はおおむね1か月と見ておけば大きくは外れません。
具体的な進め方としては、巣に気づいた日付を記録しておくのが実用的です。いつごろ静かになるかの見通しが立ちますし、自治体に相談するときにも状況を伝えやすくなります。
ただし、スズメは年に1〜3回繁殖します。1回目の巣立ち後にすぐ2回目が始まることもあるため、「1か月経ったから空のはず」と決めつけないでください。中を確認してから作業に移ります。
4月から6月、地面のヒナは拾わないでください
巣箱を架けると、春に地面のヒナと出会う可能性が高まります。ここでの原則は明確で、拾わないことです。東京都環境局によれば、巣立ったばかりのヒナ(特に4月から6月)は、うまく飛ぶことができずに地面に落ちてしまうことがよくあり、大半は人間が干渉する必要のない元気なヒナのため、拾って保護する必要はありません。
理由は親鳥の側にあります。人間がヒナの近くにいると親鳥はヒナに近寄れません。日本野鳥の会も「親鳥は姿が見えなくても、ヒナの声で気づくことができます」と説明しています。人が立ち去ることが、いちばんの手助けになります。
それでも危ないと感じたときの選択肢として、日本野鳥の会は「心配でしたら、ヒナを近くの茂みの中に移しましょう」と案内しています。連れ帰るのではなく、その場の安全な位置に動かして離れる、という対応です。
人が育てるという選択が難しいことも押さえておきたい点です。日本野鳥の会は、自然界では巣立ち後に親鳥と過ごすわずかな期間(1週間から1か月)に「何が食べ物で、何が危険か」などを学習してひとり立ちするので、人間によって育てられたヒナが自然の中で生きていけるとは限りません、と説明しています。同会はこの呼びかけを30年以上にわたり「野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーン」として続けています。
巣箱と餌台は、まったく別の話です
巣箱を架けると、ついでに餌台も置きたくなります。ただし、この2つは性格が異なります。巣箱が提供しているのは営巣場所であって、食べ物ではありません。
区別が必要なのは、給餌が鳥の行動や集まり方を変えるからです。特定の場所に鳥が集中すれば、その分だけ衛生上の管理や近隣への配慮が必要になります。巣箱を架けることと、庭で継続的に餌を与えることを同じ延長線で考えないほうが無難です。
スズメに関して言えば、営巣場所の不足が減少要因として挙げられている一方で、巣箱がそのまま繁殖成績を保証するわけではありません。三上さんの整理では、減少要因の候補として巣を作る場所がないことのほかに、子育てがうまくいかない、巣立った子供が秋まで生存できない、巣立った子供が冬を越せない、といった段階も挙げられています。
庭でできることを増やしたいなら、餌を置く前に環境を整えるほうが効果が見込めます。草の種子がつく植物を残す、農薬の使用を控えて虫が育つ余地を作る、水浴び用の浅い水場を用意する。こうした方向は、餌台のような管理の負担を伴わずに続けられます。給餌をおこなう場合は、季節や周囲の環境、近隣への影響を踏まえて慎重に判断してください。
卵やヒナが入った巣は、許可なく撤去できません。鳥獣保護管理法により許可なく野鳥を捕獲・殺傷すること、飼うことは禁止されており、違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。巣箱の掃除で卵を見つけたら手を止め、判断に迷う場合は自治体の担当窓口に相談してください。(出典:東京都環境局)
今年入らなかった庭で、代わりにできること
戸建て・ベランダ・畑、住まいのタイプ別の考え方
巣箱の置き方は、住まいの形によって現実的な選択肢が変わります。庭のある戸建てなら、下枝の少ないまっすぐな木を選んで幹に架けるのが基本形です。木がなければ、外壁や物置の側面に取り付けても構いません。
集合住宅のベランダの場合は、注意が必要です。共用部分の扱いや管理規約で外壁への取り付けが制限されていることがあり、退去時の原状回復も問題になります。この場合は無理に架けず、窓から見える範囲の樹木にスズメが出入りしていないか観察するほうに切り替えるのが現実的です。
畑や市民農園に区画を持っている人は、条件としては有利です。土の地面と草の種子があり、スズメが必要とする採食環境が揃っています。ただし共同利用の場所では、管理者の許可を取ってから設置してください。
注意点として、どのタイプでも設置場所が近隣の窓や物干しに近すぎないかを確認しておきます。糞が落ちる位置を事前に想像しておくと、後々のトラブルを避けられます。
入らない年があるのが普通です
巣箱を架けても、初年度から入居するとは限りません。むしろ、数年空き家のままということも珍しくありません。これは架け方が間違っているという意味ではなく、鳥の側の事情によるところが大きいものです。
スズメは繁殖期の行動圏が6500平方メートルほどとされていて、庭一つよりずっと広い範囲を使っています。その中に既存の営巣場所があれば、慣れた場所を使い続けます。新しい巣箱が選ばれるのは、既存の場所が使えなくなったときや、若い個体が新たに繁殖を始めるときです。
実際の判断としては、2〜3シーズンは様子を見るつもりで構えておくのが良いでしょう。毎年秋に掃除と補修をして架け直すサイクルを回していれば、巣箱は数年使えます。焦って場所を変えると、せっかくなじんだ景観がリセットされてしまいます。
豆知識として、繁殖期以外の使われ方もあります。冬の寒い夜、小鳥が巣箱をねぐらとして使うことがあります。春に卵がなくても、中に糞や羽が落ちていれば誰かが立ち寄っていた証拠です。
記録をつけると、翌年の打ち手が見えてきます
巣箱の観察でいちばん効くのは、記録を残すことです。設置日、初めてスズメが止まった日、巣材を運び始めた日、静かになった日。この4点だけでも、翌年の見通しが立ちます。
記録が効くのは、スズメの繁殖サイクルが短いからです。産卵から巣立ちまでは最短30日で、油断すると気づかないうちに終わります。前年の記録があれば、今年はいつごろ動きが出るかを予測して観察に入れます。
具体的には、スマホのカレンダーに一言メモを残すだけで十分です。「巣材を運び始めた」と書いた日から30日を数えれば、巣立ちの目安が出ます。そのころに双眼鏡を用意しておけば、飛び出す瞬間に立ち会える確率が上がります。
注意点として、記録のために巣箱を開けて確認するのは避けてください。観察は外から見える範囲でおこないます。中の様子が気になるのは自然な気持ちですが、抱卵中に開けると放棄につながることがあります。
まとめ:スズメの巣箱は、穴の直径と架ける時期で決まる
スズメは1987年から2008年までの約20年間に6割減少したと推定されている鳥です。原因の一つは、気密性の高い住宅が増えて営巣場所となる隙間が減ったこと。庭に巣箱を一つ架けることは、街から消えた「穴」を戻す小さな取り組みでもあります。最初の一歩としては、この秋のうちに庭を見回して、下枝の少ないまっすぐな木が一本あるかを確認するところから始めてみてください。場所さえ決まれば、あとは穴径30mm前後の巣箱を用意するだけです。
※本記事の寸法・法制度の記載は、東京都環境局・山階鳥類研究所・日本野鳥の会・バードリサーチの公開情報にもとづいています。制度の運用や自治体ごとの取り扱いは変わることがあるため、最新情報は公式サイトでご確認ください。
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