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ツバメの寿命は平均1〜2年、最長記録は8年11か月|足環がつないだ57年

ツバメの寿命は平均1〜2年、最長記録は8年11か月|足環がつないだ57年のアイキャッチ画像

春先に軒下を見上げて、「去年と同じ子が帰ってきたのかな」と思ったことはありませんか。あの黒く光る背中の鳥が、いったい何年生きるのか。調べてみると「1〜2年」と書かれていたり「8年」と書かれていたり、数字がばらばらで戸惑った人も多いはずです。

先に結論を書きます。ツバメの寿命は1年から2年未満とされる一方で、足環を使った国内の調査では8年11か月まで生きた個体の記録が残っています。この2つは矛盾していません。1年目に命を落とす個体が多いために平均が押し下げられているだけで、最初の渡りを乗り越えた個体は数年にわたって日本と東南アジアを往復します。

この記事では、公的な調査データをもとに、ツバメの寿命の数字がどこから来ているのか、なぜ短くなるのか、そして毎年同じ巣に戻ってくる確率がどれくらいなのかを順に整理します。身近な鳥との記録比較表や、巣を見つけたときにやってはいけないことまでまとめました。

📌 押さえておきたいポイント

・ツバメの寿命は1年から2年未満とされ、平均を押し下げているのは1年目の高い死亡率
・国内の標識調査で確認された最長の生存期間は8年11か月
・オス・メスのどちらかが翌年も同じ巣に戻ってくる確率は15%
・繁殖の失敗原因のうち、人に起因するものが約9%を占める

目次

ツバメの寿命は平均1〜2年、記録に残る最長は8年11か月

ツバメの寿命は平均1〜2年、記録に残る最長は8年11か月の解説画像

「1〜2年」と「8年11か月」は、まったく別のものを指している

ツバメの寿命として広く紹介されている「1年から2年未満」という数字と、「8年11か月」という数字は、どちらも正しい情報です。前者は集団全体をならした平均寿命、後者は足環をつけた個体が再確認されるまでの生存期間の最長記録を指しています。同じ「寿命」という言葉でも、要約のしかたが違えば出てくる数字は大きく変わります。

平均寿命が短くなるのは、生まれてすぐの時期に命を落とす個体が多いためです。ヒナや若鳥の死亡が平均値を強く引き下げるので、「平均1〜2年」を「ほとんどのツバメが2年で死ぬ」と読み替えてしまうと実態からずれます。無事に育って渡りを一度経験した個体は、その後も何度か日本に戻ってくる力を持っています。

「1年から2年未満」という寿命は、公益財団法人日本野鳥の会自然保護室の山本裕さんが監修した解説で示されている値です。一方の8年11か月は、環境省の鳥類標識調査で得られた回収データを山階鳥類研究所が整理した記録によるものです。どちらも出どころのはっきりした数字なので、片方だけを見て「間違い」と決めつけないでください。

覚えておきたいのは、平均寿命は「生まれた1羽が何年生きるかの期待値」であって、「いま軒下にいる親鳥があと何年生きるか」ではないという点です。目の前で子育てしている成鳥は、すでに最大の関門をくぐり抜けた個体です。

全長17cmの体で、東南アジアまで往復している

ツバメは全長17cm、翼開長32cm、体重20g弱という小さな鳥です。スズメ目ツバメ科ツバメ属に分類され、北海道から九州までの地域に夏鳥として飛来します。この体で海を越えて往復していると聞くと、寿命の数字の重みが変わってきます。

体が小さいほど寿命が短くなりやすいのは、代謝が速く、捕食されるリスクも高いためです。加えてツバメは渡りをする鳥なので、留鳥にはない移動中の消耗や悪天候というリスクを毎年2回背負います。短命さの背景には、体の小ささと渡りという2つの条件が重なっています。

飛来の時期は3月上旬ごろから始まり、8月中旬から10月にかけて東南アジアへ渡っていきます。日本で標識放鳥された個体は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどで見つかっています。つまり1年の半分近くを、海外か移動中に過ごしている計算になります。

意外と見落とされがちなのが、餌のとり方です。ツバメはトンボやアブ、ユスリカなどの飛ぶ虫を、飛びながら捕えます。地面をついばむ鳥と違い、飛べなくなった時点で食べられなくなる暮らし方をしているので、翼のけがが直接命に関わります。巣立ち直後の飛行が不安定な数日は、それだけで危険な期間になります。

平均を押し下げているのは、1年目の死亡率

ツバメの平均寿命が1〜2年に収まる最大の理由は、生まれて1年目の死亡率の高さです。大阪市立自然史博物館の質問コーナーでは、ヨーロッパの鳥類ハンドブックを引用して、年間の平均死亡率が60〜70%程度、生まれて1年目の死亡率は80%前後とする値が紹介されています。この場合、平均すると1.5年程度という計算になります。

年間死亡率60〜70%という数字は、100羽いた成鳥が翌年には30羽から40羽に減るという意味です。減った分は毎年の繁殖で補われるので、街で見かけるツバメの数がそれほど変わらなくても、顔ぶれは毎年入れ替わっていることになります。同じ巣、同じ電線でも、そこにいるのは去年とは別の個体かもしれません。

この死亡率は、庭に来る鳥を数えていても実感しにくい数字です。姿が減ったのか、渡っていったのか、区別がつかないからです。だからこそ、足環という個体識別の手段を使った調査に意味があります。詳しくは次の見出しで整理します。

🐦 野鳥スペックカード
分類スズメ目ツバメ科ツバメ属
全長全長17cm(翼開長32cm・体重20g弱)
見られる季節3月上旬ごろ飛来〜8月中旬から10月に渡去
生息環境北海道から九州までの人家・商店・駅の周辺
食べものトンボやアブ、ユスリカなどの飛ぶ虫
よく見られる場所泥のおわん型の巣がかかった軒下・店先・駅の構内

なぜ1年で多くが姿を消すのか|17cmの体が背負う3つのリスク

巣の中で終わる命|捕食が約35%、落下が22%

ツバメが子育てに失敗する原因のうち、最も多いのは捕食です。日本野鳥の会が2013年から2020年にかけて実施した全国調査では、カラス類やヘビなどの捕食が約35%、巣の落下・ヒナの転落が22%を占めていました。延べ5,351人が参加し、観察記録のあった巣は延べ10,586巣という規模の調査です。

捕食が多い理由は、ツバメの巣が泥でできたおわん型で、上がふさがっていない構造だからです。巣箱のように入口が狭い巣と違い、上から手が届いてしまいます。人家の軒下に巣をかけるのは、天敵が近づきにくい人の気配を味方にするためだと考えられていますが、それでも3分の1以上が捕食で失われています。

巣の落下・転落が22%というのも見逃せない割合です。壁がつるつるした新建材だと泥がつきにくく、ヒナが育って重くなった段階で崩れることがあります。巣の下に板を1枚渡しておくと落下したヒナが助かることもありますが、巣そのものに触れる作業は法律に関わるため、後述する扱いを確認してから判断してください。

親鳥の側から見ると、この時期は餌を運び続ける消耗戦でもあります。飛ぶ虫だけを空中で捕らえて何度も往復するので、天候が悪い日が続くと親鳥自身も体力を削られます。子育ての失敗は、ヒナだけでなく親の寿命にも跳ね返ります。

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渡りという、年に2回の関門

ツバメの寿命を考えるうえで避けて通れないのが、渡りです。日本で標識放鳥された個体は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアといった東南アジアの国々で見つかっています。8月中旬から10月にかけて南へ向かい、3月上旬ごろから戻ってくる往復を、生きているかぎり毎年くり返します。

渡りが危険なのは、途中に休める場所や餌が保証されていないからです。飛ぶ虫を空中で捕る食性なので、海上では補給がききません。気象の急変や強い向かい風にあえば、体力の残量がそのまま生死を分けます。1年目の死亡率が80%前後と高いのは、この最初の渡りを未経験の若鳥が越えられないことが大きく効いていると考えられます。

逆にいえば、渡りを一度成功させた個体は、ルートと中継地を知っている個体です。2回目以降の渡りは初回よりも生き延びやすくなり、そこから数年間くり返し日本に戻ってくることになります。8年11か月という記録も、この積み重ねの先にあります。

渡る前には、川沿いのヨシ原などに数千羽から数万羽が集まってねぐらをつくります。9月に大きな群れを見かけたら、それは長距離移動の直前に集まっている姿です。この時期に川沿いを歩くと、寿命の話が実感を伴って見えてきます。

実は「はかない鳥」ではない|成鳥になると景色が変わる

意外と知られていないけれど、ツバメを「はかない鳥」として語るのは、数字の読み方としては正確ではありません。平均1〜2年という値は、卵からかえった1羽を出発点にした期待値です。大量に生まれて大量に失われるという生き方をしている鳥では、平均値は必ず低く出ます。

実際、繁殖に参加している成鳥だけを見れば、話は変わります。国内の記録では8年11か月まで生存が確認された個体がいますし、2番目の記録も8年9か月です。1年目を越えた個体のなかには、8シーズン以上にわたって日本と東南アジアを往復し続けた個体が確かにいたということになります。

この視点を持つと、軒下の巣の見え方が変わります。子育てしている親鳥は「あと1年しか生きない鳥」ではなく、「すでに最難関を突破した個体」です。そう思って見ると、こちらの関わり方も変わってくるはずです。

Q. 平均寿命が1〜2年なら、去年の親鳥はもういないのでしょうか?
A. 平均は生まれたヒナも含めた値なので、成鳥がすぐ入れ替わるとはかぎりません。ただし年間の平均死亡率は60〜70%程度と紹介されており、オス・メスのどちらかが翌年も同じ巣に戻ってくる確率は15%です。「同じ巣に来た=同じ個体」とは言い切れない、と考えるのが妥当なところです。

8年11か月はどう確かめた?足環がつなぐ57年分の記録

8年11か月はどう確かめた?足環がつなぐ57年分の記録の解説画像

足環に刻まれた「TOKYO JAPAN」の6文字

ツバメの最長生存期間がわかるのは、鳥類標識調査という地道な取り組みがあるからです。捕獲した野鳥に個別の番号が入った金属製の足環をつけて放し、あとで再捕獲されたり死体が見つかったりしたときに番号を照合します。足環には「TOKYO JAPAN」の文字が刻まれていて、海外で拾った人が連絡してくれることもあります。

この方法が有効なのは、鳥の年齢を外見から測ることができないからです。羽の色や大きさでは「若鳥か成鳥か」までしかわかりません。放鳥した日と回収した日という2つの確かな日付があってはじめて、「少なくとも何年何か月生きていた」と言えるようになります。

日本の標識調査は1924年に農商務省によって初めておこなわれ、戦後は1961年から農林省が山階鳥類研究所に委託して再開されました。1972年からは環境庁(現在の環境省)がこの事業を受け持っています。全国のボランティア調査員は2019年現在で約450名、最近では毎年約15万羽の鳥が標識放鳥されています。

1961年から2013年までの累計では、480種約530万羽が標識放鳥され、241種約3万3千羽が回収されました。回収率は1%に届きません。8年11か月という1行の記録の背後には、この膨大な作業があります。

289種・約4万例から選ばれた、上位2つの記録

ツバメの8年11か月という値の出どころは、吉安京子・森本元・千田万里子・仲村昇の4氏による「鳥類標識調査より得られた種別の生存期間一覧(1961‒2017年における上位2記録について)」という報告です。山階鳥類学雑誌の52巻1号21〜48ページに2020年に掲載されました。

この報告では、1961年から2017年までに回収記録として整理された289種・約4万例をもとに、種ごとに1番目(最長)と2番目の記録がまとめられています。ヒナの死亡率が高いことを考慮して、経過年月が0年6か月未満の記録は集計から省かれています。

ツバメの最長記録は、足環番号2E-76761の個体です。1993年6月9日に成鳥として標識放鳥され、2002年5月25日に回収されました。いずれも日本国内での記録です。2番目は足環番号020-75942の個体で、1976年7月3日に幼鳥として放鳥され、1985年4月20日に回収された8年9か月の記録でした。

注目したいのは、最長記録の個体が「成鳥」として放鳥されている点です。すでに1回以上繁殖できる年齢に達していた個体なので、実際の年齢は8年11か月よりさらに長かったことになります。報告でもこの個体には、実齢がさらに長いことを示す記号が付けられています。

「最長記録=その種の寿命」ではない、という但し書き

この報告には、読み手が誤解しないための但し書きが添えられています。生まれてから初回収までの期間、および最終回収後の生存期間が不明なものも含まれるため、これらのデータは必ずしもその種の寿命を表すものではない、という趣旨の注意です。

理由はシンプルで、足環のデータが教えてくれるのは「標識した日から回収した日まで」でしかないからです。回収された日に死んでいたとはかぎらず、その後も生きていた可能性があります。逆に、放鳥時にすでに何歳だったかも正確にはわかりません。つまり8年11か月は、実際の寿命の下限を示す数字だということになります。

この但し書きを飛ばして「ツバメの寿命は8年11か月です」と言い切ってしまうと、平均1〜2年という別の数字と衝突して混乱します。読むときは、「最長でこれだけ生きた個体が確認されている」という言い方に置き換えると、意味を取り違えずにすみます。

📌 押さえておきたいポイント

8年11か月という記録は、標識してから回収されるまでの経過年月です。放鳥前の年齢と回収後の生存期間はわからないため、その種の寿命そのものを表す数字ではありません。「少なくともこれだけ生きた個体がいた」と読むのが正確です。詳しくは山階鳥類研究所「日本の野鳥の最長生存期間のまとめ」報告本文(J-STAGE)で確認できます。

身近な鳥と比べる|スズメ8年1か月、ハシブトガラス19年4か月

同じ物差しで並べると、順番が見えてくる

8年11か月という数字は、単独で見てもピンときません。同じ標識調査の同じ物差しで測られた他の鳥と並べると、ツバメの位置がはっきりします。以下は先ほどの報告に載っている各種の最長生存期間を、野鳥の教科書が長い順に並べ替えた表です。

並べてみると、ツバメは身近な小鳥のなかでは決して短いほうではないとわかります。スズメの8年1か月、シジュウカラの7年11か月と比べても、記録としては上回っています。渡りをしない留鳥と比べて記録が短いわけではない、というのは意外なところです。

鳥の名前 最長生存期間 暮らし方
ハシブトガラス 19年4か月 留鳥
ハシボソガラス 16年2か月 留鳥
ヤマガラ 10年6か月 留鳥
ヒヨドリ 10年4か月 留鳥・漂鳥
ツバメ 8年11か月 夏鳥(渡り)
イワツバメ 8年11か月 夏鳥(渡り)
スズメ 8年1か月 留鳥
シジュウカラ 7年11か月 留鳥
ショウドウツバメ 7年11か月 夏鳥(渡り)
コシアカツバメ 5年1か月 夏鳥(渡り)
ヒバリ 4年3か月 留鳥・漂鳥
リュウキュウツバメ 1年3か月 留鳥

※野鳥の教科書調べ。吉安京子ほか(2020)「鳥類標識調査より得られた種別の生存期間一覧(1961‒2017年における上位2記録について)」山階鳥類学雑誌52(1)の各種の最長記録をもとに作成。

ツバメの仲間どうしでも、記録には開きがある

同じツバメ科の仲間を並べると、記録の差がはっきりします。イワツバメが8年11か月でツバメと並び、ショウドウツバメが7年11か月、コシアカツバメが5年1か月、リュウキュウツバメが1年3か月です。同じような姿と暮らし方をしていても、残っている記録はここまで違います。

ただし、この差をそのまま「寿命の差」と読むのは早計です。記録の長さは、その種がどれだけ多く捕獲・回収されてきたかにも左右されます。数多く標識された種ほど、たまたま長生きした個体が引っかかる確率が上がるためです。リュウキュウツバメの1年3か月は、南西諸島に分布が限られていて調査例が少ないことの反映と考えるのが自然です。

言い換えると、この表は「調べられた範囲での最長」を並べたものです。記録の短い種が短命だと断定はできません。数字を比べるときは、母数の違いを頭の片隅に置いておくと読み間違いが減ります。

ツバメの仲間の見分け方そのものに興味が出てきた人は、腰の色や巣の形で分ける方法をまとめた記事もあわせてどうぞ。

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体の大きい鳥ほど記録が長い、という傾向

表を上から見ていくと、ハシブトガラスの19年4か月、ハシボソガラスの16年2か月が抜けています。全長17cmのツバメと比べて、体の大きなカラス類の記録は倍以上です。鳥にかぎらず、体の大きな動物ほど長生きしやすい傾向があり、この表もその傾向をきれいになぞっています。

体が大きいと代謝がゆるやかになり、捕食者に狙われる機会も減ります。ハシブトガラスやハシボソガラスは都市部で天敵がほとんどいない立場にあり、この点でも有利です。一方の小鳥は、日々の消費エネルギーが大きく、天敵の数も多いという条件で暮らしています。

この傾向を知っておくと、庭に来る鳥の見え方が変わります。カラスが同じ縄張りに何年も居座るのに対し、小鳥は数年で顔ぶれが入れ替わる。同じ庭でも時間の流れ方が違う、と考えると観察が面白くなります。

「毎年同じ個体が来る」は本当?戻る確率15%の読み方

15%という数字が意味していること

春に巣を修理する姿を見ると、「去年と同じ夫婦が帰ってきた」と思いたくなります。ただし日本野鳥の会自然保護室の山本裕さんの解説によれば、オス・メスのどちらかが翌年も同じ巣に戻ってくる確率は15%です。7組に1組ほどの割合、と考えるとイメージしやすいでしょう。

この数字が低めに出るのは、年間の死亡率が高いことに加えて、生き延びた個体が必ずしも前年と同じ場所を選ぶとはかぎらないためです。渡りの帰り道で条件のよい場所を先に見つければ、そちらに落ち着くこともあります。「同じ巣に戻る」という行動は、確実な習性というより、条件が合ったときに起きる選択に近いものです。

とはいえ15%はゼロではありません。ツバメは前年に作った巣や壊れかけた巣の跡をベースに補修して使う傾向があるので、巣が残っていれば戻ってくる可能性はその分だけ残ります。巣を落とさずに冬を越させることは、去年の個体に再会するための現実的な条件になります。

ここでの注意点は、「同じ巣が使われた=同じ個体が戻った」と結びつけないことです。空いた良物件には別の個体が入居します。前年の巣が春に使われていても、そこにいるのが去年の鳥である確率は、15%という数字が示すとおりに高くはありません。

個体を見分けたいなら、記録の取り方を変える

「同じ個体かどうか」を自分の目で確かめたい場合、外見だけで判断するのは難しいのが正直なところです。ツバメの見分けに使えるのは、オスの尾がメスより長く見えるという性差くらいで、個体ごとの識別点は目立ちません。足環がなければ、専門家でも断定はできません。

それでも観察の精度を上げる方法はあります。飛来した日付、巣の修理を始めた日、卵を抱き始めた時期、巣立ちの日を毎年メモしておくことです。同じ巣で年ごとの日程を比べると、「今年は10日早い」といった違いが見えてきます。個体の同定はできなくても、その場所のツバメの暮らしぶりは確実に記録できます。

抱卵期間は13〜14日、ヒナの巣立ちまでは17〜22日、全体では約1か月程度が目安です。この期間を知っていれば、いつごろ巣立つかを逆算して見に行けます。春から夏にかけて2回子育てすることもあるので、1回目が終わっても巣を残しておくと2回目に出会えることがあります。

よくある失敗①|姿が見えない日を「死んでしまった」と受け取る

相談として多いのが、「数日姿を見ないので死んだのではないか」というものです。原因の多くは、観察のタイミングと鳥の行動のずれにあります。ツバメは飛ぶ虫を追って広い範囲を移動するので、天候や虫の発生状況によっては巣の周りにいない時間が長くなります。

対策はシンプルで、朝と夕方の2回、数日間に分けて確認することです。抱卵中なら親鳥が交代で巣に入るので、静かに離れた場所から見ていれば往復に気づけます。巣の中を覗き込むと親鳥が警戒して近づけなくなるため、確認したいときほど距離を取ってください。

もう1つ知っておきたいのは、子育てが終わったあとの動きです。巣立ち後のツバメは、川沿いのヨシ原などに数千羽から数万羽が集まってねぐらをつくります。8月に巣が空になったのは、多くの場合ねぐらに移動したためで、渡去に向けた通常の行動です。

🗓 観察カレンダー
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる。日本野鳥の会「ツバメってどんな鳥?」が示す「3月上旬ごろ飛来」「8月中旬から10月にかけて東南アジアへ渡る」をもとに作成。

ツバメという名前の由来や、日本で見られる仲間の呼び分けが気になった人は、こちらの記事もどうぞ。

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巣の撤去が失敗原因の約9%|人が関わるところで何が起きているか

人に起因する繁殖失敗が約9%という現実

ツバメの寿命の話は、天敵や渡りだけでは終わりません。日本野鳥の会の全国調査では、人による巣の撤去など人に起因する失敗例が約9%を占めていました。捕食の約35%、巣の落下・転落の22%に次ぐ規模で、対策のしようがある唯一の原因でもあります。

この9%が生まれる背景には、フンの汚れや騒音という現実的な事情があります。店先や玄関の真上に巣がかかると、掃除の手間が毎日発生します。「かわいそうだから残そう」という気持ちと、「毎日掃除は続けられない」という事情がぶつかったとき、巣が落とされることになります。

解決の方向は、巣を落とすことではなくフンを受けることです。巣の下に受け皿になる板や新聞紙を置いておけば、掃除は数日おきで済むようになります。ただしこの作業をするタイミングと、巣そのものに触れてよいかどうかは、次の見出しで扱う法律の話とセットで考える必要があります。

卵やヒナがいる巣は、法律の対象になる

ツバメは鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)の対象です。神奈川県の案内では、この法律によりツバメおよびツバメの卵の捕獲や採取は禁止されており、例外的に県の許可を受ければその捕獲や採取を行うことが認められる、と説明されています。

実務的に押さえるべき線引きは、巣の中に卵やヒナがいるかどうかです。卵やヒナがいる状態で巣を撤去したい場合は、県への捕獲許可申請が必要になります。一方、巣立ち後であれば、許可なく巣を取り外すことは可能とされています。「空になってからなら外せる」と覚えておくと判断しやすくなります。

取り扱いや申請の窓口は自治体によって異なるので、実際に撤去を検討する場合は、お住まいの都道府県・市区町村の担当窓口に問い合わせてください。個人ブログの解釈ではなく、自治体の案内に沿って進めるのが確実です。

負傷したツバメを見つけた場合も、扱いは慎重にする必要があります。神奈川県の案内では、人為的な要因による負傷を除き、触れずに見守るよう呼びかけられています。よかれと思って手を出す前に、まず自治体の案内を確認するのが順序です。

⚠️ 注意:必ず知っておきたいこと

卵やヒナがいる巣を撤去したい場合は、都道府県への捕獲許可申請が必要です。巣立ち後であれば許可なく取り外すことができます。判断に迷ったら、自己判断で作業する前にお住まいの自治体の担当窓口へ相談してください。詳しくは神奈川県「ツバメを見守ってください」の案内が参考になります。

街が変わると、ツバメも減る

個々の巣の話を離れて、長い時間軸で見るとどうなるか。日本野鳥の会がまとめた資料によれば、環境省の分布調査で1974〜1978年と1997〜2002年を比べると、ツバメの繁殖がかなり少なくなっていることがわかります。地域単位でも、すいた市民環境会議の調査では1998年と2010年を比べて3分の1に減少していました。

石川県では昭和47年から「ふるさとのツバメ総調査」が小学生によって続けられており、年を追うごとにツバメが減っていることが確認されています。半世紀にわたって同じ方法で数え続けている調査なので、傾向の信頼度は高いといえます。

減少の背景として指摘されているのは、都市部と過疎地域の両方で起きている変化です。都市部では子育てできる環境が減り、過疎地域では営巣そのものが減っています。全国調査では、人口が5%減った地域で営巣しなくなるメッシュ数がピークになるという関連も示されました。

1巣あたりの巣立ちヒナ数にも差が出ています。全国平均が約4羽なのに対し、市街地は平均3.8羽、市街地以外は平均4.2羽で、都市化によって約0.4羽少なくなっていました。1巣あたりの差はわずかに見えても、巣の数をかければ地域全体では大きな差になります。

ツバメの寿命を延ばす味方になる、見守りかたの手順

巣を見つけたら、順番に手を打つ

軒下に巣を見つけたとき、最初にやるべきは掃除の準備であって、巣の移動ではありません。ツバメは泥でできたおわん型の巣をつくり、前年の巣を補修して使うこともあるため、一度落とすとその場所は翌年以降も使われにくくなります。まずは共存の条件を整えるところから始めます。

具体的には、巣の真下にフン受けを置き、人の動線を少しずらすことです。玄関の真上なら、傘立てやマットの位置を数十センチ動かすだけで通行への影響が減ります。営巣期間は抱卵13〜14日、巣立ちまで17〜22日、全体で約1か月程度なので、期間限定の対応と割り切れる長さです。

観察の距離感も大切です。親鳥は人が近くにいると警戒して巣に近づけません。餌運びが止まればヒナの成長に直結するので、見たい気持ちがあるほど離れて見るのが結果的に近道になります。以下の手順を目安にしてください。

🏠 手順ステップガイド
Step1:巣の下にフン受けを置く(板や新聞紙を敷き、巣そのものには触れない)
Step2:人の動線をずらす(玄関マットや傘立ての位置を変え、巣の真下を通らずに済むようにする)
Step3:離れた場所から日付を記録する(飛来日・抱卵開始・巣立ち日をメモし、覗き込まない)
Step4:巣立ちビナを見つけても拾わずその場を離れる(親鳥が近づけるよう距離を取る)
完了! 巣を残したまま冬を越せば、翌年また使われる可能性が残ります

よくある失敗②|巣立ちビナを拾い上げてしまう

初夏に増える失敗が、地面にいるヒナを保護しようとして持ち帰ってしまうケースです。巣立ち直後のヒナはあまり動かないため、弱っているように見えます。けれども多くは正常な巣立ちの過程で、親鳥は近くで見守っています。

人がそばにいると親鳥は警戒して近づけません。「ヒナを拾わないで!!キャンペーン」では、その場を去るほうがよいと案内されています。心配な場合はヒナを近くの茂みの中に移す方法が示されており、親鳥は姿が見えなくてもヒナの声で気づくことができます。このキャンペーンは環境省の後援のもと、日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会、NPO法人野生動物救護獣医師協会が中心となって実施されているものです。

拾ってしまうと、親から餌のとり方を学ぶ機会が失われます。ツバメは飛ぶ虫を空中で捕える鳥なので、この技術を身につけられないまま放されても生き延びるのは難しくなります。1年目の死亡率が高い種にとって、この数日の学習期間は寿命に直結します。

拾わないことが、いちばん効果のある手助けになる。感覚に反しますが、公的な呼びかけが一致してこの点を強調しているのは、そのためです。

シーン別|あなたの立場でできることは変わる

庭や軒下に巣がある人は、フン受けと動線の調整に取り組むのがいちばん効果的です。人に起因する繁殖失敗が約9%を占める以上、掃除の負担を減らして巣を残す選択が、そのまま数字を動かします。巣立ち後まで巣を残せば、翌年も使われる可能性が残ります。

通勤路や駅で見かける人は、記録係になるのが向いています。ツバメは人家や商店、駅などに巣をつくるので、毎日通る場所は観察に適しています。初認日と巣立ち日をメモしておくだけで、その場所の年ごとの変化が見えるデータになります。

子どもと一緒に観察したい人は、双眼鏡で離れた場所から見る習慣を最初に教えてあげてください。石川県の総調査が小学生の手で半世紀続いているように、子どもの観察は積み重なると価値のある記録になります。触らない・覗き込まないというルールを先に共有しておくと、安心して見守れます。

Q. 巣の下が汚れて困ります。撤去してもよいですか?
A. 卵やヒナがいる状態での撤去には都道府県への捕獲許可申請が必要です。巣立ち後であれば許可なく取り外せます。子育ての期間は抱卵13〜14日、巣立ちまで17〜22日、全体で約1か月程度なので、その間はフン受けで対応し、空になってから判断するのが現実的です。詳しい手続きは自治体の窓口へご相談ください。

まとめ|数字を知ると、春の1羽の見え方が変わる

🐦 この記事の結論

ツバメの寿命は1〜2年未満とされ、国内の最長記録は8年11か月です。軒下の巣を残し、ヒナを拾わないことが手助けになります。

✅ 要点チェック
  • 平均寿命:1年から2年未満とされる
  • 最長記録:足環調査で8年11か月
  • 短命の理由:1年目の死亡率が80%前後
  • 再訪の確率:同じ巣に戻るのは15%
  • 人の影響:繁殖失敗の約9%が人由来

ツバメの寿命をめぐる数字は、一見するとばらばらに見えます。けれど「平均1〜2年未満」は生まれたヒナを含めた集団の期待値、「8年11か月」は足環で確認された生存期間の最長記録、と役割を分けて読めば、矛盾なく1つの絵になります。年間の平均死亡率が60〜70%程度という厳しい条件のなかで、それでも8シーズン以上を生き抜いた個体が確かにいた。そう考えると、春に軒下へ戻ってきた1羽の見え方が変わってきます。

最初の一歩としておすすめしたいのは、来年の春に初めてツバメを見た日をメモすることです。日付を1つ残すだけで、その場所の記録が始まります。石川県で小学生が半世紀続けてきた調査も、始まりは同じ1行だったはずです。

※各調査の数値は公表時点のものです。制度や手続きの詳細は変わることがあるため、巣の撤去などを検討する際は最新情報を自治体の公式サイトでご確認ください。

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野鳥の教科書編集部です。テーマに関する基礎知識や選び方を、公式情報など確認できる情報をもとに編集しています。掲載後も定期的に見直し、変更があれば更新します。

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