10月の終わり、軒先の巣がいつの間にか空っぽになっている。夏のあいだ毎日のように出入りしていた鳥の声が聞こえなくなって、「あの子たちは今どこにいるんだろう」と気になったことはありませんか。玄関先で子育てを見守った人ほど、季節が変わったあとの行方が気になるものです。
結論から言うと、日本で繁殖したツバメの大半は、秋のうちに南へ移動してフィリピンやインドネシア、マレーシア、ベトナムといった東南アジアで冬を過ごします。日本から2000km以上離れた土地で足環のついた個体が見つかっており、これは環境省が山階鳥類研究所に委託して行っている鳥類標識調査によって科学的に確かめられた事実です。
ところが話はそれだけでは終わりません。南へ行かずに日本に残る個体がいて、「越冬ツバメ」と呼ばれています。九州の宮崎県・鹿児島県では冬でも普通に見られ、近年は記録される場所が北へ広がってきました。この記事では、渡りの行き先と時期、日本に残る個体の暮らしぶり、冬に見かけた燕形の鳥を見分けるコツまで、公的機関や調査団体が公開している情報をもとに整理します。
・日本のツバメは8〜9月に南へ動き、東南アジアで冬を越す
・行き先は足環に刻まれた「TOKYO JAPAN」の文字から判明した
・南へ行かず日本に残る「越冬ツバメ」がいて、九州では珍しくない
・冬に見た燕形の鳥は、イワツバメの群れである可能性も高い
ツバメは冬どこへ行く?答えは2000km先の東南アジア

8〜9月、巣が空になったあとに始まっている移動
軒先の巣が使われなくなるのは、ツバメが姿を消したからではなく、南への移動が始まっているからです。日本のツバメは3月初旬から5月にかけて渡来し、8〜9月には南へ向けて動き出します。子育てが終わるとすぐに旅立つのではなく、河川敷のヨシ原などに集まって群れをつくり、体力を整えてから移動していきます。
この時期に「巣にいないから、もう渡ってしまった」と考えるのは早計です。繁殖のピークは第1回目が5月、第2回目が7月で、1シーズンに1〜3回子育てをします。7月に産んだ卵から育ったヒナは、孵化まで約2週間、巣立ちまで3週間ほどかかるため、8月下旬になってもまだ親から給餌を受けている個体がいます。巣が静かになっても、近くの電線や川原に群れがいることは珍しくありません。
夕方に川沿いを歩いてみると、上空を旋回する数十羽の群れに出会えることがあります。巣の中を覗き込むより、周辺の空を見上げるほうが、この時期のツバメには出会いやすいと言えます。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △ | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | △ |

◎=よく見られる(もっとも観察しやすい時期) ○=見られる △=まれに見られる(越冬個体・地域差が大きい)
越冬地はフィリピン・インドネシア・マレーシア・ベトナム
日本で繁殖するツバメの主な越冬地は、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどの東南アジアの国々です。範囲は台湾やフィリピンからマレー半島、インドネシアにまで広がっていて、「1か所の越冬地に全員が集まる」わけではありません。日本各地から旅立った個体が、広大な地域に分かれて冬を過ごしています。
この結論は推測ではなく、環境省が山階鳥類研究所に委託して行っている鳥類標識調査から導かれたものです。秋から春にかけて、日本から2000km以上離れたフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどで、足環のついたツバメが見つかったという情報が寄せられました。地図の上で線を引くと、日本列島から南西へ大きく伸びる移動の軌跡が浮かび上がります。
東南アジアの越冬地では、数万羽以上のツバメが電線にとまって夜を過ごす集団ねぐらが各地で知られています。日本の軒先で4〜5個の卵を温めていた1つがいが、冬には数万羽の群れの一員になっている——そう考えると、庭先の巣の見え方も少し変わってきます。
全長約17cmの体が南を目指す理由は「飛ぶ虫」にある
ツバメが渡るのは、寒さそのものから逃げるためというより、食べ物が消えるからです。ツバメはスズメ目ツバメ科の鳥で、全長は約17cm。主食は飛翔性昆虫、つまり空を飛んでいる虫です。カゲロウ、トビケラ、ハチ、ハエ、チョウの仲間などを、飛びながら空中で捕らえて食べます。
気温が下がると、この飛ぶ虫が本州の空からほとんど姿を消します。地面の下や樹皮の隙間で越冬する虫は残っていても、空中を飛んでいなければツバメの狩りの対象にはなりません。木の実を食べる鳥や、樹皮をつついて虫を探す鳥と違って、ツバメには「冬向けの代替メニュー」がないのです。だから、飛ぶ虫が絶えない地域まで移動するという解決策を選びます。
ツバメは飛びながら食べるだけでなく、水飲みや水浴びも飛びながら行い、スズメ目のなかでもっとも飛行に優れた種とされています。長距離を移動する能力と、空中で虫を捕る食べ方はひとつづきの特徴です。渡りの理由をもう少し詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考になります。

寿命2〜3年の鳥が、毎年この距離を往復している
野生のツバメの寿命は平均2〜3年程度とされています。つまり、多くの個体にとって東南アジアとの往復は、生涯で数回しか経験できない旅です。1回目の渡りで力尽きる個体も少なくないなかで、翌春に同じ軒先へ戻ってくる個体がいるという事実は、それだけで観察する価値があります。
春の渡来は3月初旬から5月にかけて。九州から順に北上し、地域によってひと月以上の差が出ます。「去年より遅い」と感じたときは、その年の気温や前線の動きが影響していることもあるので、日付を記録しておくと翌年以降の比較材料になります。
注意しておきたいのは、「戻ってきた個体=去年と同じ個体」とは限らない点です。同じ巣を別の個体が使うこともあり、外見だけで同一個体かどうかを判定することはできません。足環のない個体で「同じ子が帰ってきた」と断定するのは避け、「同じ巣が再び使われた」という記録の残し方をするのが正確です。
| 分類 | スズメ目ツバメ科(学名 Hirundo rustica) |
| 全長 | 約17cm |
| 見られる季節 | 3月初旬〜9月(一部は冬も残る) |
| 生息環境 | 本州から九州の市街地・農地。民家の軒先やビルで営巣 |
| 鳴き声 | オスのさえずりは長く複雑で、最後に音がにごる |
| 冬の越冬地 | フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムなど |
「TOKYO JAPAN」の足環が明かした答え合わせ
1924年に始まり、1961年から続く地道な調査
ツバメの行き先がわかったのは、鳥に小さな金属製の足環をつけて放し、再び見つかった場所を記録するという調査の積み重ねによります。日本の鳥類標識調査は1924年に始まり、戦後は1961年から継続されています。100年近い記録の蓄積が、「冬はどこにいるのか」という素朴な疑問に答えを出しました。
足環には「TOKYO JAPAN」という文字と個体識別番号が刻印されています。海外で保護されたり見つかったりした個体からこの刻印が読み取られ、現地の人々が情報を寄せてくれることで、はじめて1本の線がつながります。日本側だけでは完結しない、国境をまたいだ協力の産物です。
この仕組みを知っておくと、渡りの話が「なんとなくそう言われている」ものではないことがはっきりします。子どもに説明するときも、「南に行くんだよ」で終わらせず、「足につけた番号が2000km先で読まれたから、行き先がわかったんだよ」と伝えると、話の輪郭が急に具体的になります。
2000km先で見つかった1羽が意味すること
秋から春にかけて、日本から2000km以上も離れたフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどから、足環のついたツバメを見つけたという情報が寄せられました。これによって、毎年夏に日本で営巣するツバメが冬季に東南アジアの広大な地域で越冬することが、科学的に証明されています。
1羽の発見が重みを持つのは、足環をつけた個体のうち再発見される割合がごくわずかだからです。膨大な数に環をつけて、そのなかから戻ってくる報告はひと握り。それでも、複数の国から報告が集まったことで「たまたま流された1羽」ではなく「多くの個体が向かう方角」だと判断できるようになりました。
もし足環のついた鳥を見つけた場合、番号が読み取れる距離まで近づこうとするのは禁物です。写真に写り込んだ範囲で番号が読める場合を除き、無理に接近して鳥を飛ばせてしまうと、越冬中の個体にとっては体力の消耗につながります。距離を取り、望遠で記録するのが基本です。
ツバメの越冬地は、環境省が山階鳥類研究所に委託して行う鳥類標識調査で明らかになりました。足環の「TOKYO JAPAN」という刻印と個体識別番号を現地の人が読み取り、報告してくれることで渡りの経路がつながっています。
観察する側にもできることがある
渡りの研究は専門家だけのものではありません。ツバメの飛来日や巣立ちの日、秋に姿が見えなくなった日を記録するだけでも、地域ごとの季節の動きを知る材料になります。全国の観察情報を集めている団体もあり、「11月以降にツバメを見た」という情報は特に貴重です。
記録するときのコツは、日付・場所・羽数・行動の4点をセットで書くことです。「12月5日、○○川の橋の上、3羽、上空を旋回」のように書いておけば、あとから見返したときに意味のあるデータになります。写真が撮れていれば、種の確認にも使えます。
逆に、あいまいなまま残した記録は使いにくくなります。「冬にツバメを見た気がする」だけでは、イワツバメだった可能性を否定できません。見分けに自信がないときは「燕形の鳥を3羽」と書き、写真を添えておけば、後から検証できる形で残せます。
南へ行かずに残る鳥もいる|日本で冬を越す個体の正体

越冬ツバメとは、冬季に日本に留まるツバメのこと
越冬ツバメとは、冬季に日本に留まるツバメを指す言葉です。昆虫を餌にしているツバメは、冬になると昆虫が多い南の地方へ渡っていきますが、一部は南下せずに日本で冬を過ごします。渡りに失敗した個体もいれば、エネルギー確保の面から越冬を選択したと考えられる個体もいます。
ここで押さえておきたいのは、越冬ツバメが「別の種類」ではないという点です。夏に軒先で子育てをしているのと同じツバメが、南へ行かないという選択をしている状態を指します。だから見た目は変わりません。黒っぽい背中、白いお腹、赤茶色の喉という特徴はそのままで、季節だけが違います。
「冬にツバメがいるはずがない」と思い込んでいると、目の前を横切っても記憶に残りません。実際には、九州を中心に毎年観察されており、条件がそろえば本州でも記録されます。冬の川沿いで細長い翼の鳥が低く飛んでいたら、頭の片隅にこの選択肢を置いておく価値があります。
実は「渡りに失敗した弱い個体」ばかりとは限らない
意外と知られていないのですが、日本に残る個体をすべて「渡りに失敗した弱い鳥」と決めつけることはできません。越冬ツバメには、渡りに失敗したと考えられる個体と、エネルギー確保の観点から越冬を選んだと考えられる個体がいるとされています。2000km以上を飛ぶには膨大な体力が必要で、餌が確保できる場所に留まるほうが有利になる条件も理屈のうえでは存在します。
その裏づけになりそうなのが、越冬個体の分布の変化です。1980年代に比べて近年は越冬ツバメが見つかる場所が北へと広がってきており、日本の冬が暖かくなったためだと考えられています。単なる事故なら、記録される場所がこれほど一方向に動く理由の説明がつきにくくなります。
ただし、留まることが安全という意味ではありません。食料不足や厳寒によって、1羽また1羽と命を落とすこともあると報告されています。越冬は「楽な選択」ではなく、餌が続くかどうかに賭けた綱渡りだと理解しておくのが正確です。
数羽から数百羽で夜を過ごす集団ねぐら
越冬ツバメは、数羽から数百羽の群れでねぐらに集まります。ねぐらとして知られているのは人家や倉庫、納屋などの建物で、商店のテント下が使われることもあります。夏のヨシ原のねぐらと違い、冬は建物の構造が風よけになる場所が選ばれやすいという特徴があります。
この習性は、東南アジアの越冬地で数万羽以上が集団で夜を過ごすことと地続きです。群れることで体温の保持や外敵への警戒に有利になると考えられていて、規模は違っても行動の型は共通しています。日中はばらばらに飛び回っていた個体が、夕方になると同じ場所へ集まってくる光景は、冬の観察の見どころのひとつです。
ねぐらを見つけたときに気をつけたいのが、近づきすぎないことです。夜間にライトを当てたり、大きな音を立てたりすると群れが飛び立ってしまい、寒い夜に体力を削ってしまいます。観察は明るいうちに離れた場所から行い、建物の所有者がいる場所では敷地に立ち入らないのが原則です。
年末年始の寒波が、越冬の分かれ目になる
越冬にとってもっとも危険なのは、寒波が来る年末年始の時期です。この時期に強い冷え込みが続くと飛ぶ虫が姿を消し、餌が絶たれます。ツバメは脂肪を蓄えて何日も絶食できる体ではないため、数日の悪天候が生死を分けることがあります。
そのため、11月や12月に元気に飛んでいた個体が、1月以降に確認できなくなることは珍しくありません。観察していた群れが消えたとき、南へ移動した可能性もあれば、越冬に失敗した可能性もあります。どちらかを外から判断するのは困難です。
ここで、つい「弱っていそうだから助けたい」と考えたくなりますが、飛翔性昆虫を空中で捕る鳥に人が餌を用意するのは現実的ではありません。傷ついた個体や動けない個体を見つけた場合は、自分で保護しようとせず、お住まいの自治体の鳥獣担当窓口に相談してください。対応の方針は自治体によって異なります。
越冬の記録はどこまで北へ?九州から東北までの分布
宮崎県と鹿児島県では、冬でも普通に見られる
越冬ツバメの主要な越冬地は九州地方です。特に宮崎県と鹿児島県では、冬でも普通に見られています。「冬にツバメを見た」という話が、地域によっては珍しくもなんともない出来事になるわけです。九州で暮らしている人にとっては、身近な冬鳥のひとつという感覚に近いかもしれません。
この偏りには気候が関係しています。冬でも比較的暖かく、飛ぶ虫が発生する環境が残っている地域ほど、越冬の条件がそろいます。海に近い平野部や河川の下流域は、内陸の山あいより気温が下がりにくく、餌の確保という点で有利です。
逆に言えば、九州の記録をそのまま他地域に当てはめることはできません。「南の県ではよく見るらしい」という情報を根拠に、東北の記録を軽く扱ってしまうのは危険です。地域によって、同じ「冬に1羽」でも記録としての重みがまったく違います。
本州では、大きな川や湖沼のそばに限られる
冬は寒くなる本州でも、大きな川や湖沼のそばでは冬でも飛翔性昆虫が発生するため、少数のツバメが越冬しています。石川県の河北潟のように、水辺の環境がまとまって残っている場所が該当します。市街地の真ん中で越冬個体に出会える確率は低く、探すなら水辺が起点になります。
水辺で虫が出る理由は、カゲロウやトビケラのように水中で幼虫期を過ごす虫がいるからです。川沿いの地域では、カゲロウとトビケラが餌の大半を占めるという調査結果もあります。冬に羽化する個体がわずかでもいれば、少数の鳥を支えることはできます。
探すときは、朝より日が高くなってからのほうが向いています。気温が上がって虫が飛び始める時間帯に、水面すれすれを行き来する鳥がいないかを見ます。橋の上から下流方向を見渡すと、細長い翼のシルエットが見つけやすくなります。
北限の記録は毎年更新されている
近年の記録では、2024年11月に岩手県八幡平市の巣でツバメが確認されました。ただし厳冬期に限れば、福島県伊達郡が最北の記録とされています。晩秋に残っている個体と、真冬を越した個体は分けて考える必要があるということです。
2025-26年シーズンでは、1〜2月に栃木、千葉、神奈川で越冬ツバメが観察され、寄せられた情報のなかではこのあたりが北限とされました。年によって北限が動くのは、その冬の気温や餌の発生状況が影響しているためと考えられます。バードリサーチなどの団体が、2021-22年から2025-26年まで5シーズンにわたり、11〜2月の情報を集めています。
こうした調査は、市民から届く情報に支えられています。「自分の地域では珍しくないから」と報告しないでいると、分布の実像がぼやけてしまいます。逆に、種の判定に自信がないまま報告するのも情報の精度を下げます。写真を添えて、判定は調査側に委ねるのが親切です。
| 比較項目 | 九州(宮崎・鹿児島) | 本州の水辺 | 東北・北関東 |
|---|---|---|---|
| 冬の観察しやすさ | 冬でも普通に見られる | 少数が越冬 | 例外的な記録 |
| 主な場所 | 市街地・農地・建物のねぐら | 大きな川や湖沼のそば | 巣の周辺・河川 |
| 記録の例 | 毎冬の観察 | 石川県河北潟など | 2024年11月 岩手県八幡平市 |
| 厳冬期(1〜2月) | 継続して観察 | 寒波で途切れることも | 福島県伊達郡が最北の記録 |
※野鳥の教科書調べ(公開されている観察情報を地域別に整理)
住んでいる地域別・冬の探し方
九州にお住まいの方は、まず身近な商店街や倉庫のまわりを見てください。ねぐらとして知られているのは人家や倉庫、納屋などの建物で、商店のテント下も使われます。夕方に同じ場所へ集まる動きがあれば、ねぐらの可能性があります。
関東から中部にお住まいの方は、大きな川や湖沼を起点にするのが近道です。真冬でも水辺で虫が発生する場所が候補になります。1〜2月に栃木、千葉、神奈川で観察された年もあるので、無理のない範囲ではありません。
東北にお住まいの方は、真冬より晩秋の11月に目を向けるほうが現実的です。2024年11月の岩手県八幡平市の記録のように、渡り遅れた個体が巣の周辺に残っていることがあります。見つけたら日付と場所を控えて、調査団体に情報を寄せる価値があります。
冬の空に虫はいるのか|食べ物から見た越冬の条件
主食は飛翔性昆虫、体長4〜15ミリの小さな虫たち
ツバメは主に飛翔性昆虫、つまり空を飛ぶ虫を食物にしています。川沿いの地域ではカゲロウとトビケラが餌の大半を占め、雑木林近くの民家ではハチ、ハエ、チョウの仲間が多く、体長4〜15ミリほどの個体が多かったという調査結果が公開されています。目で追うのが難しいくらい小さな虫が、この鳥の食卓を支えています。
ここが冬の話につながります。落ち葉の下や樹皮の隙間で越冬している虫がいくらいても、飛んでいなければツバメには届きません。「虫がゼロになるから渡る」のではなく、「飛んでいる虫がいなくなるから渡る」というのが正確な理解です。
冬に越冬個体を探すとき、この視点は探索の効率を上げてくれます。虫が飛べる気温まで上がる時間帯、虫が羽化する水辺という2つの条件が重なる場所が、出会いの確率が高い場所になります。詳しい食性はこちらの記事でも整理しています。

ヒナへの運び方から、狩りの効率が見えてくる
親ツバメがヒナに給餌する際、大きな虫は1匹ずつくわえて運びます。小さな虫については、くちばしに何匹も加えていたり、口の奥に入れてのどを膨らませて持って帰ってきたりします。1回の往復でできるだけ多くを運ぶ工夫が、行動に表れています。
この運び方は、餌が「小さくて数が必要」であることの裏返しです。体長4〜15ミリほどの虫を、育ち盛りのヒナが満足する量まで集めるには、膨大な回数の狩りが必要になります。飛びながら食べ、飛びながら水を飲むという生活様式も、この効率追求と無関係ではありません。
冬に越冬している個体は、この効率のよい狩りを、虫の少ない環境で続けなければなりません。1羽が生き延びるだけでも条件は厳しく、寒波が来れば一気に崩れます。冬に飛んでいる姿を見かけたら、その1羽が餌を見つけ続けている結果だと考えると、見え方が変わります。
失敗パターン①:餌台を置いて待ってしまう
庭に野鳥を呼びたい人がやりがちなのが、越冬ツバメのために餌台やヒマワリの種を用意してしまうことです。結論から言うと、この方法でツバメが来ることはまず期待できません。原因は単純で、ツバメは空中を飛ぶ虫を捕らえて食べる鳥であり、地面や台の上の食べ物を採る習性を持っていないからです。
対策は、餌を置くことではなく環境を見ることに切り替えることです。近くに大きな川や池があるか、水辺に虫が飛ぶ時間帯があるか。ツバメが越冬できるかどうかは、庭の餌台ではなく地域の環境で決まります。人が短期的に補える性質のものではありません。
なお、餌台そのものが無意味というわけではなく、種子や果実を食べる鳥には有効です。ツバメとは別の鳥を対象に考えるなら、設置の考え方はこちらの記事にまとめています。

庭やベランダに餌台を置いてみたものの、一羽も来ないまま数日が過ぎた。あるいは、これから置こうと思って調べ始めたら「餌付けはやめましょう」という自治体のページに行…
温暖化が越冬を後押ししている可能性
越冬ツバメが見つかる場所が北へ広がっている背景として、秋冬にツバメの餌になる飛翔性昆虫の発生が増えてきているのではないか、という見方が示されています。餌が続くなら、南へ渡らずに残るという選択が成立しやすくなる、という筋書きです。
1980年代に比べて近年は越冬ツバメが見つかる場所が北へと広がってきており、日本の冬が暖かくなったためだと考えられています。鳥の分布の変化は、気候の変化を映す鏡のような側面を持っています。軒先の鳥の話が、地球規模の話とつながっている場面です。
ただし、これは現時点で「そう考えられている」という段階の話であり、確定した因果関係として語るには調査の積み重ねが必要です。だからこそ、11〜2月の観察情報を集める取り組みが続いています。断定せずに、記録を残していく姿勢が求められる分野だと言えます。
越冬中の個体に近づきすぎると、寒い時期に無駄な飛翔をさせて体力を奪うことになります。ねぐらの建物に無断で立ち入らない、夜間に光を当てない、巣に触れないの3点を守ってください。弱っている個体を見つけた場合は自分で保護せず、自治体の鳥獣担当窓口に相談を。糞や羽に触れた場合は手洗いを徹底してください。
冬に見かけた燕形の鳥、本当にツバメ?
のどが赤いのはツバメとリュウキュウツバメだけ
冬に細長い翼の鳥を見たとき、まず確認したいのはのどの色です。白い腹はツバメ科に共通する特徴ですが、のどが赤いのはツバメとリュウキュウツバメだけとされています。黒っぽい背中、白いお腹、赤茶色の喉という組み合わせが見えたら、ツバメである可能性が高くなります。
全長は約17cm。飛んでいる姿では大きさの判断が難しいので、背中の色とのどの赤みを優先して見るのが実用的です。電線や手すりにとまってくれた瞬間が確認のチャンスなので、双眼鏡はすぐ構えられる状態にしておくと取りこぼしが減ります。
性別を見分けたいときは、尾の形が手がかりになります。オスはメスより尾が細長く、さえずっている個体はオスです。オスのさえずりは長く複雑で、最後に音がにごるのが特徴とされています。冬でも声を出す個体がいれば、性別の推定材料になります。
関東以西で群れているならイワツバメの可能性
冬に燕形の鳥が数十羽で群れていたら、イワツバメを疑ってみてください。イワツバメは全長15cmほどで、顔から背面全体が黒く、のどから腹部と腰が白いのが特徴です。腰の白さは飛んでいるときにも目立つので、ツバメとの区別点になります。
イワツバメは夏鳥として飛来しますが、温暖な地域では越冬することもあり、関東以南で越冬するものが多いとされています。関東以西の河川や湖沼で数十羽の群れを作って越冬している例が報告されています。九州では、春から夏にかけて繁殖したあと秋に一度いなくなり、冬になると一部の個体が同じ集団繁殖地に戻ってくるという動きも知られています。
つまり、冬に「川の上を燕形の鳥が群れで飛んでいた」という状況は、ツバメよりイワツバメのほうが可能性として高くなる場面があります。群れの規模と腰の色、この2点をセットで確認するのが見分けの近道です。
失敗パターン②:冬の燕形の鳥をすべてツバメと記録する
観察を始めたばかりの人がやりがちなのが、冬に見た燕形の鳥を確認せずに「越冬ツバメを見た」と記録してしまうことです。越冬ツバメの記録は北限の議論に関わる貴重な情報だけに、種の取り違えは調査全体の精度を下げてしまいます。
原因は、飛翔中は色が見えにくく、シルエットだけで判断してしまう点にあります。対策は3つ。第一に、腰が白ければイワツバメを疑うこと。第二に、羽数を数えること(数十羽の群れならイワツバメの可能性が上がる)。第三に、証拠になる写真を1枚でも撮っておくことです。
ちなみに、コシアカツバメは全長19cm程度でツバメよりやや大きく、背面全体が黒く、顔から腹部にかけて白く、顔の一部と腰が赤褐色をしています。腰の赤褐色は飛んでいるときによく目立ちます。日本には夏鳥として飛来し、おもに中国、四国地方で生息密度が高く、おおよそ本州以南に分布しています。冬の記録はごくわずかで、2025年12月に沼津市で1件の記録があっただけとされています。種類ごとの違いは、こちらの記事で詳しく整理しています。

春先に空を横切る黒い鳥を見て、「これって全部ツバメなの?」と首をかしげたことはありませんか。軒下に巣をかけるおなじみのツバメだけでなく、駅のホームの天井に集まる…
| 比較項目 | ツバメ | イワツバメ | コシアカツバメ |
|---|---|---|---|
| 全長 | 約17cm | 15cm程度 | 19cm程度 |
| のど・顔 | のどが赤茶色 | 顔から背面が黒くのどは白い | 顔の一部が赤褐色 |
| 腰の色 | 背面と同じく黒っぽい | 白い | 赤褐色でよく目立つ |
| 冬の記録 | 九州中心。関東でも観察例 | 関東以西の河川・湖沼で数十羽 | 2025年12月 沼津市で1件 |
12月に卵を抱く?季節外れの繁殖と、巣を守るための心得
2023年、埼玉県春日部市で起きたこと
通常、ツバメの繁殖は春から夏にかけてで、第1回目のピークは5月、第2回目は7月です。ところが2023年の秋、埼玉県春日部市でツバメが秋冬繁殖を行った例が報告されました。11月中旬にヒナを巣立たせたあと、再び産卵して12月初旬に卵を抱いていたという記録です。
年間の繁殖回数は1〜3回で、1回あたり4〜5個の卵を産み、孵化まで約2週間、巣立ちまで3週間ほどかかります。この日程を12月に当てはめると、ヒナが育つ時期は真冬に重なります。飛ぶ虫が減る季節に、育ち盛りのヒナを何羽も養うことになるわけです。
この事例が注目されたのは、それが標準ではないからです。同一シーズンでの複数回産卵に加えて、時期が大きくずれている点で珍しい記録として扱われました。ほかにも愛知、兵庫、福岡で秋冬の子育てが報告されています。
つがいで巣に泊まる個体が、秋の繁殖につながる
越冬ツバメには、建物やヨシ原をねぐらにしている個体と、つがいで巣をねぐらにしている個体がいて、後者は秋繁殖をすることもあると報告されています。越冬の仕方が2タイプに分かれていて、そのうち一方が繁殖と結びついているという構図です。
群れでねぐらに集まるタイプは、数羽から数百羽で人家や倉庫、納屋などに集まります。一方、つがいで巣に泊まるタイプは、夏の巣をそのまま冬の寝床として使い続けます。同じ「越冬ツバメ」という呼び名でも、暮らし方はかなり違います。
だから、秋に巣の周りでツバメが行き来しているのを見ても、それが渡り遅れとは限りません。つがいで巣に戻ってきている場合もあります。判断材料は、羽数(2羽か群れか)と、巣に入って夜を過ごしているかどうかです。夕方に1〜2羽が巣へ吸い込まれていくなら、後者の可能性があります。
失敗パターン③:使っていないと思って冬に巣を落とす
秋から冬にかけて「もう来ないから」と巣を落としてしまうのは、避けたい行動です。つがいで巣をねぐらにしている個体がいる場合、その巣は現役の寝床です。また、翌春に同じ巣が補修されて再利用されることもあります。ツバメは泥やわらで巣を作り、古巣を補修して使うこともあるからです。
原因は、「巣=子育て中だけ使うもの」という思い込みにあります。対策は、撤去を考える前に夕方の様子を1週間ほど確認すること。出入りがあれば使用中です。糞の落下が問題なら、巣の下に受け皿となる板を取り付ける方法が、巣を残したまま対処できる選択肢になります。
なお、野鳥の巣の扱いについては鳥獣保護管理法などの決まりがあり、状況によって判断が変わります。撤去が避けられない事情があるときは、自己判断で作業する前に、お住まいの自治体の鳥獣担当窓口や環境省の鳥獣保護管理のページで確認してください。個人ブログの解釈ではなく、行政の窓口の案内に従うのが確実です。
まとめ:ツバメが姿を消した季節に、何が起きているのか
軒先の巣が空になったあとも、あの鳥たちの1年は止まっていません。8〜9月に南へ動き、東南アジアの空で数万羽の集団ねぐらに加わり、翌年3月にはまた同じ方角から戻ってきます。全長約17cm、寿命2〜3年程度の体で、この往復を繰り返しているわけです。そして、その流れに乗らずに日本の水辺で冬を越す個体もいます。九州の宮崎県や鹿児島県では冬でも普通に見られ、条件がそろえば関東でも1〜2月に観察されています。最初の一歩としておすすめしたいのは、次の晴れた冬の日に、近所の大きな川へ双眼鏡を持って行ってみることです。橋の上から水面を眺めて、細長い翼の影が横切らないかを10分だけ探してみてください。
なお、越冬記録の北限や分布は年によって動きます。最新の観察情報はバードリサーチやツバメ観察全国ネットワークなど、調査を続けている団体の公式ページでご確認ください。

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