庭の木に巣箱をかけたのに、二年たっても誰も入ってくれない。ホームセンターで買った巣箱をベランダに置いてみたけれど、鳥が近づく気配すらない。巣箱を用意した人の多くが、同じところでつまずいています。
結論からお伝えすると、巣箱に鳥が入るかどうかを分けているのは、木材の種類でも見た目の可愛さでもなく、出入り口の穴の直径・箱の寸法・かける時期・かける場所の4つです。しかもこの4つには、公的機関の資料や研究論文で数値まで示された「正解の範囲」があります。穴の直径がほんの数mm違うだけで、入居する鳥の種類が入れ替わることまでわかっているのです。
この記事では、東京都環境局の巣箱資料と、全国のゴルフ場に架けられた1,392個の巣箱を測った研究データをもとに、鳥が入る巣箱の条件を数字で整理します。作り方の細部、かけたあとにやってはいけないこと、そして鳥獣保護管理法にふれる注意点まで、順番にたどっていきましょう。
この記事でわかること
・シジュウカラを呼びたいときの穴の直径と、スズメとの分かれ目になる数値
・鳥種別の巣箱の寸法(高さ・奥行き・幅・穴の位置)の早見表
・巣箱をかけるベストシーズンと、地面からの高さ・入口の向き
・卵やヒナが入ったあとに守るべき法律とマナー
巣箱に鳥が入るかどうかは、穴の直径でほぼ決まる
巣箱づくりで最初に決めるべきなのは、箱の大きさではなく出入り口の穴の直径です。ここが数mmずれるだけで、入ってくる鳥がまるごと変わります。
29.0mmを境に、住人がシジュウカラからスズメへ入れ替わる
穴の直径には、種を分ける境目があります。峯岸典雄氏がStrix 12:201-204(1993)で報告した調査では、全国のゴルフコースに架けられた巣箱のうち、穴の直径を測定できた1,392個を分析した結果、29.0mmを境に、29.0mm未満はシジュウカラ類の使用率がスズメよりも高く、29.0mm以上はスズメの方がシジュウカラ類よりも高かったと示されています。
なぜ境目ができるのかというと、体の大きさが違うからです。スズメはシジュウカラよりも体つきががっしりしていて、通り抜けられる穴の下限が大きい。つまり穴を小さくすることは、シジュウカラにとっては「入れる家」を残しながら、スズメにとっては「入れない家」にするフィルターとして働きます。
この研究がおもしろいのは、同じ「30mm穴」として作られた巣箱でも、実測すると最大31.76mm、最少26.86mmまでばらついていた点です。加工の誤差だけで、シジュウカラ寄りの家にもスズメ寄りの家にもなってしまう。手作りするなら、ドリルの刃を当てたあとにノギスや定規で穴を測り直す一手間が、そのまま入居者を選ぶ作業になります。
意外と知られていないけれど、この調査の全体の使用率は、シジュウカラ類が40.4%(563個)、スズメが42.4%(590個)、不使用が17.2%(239個)でした。「シジュウカラ用」と呼ばれる標準の穴は、実際にはスズメにもほぼ同じ割合で使われているのです。シジュウカラを呼びたいのにスズメが入った、という話は失敗ではなく、この数字どおりの普通の出来事だと知っておくと気が楽になります。
巣箱の穴の大きさの違いによるシジュウカラ類とスズメの使用状況の違い(Strix 12:201-204、1993)
小鳥用の標準は直径2.7〜3.0cm。まずここから外れない
手作りでも既製品でも、最初に狙うべき穴の直径は2.7〜3.0cmです。東京都環境局が公開している巣箱資料では、シジュウカラ・スズメ用の巣箱の出入り口の直径を2.7〜3.0cmとしています。この範囲なら、シジュウカラ、ヤマガラ、スズメといった身近な小鳥が候補に入ります。
この数字を「小さすぎないか」と感じる人は多いはずです。手のひらに乗るくらいの小鳥でも、羽をたたんだ状態で通り抜ける穴は、大人の親指がようやく通るくらいの大きさで足ります。狭い入口は、体が大きい鳥やヘビ・ネコの前足が入りにくいという防御にもなっていて、鳥にとっては安心材料そのものです。
具体的な作業としては、自在錐やホールソーで一発で開けるのが確実です。ジグソーで切り抜くと縁が波打ち、実寸が0.2〜0.3cmふくらむことがあります。開けたあとは紙やすりで縁のささくれを落としておくと、出入りのたびに親鳥の羽が傷むのを防げます。
注意したいのは、穴の内側を面取りしすぎないことです。入口を斜めに削って広げると、外から見た直径は正しくても、板の内側では実質的な直径が大きくなり、狙っていた種のフィルターが効かなくなります。削るのは角を丸める程度にとどめましょう。
4.0〜6.0cmに広げると、そこはムクドリの部屋になる
穴を大きくすれば大きな鳥も来る、というのは半分正解です。東京都環境局の資料では、ムクドリ用の巣箱の出入り口の直径を4.0〜6.0cmとしています。この大きさにすると、シジュウカラより体の大きなムクドリが利用の対象に入ってきます。
ただし、これは「小鳥もムクドリも来る巣箱」にはなりません。穴が大きい箱は体の大きい鳥に有利で、小鳥は競争に負けて使わなくなるからです。前述の研究でも、シジュウカラ類とスズメが混在する場所では、スズメが29.5〜30.0mmの穴のあいた巣箱を使用し、シジュウカラ類はそれ以外の巣箱を利用していた、と報告されています。数mmの差でも、鳥は住み分けの材料にしているわけです。
この論文は「両種を共存させるのか、どちらか一方だけを誘置するのか、はっきりと目標を明確にしたうえで、設置する巣箱の穴の大きさを設定する必要がある」と締めくくっています。庭に巣箱をかけるときも同じで、まず「誰に来てほしいのか」を先に決める。それが決まれば、穴の直径は自動的に決まります。
豆知識として、ムクドリは集団でねぐらをつくる性質があり、住宅地では鳴き声やフンが生活と衝突しやすい鳥でもあります。庭にムクドリ用の大きな巣箱をかけるかどうかは、周囲の環境と相談してから決めるのが現実的です。
「大きめに開けておけば安心」が、最初の失敗パターン
巣箱づくりでいちばん多い失敗が、迷ったときに穴を大きめに開けてしまうことです。「小さくて入れなかったらかわいそう」という気持ちはよくわかります。けれども結果として起きるのは、狙っていた小鳥が来ないまま、体の大きな鳥に先に占領されるという展開です。
原因は、穴の直径が「入れるかどうか」ではなく「誰が優位に立つか」を決めているからです。小さな穴は小鳥にとっての安全装置であり、大きな穴はその安全装置を外す行為にあたります。0.5cm広げただけで、巣箱の性格は変わってしまいます。
対策はシンプルで、迷ったら小さい方に寄せることです。2.7〜3.0cmの範囲なら、まず2.7cm前後で開けてみる。一年たっても誰も来なければ、翌年の秋の架け替えのときに穴の大きい箱へ交換すればいい。穴は広げるのは簡単でも、狭めるのは難しい。順番を間違えないことが、そのまま入居率につながります。
もうひとつ、既製品を買うときは商品名ではなく実寸を確認してください。同じ「小鳥用」の名前でも、直径の表記は製品によって差があります。届いたら定規で測る。それだけで、翌シーズンの結果が変わります。
1cmの違いで空き家になる、箱そのものの寸法
穴が決まったら、次は箱の寸法です。ここも感覚で決めると外します。高さ、奥行き、幅、そして穴の位置には、鳥の種類ごとに目安の範囲があります。
シジュウカラ・スズメ用は高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm
小鳥用の巣箱は、思っているよりも小さい箱です。東京都環境局の資料によれば、シジュウカラ・スズメ用の巣箱は高さ18〜23cm、奥行き・幅が12〜15cmとされています。ティッシュ箱を縦に立てたくらいの大きさをイメージすると近いでしょう。
この寸法には理由があります。巣の中は親鳥とヒナの体温で温められる空間なので、広すぎると熱が逃げてしまう。逆に狭すぎるとヒナが育つにつれて身動きが取れなくなります。18〜23cmという範囲は、その両方の折り合いがつく高さです。
作るときは、板の厚みを内寸で計算に入れてください。厚さ1.5cmの杉板で幅15cmの箱を作ると、外寸15cmなら内寸は12cmになります。設計図の数値が外寸か内寸かで、できあがりは1割近く変わります。図面を引く段階で、どちらの数値なのかをメモしておくと迷いません。
材料は、雨に強く断熱性のある無垢の板が扱いやすい素材です。合板は接着層が湿気ではがれることがあり、屋外で数年もたせるには向きません。ペンキで内側まで塗るのも避けたほうが無難で、においが残ると鳥が近寄らなくなります。
出入り口までの高さ15cmが、ヒナの命綱になっている
意外に見落とされるのが、穴の位置です。東京都環境局の資料では、シジュウカラ・スズメ用の巣箱で、底から出入り口までの高さを15cmくらいとしています。箱の上のほうに穴を開ける、という意味です。
この高さが効いてくるのは、外敵が来たときです。穴が低い位置にあると、外から手や前足を差し入れたときに巣の中まで届いてしまう。逆に穴と巣材のあいだに15cmほどの落差があれば、カラスやネコが上からのぞき込んでも、底にいるヒナには届きにくくなります。
もうひとつ、巣立ちの練習にも関わります。孵化から2週間以上たったヒナは、この15cmの壁を自力でよじ登って出入り口まで到達します。これが巣立ち前の運動になっている、と考えると、内側の壁をつるつるに仕上げすぎないほうがよいこともわかります。あえてノコギリの跡を残す、内壁に横向きの浅い溝を数本入れる、といった工夫が足がかりになります。
ムクドリ用では出入り口までの高さは18〜23cmとされ、箱が大きくなるぶん落差も大きく取ります。鳥の大きさに応じて、この落差も一緒にスケールさせるのが基本です。
ムクドリ用は高さ28〜40cm。同じ設計図では作れない
大きな鳥を対象にすると、寸法は一気に変わります。ムクドリ用の巣箱は高さ28〜40cm、奥行き・幅は15〜18cmが目安です。小鳥用の設計図の穴だけを広げても、ムクドリ用の巣箱にはなりません。
理由は単純で、ヒナが育ったときに必要な床面積と高さが違うからです。体の大きな鳥のヒナが数羽並ぶには、小鳥用の12〜15cm四方では足りません。無理に狭い箱を使わせると、ヒナが押し出されるかたちで落下する事故につながります。
取り付ける高さも変わります。地面からの高さは、シジュウカラ・スズメ用が3m前後、ムクドリ用が4〜5mとされています。脚立の高さや、あとから掃除に上がれるかどうかまで含めて、設置場所を先に決めてから箱を作るほうが失敗しません。
ここでの注意点は、大きな箱ほど重くなることです。板厚1.5cmで高さ40cmの箱を作れば、雨を吸った状態で数kgに達します。細い枝にかけると、ヒナが育ちきる前に枝ごとしなって傾く。太い幹か、しっかりした支柱を選んでください。
鳥種別の巣箱サイズ早見表
ここまでの数値を、鳥の種類ごとに並べ直しておきます。東京都環境局が公開している巣箱資料の数値を、野鳥の教科書が作業しやすい順に整理したものです。設計図を引くときや、既製品を選ぶときの照合表として使ってください。
| 比較項目 | シジュウカラ・スズメ用 | ムクドリ用 |
|---|---|---|
| 高さ | 18〜23cm | 28〜40cm |
| 奥行き・幅 | 12〜15cm | 15〜18cm |
| 出入り口の直径 | 2.7〜3.0cm | 4.0〜6.0cm |
| 出入り口までの高さ | 15cmくらい | 18〜23cm |
| 地面からの高さ | 3m前後 | 4〜5m |
表の出典は東京都環境局「巣箱教室」です。5項目のうち1つでも大きく外れると入居率は落ちるので、作る前・買う前にこの表と突き合わせるのが近道になります。
かけるのは春じゃない。秋から冬が正解の理由
「春になったから巣箱をかけよう」。この順番が、じつは入居しない最大の原因になっていることがあります。鳥の一年のスケジュールに合わせると、答えは半年ずれます。
繁殖は3月〜5月ごろ。だから前の年の秋にかける
野鳥の繁殖は3月〜5月ごろにはじまります。だから巣箱を設置するのは、それよりも前、秋から冬にかけて行うのが適しています。キヤノンのバードブランチプロジェクトが野鳥の専門家の監修のもとで公開している解説でも、この時期が推奨されています。
理由は、鳥が新しい構造物を警戒するからです。昨日まで無かった木箱が枝についていれば、鳥は当然そこを避けます。秋のうちにかけておけば、冬のあいだに「前からそこにある景色の一部」として認識され、春の巣探しの候補に入ります。
具体的な目安としては、10月から12月のあいだに設置を終える段取りが組みやすいでしょう。木の葉が落ちて枝ぶりが見えるので、取り付け位置も選びやすくなります。庭仕事の予定に「秋に巣箱」と書き込んでおくと、翌春の結果が変わってきます。
注意点は、秋にかけたからといってすぐ反応がなくても落胆しないことです。鳥が巣箱を認識してから実際に営巣するまでには、季節をひとつまたぐ時間がかかります。かけた直後の反応で判断するものではありません。
冬のあいだ、巣箱は「ねぐら」として下見されている
秋にかける利点はもうひとつあります。冬の巣箱は、寒さをしのぐねぐらとして使われることがあるからです。木の洞で眠る習性のある小鳥にとって、乾いた木箱は風を避けられる場所になります。
この「ねぐら利用」が起きると、翌春の営巣につながりやすくなります。一度でも中に入って安全だと確認できた場所は、巣を作る候補としての順位が上がるからです。冬に巣箱の入口まわりにフンの汚れがついていたら、誰かが泊まっている証拠として観察を続けてみてください。
見分け方としては、朝と夕方に注目します。日没の少し前に鳥が入っていき、翌朝に出てくるようなら、ねぐらとしての利用です。営巣の場合は日中に巣材をくわえて何度も往復するので、動きのパターンがはっきり違います。
豆知識として、この時期は中をのぞきたくなりますが、冬でも開けるのは控えめに。せっかく安全だと判断してもらったのに、人の手が入る場所だと学習されると、翌春の候補から外れてしまいます。
春に間に合わなかったときは、どう考えるか
春先に巣箱を思い立った場合はどうするか。答えは「かけてもいいが、その年に入る前提では考えない」です。かけること自体に害はありませんし、その年のうちに使われる可能性もゼロではありません。
そのうえで、春に設置するなら位置決めを丁寧にしてください。秋にかけ直すつもりで仮止めにしておき、夏のあいだに日当たりや人の動線を観察して、秋に本設置する。この二段構えにすると、一年を無駄にせずに済みます。
また、すでに巣作りが始まっている時期に、既存の巣箱を動かしたり掃除したりするのは避けます。営巣中の巣箱に手を入れると、親鳥が巣を捨ててしまうことがあるためです。春から夏は「見るだけ」の季節と割り切りましょう。
失敗しがちなのは、春に反応がないからと夏のあいだに何度も場所を変えてしまうことです。移動のたびに鳥にとっては「新しい構造物」に戻ってしまい、いつまでも景色になじみません。動かすなら年に一度、秋にまとめて。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ○ | △ | △ | △ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
◎=設置・掃除・架け替えの適期 ○=作業してよい時期 △=繁殖期にあたるため手を出さない
入居率を左右するのは、高さと向きとまわりの枝
同じ巣箱でも、かける場所で結果は変わります。ここは道具ではなく段取りの話なので、今日からでも直せる部分です。
地面から2m以上、シジュウカラなら3m前後を狙う
取り付ける高さの下限は、地面から2メートル以上です。シジュウカラ・スズメ用なら3m前後、ムクドリ用なら4〜5mが目安になります。低い位置は、それだけで候補から外れます。
理由は外敵です。地面に近い巣箱は、ネコやヘビが到達しやすく、鳥にとってリスクの高い物件になります。高さを稼ぐことは、そのまま安全性能を上げることに直結します。
具体的には、脚立を使わずに手が届く高さは低すぎると考えてください。大人が背伸びして指先が届くあたりが約2mです。作業のしやすさを優先して低くかけたくなりますが、そこは我慢のしどころになります。
逆に、高すぎるのも考えものです。掃除や架け替えのたびに高所作業になるため、脚立で安全に届く範囲に収めるのが現実的な落としどころ。3m前後という目安は、鳥の安全と人の作業性が両立する高さでもあります。
入口はやや下向きに。雨と直射日光を同時に避ける
取り付ける角度にもコツがあります。入口をやや下に向けるのがポイントです。垂直に立てるのではなく、ほんの少しだけ前かがみにするイメージです。
これは雨対策です。入口が上を向いていると、吹き込んだ雨が箱の中にたまり、巣材が濡れて体温を奪われます。わずかに下を向いていれば、雨は入口の縁で切れて内部まで届きません。
向きについては、強い西日と風が当たる面を避けるのが基本です。夏の直射日光が当たり続けると、木箱の内部は蒸し風呂のような環境になります。落葉樹の枝の下や、建物の陰になる面を選ぶと安定します。
注意点は、傾けすぎないこと。大きく前傾させると、ヒナが出入り口の縁からのぞき込む姿勢になり、落下のリスクが上がります。傾きは「わずかに」で十分です。
出入り口のそばの枝が、ヘビ・ネコ・カラスの足場になる
設置場所で最も多い失敗が、出入り口のすぐ前に枝や止まり木を用意してしまうことです。親鳥がとまりやすいように、という親切心が裏目に出ます。
東京都環境局の資料でも、出入り口付近の枝は小鳥の敵であるヘビ・猫・カラスの足場になってしまう、と「鳥が嫌がる例」として図解されています。人にとっての親切が、外敵にとっての足場になるという構図です。
対策は、出入り口の正面と真上を空けておくこと。市販の巣箱に止まり木がついている場合は、外してしまってかまいません。シジュウカラやスズメは垂直な板にしがみついて出入りできるので、止まり木がなくても困りません。
あわせて、幹をつたって登ってくるルートも見ておきます。巣箱の下に太い横枝がある、隣の物置の屋根から飛び移れる、といった経路があると、高さを稼いだ意味が薄れます。設置前に、外敵の目線で一度見上げてみてください。
取り付けはシュロ縄で、上下2か所を固定する
固定方法は、幹を傷めないシュロ縄などのひもを使い、上下2か所で結ぶのが基本です。1か所だけだと風で回転し、入口の向きが変わってしまいます。
釘を幹に直接打つ方法は、木を傷つけるうえ、成長とともに食い込んでいきます。庭木を長く育てるつもりなら、ひもで縛る方式のほうが結果的に手間がかかりません。ひもは1年ほどで劣化するので、秋の掃除のタイミングで結び直します。
箱の背面に背板や添え木を取り付けておくと、木にかけたときに巣箱が安定します。丸い幹に平らな箱をあてると点でしか接しませんが、縦に添え木を入れると面で支えられるようになります。
作りの細部で差がつく、4つの小さな仕掛け
寸法が同じでも、細部の処理で巣箱の寿命と居心地は変わります。東京都環境局の資料が挙げている作り方のポイントを、順に見ていきます。
底板の水抜き穴が、巣材の湿りを防ぐ
底板には水抜き穴を小さく開けておきます。こうすると水が入っても排水されるからです。四隅を斜めに落とすか、直径0.5cmほどの穴を数か所開ければ足ります。
なぜ必要かというと、どれだけ雨対策をしても、横なぐりの雨や結露で内部に水分が入るからです。逃げ道がないと底に水がたまり、巣材が湿って乾かなくなります。湿った巣材はヒナの体温を奪い、カビの温床にもなります。
作業としては、四隅を数mm切り落とすかたちが手軽です。真ん中に大きな穴を開けると巣材がずり落ちるので、小さい穴を分散させるのがコツになります。
注意したいのは、穴を開けたことで安心して雨ざらしの場所に設置してしまうことです。水抜きはあくまで保険で、そもそも雨のかかりにくい位置を選ぶのが先。順番を逆にしないでください。
ひさしは、長すぎると出入りの邪魔になる
屋根のひさしは光や風雨を防ぎますが、長すぎると鳥の出入りの邪魔になります。東京都環境局の資料も、箱に直角だと風雨避けの役割を果たさないので注意、と補足しています。
ここが感覚に頼ると外れる部分です。深くすれば守れる気がしますが、鳥は入口の手前でいったんホバリングしたり、板にしがみついてから入ったりします。ひさしが張り出しすぎていると、その動作が取れません。
目安としては、入口の上に2〜3cmほど張り出す程度から試すとよいでしょう。屋根板を前後に長めに取り、前側を少し出す設計にすると、雨も日差しも切れて出入りも妨げません。
豆知識として、屋根は少し勾配をつけると水はけがよくなり、板の反りも出にくくなります。前を低く、後ろを高くする。それだけで雨が前に流れ、入口の縁で切れてくれます。
掃除のために、箱のどこかを開閉式にしておく
観察や掃除がしやすいように、箱の一部を開閉式にしておきます。横板を開閉式にする場合はちょうつがいととめ金を付け、屋根を開閉式にする場合は重なる2か所にクギ穴を開ける、という作り方が示されています。
これは巣箱の寿命に直結します。開かない巣箱は掃除ができず、古い巣材がたまって数年で使われなくなります。開閉式にしてあれば、秋に開けて中身を出し、また閉じるだけで翌年も現役です。
作るときのコツは、開く面を「側面」にすることです。屋根を開くタイプは雨仕舞いが難しく、すき間から水が入りやすくなります。側面が開けば、脚立の上からでも片手で作業できます。
注意点は、とめ金の固さです。ゆるいと風や外敵の力で開いてしまい、固すぎると掃除のたびに巣箱ごと揺らすことになります。手で少し力を入れれば外れる程度に調整しておくと、作業が安全になります。
背板と添え木が、巣箱を「揺れない家」にする
巣箱の背には背板や添え木を取り付けると、木にかけたときに巣箱が安定します。ここを省くと、風のたびに箱が揺れ、鳥にとって落ち着かない場所になります。
丸い幹は、平らな箱と点でしか接しません。背面に縦の角材を2本入れて幹に沿わせると、接地が線になり、ひもで縛ったときの締まり方も変わります。地味な部品ですが、効果は分かりやすく出ます。
具体的には、背板の上下を箱より少し長く作っておくと、その出っ張り部分にひもをかけられて固定が楽になります。作業性まで含めて設計しておくのが、長く続けるコツです。
作りの細部で押さえるのは4つだけです。①底板に小さな水抜き穴を分散させて開ける ②ひさしは張り出しすぎず、屋根に前下がりの勾配をつける ③側面か屋根を開閉式にして毎年掃除できるようにする ④背板・添え木で幹に面で沿わせて揺れを止める。どれも材料費はほとんどかからず、巣箱の寿命を数年単位で延ばします。
鳥が入ったあとに、やってはいけないこと
ここからは、巣箱に鳥が入ってからの話です。うれしくてつい手を出したくなる場面ですが、法律とマナーの両方が関わってきます。
のぞきすぎると、親鳥は巣を捨てることがある
入居が確認できたあと、いちばんやってはいけないのが、中をのぞきに行くことです。日本野鳥の会が示すフィールドマナー「や・さ・し・い・き・も・ち」の最後の「ち」は、近づかないで、野鳥の巣。子育ての季節、親鳥はとくに神経質になるもので、巣を捨ててしまうことがあると説明されています。
理由は、親鳥にとって人の接近が捕食者の接近と区別できないからです。巣の場所が外敵に知られたと判断すれば、卵やヒナを残して別の場所へ移るという選択が起こりえます。人にとっては数分の観察でも、鳥にとっては巣を諦める判断材料になります。
観察したいときは、距離を取ることです。窓の内側から双眼鏡で見る、巣箱から離れた場所に椅子を置いて座る。親鳥が巣箱の手前で入るのをためらっていたら、それは近すぎるサインです。そっと下がりましょう。
フィールドマナーの7項目は、や=野外活動、無理なく楽しく/さ=採集は控えて、自然はそのままに/し=静かに、そーっと/い=一本道、道からはずれないで/き=気をつけよう、写真、給餌、人への迷惑/も=持って帰ろう、思い出とゴミ/ち=近づかないで、野鳥の巣、の順に並んでいます。庭の巣箱でも同じ姿勢がそのまま当てはまります。
卵やヒナが入った巣は、許可なく撤去できない
「思っていた鳥と違うから外したい」「場所を変えたい」。そう思ったときに、確認しておくべき法律があります。環境省の説明では、狩猟により捕獲する場合を除いて、鳥獣又は鳥類の卵については、その捕獲、殺傷又は採取が禁止されています。
これは巣箱にも及びます。東京都環境局は、巣のみを撤去することについては特別な許可は必要ないが、卵またはヒナを含めた野生鳥獣は許可なく捕獲・殺傷することができない、と整理しています。つまり、中に卵やヒナがあるあいだは手を出せません。ヒナが巣立つまで待つ必要があり、1か月ほど要するとされています。
鳥獣保護管理法により許可なく野鳥を捕獲・殺傷すること、飼うことは禁止されており、違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。「かわいそうだから育ててあげよう」という気持ちであっても、許可なく飼うことは認められていません。
捕獲等の許可権者は環境大臣または都道府県知事で、許可が認められるのは生態系被害の防止、農林水産業への被害対策、学術研究上の必要性がある場合とされています。庭の巣箱で困りごとが起きたときは、自分で判断せず、お住まいの自治体の野生生物担当窓口に相談するのが確実です。
巣箱の下にヒナが落ちていても、拾わない
春から夏は野鳥の繁殖シーズンで、この時期には地面に落ちて迷子になったように見えるヒナを見かけることが増えます。巣箱をかけていれば、その下で出会う可能性もあります。それでも、拾わないのが原則です。
東京都環境局は、巣立ちビナの大半は拾う必要がない元気なヒナであり、近くに姿が見えなくても、親鳥は必ずヒナのもとへ戻って世話をする、と説明しています。人が抱き上げてしまうと、親鳥は警戒して近づけなくなり、かえって親子を引き離すことになります。
見分け方としては、羽が一通り生えそろい、しっかり立って歩けるようなら巣立ち後のヒナです。うまく飛べないのは、まだ練習中だから。数日かけて飛べるようになります。
道路上など危険な場所にいる場合や、ネコに襲われそうな状況であれば、近くの木の枝や茂みにそっと移すという対応が案内されています。持ち帰るのではなく、その場の少し安全な位置へ動かす。判断に迷ったら、自治体の窓口に連絡してください。
巣箱に卵やヒナが入っているあいだは、中をのぞくことも、箱を動かすことも、撤去することもできません。鳥獣保護管理法により許可なく野鳥を捕獲・殺傷すること、飼うことは禁止されており、違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。落ちているヒナを見つけても持ち帰らず、判断に迷う場面ではお住まいの自治体の野生生物担当窓口に相談してください。
入らなかった年をムダにしない、秋の手入れと見直し
一年待って空き家だった。その結果は失敗ではなく、情報です。秋に何をするかで、翌年の確率は上げられます。
まず疑うのは穴の直径ではなく、場所と静けさ
入居がなかったとき、多くの人は最初に穴の直径を疑います。ただ、寸法が東京都環境局の目安の範囲に収まっているなら、次に見るべきは設置環境のほうです。
チェックする順番は、①地面から2m以上あるか ②出入り口の正面と真上に枝や足場がないか ③人が一日に何度も通る動線上にないか ④西日と強風を受けていないか、の4つ。どれか1つでも引っかかれば、そこが原因の候補になります。
とくに見落とされがちなのが③です。物干し場のすぐ横、玄関の真上、駐車場に面した幹など、人の気配が続く場所は鳥にとって落ち着けません。庭の中で「自分があまり行かない一角」を選び直すだけで、結果が変わることがあります。
そのうえで、それでも二年続けて入らなければ、穴の直径を見直します。順番を守ることで、何が効いたのかがわかるようになります。
翌年の秋に、巣材を出して熱湯消毒と補修をする
使われた巣箱も、使われなかった巣箱も、翌年の秋には必ず中の巣材を取り出し、掃除・補修をして架け替えます。これを毎年続けるかどうかで、巣箱の寿命がまったく変わります。
手順は、中の巣材を取り除き、できれば熱湯消毒をしたうえで、板の「割れ」や釘等の「ゆるみ」を補修します。クモの巣・ハチの巣なども取り除いておきます。巣材には寄生虫が残ることがあるので、古い巣を残したままにしないのが基本です。
宮城県は、掃除の時には中に何がいるか分からないので「軍手」をつけ、ケガ等には十分注意して行ってください、と呼びかけています。開ける前に軽く箱を叩き、中の気配を確かめてから開けるようにすると安全です。
補修のときに、ひもの劣化も一緒に見ておきます。シュロ縄は一年で傷むので、掃除と結び直しをセットにする。この作業を10月から12月のあいだに終えておけば、そのまま翌春の準備が整います。
宮城県「巣箱の掃除をしよう!!」/キヤノン バードブランチプロジェクト「野鳥のための巣箱設置方法」
住まいのタイプ別に、現実的な落としどころを決める
巣箱との付き合い方は、住環境で変わります。自分の条件に合った目標を先に決めておくと、うまくいかない年も納得できます。
庭に木がある戸建てなら、教科書どおりが狙えます。幹の3m前後にシジュウカラ・スズメ用をかけ、秋に掃除して架け替える。落葉樹の枝の下は、夏の日差しを避けつつ冬は光が入るので、条件として噛み合います。
ベランダや壁面しかない住まいでは、高さと静けさの両立が難しくなります。洗濯物やエアコン室外機の動線と重なる場所は避け、人の出入りが少ない側の壁面に限定して考える。集合住宅では共用部の扱いや管理規約の確認も必要になるので、設置前に管理者へ相談してください。
別荘や畑、里山の敷地を使えるなら、複数個をかけて比較するのが向いています。同じ日に、条件だけ変えた巣箱を2〜3個かけておくと、翌年に「どの条件が効いたか」がわかります。前述の研究のように、数を並べてはじめて見えてくる傾向もあります。
学校や職場の敷地では、観察の主役が人になりがちです。のぞき込む人が増えるほど営巣は難しくなるため、巣箱から距離を取った観察ポイントを最初に決めておくと、鳥にも人にも無理がありません。
入居後の一年を、どう見届けるか
入居が始まったあとの流れを知っておくと、待つ時間が楽しくなります。北海道大学の研究室が公開しているシジュウカラの観察記録によれば、巣作りはコケを敷き詰めることから始まり、その後シカの毛などの獣毛を使って卵を産むための産座を作ります。
巣作りは長くて2週間ほどですが、季節が進むと1日で完成させてしまうこともあるそうです。卵は1日に1個ずつ産んでいき、卵数は平均で10個。産み終えてから抱卵が始まり、2週間ほどで雛が孵化します。
孵化から巣立ちまでの期間は平均で17日で、巣立ちは朝に多いとされています。つまり、巣材を運ぶ姿を見てから巣立ちまでは、およそ1か月半ほどの物語ということになります。この期間、こちらがやるべきことは「近づかない」だけです。
巣立ったあとも、しばらくは巣箱の周りに家族で滞在することがあります。掃除に手をつけるのは、その気配が消えてから。秋まで待てば確実です。
まとめ:巣箱に鳥を呼ぶために、今日決めるべきこと
巣箱づくりは、いきなり完璧を目指す必要はありません。今日の最初の一歩としておすすめしたいのは、「誰に来てほしいか」を一つだけ決めることです。シジュウカラなら穴は2.7〜3.0cmで小さめに寄せ、箱は高さ18〜23cm、奥行き・幅12〜15cm、底から出入り口までは15cmくらい。この数値が決まれば、材料の買い出しも既製品選びも一本道になります。あとは秋のうちに、人があまり通らない幹の3m前後へ、出入り口の前を空けてかけるだけ。春に反応がなくても、その巣箱は冬のねぐらとして下見されているかもしれません。翌年の秋に巣材を出して掃除し、同じ場所へ架け直す。この一年サイクルを二、三度まわしたころ、コケをくわえた小鳥が出入りする朝が来ます。
※法律の運用や自治体ごとの対応、公的機関が示す推奨内容は変わることがあります。実際に設置・撤去を判断する際は、環境省およびお住まいの自治体の公式サイトで最新情報をご確認ください。
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