庭の梅や椿がほころぶころ、どこからか細く高い声が長々と続いて聞こえてくることがあります。声のする方を見上げても姿は見えず、しばらくすると声だけがまた別の枝から届く。あの長い歌の主が、緑色の小さな体に白いアイリングを持つメジロです。
結論から言うと、メジロのさえずりを聞き分ける手がかりは「長さ」と「変化」の2点に集約されます。日本野鳥の会の図鑑では「チーチュルピーチュル」を繰り返す長く複雑な鳴き方と説明され、バードリサーチの調査ページでは「一息で歌われる一節が長く複雑で、一節ごとに違うレパートリーでさえずること」が特徴として挙げられています。つまり、同じフレーズを判で押したように繰り返す鳥ではないのです。この性質さえ知っていれば、シジュウカラやヒヨドリの声とは数秒で区別がつきます。
この記事では、メジロのさえずりが「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」と聞きなされる理由から、声がよく聞こえる季節と時間帯、ウグイスと取り違えられ続けてきた事情、そして声にひかれた人がつい踏み越えてしまう法律とマナーの線引きまで、公的な資料をもとに順番に整理していきます。読み終わるころには、庭先の声が誰のものか、耳だけで見当がつくようになるはずです。
・さえずりは一節が長く複雑で、一節ごとにレパートリーが変わる(バードリサーチ)
・「チィー」という短い地鳴きは季節を問わず聞こえるが、長い歌は繁殖期のオスのもの
・聞き取り調査の推奨時間帯は11〜13時。花の咲く木の梢を探すと見つけやすい
・声にひかれても捕獲・飼育は禁止。違法捕獲には1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金刑
メジロのさえずりが「長兵衛忠兵衛長忠兵衛」と聞こえる理由

さえずりと地鳴きは、そもそも役割が別のもの
まず押さえたいのは、メジロが出す声には性格の異なる2種類があるということです。長く続く歌が「さえずり」、短く単発で発する声が「地鳴き」で、両者は目的が違います。さえずりは繁殖期にオスがなわばりを主張し、メスに自分の存在を伝えるための歌。地鳴きは群れの仲間と位置を確かめ合ったり、警戒を伝えたりするための日常会話です。
メジロの地鳴きは、日本野鳥の会の図鑑では「チィー」と表記されています。バードリサーチの調査ページでは「チィー、チィー」や「キリキリキリ・・・・」といった単純な声と説明されており、こちらは1年中聞こえます。冬の公園で、姿は見えないのに藪や木立から細い「チィー」が飛び交っているときは、たいていメジロの群れが移動中です。
実際の見分け方はシンプルで、声が数秒以上続いて音程が上下したら、さえずりだと考えて間違いありません。地鳴きは1音で終わり、余韻もほとんどありません。初心者がつまずくのは、この2つを同じ「メジロの鳴き声」として覚えようとするからです。まず「短い声=日常」「長い歌=繁殖期のオス」と2本立てで覚えると、冬から春への声の変化がはっきり感じ取れるようになります。

「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」は江戸から続く聞きなし
メジロのさえずりには、古くから知られた聞きなし(人の言葉に置き換えた覚え方)があります。国立科学博物館の鳥類音声データベースでは、メジロの長く複雑な鳴き声について「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」などとヒトの言葉になぞらえる「聞きなし」がなされる、と説明されています。バードリサーチの調査ページでも「長兵衛・忠兵衛・長忠兵衛・・・・」という表記が使われています。
なぜ人名になったのかというと、メジロの歌が「チョーベー」「チューベー」のように、濁りのない澄んだ音節をテンポよく連ねていくからです。同じ音節が少しずつずれながら重なる構造が、三つの名前を早口で並べたように聞こえます。日本野鳥の会の図鑑が採る「チーチュルピーチュル」という表記も、指している音は同じものです。
野外で使うときのコツは、聞きなしを一字一句あてはめようとしないことです。個体によって節の並びが変わるため、「チョーベーチューベー」と完全に聞こえる場面はむしろ少数派。「人名を早口で唱えているようなリズムかどうか」というくらいの粗さで当てるのが実用的です。豆知識として、この聞きなしは飼い鳥文化が盛んだった時代から伝わる表現で、メジロの声が古くから人に愛でられてきた証拠でもあります。
同じ節を繰り返さない——実は「歌の引き出し」が多い鳥
意外と知られていないのですが、メジロのさえずりは同じフレーズのループではありません。バードリサーチはメジロのさえずりの特徴として「一息で歌われる一節が長く複雑で、一節ごとに違うレパートリーでさえずること」を挙げています。ひと節歌い終えて、次にまた歌い出すときには、別のパターンが出てくるということです。
この性質は、身近な鳥と比べると際立ちます。シジュウカラのさえずりは「ツーピー」「ツツピー」を繰り返す形で、パターンが安定しています。ウグイスの「ホーホケキョ」も型がはっきりしています。それに対してメジロは、同じ個体の歌でも節ごとに表情が変わるため、初めて聞くと複数の鳥が代わる代わる鳴いているように錯覚しがちです。
野外での判断材料としては、「歌が長い・毎回少しずつ違う・音が細くて澄んでいる」の3点が揃えばメジロと考えてよいでしょう。注意したいのは、録音を聞いて覚えた1パターンだけを頭に入れて出かけると、実際の個体の歌と一致せず迷ってしまうことです。覚えるべきはフレーズではなくリズムの質だと考えてください。
高らかに歌うのはオス。声の強さにも差がある
長い歌を聞かせているのはオスです。環境省が発行した「メジロ(Zosterops japonicus)識別マニュアル」には、鳴き声について「雄では雌より強く高い声で鳴き、囀るのは雄」と明記されています。つまり、梢で長々と歌っている個体を見つけたら、その時点で性別の見当がつくということです。
これは観察上ありがたい情報です。同マニュアルは、メジロの各亜種について「雌雄は、羽色とサイズが類似し、識別は難しい」とも述べています。姿を双眼鏡でどれだけ丁寧に見ても、オスとメスを外見から見分けるのは専門家でも簡単ではありません。ところが声なら、繁殖期に歌っている個体はオスだと判断できます。姿より声のほうが情報量が多い、という典型例です。
ただし、これは「歌っていない個体はメス」という意味ではありません。オスも一日中歌っているわけではなく、採餌中や群れで移動している間は地鳴きしか出しません。ペアで行動している2羽を見つけたときに、片方が長い歌を出したらそちらがオス、という順序で確かめるのが確実です。
| 分類 | スズメ目メジロ科(学名 Zosterops japonicus) |
| 全長 | 全長12cm(スズメより小さい) |
| さえずりが聞ける季節 | 春の初認から8月ごろまで |
| 生息環境 | 常緑広葉樹林を好み、北海道や山地では秋冬に暖地や低地に移動 |
| 鳴き声 | さえずり「チーチュルピーチュル」/地鳴き「チィー」 |
| よく見られる場所 | 花の咲く梅・椿・桜の木、常緑樹の茂み、市街地の公園 |

声が増えるのはいつ?季節と時間帯には偏りがある
春の初認から8月ごろまでが歌の季節
さえずりが聞ける期間には、はっきりした偏りがあります。バードリサーチが実施している「メジロとランチ♪プロジェクト」は、調査期間を「メジロのさえずり初認から8月くらいまで」と設定しています。この設定自体が、春に歌い始めて夏の終わりごろまで続く、というメジロの歌の季節を表しています。
背景にあるのは繁殖のスケジュールです。東山動植物園のブログによれば、メジロは4〜5個の卵を産み、11日ほど抱卵し、ふ化したひなは11日ほどで巣立ちます。巣立ったひなは2〜3週間、親とともに過ごして独り立ちするため、ふ化から独り立ちまでが1ヵ月弱という速さです。回転が速いぶん、シーズン中に繰り返し繁殖する余地があり、歌の期間も長くなります。
観察の目安としては、庭の梅や椿に鳥が集まり始めるころから耳を澄ませておき、初めて長い歌を聞いた日をメモしておくとよいでしょう。注意点は、地域差が大きいことです。同じ日本でも、南の暖かい地域と積雪のある地域では歌い出しの時期がずれます。「◯月から」と全国一律で決めつけず、自分の住む場所の初認日を自分で記録するほうが、はるかに役に立ちます。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | △ | △ |
◎=よく聞かれる(さえずりが最も観察しやすい時期) ○=聞かれる △=まれに聞かれる/地鳴き中心。バードリサーチの調査期間(さえずり初認〜8月ごろ)をもとに作成(野鳥の教科書調べ)
昼の11〜13時に耳を澄ませる理由
時間帯にも狙い目があります。バードリサーチの「メジロとランチ♪プロジェクト」は、調査の推奨時間を「11-13時(それ以外の時間でもかまいません)のあいだに20分程度」、頻度を「月1-3回程度(多くても少なくてもかまいません)」と案内しています。全国調査がこの時間帯を軸に据えているという事実は、昼の時間帯にメジロの活動が観察しやすいことを示しています。
野鳥観察というと夜明け直後を思い浮かべる人が多いはずです。確かに多くの小鳥は早朝によく歌いますが、早起きが続かずに挫折してしまうくらいなら、昼休みに20分だけベランダや近所の公園で耳を澄ますほうが、記録は積み上がります。仕事や家事の合間に組み込めるのは、この時間帯設定の大きな利点です。
具体的な進め方としては、スマホのタイマーを20分にセットし、聞こえた声を種名がわからなくてもカタカナで書き留めます。「長い歌が3回」「短いチィーが多数」といったメモでも、数回繰り返すと季節による変化が見えてきます。注意点は、風の強い日は声が届きにくく、記録が途切れやすいこと。晴れて風の弱い日を選ぶだけで、聞こえる声の数は変わります。
冬の「チィー」から春の歌へ、切り替わりを聴く
メジロは季節で暮らし方が変わります。日本野鳥の会の図鑑は、常緑広葉樹林を好み、北海道や山地では秋冬に暖地や低地に移動すると説明しています。寒い時期は群れで動き回り、花の蜜や木の実を求めて庭先にも姿を見せます。この時期に聞こえるのは、群れの連絡に使う短い地鳴きが中心です。
春になると、この群れがほどけてペア単位の行動へと移り、オスが梢で長い歌を出し始めます。声の質が「短い点」から「長い線」へ変わる瞬間が、メジロにとっての季節の変わり目です。庭に来る鳥の顔ぶれが変わらなくても、声の種類が変われば繁殖期に入ったサインだと読み取れます。
この切り替わりを聴き分けられるようになると、観察の解像度が一段上がります。「今日は歌が出た」「今日は群れの声だけだった」と記録していけば、その年の春の進み方が数字で残ります。落とし穴は、暖かい日が1日あっただけで歌い出すこともあり、そこから寒が戻ると歌が止まる点です。1回聞こえたきりでも記録は消さず、「初認」と「定着」を分けて考えると実態に合います。
初鳴きの日を市民科学として残す
聞いた日を自分のノートに残すだけでなく、調査に投稿するという選択肢もあります。バードリサーチのプロジェクトは「メジロのさえずりを初めて聞いたらその日を季節前線ウォッチのページからお知らせ下さい」と参加を呼びかけています。個人の1件の記録が、全国のさえずり前線を描くデータの一部になる仕組みです。
市民が集めた観察記録が科学的な資料になる取り組みは市民科学と呼ばれ、鳥の分野では長い蓄積があります。メジロのように全国の市街地にいて、声に特徴がある鳥は、この種の調査と相性がよい対象です。特別な機材は必要なく、耳と日付があれば参加できます。
参加するときの注意点は、聞き間違いを恐れて投稿をためらわないことです。地鳴きとさえずりの区別さえついていれば、初認の記録としては十分に価値があります。自信がない場合は、無理に断定せず、自分のノートに「たぶんメジロの歌」と記して翌日以降に確かめるという進め方でも構いません。詳しい参加方法はバードリサーチ「メジロとランチ♪プロジェクト」の調査方法ページで確認できます。
「梅にウグイス」の絵に描かれた鳥、実はメジロかもしれない

梅の花にとまる緑色の鳥は、たいていメジロ
春の図案でおなじみの「梅にウグイス」。しかし、梅の花にとまって蜜を吸う黄緑色の小鳥は、実際にはメジロであることがほとんどです。メジロは花の蜜を好んで訪れるため、梅や椿、桜の花に長く滞在し、人の目に触れやすい位置にとどまります。
一方のウグイスは、日本野鳥の会の図鑑によれば「林のやぶで繁殖し、秋冬は根雪のない地域のやぶにすむ」鳥です。生活の場が藪の中なので、花の枝先で長時間くつろぐ姿は普通見られません。声はよく通るのに姿を見せない鳥、それがウグイスです。
つまり、「声はウグイス、姿はメジロ」という組み合わせで両者が1つのイメージに混ざったと考えると腑に落ちます。庭で緑がかった小鳥が梅の花に顔を突っ込んでいたら、まずメジロを疑ってください。見分けの決め手は目のまわりの白い輪で、これは遠目にも意外とよく目立ちます。
声で分ければ、間違えようがない
姿では迷っても、声なら混同しません。ウグイスのさえずりは、日本野鳥の会の図鑑で「『ホーホケキョ』のほか、『ケキョケキョ』を繰り返すこともある」と説明される、型のはっきりした歌です。前半に長く伸ばす音があり、後半で短く区切る構造が、誰の耳にも同じパターンとして届きます。
対してメジロのさえずりは、前述のとおり一節が長く複雑で、節ごとに中身が変わります。伸ばす音が目立たず、細かい音がつながって流れていく印象です。「型がある歌=ウグイス」「流れる歌=メジロ」と対にして覚えると、初めての人でも迷いにくくなります。
ありがちな失敗は、姿を確認しないまま「緑の鳥=ウグイス」と決めてしまうことです。ウグイスの体色は地味な褐色みを帯びており、鮮やかな黄緑色ではありません。声を聞いたら姿を探し、姿を見たら声を待つ。この往復をひと呼吸ぶん我慢するだけで、識別の精度は上がります。
大きさも違う——12cmと16cmの差
体格も見分けの手がかりになります。日本野鳥の会の図鑑では、メジロは全長12cm、ウグイスは雄16cm・雌14cmと記載されています。並んでいれば明らかな差ですが、単独で見ると判断しにくいので、身近な基準と比べるのが実用的です。
メジロはスズメより小さく、枝先の細い部分にぶら下がるように止まれます。花のすぐ横にとまり、逆さまになりながら蜜を吸う動きも特徴的です。ウグイスは藪の中を移動することが多く、開けた枝先でその姿勢をとることは多くありません。
豆知識として、メジロは押し合うように並んで止まる習性があり、これが「目白押し」という言葉の語源になっています。野毛山動物園のブログでも、この習性が言葉の由来として紹介されています。枝に何羽も詰めて並ぶ小鳥は身近ではほかにあまりおらず、群れの止まり方そのものが識別のヒントになります。
地鳴きの違いも覚えておくと冬に効く
冬はさえずりが聞けないぶん、地鳴きの違いが役に立ちます。ウグイスの地鳴きは、日本野鳥の会の図鑑によれば「低いやぶの中で、『チャッ、チャッ』と鳴く」声です。舌打ちのような、やや硬い音が藪の中から聞こえてきます。
メジロの地鳴きは「チィー」と表記される細く高い声で、こちらは群れで飛び回りながら発するため、藪ではなく樹冠や庭木の間を移動していきます。音の高さも発する場所も違うので、慣れると数秒で判断できます。
冬の観察でつまずきやすいのは、どちらの声も「小さくて地味だから」と聞き流してしまうことです。地鳴きを覚えておくと、姿が見えない季節でもその場所に何がいるかがわかります。春に歌が出たときの感動も、冬から声を追いかけていたほうがはるかに大きくなります。
梅の花で蜜を吸う黄緑色の小鳥はメジロ(全長12cm・目のまわりが白い)。ウグイス(雄16cm・雌14cm)は藪の中で暮らし、「ホーホケキョ」という型の決まった歌を出します。姿はメジロ、声はウグイスと覚えるのが近道です。
似た声で迷いやすい3種を、耳だけで振り分ける
ソウシチョウ——山でよく響く外来の歌い手
山地でメジロに似た華やかな歌を聞いたら、ソウシチョウの可能性があります。日本野鳥の会の図鑑によればソウシチョウは全長15cm、スズメ目ソウシチョウ科の鳥で、関東北部から九州で野生化しており、繁殖期は山地に多く、非繁殖期は低地でも見られます。飼い鳥として持ち込まれたものが定着した経緯があり、現在は特定外来生物に指定されています。
声を分ける手がかりは音量と太さです。メジロの歌が細く澄んだ線であるのに対し、ソウシチョウの歌はよく響き、音の密度が高く聞こえます。環境省の資料では、ササ類が繁茂した藪を好むため、同様の環境で繁殖するコマドリ、コルリ、ウグイス、メジロなどの在来鳥類と競合する可能性が指摘されています。生息環境が重なるぶん、同じ場所で両方の声を聞く場面も出てきます。
迷ったときは標高と環境を見てください。市街地の庭木で長い歌が聞こえたらメジロ、笹の茂る山の斜面で大きな歌が響いたらソウシチョウを疑う、という順序が現実的です。注意点として、外来種だからと個体を排除しようとするのは個人の判断で行うことではありません。観察と記録にとどめるのが基本です。
ヒヨドリ——同じ花に来るが、声は正反対
メジロと同じ花に集まる代表格がヒヨドリです。日本野鳥の会の図鑑ではヒヨドリは全長27cm、鳴き声は「『ピーヨ』または『キーヨ』と甲高く、のばす声」と説明され、「ピーヨロイ、ロピ」などと鳴くこともあるとされています。全長12cmのメジロと比べると倍以上の大きさで、姿を見れば取り違えようがありません。
声も対照的です。ヒヨドリの声は1音が大きく、短く区切って甲高く放り投げるように響きます。メジロのように細かい音を長くつなげることはありません。花の咲く木からにぎやかな声が聞こえて、その後に大きめの鳥が飛び去ったなら、ほぼヒヨドリです。
観察のコツは、両者が同じ木を奪い合う場面に注目することです。ヒヨドリが来るとメジロが隅に追いやられることが多く、力関係が見えます。落とし穴は、ヒヨドリの声にかき消されてメジロのさえずりを聞き逃すこと。にぎやかな声が止んだ数十秒後にもう一度耳を澄ますと、細い歌が戻っていることがあります。

庭に来た灰色っぽい鳥。尾が長くて、「ピーヨ」と甲高く鳴いて、ミカンを数回つついたらもう飛び去っている。ヒヨドリだろうと思って図鑑を開いたら、似たような鳥がずらり…
シジュウカラ——「ツーピー」の繰り返しで区別する
市街地でメジロと並んで声が目立つのがシジュウカラです。日本野鳥の会の図鑑によれば全長14cm、さえずりは細い声で「ツーピー」や「ツツピー」を繰り返すもので、警戒時には「ジュクジュク」と濁った地鳴きを発します。音の細さはメジロと似ていますが、構造がまったく違います。
決定的な違いは繰り返しです。シジュウカラは同じ2〜3音のフレーズを規則正しく反復します。一方メジロは一節ごとにレパートリーが変わります。「同じ形が続くか、毎回変わるか」を聞くだけで振り分けられるので、初心者が最初に身につけると効率のよい判断軸です。
間違えやすいのは、遠くで聞いたときです。距離があると細かい変化が聞き取れず、どちらも「細い高い声」に均されてしまいます。その場合は無理に決めず、近づくか、次の一節を待つのが正解です。声の識別は「1回で当てる」ものではなく、「何回か聞いて絞る」ものだと考えると気が楽になります。
【野鳥の教科書調べ】声で振り分ける4種早見表
ここまでの内容を、日本野鳥の会の図鑑に記載された全長と鳴き声の表記をもとに一覧にまとめました。野外で迷ったときは、まず「歌が繰り返しかどうか」を見て、それから大きさと場所で確かめる順序が使いやすいです。
| 比較項目 | メジロ | ウグイス | シジュウカラ | ヒヨドリ |
|---|---|---|---|---|
| さえずり | 「チーチュルピーチュル」を繰り返し長く複雑 | 「ホーホケキョ」「ケキョケキョ」 | 「ツーピー」「ツツピー」を繰り返す | 「ピーヨ」「キーヨ」と甲高くのばす |
| 歌の形 | 一節ごとに中身が変わる | 型が決まっている | 同じ形を反復 | 単発で大きい |
| 地鳴き | 「チィー」 | 「チャッ、チャッ」 | 「ジュクジュク」 | 飛びながら甲高く鳴く |
| 全長 | 12cm | 雄16cm・雌14cm | 14cm | 27cm |
| よく聞く場所 | 花の咲く庭木・公園の樹冠 | 林のやぶ | 市街地から山地まで | 市街地から山地の林 |
庭と公園でさえずりを探す、遠回りしない手順

まず「花のある木」を回る
メジロの声を探すなら、鳥そのものより先に花を探すのが近道です。メジロは花の蜜を好み、梅・椿・桜のように蜜の多い花に集まります。花の咲いている木を見つけたら、その周辺だけを重点的に見張るほうが、あてもなく歩き回るより出会える確率が上がります。
理由は行動範囲にあります。餌のある場所は繰り返し訪れるため、同じ木に日を変えて何度も現れます。歌うオスも、餌場から遠く離れた場所ではなく、その周囲の高い枝を歌う場所に選びます。花のある木を起点に、そこから見上げられる高い枝までを視野に入れておくと効率的です。
実際の探し方としては、花の咲いた木の下に立ち、枝が揺れる場所を探します。全長12cmと小さいので、姿より「花が不自然に揺れる」動きのほうが先に目に入ります。注意点は、木の真下に長時間立ち続けないことです。鳥が警戒して寄りつかなくなるので、数メートル離れた位置から眺めるほうが結果的によく見えます。
声の高さと「歌う場所」を手がかりにする
歌を聞いたら、次は高さを推定します。メジロのオスは開けた梢で歌う傾向があり、地面近くの藪から長い歌が聞こえることはあまりありません。声が高い位置から降ってくると感じたら、木のてっぺん付近を先に見るのが正解です。
この習性は、声を遠くまで届けたいという目的から説明できます。なわばりの主張は、届く範囲が広いほど有効です。そのため見晴らしのよい枝先が選ばれ、結果として観察者からも見つけやすい位置に出てくれます。
探すときのコツは、双眼鏡をいきなり構えないことです。まず肉眼で動きを捉え、視線を外さないまま双眼鏡を目に持っていきます。逆の順序だと視野が狭くなり、見つける前に鳥が移動してしまいます。慣れないうちは、声が止まっても数十秒その場に留まると、また同じ枝で歌い出すことがあります。
よくある失敗——録音の1パターンだけを覚えて出かける
初心者がつまずきやすいのが、動画サイトなどで聞いたメジロの歌を1つだけ暗記して現地に向かうケースです。原因ははっきりしていて、メジロは一節ごとにレパートリーが変わるため、覚えた1パターンと目の前の個体の歌が一致しないからです。「音源と違うから別の鳥だ」と判断してしまい、目の前のメジロを取りこぼします。
対策は、フレーズではなく質を覚えることです。「細い・澄んでいる・長い・毎回違う」という4つの手ざわりを基準にすれば、どの個体にも当てはまります。もし音源で予習するなら、同じ種の異なる録音を3つ以上聞き比べて、共通しているのはリズムであってメロディではないことを確かめておくと確実です。
もうひとつの対策は、現地で自分の耳の記録を作ることです。聞こえた歌をカタカナで書き取り、後日また同じ場所で聞いて書き足す。自分の言葉で残した記録は、他人の録音より思い出しやすく、次の観察で役立ちます。
タイプ別・無理なく続く聴き方
続けやすさは環境によって変わります。庭のある人は、花の咲く木を1本決めて定点観測にするのが向いています。同じ木を毎日数分見るだけで、群れの声からさえずりへ変わる瞬間を捉えられます。
ベランダしかない人は、時間を固定するほうが効果的です。バードリサーチの調査が採る11〜13時に20分だけ耳を澄ます形なら、洗濯物を干すついでにも成立します。声の記録だけなら視界が狭くても問題ありません。
近所に公園がある人は、散歩コースに常緑樹と花木のある区画を組み込みましょう。歩きながらだと聞き逃しが増えるので、ベンチで座って5分止まる時間を1回だけ入れるのがコツです。どのタイプでも共通するのは、長時間より高頻度が勝るという点です。
やってはいけない誘い方——スピーカーと巣まわりの距離
鳴き声を流して呼び寄せない
スマホでさえずりを再生して鳥を呼び寄せる行為は、控えるべきものとされています。日本野鳥の会が公開している野鳥観察・撮影マナーのガイドラインには「観察・撮影しやすいように、野鳥の鳴き声を流して野鳥を誘引することはやめましょう。」と明記されています。
理由は、鳥の側に無用な負担がかかるからです。なわばりを持つオスにとって、別の個体の歌が聞こえるということは侵入者が来た合図です。姿のない相手に向かって歌い返したり飛び回ったりする行動は、繁殖のためのエネルギーを削ります。誘引が繰り返されれば、その場所を安心して使えなくなることも起こり得ます。
代わりになる方法はあります。歌が聞こえる時期と時間帯を選び、花のある木の近くで静かに待つ。これだけで再生を使う必要はなくなります。豆知識として、識別に自信がないときは、再生して確かめるのではなく、その場で録音して帰宅後に聞き直すほうが安全で、記録としても残ります。
よくある失敗——歌の主を探して巣に近づいてしまう
もうひとつ起きやすいのが、歌う個体を追ううちに巣のそばまで踏み込んでしまう失敗です。原因は、さえずりが繁殖期の行動である以上、歌の主の近くには巣がある可能性が高いという構造にあります。「もっと近くで見たい」という気持ちのまま歩を進めると、意図せず巣に接近します。
同ガイドラインは「巣や巣立ち雛に遭遇した場合、すみやかにその場を離れるようにしましょう。」としています。日本野鳥の会のフィールドマナー「やさしいきもち」でも、「ち」の項目が「近づかないで、野鳥の巣」と定められています。親鳥が警戒して巣を離れれば、卵やひなが危険にさらされます。
対策はシンプルで、同じ場所で親鳥が繰り返し警戒声を出したら、そこが「これ以上進んではいけない線」だと判断して引き返すことです。地面に巣立ったばかりのひなを見つけた場合も同じで、拾い上げず、その場から離れます。近くで親が見守っていることがほとんどです。
餌で呼ぶ前に、場所のルールを確認する
花の少ない時期に餌台で鳥を呼びたくなる人もいますが、場所の扱いには注意が必要です。日本野鳥の会のガイドラインは「公園や河川敷等の公共の場、寺社境内等団体の所有地での餌づけによる誘引はやめましょう。」としています。自分の敷地かどうかで扱いが変わる、というのが基本の線引きです。
自宅の庭やベランダで行う場合も、自治体の条例で餌やりが規制されている地域があります。まずは住んでいる市区町村の案内を確認し、近隣への影響(糞や集まる鳥の数)を見ながら、時期と量を絞って行うのが現実的です。給餌は無条件に推奨できるものではなく、条件つきの行為だと捉えてください。
メジロの観察に関して言えば、餌台に頼らずとも花の時期に十分観察できます。梅や椿が咲く時期は蜜という自然の餌がある時期なので、人が餌を用意する必然性は低くなります。まずは花のある木を探すほうが、鳥にとっても人にとっても負担がありません。

ベランダの手すりにスズメが並んでいるのを見て、思わずご飯粒を置きたくなる。庭に来るシジュウカラのために、ヒマワリの種を買ってこようか迷っている。近所の公園で毎朝…
「やさしいきもち」7つの言葉を覚えておく
観察のマナーは、日本野鳥の会が7つの標語にまとめています。「や」は「野外活動、無理なく楽しく」、「さ」は「採集は控えて、自然はそのままに」、「し」は「静かに、そーっと」、「い」は「一本道、道からはずれないで」、「き」は「気をつけよう、写真、給餌、人への迷惑」、「も」は「持って帰ろう、思い出とゴミ」、「ち」は「近づかないで、野鳥の巣」です。
さえずりを聴く場面に当てはめると、特に効いてくるのは「静かに、そーっと」と「一本道、道からはずれないで」です。声を追って藪に分け入ると、鳥を追い立てるだけでなく、そこで暮らす他の生きものの生活も踏み荒らします。歌は道の上からでも十分に聞こえます。
この7項目は、暗記するというより、迷ったときの判断基準として使うものです。「今の行動はどれかに触れていないか」と自問すれば、大半の場面で答えが出ます。詳しい説明は日本野鳥の会のフィールドマナーのページで確認できます。
スピーカーでさえずりを流して鳥を呼び寄せる行為は、日本野鳥の会のガイドラインで「やめましょう」と示されています。巣や巣立ち雛に出会ったときは、すみやかにその場を離れてください。公共の場での餌づけによる誘引も同ガイドラインで控えるべき行為とされています。
美しい声ゆえの受難——メジロを飼うことは法律で禁じられている
捕獲も飼育も、原則として許可されない
メジロのさえずりは古くから好まれ、飼い鳥として珍重されてきた歴史があります。しかし現在、野生のメジロを捕まえて飼うことはできません。福岡県のページは「すべての野鳥は、『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)』で保護されており、メジロを含めた野鳥を許可なく捕まえること(密猟)は禁止されています。」と説明しています。
制度は段階的に絞られてきました。環境省の「メジロ識別マニュアル」によれば、愛玩飼養目的の捕獲許可対象は順次減少し、平成11年からメジロとホオジロの2種のみ一世帯1羽に限り、平成19年からはメジロ1種に限って一世帯1羽のみが認められていました。その後、平成23年9月の「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」の改正で、愛玩飼養のための捕獲については許可しないことと明記されています。日本野鳥の会は、この点について「2012年4月から、原則として許可されないことになりました」と記しています。
すでに登録されていた個体については扱いが異なります。福岡県のページによれば、平成23年度までに飼養登録されたメジロのみ、その個体に限り飼うことができ、毎年市町村での更新手続きが必要です。新たに野生個体を迎える道は残されていない、と理解しておくのが正確です。
罰則は拘禁刑または罰金——「1羽だけ」でも対象になる
違反した場合の罰則も定められています。福岡県のページには、野鳥を違法に捕獲した場合は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金刑、違法に捕獲した野鳥を飼養・販売等した場合は6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金刑と記載されています。
ここで押さえておきたいのは、対象が「捕まえた人」だけではないという点です。違法に捕獲された個体を飼うこと、売ることも別に罰則の対象になっています。「もらっただけ」「買っただけ」という説明が通らない設計になっているわけです。
また、飼養が認められている個体には、一年間ごとに更新する飼養登録票と、足輪として装着する登録票が義務づけられています。逆に言えば、これらが確認できない個体の飼育は、制度の外にあるということです。声の良い鳥を安易に譲り受けない、というのが最も確実な自衛策になります。
環境省が識別マニュアルを作った理由
環境省が「メジロ識別マニュアル」を発行し、改訂まで重ねてきた背景には、違法飼養の判別という現実的な課題があります。同マニュアルは、メジロについては容姿が愛らしく鳴き声がよいため、多くの日本産の個体が国内で違法に捕獲され、輸入されたものとして飼養されている、と指摘しています。
そこで必要になるのが、国内産と外国産を見分ける技術です。マニュアルには、亜種ごとの羽色の違いに加えて、体の各部を計測した数値が載っています。たとえば露出嘴峰長(くちばしの長さの計測項目のひとつ)は、本州・九州産のメジロが平均11.8mm、韓国産のメジロが平均13.0mmと差が示されています。羽色だけでは判断が難しいときに、こうした数値が取締りの根拠になります。
メジロは日本国内に6亜種、国外に3亜種の合計9亜種に分けられており、地域ごとの差が大きい鳥です。声にも地理的な変異があり、国立科学博物館の鳥類音声データベースでは、南西諸島の北部と南部で周波数が異なることが記されています。飼育の是非という話を抜きにしても、地域ごとに違う声を持つ鳥だという事実は、野外で聴く楽しみを広げてくれます。制度の詳細は環境省の愛玩飼養・鳥獣等の輸入規制のページで確認できます。
よくある疑問に答えます
読者から寄せられやすい疑問を、公的な資料に沿って整理しておきます。判断に迷う場面ほど、独自解釈ではなく行政の案内に当たるのが確実です。
まとめ:メジロのさえずりは「長くて毎回違う歌」で覚える
最初の一歩としておすすめしたいのは、花の咲いている木を1本決めて、昼の20分だけ耳を澄ます習慣です。バードリサーチの調査が11〜13時に20分程度という設定を採っているとおり、この長さなら生活の合間に収まります。細い「チィー」しか聞こえない日が続いても、ある日ふいに長い歌が降ってきます。その瞬間が、あなたの庭に春が来た日付になります。
※本記事の数値・法令の記載は、環境省・日本野鳥の会・バードリサーチ等の公開情報にもとづいています。制度や運用は変わることがあるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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